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幼少編  作者: 豆タン9
3/12

心室中隔欠損症

この物語はイジメを助長する目的ではありません。この話はイジメを含む一部作者の体験を織り交ぜたフィクションです。精神的に不安定な方や気分を害す方、感情的になりやすい方などは閲覧を控えてください。


登場人物


早川イサム(勇)

一卵性双生児の兄。弟より小柄で気弱な面もあるが努力家。父のサッカーに憧れる。


早川マサル(勝)

一卵性双生児の弟。明るくて素直な活発な少年。気弱な兄を支える優しい子。いつも兄と勘違いされている。


早川ソウスケ(宗佑)

双子の父親。サッカーJ2リーグのプロ選手。


早川ヨウコ(陽子)

双子の母親。フリーのカメラマン。取材の時に宗佑と出会い結婚。双子を出産している。

双子達は順調とは行かないものの家族の愛を受けすくすく育ち3歳になっていた。大人しくのんびり屋の兄のイサム、活発で遊び盛りで兄より早く言葉を覚えた弟のマサル。マサルは母や父から、イサムは弟との会話の物真似から少しずつだが言葉を話し始めていた。

「いーたん、それおえボクくぅの。いーたんのこっちおっち」

イサムはキョトンとクッション製の積み木を手にしてマサルの方に振り向き応える。

まあ(ああ)ーくんの?いーたん(いーあん)こっち(おっち)?」


マサルの言う事を素直に聞き入れ弟の後追いする姿はどちらが兄で弟なのか分からないくらいだ。マサルも付き纏う兄を嫌がらずに相手をするからか母の陽子に次いで弟に懐いている。たまに孫に会いに来る倫治じいじに対しては警戒心が強く、陽子かマサルの背中に隠れてお出迎えをしてしまう。もっともマサルは倫治の事が大好きなのですぐに駆け寄り遊びを求める為、弟の行動で安心して祖父に擦り寄ると言うのがお決まりになっている。


この行動はサッカーのリーグ戦で家を希に空ける宗佑に対しても同じで、息子を抱きしめたい父親VS泣き喚きながら逃げ惑うイサムと父親を追うマサルと言う構図も毎度の事だった。


そんな小さな幸せすら壊す出来事がリーグ戦の最中に起きてしまう。一本の電話がチームマネージャーの元にかかって来てそれをチーム監督に知らされる。試合中の前半アディショナルタイムに突然選手交代が告げられる。

「監督!なんで俺まだ行けますよ!」

試合で興奮していた宗佑の抗議に冷静になる様に監督、コーチ共に制された。

「息子さんが、イサムくんが大変だ。すぐに病院に行ってやれ」

その言葉に宗佑の頭が真っ白になった。


「イサムは?」

慌てて病院に着いた宗佑は待合室の陽子に尋ねる。

「今ICU(集中治療室)にいるわ。マサルはお父さんに預けて来た。私一人だと怖くて判断出来なかった。宗佑さん」

そう言い終わる前に陽子は泣き出していた。


医者からの説明、手術の同意書、その他諸々の手続きさっきまで冷静でいられなかった宗佑は打って変わって自分でも不思議なくらいに冷静になれていた。心室中隔欠損症。両親に告げられた病名は余りにも馴染み無く不安しか感じなかった。


手術成功率、リスク、後遺症、様々な不安要素を言われても医者を、イサムの生命力を信じて同意する選択肢しか無かった。祈る様に手を合わせる妻、笑顔で出迎えてくれる息子達、マサルに習う様にして膝の上に乗って甘えて来るイサムの顔が何度も脳裏をよぎる。どんなに疲れていても、試合に負け悔しい時も妻の息子達の笑顔で癒されていた。


自然と溢れ出る涙はその幸せを奪われる恐怖の現れだろうか。神など信じて来なかった宗佑も自然と手を合わせていた。

 

その頃、イサムは麻酔で意識混濁の中、夢を見ていた。白いモヤの中、勇は一人座り込んでいた。


父も母も誰もいない、大好きなマサルも側にいない。寂しさに泣きそうになるのを耐え、しゃくり上げる。目に涙を為ながら立ち上がる、鼻水を啜り周囲を見渡すとぼんやりと自分と同じ位の背丈の影が見える。

まあ(ああ)ーくん?」

イサムの声に反応して振り向くが顔はハッキリと見えなかった。ただイサムは弟と同じ気配と感覚に安心感を得ていた。そのまま小さな影はそっとイサムを抱きしめた。

「お兄ちゃん。帰ろう」


自分ともマサルとも違う子供の声で夢が覚めた。ゆっくり目を開けると見たことのない部屋に寝かされていて、両親と祖父が泣きながら目を開けたイサムの頭を撫でてこう言っていた。「良く頑張ったね」と。

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