第六幕 正義のおまけ
トリガーハッピーエンド
告白すると、ゆうのすけは扉の向こうにいるのは悪性新生物・リュカだと気付いていた。
具体的に気付いたのは、富山しずる(偽)が泣き崩れた時である。
女の泣き落としとはそれはそれは強力で、過去から現在に至るまで女の最大の武器と言っても過言ではないくらいだ。それも、あの場面においては正体を晒す結果になったのだが。
富山しずるは―――泣けないのだ。
ありとあらゆる状況でも泣くことを許されない。これは強迫観念に近いものらしく、本人の意志ではどうしようもないのだと専属の医師に診断を下されたそうだ。
実際は彼女が受けた呪いの影響によるところが大きいらしい。
リュカであると確信していたから、ブロークンハーツを抜いたし、迅速な対応で悪性新生物の息の根を確実に止める事に成功したのである。これがなければ、あそこまで的確に刺し殺すことはできなかっただろう。
☆☆☆
場面はワンルームから長い階段へと変わる。
延々と続く木製の階段を付かず離れずの間隔で下っていく人影がふたつあった。
高水義正と氷見ゆうのすけである。
動き出したのは、ほんの三十分くらい前。
天国の部屋で待ちぼうけたゆうのすけに転機が訪れる。
そう、高水義正。
仲間とはぐれた彼は本拠地への帰り道を知っていたのだ。
彼は『セーフティ』と呼ばれる集会場から来たと言う。ルートの中枢に位置するそこには彼の仲間である『ヒーロー』を含め、五人の仲間は居住しているらしい。つまりは彼らの拠点というわけである。
高水義正は氷見ゆうのすけの実力を買っていた。
ゆうのすけがリュカを屠る姿に戦力としての価値を見いだしたらしい。ほとんど運と度胸で乗り切った感じではあるものの、結果から見ればそう悪いものでもない。
そして、氷見ゆうのすけに『戦力としてセーフティへ来て欲しい』と頼むのだった。
もちろん、富山しずるも一緒に、という条件付きである。
ゆうのすけには二つの選択師が与えられた。
ひとりで天国の部屋で待つか、高水義正とともにアトラスへ向かうかである。
ゆうのすけは、セーフティをへ向かうことを決めた。
天国の部屋は確かに快適ではあったが、それしかない。またリュカが現れるかもしれないし、高水義正が抜けると天国の扉の定員がひとり空くので完全に安全とは言いがたいからだ。
☆☆☆
「どれくらいでセーフティへ着くんですか?」
「僕から約百二十メートル圏内のどこかにあるよ」
「……妙な言い回しですね」
「これが僕の特技でね、場所の気配を感じ取ることができるんだ。まぁ実際に『無認識の呪い』っていう呪いのおかげなんだけど」
「……、……え? 呪い?」
「そう、だから一度通った場所で僕が迷子になることはあり得ない。ピカイチさんはシックスセンスに近いとおっしゃってたけれど、僕には判らない。生まれつきなものだから、僕にしかできないらしい」
高水義正は愉快そうに呟く。
携帯のマップ機能にも負けない空間把握能力は迷路において脅威的なアドバンテージとなるだろう。どこまで把握しているのか、はたまたイメージを広げているのか判らないが、とにかく凄い特技だ。
いや、特技ではなく呪いか。
「なんで、そんな大事なことを俺に言うんです? いろいろマズイでしょう」
「なぜって、何でだろうね。僕が言いたくなったからじゃないかな。秘密を共有すれば、相手のことを少しでも知れれば距離が縮まつような気がするから。それとも、もしかすると……」
「……、…………?」
「ちょっと嬉しかったのかもね。ふつうに接してもらえたから」
微笑みの張り付いた顔が少しだけ曇った気がした。
この高水も呪いに何か暗い過去があるのかも知れない。
しかし、こうなるとこちらも『あまのじゃくの呪い』についても開示するほうがフェアなのかもしれない。けれど富山妹との約束を破ってしまうことが負い目となって歯止めがかかっている。
「うまくいえば、入団試験を行わなくても入れるかもしれないよ。いまちょうど欠員がいるから」
「最強の六人の一人が欠けてるってことですか。なんでまた」
「パイオニアには常に危険が付いて回るのさ。合戦でも先陣は後続部隊を生かすための壁であるように、ルートの悪性新生物の脅威を一身に受るから入れ替わりが激しい。特にこのエリアの敵はレベルⅡのリュカでさえ近寄らない魔界と言っても過言じゃないからね」
「後出しの方が強い、の法則ですね」
「そう、だから気を付けた方がいいよ。今踏んでいる足場は本物なのか、まわりの壁は光の錯覚ではないか、そして仲間は本物の仲間か、とか」
高水さんの言葉は、まるで自分に言い聞かせているかのようだった。
続く。
続く




