ゴールデンエイジ 中
この物語はイジメを助長する目的ではありません。この話はイジメを含む一部作者の体験を織り交ぜたフィクションです。精神的に不安定な方や気分を害す方、感情的になりやすい方などは閲覧を控えてください。
登場人物
早川イサム(勇)
一卵性双生児の兄。弟より小柄で気弱な面もあるが努力家。父のサッカーに憧れる。
早川マサル(勝)
一卵性双生児の弟。明るくて素直な活発な少年。気弱な兄を支える優しい子。いつも兄と勘違いされている。
早川ソウスケ(宗佑)
双子の父親。サッカーJ2リーグのプロ選手。
早川ヨウコ(陽子)
双子の母親。フリーのカメラマン。取材の時に宗佑と出会い結婚。双子を出産している。今は専業主婦になっている
イサムの放課後は決まってリハビリセンターでの機能回復訓練だ。怪我以前の身体には戻らないなどと言われているが訓練次第では元の身体以上に成長する事もある。それは怪我が『完治して』元以上になると言う意味では無いそれ以上の『回復の見込み無し』の状況の身体に慣れた上での個人的な努力による向上だ。
そんな中でイサムは自転車に乗っても大丈夫なくらい握力を戻していた。箸を持つことすら困難だった頃に比べるとかなりの回復を見せていた。これも痛みと恐怖を乗り越えてリハビリに耐えて来たイサムの努力によるものだった。
それでも複雑に肩や腕の骨折をしていた為、肩や肘の関節の固着はさせられずその関節を柔軟に動かす為にはまだまだリハビリが必要だった。今までは母の車でリハビリに向かっていたが握力のある程度の回復を皮切りに自転車で一人で通っていた。
最初は母も危ないからと止めていたが、足腰のトレーニングになるからとイサムに押し切られ渋々了承していた。内心今でも心配で時々車で後を追っている。
その日も病院にリハビリに行くイサム。イサムに悟られない様に車で病院に先回る母と言った感じで何時ものルーティンでそれぞれ動き出す。陽子が先に到着して医者達に挨拶をしてから患者に紛れてイサムを追うと言う手順もお決まりで看護師達からも有名になっていた。
「今日はまだイサムくん来てませんね」
入院時に担当してくれていた女性看護師が陽子に声をかける。陽子はいつも変装したつもりでサングラスと帽子と言った姿で待合室の椅子に座っていた。
「あっどうも吉永さん。いつもならもうすぐ来ても良いんですが…」
そう言いかけて看護師の吉永が陽子を静止させて患者に問いかける様な質問を陽子にし始める。その横をイサムが通り過ぎて行くのを確認出来た。吉永のとっさのアドリブでイサムは陽子の存在に気が付かなかった。陽子は吉永に礼を言いリハビリセンターに向かった。
扉の陰でイサムを見守る陽子の後ろから声をかけられて振り向く、
「大杉先生」
「早川さんこちらに、ここならイサムくんもよく見えるしバレませんよ」
案内されたのはリハビリセンターの光取り入れに使われている中二階で例えるなら学校の体育館の中二階の様な場所なので上から下の様子がよく見えた。
「お気遣いありがとうございます」
「いえいえ。早川さん、イサムくん頑張ってますよ。まっすぐな目でもう一度サッカーできますか…っと聞かれた時に正直無理だと思いました。リハビリテーションだけでは元の身体には戻す事は難しい状態でしたから。彼の熱い思いに軽々しく出来るよと言ってしまった事に後悔し掛けましたが彼を通じて僕も医者を続ける勇気を貰いました」
懸命にリハビリを続けるイサムを二人は見守っていた。
野球の練習用ユニフォームを身につけた少年達がノックを受けていた。そんな中投球練習するマサルの姿があった。速球をコントロール良くキャッチャーミットに投げ込んでいた。
「マサルくん。アップは後5球ね」
キャッチャーの柴谷護が声を掛けるとマサルは無言で頷く、ウォームアップ時の速度も中々に速度があるのに全力投球のマサルのボールはキャッチャーミットを更に響かせた。思わずノック中の他の子供達がマサルの方を向いてしまうくらいだった。
「小坂コーチ、ノック。ノックを続けてください」
子供達に急かされ慌てるコーチ。
「お…スマン、スマン」
思わず小坂コーチもマサルの投球に見入ってしまっていた。
「早川中々良い仕上がりですね。ピッチャー始めたばかりとか信じられませんね」
