序章 『普通の恋』と『異常な恋』
このものがたりはフィクションです。現実の個人や団体は関係ありません。似ていても、きっと見間違いです。疲れてるんじゃない? けどそれは頑張ってる証拠だ!
トリガー・ハッピーエンド
プロローグ
この世にまったく同じ人間がいないように、普通の恋なんてない。百組のカップルがいれば百通りの恋があり、第三者の客観的視点をばっさりと切り捨ててしまう。強いてあげるなら、当人同士が幸せなら満点であり不幸せなら落第といった感じだ。
普通の恋がなければ異常な恋はない、とは限らない。
『普通』とは違い、『異常』は実在する。
明確な基準が存在するから当事者も周りの人間も判断することが非常に容易となり、対処が出来る。そのまま『区別』から『差別』へとシフトチェンジするだけだけれど。
『異常』とは、『当事者や周囲の人間が苦しいか』である。
この条件が当てはまればもれなく異常。普通と違って非常にわかりやすくかつ残酷な判断基準である。当事者は否応なく自分が『異常なのだ』と自覚させられる。慣れてしまえばいいがそんなに都合の良いものばかりで世の中は回っていないのだ。
『異常』には大きく分けて2種類ある。
それは『役に立つ異常』か『役に立たない異常』か、だ。創作物によくある超能力はいわゆる前者、現実的な障害はそのまま後者になるケースが多い。ハードルを糧に別の分野で健常者を圧倒する人間も少なからずいるが、マイノリティであることは否めない。
氷見ゆうのすけは後者のケースだった。
それもとびっきり悪質なやつ。自分や周りの人間だけではなく、環境そのものを変えてしまうくらいに凶悪で、制御ができない。苦しいなんてもんじゃない。痛くて辛くて怖くて、毎日が地獄だった。何度も死のうと思ったけれど、そんな勇気は思春期の少年になかった。
未知の病を『呪い』と呼び、『烙印持ち』と差別する時代なのだ。
歴史上の魔女や異端者として時代の波に飲み込まれ、跡形もなくなることが天命であると少年も少なからず気付いていた。選択権がなかったといってもいい。受け入れ得るしか、『呪い』を許容するしかないのだ。
『異常』のために、氷見ゆうのすけは代償を払っていた。
左腕の自由の代わりに、ーー反目する呪いを受けた。
多くの不幸を踏み台に、少年はかけがえのない『スイッチ』を手に入れる。
右腕を冒す悪鬼を操作する手段を得たのだ。毒が裏返る、とはこのことだろう。今までのデメリットを逆に利用することで前へと踏み出したのである。
それから少年は己の身体から悪鬼を完全に追い出すために『あるもの』にすがった。人類が抱える呪いという不治の病を解くと言われる救世主。
『百薬の長』 略して『長』
ありとあらゆる『薬』の頂点に君臨する代物。科学の常識を覆す『呪い』と相対する存在。多くの医者がサジを投げつけた『異常』を取り除く可能性を秘めている。
ただし場所に問題がある。
人間界に根を張る姿から『ルート(根)』と呼ばれるフロンティア。様々な形状をした異世界の中心に『百薬の長』が君臨することを研究者たちは突き止めた。
氷見ゆうのすけは、自ら異世界へ足を運ぶことにした。
呪いから解放されるために『百薬の長』を見つけることを決めたのだ。
他でもない自分自身の為に。
そして、自分だけのトリガー・ハッピーエンドを手にするために。
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この物語はエンターテイメントとして書きます。作者の小説に捧げる想いを十分の一でも感じてもらえると本望です。