23 託される希望と新たなドクターの誕生
☆★★☆
「君と話がしたかったんだ」
高見義正はそう言って、俺の前へと移動した。
卓袱台を挟んだ向こう、車いすに座りながらではあるが重傷者なのだから無理は言えない。
台に置いた二つの湯飲みと並べられた六つのポンデリングを眺めながら、なんとなく緊張した面持ちで向かい合った。
「僕も高見さんとはもう一回話したいと思っていました」
高見さんは思ったより元気そうだ。
足の怪我のことで身体よりも心が病んでいまいか心配で仕方なかったけれど、話している感じから問題ないようだった。
「それにしても車いすってはじめて乗るんだけど、最近のは超高性能だね。階段を下りたり、このままトイレで用を足せたりするんだってさ。まだやったことないけど」
「足は、どれくらいで治るんですか?」
「ん? 全治三週間って言わなかったっけ」
「あんな重症がそんな短期間に治るなんて考えられません」
「……、ゆうのすけは思ったより鋭いねぇ。笑って誤魔化すしかないよ」
「なら、ピカイチさんに告げ口します」
「……やれやれだよ」
高見義正は苦笑した。
必死で隠していたことを誤ってこぼしてしまったかのような、そんな顔だった。
文字通り痛いところを突く質問ではあるが、このまま隠し通せるものでもないから話してもらえるならその方がありがたかった。
「実は、もう……歩けないんだ」
「……、……そうですか」
「まあ、あそこまで潰された足を切断しなかっただけでも奇跡とも呼べる技術だね。キャンディとしずるちゃんには感謝しなきゃいけない。本当に凄腕の二人だ、僕の誇りだよ」
「じゃあ、なんでそんな見え透いた嘘を吐くんです? その調子ならおそらくキャンディさんも富山妹も知っているんでしょう? ……だったら、なんで」
「ピカイチのためだよ」
「ピカイチさんのため……?」
しまった、と言いたげに高見は口を当てる。
しばらくだんまりを決め込んでいたが、俺を誤魔化しきれないと判断したのかそのままの勢いで話を進めた。
「ピカイチはああ見えて繊細なやつでさ、結構不安定なんだよ。あいつの戦い方をみたかな? ヒーローとして戦うあいつはおそらく直接的な戦闘では敵なしだろう。けれど、裏を返せばコントロールを誤ればそのまま自滅してしまうくらいに強すぎるんだ。だから、余計な心労はお呼びじゃないのさ」
「で、でも知らない方がバレたときに反動が酷くないですか」
「バレなきゃいいんだ、そうすれば反動も糞もない。そのためにキャンディにもしずるちゃんにも口裏を合わせてもらっているし、いくらでも誤魔化せる」
「それでも、いつかは」
「うん、気づかれるだろうね。このルートを攻略するまでで充分だよ、もちろんゆうのすけやキャンディ、しずるちゃんには迷惑をかけるつもりはない。ちなみに僕の口から直接言うから大丈夫だよ」
そう言って、高見は口を閉じた。
罰の悪そうな顔でお茶と一緒にポンデリングをヒョイと口に放り投げ、食する姿はなんだか無理をしているような気さえした。
「実はね、……雄之介くん。君にお願いしたいことがあるんだ」
「お願い? 僕にですか?」
「自分に代わって、ピカイチの参謀を務めてほしい」
自分の跡を継いでほしい、と。
高見義正は頭を下げて、額を卓袱台にすりつけるようにしてお願いしたのだ。
「そりゃあ辞めたくなんかないさ。けれど、それ以上に足手まといになることはもっと嫌だ。死んでも死にきれないから、他の誰かに頼むしかないんだよ。わかってほしい」
「で、でも僕なんかよりも適任者はいるでしょう。キャンディさんなんか型に嵌っているし、富山だって喜んでやるとおもうけど……」
「彼女たちとゆうのすけを比較して、きみの方が適任だとおもったんだよ。きみにぴったりだ、彼女たちにできないことをきみならできると確信している」
「……、……」
「すぐには決めなくていいよ。ゆっくりと考えて答えを聞かせてくれればーー」
「--わかりました」
「………え?」
高見義正の動きが一瞬止まる。
信じられない、と言いたげな表情でこちらをみる高見にもう一度言葉をぶつけた。
「引き受けましょう、ピカイチさんの参謀役」
「いいのか、本当にいいのか!? まだ業務内容も言ってないし、頼んでおいてなんだけど裏方はしんどいよ。それに、パートナーのしずるちゃんはどうするのさ!?」
「富山は一緒にいるだけでパートナーじゃないですよ。それに、そこまでお願いされて断れるほど人間を辞めてもいません」
「……じゃあ、本当にいいのか」
「僕でよかったら、喜んで」
すると、高見は嬉しそうに僕の手を握った。
そしてぶんぶんと上下に振り回すと同時に感謝の言葉を何度もこぼした。本当にうれしかったのだろう、高見の顔は本当に幸せそうだった。
「ありがとう、本当にありがとう」
「そんなに嬉しいんですか」
高見はおれの手にステッカーを握らせる。
おそるおそる開くと、その中にはある言葉が記されていた。
「今日からキミは『ドクター』の仲間入りだ」
こうして、騒がしい夜は更けていった。
この言葉を最後に、高見義正とは話すことはなくなった。
この時は、まさかこれが最期の会話になるなんて思いもしなかったのだ。




