バニシングツイン
この物語はイジメを助長する目的ではありません。この話はイジメを含む一部作者の体験を織り交ぜたフィクションです。精神的に不安定な方や気分を害す方、感情的になりやすい方などは閲覧を控えてください。
登場人物
早川イサム(勇)
一卵性双生児の兄。弟より小柄で気弱な面もあるが努力家。父のサッカーに憧れる。
早川マサル(勝)
一卵性双生児の弟。明るくて素直な活発な少年。気弱な兄を支える優しい子。いつも兄と勘違いされている。
早川ソウスケ(宗佑)
双子の父親。サッカーJ2リーグのプロ選手。
早川ヨウコ(陽子)
双子の母親。フリーのカメラマン。取材の時に宗佑と出会い結婚。双子を出産している。
数ヶ月前、妊娠八週目の検査
「二つ…いや三つの影がエコー検査で確認できました。ただ…」
医者は言葉を濁す。説明する言葉を選びながら口籠る。
「ただ、なんです?」
医者の贄切にえきらない言葉に陽子は苛立ちを隠しきれず強い言葉で医者を責める。
「心して聞いてください。一つの胎嚢たいのうつまり赤ちゃんの育つ部屋にあたる物の確認が取れた事は以前お話しさせてもらいました。そして胎芽たいが、赤ちゃんの元になる細胞が三つ確認が取れ先週までは順調に各胚芽の成長がされていました。しかし今日の検査で胎芽の一つの心拍が止まっている事が確認されました」
妊娠の喜びと赤ん坊の成長を楽しみにしていた陽子にとって衝撃的な言葉に絶句していた。
「更に残りの二つの内一つは心拍が非常に微弱で成長が遅れている状態です。今後の検査次第でどうなるかはハッキリ言えませんが心構えだけはしておいてください」
医者の優しさと一般的な優しさが食い違うのだろうが冷たくもとれる言葉にも陽子は前向きな姿勢で、
「でもまだ生きようしてるんでしょ?私の子供だもの大丈夫です」
と言い切った。
結局陽子の想いが子に伝わったのか、心拍の止まった胚芽はいつの間にか消えそれをきっかけに心拍の弱まっていた方の子は成長は遅いもののしっかりとした鼓動をうちはじめていた。まるで生命を終えた兄弟が背中を押すように命を繋いでいた。
出産から数週間
陽子の退院は出来たが二人の子供達の退院はまだかかりそうだった。二人共に体重が退院基準に達していない事も含め、兄のイサムは弟よりも一回り小さく哺乳力も弱いので搾乳した乳をスポイトで与えるしか出来なかった。
マサルの方が早く退院し、しばらくは通院しなくてはいけなかったが、陽子の父倫治ともはるがここぞとばかりに車での送迎をかってくれた。
「じゃあお母さんマサルは頼むわね」
まだ目も開いていない次男を母に預け父の車に乗り込んだ。
しばらく走らせ病院に到着すると倫治は後部座席の鞄から高そうなカメラを取り出した。
「お父さん、またカメラもってきたの?どれだけ孫の写真撮るのよ」
子供を可愛いと思う気持ちは分かるが祖父馬鹿じじばかにも程がある父に呆れていた。
「いい写真は何枚撮っても尽きないベストショットなんてものはいつ撮れるか分からんのだぞ。プロの写真家ならそう言う所も学ばにゃぁならんぞ」
そう言う倫治も元プロの写真家。娘の陽子もそんな父の背中を見て写真家になったのだ、気持ちが分からない訳ではない。ただ毎日病院に来る度に写真を数百枚撮って帰っている事に呆れているのだ。
「どうせ家に帰ってもマサルをいっぱい撮るんでしょ」
「そんなのは当たり前じゃろ。孫は平等に可愛いからのぉ」
顔がトロける程の笑顔になっている事が陽子にとっては不思議でしょうがなかった。母に厳しく娘にも厳しく、挙句自身が撮る写真すら気に入らない物は破り捨てていた父親が孫達の写真はブレようがボヤけようが現像してアルバム保存してベストショットとなると拡大現像して額に入れて床の間に飾る徹底ぶりに呆れているのだ。
「そのうち孫の写真に埋もれて寝床も無くなるわよ」
「おぉ願ったり叶ったりじゃわい。孫に囲まれて寝るなんて最高の至福じゃ」
NICU(新生児集中治療管理室)前に到着した二人を出迎えたのはウィンドブレーカーを羽織ったサッカーユニフォーム姿の宗佑だった。
「また練習を抜けてきたの?サボってばかりだとレギュラー取られちゃうわよ」
夫には厳しい陽子はそう言ってはいたが旦那のスタメン入りを心配していた。
「監督からのメニューはこなしてるし昼休みくらいしかイサムに会えないからね」
宗佑は地元J2リーグのプロサッカー選手で、市内のチームグラウンドでトレーニングをしている筈なのだが昼休みには練習を抜けて息子の様子を見に来ていた。
「さっき看護師さんから聞いたけど、近いうちに退院出来るって。そうなったらイサムとマサルといーっぱい遊ぶぞぉ」
「遊ぶのもいいけど、家事も手伝ってよ」
「わかっているって、洗濯と掃除は俺やるから食事はお願いね」
「ハイハイ。子供達と遊ぶだけじゃなく『育児』の方も協力はしてね」
「孫等と遊ぶならワシも呼んでくれよ。いつでも歓迎じゃからな」
倫治じいちゃんはイサムの寝顔を見ながら今までの厳しい父親のイメージとはかけ離れた顔で答えた。




