25 絶望のフルコース
★★★★
ピカイチさんが死んでいた。
鎧の中身をぶちまけて、どうしようもなく死んでいた。
場所は、歓迎会を開いたあの部屋。
体は寸切りにされて、地面にぶちまけられているーーとてもじゃないけれどその肉片を手に取って確かめてみる気にはならない。ここでも争った形跡があり、壁中には鋭利な傷痕がそこらじゅうに刻まれていた。
頑丈な金色の鎧だけ無事な造形を保っているけれど、もう二度と持ち主に出会うことはない。
ーーー着るべき本人がすでにこの世にいないのだから。
そして、また果実を腐らせたような異臭が鼻を突いた。
無敵の英雄。ヒーロースター。
あまりにもあっけない退場に言葉を失った。
これはもう、衝撃的すぎた。
「ピカイチさんまで、信じられない」
マーキングスター。
ヒーロースター。
その両方が死んでしまうなんて。
「……ダーリン。わたしを置いて行っちゃった、か」
キャンディさんは動揺しない。
おれよりもずっと長い時間を過ごして、ダーリンと呼称するわりには冷たい印象を受ける。奇抜な言動とは裏腹に芯の座った、彼女なりの礼儀なのかもしれない。キリングスターを名乗る彼女なりのスタイルなのか。
---そして、俺の脳裏にさらなる不安がよぎった。
「しずるは、しずるの奴は見かけましたか?」
「ん? いんや。わたしが起きて初めて会ったのは新入りちゃんたけど。っていうかしずるんはなにをしているのかな? こんなシックスのうち二人が殺されていたっていう非常事態にさ」
「探さないと……、あいつが危ない!」
「落ち着きんしゃい、勝手に動くとあんたが死ぬよ」
「ですが、このままじゃあ」
「ひとりで行動する方が危険だって。それにあんたがひとりで殺人鬼に出会った場合どうすんのさ。相手はピカイチさんを倒すほどの手練れなんだよ? とりあえず、みんなと連絡をとって、ひとつになることから考えなさいな。オーケー?」
たしかに正論だ。正論すぎる。
ここはキャンディさんのいうことを聞いたほうがいいに決まっている。マーキングスターとヒーロースターを殺したということは、少なくともスタークラスの実力者であることは間違いない。ついさっきトリックスターになった(しかも高見さんの独断)俺にはとても手に負えるものじゃない。
けれど、どうすればいい。 高見さんならどうする。
「--その心配は無用やよ、ゆっちゃんにキャンディ」
まるで心の声に答えるかのような口ぶりだった。
いつの間にか、集会場の入り口には富山しずるの姿がある。いつもとは違う桜吹雪の浴衣を着ている様子は実に絵になる光景ではあるけれど、今はそれどころではない。
富山しずるは生きていた。それだけで十分だ。
「憧れの人は死んだのにキャンディは通常運転、ゆっちゃんはテンパっているね。あたしもようやく追いついたところなんやけど。ずいぶんと手玉に取られているみたい」
「グッドタイミング、ねえねえしずるちゃん、これからみんなでちょっと作戦会議しようと思うんだけど、ご一緒するでしょ? 嫌だ、って言っても無理やり連れて行くからあんまり関係ないけどね」
「……みんな? それって誰のことを言ってんのかな、キャンディ?」
「もちろん、セキュリティにいるみんなのことだってば! なに天然ぶってるのこの淫乱ピンクちゃん」
「ああ、アレのことか」
ふぅ、っと小さくため息を漏らす。
なんてつまらない質問だろう、とでも付け加えそうな呆れる声に少しだけ、ほんのちょっぴりだけ恐怖の感情を抱いた。『アレ』なんて単語がふつうではないことくらい、俺でもわかる。
「ーーみんな死んでたよ。さっき確認してきたけれど、バラバラにされてた」
☆☆☆☆




