Appendix 散文詩 ナツノオワリ
ナツノオワリ
晩夏の残暑はきつく
ワイシャツの胸元を大きく開けて歩いた。
見上げる空は青く
楼閣の様な高層の街並みは遠くに霞む。
一週間歩きずくめで、靴擦れの足が痛む週末。
出勤までまだ余裕がある。
珈琲でも飲んで行くか。
などと思ったのは
どこか浮かれていたからなのかも知れない。
飛び出してきた車。
衝撃と宙を舞う感覚。
まだしばらく続く筈だった夏は突然終わった。
ナツノオワリ2
宙に浮きながら青い空をみた。
白い夏の雲が美しいと思った。
神経は激痛を伝えてくる。
感覚は研ぎ澄まされ集まる野次馬の足音まで拾う。
感性は空に吸い込まれていくような「美」を感じている。
全部バラバラに働いていた。
追突されて壊れたのだろう。
手術室に運ばれて最初に感じたのは、あ、涼しい。
気持ちいい、だった。
地獄のような痛みと
涼感の快適さが両立しているのが不思議だった。
イタミドメ
押したくないナースコールを真夜中に押す
病室のライトが点く
相部屋の患者の咳払いが痛い
折れた足が氷のように冷えて凍傷のように痛む
骨にネジ止めした金具とプレートが熱く疼く
痛み止めの錠剤は気休めだが飲んでいる
それでも深夜になると必ず痛みが増す
無表情な看護師が来る
どうしましたか
「痛みます。すみません」
先ほど強い薬を点滴したんで、もう出せません
「そうですね。すみません。弱い錠剤で良いので、下さい。 気休めでもないと、泣き叫びそうです」
わかりましたと、看護師は薬を取りに行く
数十分、中空をかきむしりながら待つ
いっそ心臓が止まる薬をくれればいいのに
いつまで痛みは続きますか?
ボルトやプレートが入っている間、ずっとですか?
という事は、一生ですか?
そんな事はない、あちこち折れている骨がすべて
接合すれば、痛みは減るはずだと医師はいう
看護師が、カロナールを持ってきた
飲んでも大して効かないが
100の痛みが90になるだけで、今はいい
「ありがとう。お騒がせーーしました」
消灯。
夏の時計
あの事故の日に壊れた腕時計。
そろそろ修理に出すべきか。
熟睡できた事は一度もない。
腹の底から笑った事も一度もない。
強弱の波はあれど痛みを感じない日も一日も無い。
自力で、立てない。
そんな状態で、心持ちで。
時を動かしてしまうのがまだ怖い。
もう少し、止まった夏の中にいても、いいのだろうか。




