21 キリングドクターとマジカルドクター
トリガーハッピーエンド
『シックス』というチームは異世界に招かれた先遣隊である。
地球最後のフロンティアであるルートに派遣される人類規模で選ばれた先鋭。
不可思議な現象と常識を逸脱した環境に対して精神崩壊を防ぐために、メンバーは成人前の少年少女に限定される。
シックスという名前の由来には二つの意味がある。
一つは結成時、六人の『ドクター』と呼ばれる天才、鬼才によって構成されていたこと。
それゆえに、以後は上限を六人とし、ドクターとしての才覚を持つものに限定すること。
そして二つ目は呪いを持つ人間であるということ。
普通の生活では適応しきれない病的な才能をもつ人間であることが挙げられる。
平凡でないことが求められる、完全実力主義の団体である。
キリングドクター・キャンディ。
シックスの四番席。
殺しのスペシャリスト。
彼女の参入が思わぬ光明を生むことになる。
☆★★☆
「あっはー! なにこの険悪な状況、わたしったらお邪魔だったかしら! ねえねえねえ、どういう状況なのか説明しなさいよ。 そこの新入りちゃん、解説よろしく」
喧嘩の現場に現れたエプロンの少女からのご指名だった。
キリングドクター。
聞くからに物騒な名前だけれど、この場では良い抑止力になるかもしれない。
「えっと、ピカイチさんが富山静流に撃たれて、そしたらピカイチさんと喧嘩を始めそうな雰囲気になっちゃって、とにかく一触即発の状況なんです。キャンディさんも手を貸してください」
「ふむふむふむ、なるほどねー。じゃあなんでしずるんはダーリンを撃ったのかしら?」
しずるんが富山妹である。
ダーリンは、文脈的にピカイチさんだろうな。
「それは、僕にも判りません。ピカイチさんが俺と手合わせしたいと言ったら急に撃ったんです」
「うっは、意味わかんね! 最近の若いもんはなに考えているか予測できないわ! カルシウム足りてる、足りてます?! あとおめーはチキンの骨でもかじってろ! このもやしっ子めが!」
なんで俺が怒られるんだろう?
「つーかあんなマジカルなんかにヒーローが負けるわけねーし、時間の無駄じゃね? あ、でも今は仲間なんだっけ。 うーん、でもわたしが出すべき結論は決まってるじゃん!」
唐突にキャンディさんは俺の右手を掴む。
手の感触を肌で感じた直後、地面に吸い込まれる。それが身体を投げ飛ばされたときの浮遊感だと気付いたのは富山しずるの椅子に背中をぶつけた瞬間だった。
腕力ではなく技による投げ。
目を丸くした富山しずるを見上げながら、なんとかその場から立ち上がる。派手に投げられたのにダメージがないのは、狙ってやったのか定かではない。きっと偶然だろう。
富山しずるが何かを言おうとした時に、キリングドクターは話を始めた。
軽快な足取りでキリングドクターは、俺たちと向かい合うようにピカイチさんの隣へと歩き出した。
「つまり、ピカイチ様はそこの新入りちゃんといちゃいちゃ戦いたい。ところが、しずるんは二人がいちゃいちゃするのを我慢できない。ならばわたしが何とかしましょう。白黒つけちゃいましょう。まるでオセロのように!」
「ちょっとキリング、アンタまさか………」
「ピカイチ様が新入りちゃんと遊んでいる間、しずるちゃんは私が構ってあげる。あー気にしないで、こうみえて大人だから手加減くらいして上げるから。そういう流れでピカイチ様はどうおもいます?」
「私は賛成だよ、キャンディ。いちおう富山静流も大事な後輩だから、怪我させないように頼む」
「イエス! 愛の防衛戦に突入するであります」
ーーータッグマッチをやろうと言うのか。
もっとも、ルール無用の真剣勝負なのだからさっきの大乱闘のような場外負けにはできない。それは行き着くところまでとことん勝負しなければならないということだった。
「……はあ? 怪我させない、って? なに温いこと言ってんの?」
「と、富山……」
「処刑だよ。アンタら二人はこの場で処刑してやるよ」
「……やるしかないのか?」
「アタシが一人でやるから、ゆっちゃんは次の発砲音を合図にテーブルの下に隠れてて」
紅白のスプラッシュがそれぞれ構えられる。
ヒーローと謳われる鉄人。ヒーロードクター・ピカイチ。
殺しに特化した麗人。キリングドクター・キャンディ。
その両名の眉間に寸分の狂いもなく、銃口は向けられる。キャンディに至ってはまだ武器らしきものを手にしてすらいないのは自信の表れだろうか。
こちらの戦力は心許ない。
眼前の二人に比べ、俺の戦闘はネタがバレれば簡単に対策が取られてしまうからだ。
つまり、キャンディさん以外にはもう通用しない技であり、今の俺は荷物以外の何者でもない。
問題は富山しずるである。
マジカルドクター。魔法少女。
完全に未知数。予測ができない。
彼女をマジカルドクターと至らしめる実力を俺はまだ知らない。けれど、先ほどの急所への三発は射的技術の高さを如実に示しているではないか。
ひょっとすると本当に処刑するつもりなのか?
敵じゃない、同じ人間なのに。
ルートを攻略する仲間なのに。
もう俺には同士討ちの雰囲気を崩すことは叶わない。
できるとするならば、もっと彼らの信用の厚い人物にしかできないだろう。
例えばパンサーさんのような古い付き合いの人間、シックスとして死線をくぐり抜けた親友クラスでないと難しい。
そんな人物に、ひとりだけ心当たりがあった。
ここにいるはずないひと、戦力外通知の彼が。
続く




