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確認済み  作者: 遠野 圭
3/4

第3話|代替

 彼は、

 自分がいなくても物事が進む場面を

 何度か見ていた。


 だが、

 それが自分のことだとは、

 まだ確定していなかった。


     *


 朝、

 スマートフォンを手に取る。

 画面には、

 すでに一日の概要が表示されている。


 起床。

 移動。

 作業。

 帰宅。


 修正欄はない。

 未確定の表示もない。

 彼は画面を閉じる。


 閉じても、

 内容は変わらない。


     *


 外に出る。

 エレベーター前で立ち止まると、

 スマートフォンが短く震えた。


 〈待機:不要〉


 理由は表示されない。

 だが、

 次の行動は決まっている。

 彼は階段を使う。


     *


 移動中、

 連絡が一件届く。


 〈先ほどの件、処理しました〉


 彼は足を止める。

 処理した覚えはない。

 画面を確認する。


 〈対応履歴:反映済み〉


 詳細を開く。


 時刻。

 場所。

 操作内容。


 すべて、

 彼の生活範囲に合致している。

 彼は、

 「自分がやったかどうか」を

 確認しようとして、やめた。


 履歴がある以上、

 確認は不要だった。


     *


 立ち寄った店で、

 店員が言う。


 「こちらでよろしいですね」


 確認の形をしている。


 だが、

 選択肢は提示されない。

 彼は頷く。


 レジの表示には、

 すでに支払い完了の文字が出ている。


 〈決済:完了〉


 彼は、

 いつ承認したのかを考えない。

 完了している以上、

 戻す理由はない。


     *


 昼前、

 予定にない連絡が入る。


 〈ありがとうございました〉


 文面は丁寧だ。

 だが、

 何に対する礼なのかが書かれていない。

 スマートフォンを見る。


 〈対応:正常終了〉


 対応者欄に、

 名前は表示されない。


 彼は、

 それが自分なのかどうかを

 判断できなかった。


     *


 午後、

 用事を一つキャンセルしようとする。


 画面を開く。

 該当項目を探す。


 表示されない。


 検索すると、

 短い表示が出る。


 〈当該行動:実施済み〉


 実施時刻は、

 彼が別の場所にいた時間と

 重なっている。


 矛盾はある。


 だが、

 問題は起きていない。


     *


 彼は立ち止まる。


 自分の行動と、

 記録がずれている。


 だが、

 ずれは「誤り」として

 扱われていない。


 修正提案も、

 確認要求も出ない。


 記録の方が、

 先に確定している。


     *


 通話が入る。

 彼が応答する前に、

 画面が切り替わる。


 〈代理応答:有効〉


 音声は流れない。

 要約だけが表示される。


 〈要件:解決〉


 通話は終了している。


 彼は、

 誰が話したのかを

 考えなかった。


 要件が解決している以上、

 その必要はない。


     *


 夕方、

 知人と会う。


 挨拶のあと、

 知人が言う。


 「さっきの件、助かりました」


 彼は頷く。

 内容は分からない。


 だが、

 感謝は成立している。

 スマートフォンを見る。


 〈対人対応:完了〉


     *


 帰宅。

 玄関に入る。

 画面に短い表示。


 〈在宅確認:完了〉


 彼は靴を脱ぐ。

 リビングに入る。

 照明が点く。

 エアコンが動く。


 すべて、

 彼が操作する前に

 終わっている。


     *



 夜。

 彼はソファに座る。

 スマートフォンを手に取らない。


 それでも、

 部屋の中の状態は変わらない。


 温度。

 明るさ。

 音量。


 最適なままだ。


     *


 彼は、

 自分が何をしなくなったのかを

 整理しようとする。


 操作。

 選択。

 確認。


 どれも、

 「不要」になっている。


     *


 画面が点く。

 最後の表示。


 〈本人不在時処理:問題なし〉


 彼はそれを見て、

 不在という言葉に

 引っかからなかった。


 処理が進んでいる以上、

 不在は障害ではない。


     *


 スマートフォンが、

 静かになる。

 彼は動かない。


 部屋は正常だ。


 予定は成立している。


 連絡は滞っていない。


 判断は完了している。


 ただ、

 それらのどこにも、

 彼自身は参照されていなかった。

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