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第六話 そのⅢ 金色のヒーロー(正社員)

しょうせ トリガー・ハッピーエンド


 金色のヒーロー(正社員)



「キミが氷見ゆうのすけ君? もしかして高水を助けてくれたのかい?」


「は、はい。ま、まあ成り行きで仕方なく……」


「そうか、ありがとう。あの子は私の部下で、大切な仲間なんだ。ちゃんと礼を言いたい」


 金色の男はとにかく雄々しかった。

 身につけた装備は武者鎧に近い作りであり、線が細いけれども決して弱々しくない。

 身体に密着するそのスーツはアスリートの四肢のように機能美を有していた。

 


「詳しい話は後にして、今はこいつを片付けてしまおう」


 それはまるで緊張感のない一言だった。

 この強大な破壊屋をもののついでと言わんばかりに対処するようだ。


 天井男が両腕を大きく開く。

 虚空に向かって胸を大きく開いたその体勢が完成した瞬間に小さなノイズが走った。

 徐々に間隔を狭めていくノイズ音に混じって、ミスティの動きにある変化が起こる。


「回転が、……止まった?」


 ミスティは自転を解除したのだ。

 そして、ゆうのすけから逃げるように、怯えるように後退した。

 触れもしないに一体なにが起きたというのだろう。

 ノイズか電磁波か、それとも不可視の道具の類だろうか。

 少なくとも、この金色の男が原因であることは間違いない。


 金色の男は颯爽とゆうのすけの前に降り立つ。

 着地の際に部屋全体を揺るがす振動が身体を震わせた。

 どうやら見た目よりも軽いわけではないらしい。


「君はそこで伏せてなよ、後はこの私が引き受けた」


 金色の男が戦う構えに移ると同時に全身から蒸気が噴き出す。

 大気を震わす熱気はまぎれもなく男の武装からあふれ出るものであった。熱を帯びる鎧からは湯気が立ち上り、周囲の空気層を歪ませて存在感を増している。



 しかし、ミスティはその間に準備を整えていた。

 自身のサイズを通常時まで戻すと、部屋中を高速回転を始めていたのだ。今度は壁、床、天井を利用した立体的な疾走は、スーパーボールさながらの自在な反射角度である。

 もちろんぶつかれば命はない。

 推定60キロで移動する鉄球はもはやトラックとの正面衝突と変わりない。

 


 しかし、それは常人の話である。

 この金色の戦士はミスティ以上の足運びとその推進力を余すことなく拳へ乗せた一撃はミスティの急所などお構いなしに被弾し、そして戦いを終わらせていた。


 ミスティは部屋中を転げ回った。

 何度も何度も何度も壁に、天井に、床に、反射を繰り返し、血とも知れぬ赤黒い液体をその全身から噴き出しながら。

 そして、耳をつく断末魔の声をあげたかと思うと完全に沈黙した。

 ミスティの体には明らかにピカイチの加えた致命傷が残されていた。


「ふむ、さすがに頑丈だな。これだけ叩いても完全に壊れないとは」


 まさに一瞬の出来事だ。

 たったの一撃で状況は黒から白へと様変わりしたのだ。

 あまりにあっけなく、それ以上に優雅な佇まい。ミスティを前に勝ち名乗りを上げる行動さえも雄々しく見えるのであった。


「私の名前はピカイチ。全人類を守る金色のヒーロー(正社員)だ。よろしく、ゆうのすけくん」


 ピカイチ。高見義正が兼愛するヒーロー。

 のちに明らかになる彼の素性は「ヒーロースター」と呼ばれる人知を超えた存在、

 呪いの実用化に成功した「スター」と呼ばれるうちの一人である。


「……、どうして、名前ぇ?」


「詳しい話は彼女から直接聴いてもらうとしよう、そのほうが円滑に進みそうだ。とにかく高水の怪我は一刻を争う、君も私の後についてきてくれ。君の来訪を歓迎するよ」


「……、どこへ行く気ですか?」


 ピカイチは肩越しに振り替えると、金色マスクの下で小さく笑った。


「もちろん私たちの潜伏先、--我らがホームだ」




 ☆★☆★



「いやはや、まさかミスティと出会っちゃうなんてほんとに運がないよねー。あたしはあの怪物筋肉だるまは勘弁してほしいかも。それでもピカイチが間に合ってよかったよ、間一髪。……ってあたしの髪は長いからけっこう余裕あるねー」