田原コーチと渡辺監督が投球練習のネット裏で話をしていた。
「内野でも動きのいい子だったし元々コントロールが良くどんな体勢からでも見事なフィールディングの出来る柔軟さの子ですからね、期待以上の実力ですよ」
渡辺監督も絶賛でマサルの投球に満足していた。数十球投げた辺りで護の様子が変わり、
「ちょっとストップ、ストップ。痛ってぇー」
と言ってキャッチャーミットを外して真っ赤になった手を振っていた。
「柴谷、試合中は痛いで中断出来んぞ」
と笑いながら渡辺監督が言うと
「分かってますよ、でもマサルくんの球、以前に増して伸びて来るからめちゃくちゃ痛いんですよ」
と真っ赤になった左手を見せる。
「柴谷くんは百三十キロのピッチングマシンの球の捕球で練習してたよね。その時は大丈夫だったのに?」
田原コーチの個人的の疑問にマモルは答える。
「ピッチングマシンの方も痛いんですけど、なんと言うか,バンって来ると痛って感じで直ぐに治るんですが。マサルくんの場合ズババンって入って来て痛ってぇーってのが続いたまま次の球、次の球って来るので手の骨に響く感じなんです」
「田原さん、スピードガン持ってきて、マモルは手を氷で少し冷やしてきなさい」
そう言うと渡辺監督は大人用のキャッチャーミットを取ってきてマスクだけ被りベースの後ろにしゃがんでミットを構えた。
「早川、5球。全力で投げれる?」
「はい」
「田原さん測定お願いね。じゃあ行こか」
再びマサルが投球する。相変わらずキャッチャーミットを良い音で響かせる。投球を終えて、
「どう?田原さん」
「…百三キロですね…早川くんの身長からは信じられませんが」
「身体のしなりとボールに伝えるタイミング…それに伴う筋力さえあればこの年代の子供なら出せなくはないですが、確かに体重の軽い早川からは想像出来ない重い球ではありますね」
そう言うとミットを外し真っ赤になった手を見せる。
「ねっ、痛いでしょ?痛いでしょ?」
同意を嬉しそうに求める柴谷に、頭の上に上げていたキャッチャーマスクを被せて一言。
「出来るだけ痛くならない捕球練習を追加しましょうね。早川は後十球投げたらクールダウンしてノックに参加してね」
追加練習にガッカリしているマモルに、
「マモルくんガンバ」
とマサルが苦笑していた。
その日の晩の食事前に二人は風呂に入っていた。イサムは湯船にマサルは洗い場で頭を洗っていた。
「そういえばさぁ、兄ちゃんはスマホ買ってもらわないの?」
「電話とメールで十分だし、なんで?」
マサルは説明に戸惑いながらも
「ほらスマホだと『ライム』使えて便利だし」
「らいむ?」
「うーんとね。複数人のグループでチャットみたく出来るし会話も複数人でできるの」
「俺、お前みたいに友達いないし…」
自分のコミュ障のアピールをしつつ浴槽の上縁に両腕を置き両腕にほっぺたをつける様にしてふててみせた。
「流星ともライムしてるからそっちのグループに入れば良いよ」
どうしてもスマホを薦めたいマサルは旧友の名前を出した。
「流星くんか、久しぶりに聞いたね。元気にしてるの?」
「古備少のU-12でキャプテンだってさ」
「へぇーあの流星くんがキャプテンねぇ」
「今度会う約束してるんだよ。じぃじが連れて来てくれるって」
イサムが少し悩んだ後マサルに、
「流星くんに頼んでもらえないかな?」
そう話し内容を伝える瞬間、
「あなた達、いい加減お風呂出なさいよ、仲が良いのはいいけどご飯よ」
と母に怒られて慌てて風呂を出た。
食事後、宿題を苦手分野を互いに教え合いながらこなし、それぞれの好きな事を自由な時間を過ごしていた。イサムは読書をマサルはスマホをいじっていた。
「兄ちゃん、『ライム』ってこんな感じで写真とかも送り合えるんだよ」
とどうしてもイサムにスマホに興味を持たせようと画面を見せる。
「へぇ…ってこれ流星くん?引越し前に会った時は俺らとさほど変わらない身長だったのに、かなり伸びてるね」
「150cmは超えたって本当羨ましいよね」
マサルは上機嫌でスマホのプレゼンをし始める。よほど良いプレゼンだったのかイサム心の突き刺さる。この後母におねだりに行って陽子が宗佑に相談と言ったデジャブが起きる流れは明確だった。




