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何にせよ、まずは仕事!

 掲示板に貼られている紙から読み取れる情報によれば、この世界では〝人間〟と〝魔族〟が全面衝突寸前の状態である。理由は様々、領土問題、お互い様の人種差別、今は断絶しているが貿易摩擦等々。


 今は国境付近での紛争で収まっているが、それも時間の問題。数字の上での戦力はほぼ互角。


 残る問題は、互いの軍の性能差。


 殴って勝つのが常道にして王道。物理上等「人間軍」。


 搦手が得意、知能戦ならお任せ。魔術至高の「魔軍」。


 世間では下手に全面衝突となれば膠着状態からの泥沼化すると予想されているが、だからこそか、人間軍は正規兵だけでなく、傭兵ギルドにまで召集令を出している。報酬の面で折り合いが付かず、そちらが泥沼化しているようだ。


 そこで、ギルドだけでなく、民間からも人を募ろうとして、掲示板に人員募集の紙を貼り出したということだ。


 紙や、それを眺めてヒソヒソと話す人々の会話から情報を得た七士は、とりあえずの行動指針を打ち出す。


(王都ととやらに行くか)

(え、戦争に参加するの?)

(しないしない。面倒臭い。でも、目的もなく動くよりはマシだろ? それに、王都に行けば生活基盤が得られそうだ)

(この町でもいいんじゃない?)

(よく見ろよ。店が並んでいても、そこに入る人なんてほとんどいないだろ。この服を売ってくれた店の人も言っていたでしょ、〝暇だ〟って)

(あ、確かに)

(景気が悪いのさ。今日を生きるのに精一杯で、店での買い物が覚束ないくらいには。そこに、身元不明の俺等を雇う余裕なんてあるものか)

(むう……それも確かに)

(ま、王都とまでいかなくても、それなりに大きな都市にでも着けば、そこで生活基盤を整えてもいいしな)

(その方向で動くのが一番か。よし、行こう!)


 七士は、ひとまず、人員募集の紙が示している地点に向かう。そこには、連れて行くための馬車の集団がいる。


 その集団に向かい、集団のトップの指揮官みたいな軍人に応募することを伝えると、七士の容姿をシゲシゲと眺められて言われた。


「帰れ。貧相な形でどうしようと言うのだ。子供の出る幕ではない」

「はあ?」

「その手の募集もしているが、子供を相手にしたがる変態は軍にはいない。仕事が欲しければ他を当たれ」

「バカにしてるのか! あの紙には」

「帰れ」


 割とあっさりと門前払いされた。既に集まって、馬車に乗っている男たちも嘲笑っている。


 カチンときた七士だったが、ここで喧嘩しても利益は無いし、相手も悪い。戦闘の経験値は別にしても、この体で勝てるような相手ではない。


 ざわつく気持ちを抑えながら、七士はその場を離れる。


 次の目的地へ向かう。この町にあるかは分からない。それでも、探してみる。


 町を隅から隅まで探し回り、一軒だけ見つけた。


「警備ギルドか……。まあ、無いよりはいいな」

(王都か都市を目指すんじゃないの?)

(仕方ないだろ。あの一団で王都に行ければ良かったけど、あの頭の硬い軍人が断るんだし。旅をするにも資金を貯めないといけないだろ?)

(まあね……。アンタ、意外と慎重派よね……)

(これでも裏社会で生きてきたものでね。よし、行くぞ)


 七士は〝警備ギルド〟と看板を掲げている建物のドアを押し開く。中は意外とサッパリとしており、出入り口の真正面に受付のカウンターがある事を除けば、テーブルとイスが四組ほど並んでいるだけ。


 てっきり、筋骨隆々の男たちがひしめき合い、タバコか何かの煙が充満している〝如何にも〟な雰囲気を予想していただけに、かなり肩透かしを食らう。


「いらっしゃいませ。何か御用ですか?」


 受付から声が掛けられる。そこにいるのは、ぱっと見、七士(の体)よりも年下に見える少女だ。


 七士は受付まで歩み寄り、


「あの、ここって人を募集してません?」

「募集ですか?」

「はい。旅をしているんですが、資金不足でして。暫く雇ってもらえないかなって」

「ちょっとお待ち下さい」


 そう言って、少女は奥へと引っ込んだ。奥から会話のような声が細々と聞こえてくる。


 数分と経たずに人が戻ってくる。少女ではなく、男性だ。線は細いが、体幹はしっかりとしており、相応に筋肉が引き締まっている。


「うちに就職希望?」

「ええ、まあ」

「うちは〝警備〟が主な仕事だよ? 商隊の護衛から、店の用心棒みたいなね。荒事も少なくないけど大丈夫?」

「相手が魔獣じゃなければ何とか」

「え? うーん」

「猿人みたいな奴や、やたらと群れている猿には勝てるけど、狼や熊には逃げの一手でした」

「あー、んー、なら大丈夫かな。一応、複数人のチームで動いてもらうし……。そもそも、狼系や熊系の魔獣を一人で相手するのは無謀だしね」


 男性はそう言って、暫く考え込むと、「うん」と言って頷いた。


「うちも人手不足だ。よろしく頼むよ」


 そう言って、握手を求めるように手を差し出す。


「こちらこそ、よろしく」


 七士も握手に応じようとした時、


「よろしくー! マスター、この子はうちのチームに入れるけどいいよね!」


 やたらと明るい声の主が、七士の右側から飛んできて、思いっきり抱きつかれた。踏ん張る暇も無く、そのまま左側へと吹き飛んだ。


「こら、スメラギ! 新人に何するんだ!」

「いいよね、この子はうちのチーム!」

「お前のチームの担当は遠距離護衛だろ。まずは町中の軽い仕事で慣れてもらってからだな」

「いーよ、そういうの。大丈夫だって」

「いい加減なことを」

「じゃ、貰ってくね!」

「おい! 話はまだ……ったく……もう行きやがった……」


 七士が状況把握するよりも早く、七士はどこぞかへと連れ去られた。ドアから外に出たわけではないらしい。


 階段を駆け上がる音がして、荒々しくドアを開閉する音がして、気付けばやたらとファンシーな部屋に押し込まれた。


「よろしく! 私はスメラギ。特技は〝直感〟。的中率は体感八割! この『遠出チーム』のリーダーやってます!」

「はあ……。新人の七士です……。特技は……近接戦?」

「じゃ、前衛だね! よろしく!」

「はい……よろしくです」


 勢いに飲まれ、何が何だか分からないまま、七士は警備ギルドの遠出チームに加入することになった。

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