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22 人望熱き参謀、マーキングドクター・高見義正

トリガーハッピーエンド




「みんな、それ以上はやりすぎですよ。自重してください」



  対立する四人が一斉に出口の方へと振り向く。

 穏やかながらに厳格さを含んだ言葉は、俺たちの険悪な雰囲気をいさめるように割り込んできた。

 入口にいた人物の乱入にそれぞれ異なる反応を示したのは無理もない。

 穏やかな声の主は、--高見義正なのだから。


 再起不能にまで両足を潰された彼が、そこにいた。

 車いすにパジャマという服装ではあるが、たしかに高見義正である。

 両足はギプスと包帯で固定されているが、不自由を顔に出さない独特の余裕があった。



 俺が驚いたのは、この後である。

 あれほど険悪だった三人、それこそドアノブを捻る音を合図に殺し合いを始めようとしていた者たちの反応である。


 初めにピカイチさん、遅れてキャンディと富山妹が高見さんの方へと駆け出したのである。

 いままでのやり取りが夢だったのではないか、と思ってしまうくらいに俺は動揺を隠しきれなかったのだ。あそこまで機嫌の悪かった富山しずるまでもが、手のひらを返したように笑顔なのだ。まるで魔法を使ったかのようである。



「高見! 足は、怪我はもう出歩いても平気なのか?!」


「よっちゃん、案外元気そうやね。どうなるか心配しとったんやよ」


「ヨッシーッ! もうダメかと思ったけど、何とかなったじゃん!」


  三人三様の労いの言葉を贈る。

 俺はただその場で釘付けにされていた。

 駆け寄って気の利いた言葉のひとつやふたつ述べるのが普通であるのだが、できなかった。

 その原因は、俺には分からない。


 ただ、ーー見ていることしかできなかった。


「みんなには心配をかけちゃったね。もう車いすには乗れるようになった、回復にはそう時間はかからないだろう。これもオペをしてくれたキャンディさんとしずるちゃんのおかげだよ。それに駆けつけてくれたピカイチさんとゆうのすけ君には感謝してる、ありがとう」


  みんな本当にありがとう、と頭を下げる。

 周りも安堵の表情を浮かべ、高見さんを労り、彼の復活を祝福した。


  この時についに気づいてしまった。

 俺が素直に高見さんの帰還を喜べない理由。

 さきほど地面に釘づけにされてしまった原因を己の胸中に発見した。



 さっきまで俺の勝利と能力に注目が集まっていた。

 けれど、急に現れた高見さんに横取りされてしまったのだ。一心に受けていた注目の眼差しを、あっという間にかっさらっていったのだ。


 ---つまりは、嫉妬だ。

 どうしようもない羨望の念。

 高見さんが労わられ、気遣られ、手を取られる姿を妬んでいたのだ 


 その気持ちを、歯を食いしばって抑え込む。

 誰にも悟られないよう、富山しずるにも気取られないよう顔からも緊張を消し去ることに没頭した。


 おひやといっしょに、自分の本音を呑み込んだ。




 ☆★★☆



  食事会を終えて、俺たちは各自の個室へと戻った。

 セーフティ内には有り余るほどの部屋が備わっており、中には俺が最初に訪れた『天国の部屋』のような場所もあるらしいが、あえて質素な部屋を選んだ。

 そうすることで、帰りたいという気持ちを刺激するためである。


  それでも、ルートにある部屋はやはり綺麗だった。

 三畳程度のフローリングと高い天井、そして読書用の小さなテーブルと電気スタンドのある部屋はモデルルームのように傷一つなく、生活臭がないので使用することが躊躇ためらわれた。

 それでも、この三号室に泊まることを決めたのだった。


  布団もない床にゴロリと寝転がる。

 床からは新しい部屋特有のいい香りが鼻孔をくすぐった。天井には、部屋を大きく見せる不可思議なトリックアートが施されており、この部屋を造った人間のこだわりを感じられた。

 異世界にあるものは誰が何のために造ったのかはわからないけれど、少しだけ興味が湧いてくる。


  さっきから、頭の隅である映像が繰り返される。

 あの一連の騒動。高見義正によって抑えられた事件のこと。

 嫉妬に駆られて、満足に食事を摂ることができずにこの部屋に来てしまったことを思い出した。油断すればさっき胃に流し込んだ河豚料理と一緒に本音を戻してしまいそうになる。


  自分にも、抑えきれない感情であった。

 結局は損得勘定でしか行動できない人間なのだと痛感させられた。

 このルートに来たことも、富山しずるの言うことを大人しく聞くのも、セーフティに来たことも、パンサーさんを追い出してシックスに入ったことも、……みんな、自分のためなのだ。

 そんな自己中心的な自分に嫌気がさして、自己嫌悪に陥った。


 ---そこへ、部屋のチャイムが鳴る。

 壁全体に響く音は、他の部屋に容易に届くであろう規模のものであった。


「誰だ、富山静流か?」


 すぐに起きあがると、服のホコリを落としながら扉に近付く。

 のぞき穴もないので、一息に扉を開けることになったのだが、それが良くなかった。

 今一番会いたくないひとがそこに立っていたのだから。


「やあ、セーフティの居心地はどうだい? 雄之介くん」


  高見義正、そのひとである。

 中背中肉の優男。ピカイチさんの参謀。

 しかし、今は車いすのため、俺を見上げるようにしている。

 その顔に張りついた笑顔ははじめて会ったころと少し違っていた。

 俺と一人で会ったときの真面目な笑顔と、ピカイチさんたちを前にした時のおどけた笑顔。

 今回はその後者のようであると感じた。


「君の部屋に入ってもいいかな? 大切な話があるんだ」


「……、……」


  断ろうとして、少しだけ躊躇する。

 大切な話をその場で突っぱねるほど人間をやめているつもりはなかったし、ピカイチさんキャンディさんとコネクションの強い高見さんを無下にはできなかったからだ。


  その思考を振りほどく。

 自己嫌悪に入り浸っている時間はなかったからだ。


  僕は高見さんを自らの部屋に連れ込んだのだった。


 続く


 

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