 ピカイチのホームには、富山しずるがいた。

 天国と地獄の門で別れたっきりの浴衣少女は相変わらず綺麗なままで、どうしようもなく元気な姿で再開することになった。ほんの数分別れただけなのにひどく懐かしい心地になった。


 ここはピカイチさんの潜伏先は、意外や意外、ショッピングモールであった。

 今までの洋風デザインとは異なり、入口は自動ドアであり空調も効いている。砂漠のど真ん中にプールがあるくらいの違和感と身に余る快適空間だ。

 けれど、たいていの事では驚かなくなっていた。


 入口の近くにある生活家具エリアにはソファーがあり、そこが応接室となっているらしい。もっともこんなルートの奥深くにくる客なんてろくなものではないのだろうけれど。

 もちろん皮肉である。

 富山しずると二人きりでこれまでの経過を報告しあった。


「まあ、無事でよかったよ。真面目な話、ゆっちゃんが死んだら悲しいもんね」


「ピカイチさんのおかげだよ。あの人が来てくれなかったら俺は死んでた。冗談抜きにね」


「それが本当なら、助けたあいつは喜ぶかもね。他人のために生きているような奴やもん」


「そうなのか? ならすぐにお礼を言ってくる。こういうことは早めにした方がいいに決まってるから。ピカイチさんってどこへ行ったかお前知ってるか?」


「うーん、やめといたら? あいつに貸しなんかつくると何をされるかわかんないよ?」


「それは--聞き捨てならないセリフだな、富山しずる」


 突然、背後から声をかけられた。

 思わずぶつかりそうになったところをがっちりとした鎧で肩を掴まれることでバランスを保つ。身長一六八センチの俺よりも大きく、そして細い四肢にも力強さを兼ね備えていた。

 噂のピカイチさんーーその人である。


「人類みな兄弟なのだから、これは貸しではない。心配するなよマジカルスター」


「昔の名前で呼ぶんじゃねーっての、マジカルなんてバカっぽいでしょうが!」


「ならば、魔法少女とでも呼んでおこうか? どっちも変わらんと思うがな」


「わかってんなら言うな! なんならこの場でそんな口を叩けなくしてあげよっか? エセヒーローめ」


「……私は、正真正銘のヒーローだ」



 険悪な雰囲気が二人の間を横切る。その間、しかもピカイチさんに肩を掴まれた状態の俺には針のむしろどころの話じゃない。氷柱で全身を串刺しにされている気分である。ピカイチさんの怒りが、肩を痛いくらいに握ってくる感触を通じて伝わっていた。


「ぴ、ぴぴかいちさん。ああありがとうございました。助けてくれて」


「うむ、君は育ちのいい人間だ。ちゃんとお礼を言えるのだから。感謝の言葉も口にできないやつは悪人になるからな。そんな君に対して私は堂々と『どういたしまして』と言おう」


 なんというか、芝居がかった語りであった。

 それでも、ピカイチさんの迫力とハスキーボイスが相まって俳優顔負けの演出である。


「ところでゆうのすけ君」


 改まって、ピカイチさんは俺の正面へと向き直った。


「私はいま困っている、非常に困っているのだ」


「な、なにに困っているんですか?」


「君たちふたりのことを仲間に話したのだ。すると思いのほか反発が強い。今回の件で高水が負傷したことに難癖をつけているようだ。君たちは私たちのコミュニティに入る資格がない、とまで言い出したのだ」


 素直に、それは仕方ないだろうな、と思った。

 突然現れた人間を信用しろという方が無理である。それはチームの長であるピカイチさんでさえも自由にならないことは容易に想像できた。団体とは、集団とはそういうものであるから。

 


「そこで、ゆうのすけ君に素晴らしい提案があるのだ」


 ピカイチさんの声がいっそう強くなった。


「私のチーム、『シックス』への入団試験を受けてみないか?」





 続き


 













 

  










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