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どうも戦争してるっぽい

 町に着いた。どこかも分からない森の中で目覚めたから、遠かったのか、近かったのか分からないけど。


 苦労した。魔獣に追われ、盗賊っぽい連中に追われ、何時ぞや洞窟の中で出会った謎生物に絡まれ。大概の盗賊には勝てるし(七士が)、謎生物なんて今日華でも殺せる(滅茶苦茶嫌がるけど)。ただ、魔獣が相手となれば話は別だ。弱い種類もいるが、ほとんどはかなり強い種類ばかりだ。


 町に辿り着くまでの苦労を思い浮かべ、感動の涙を流す。


 盗賊以外の人間なんて初めて見る。


 町の中を歩いてみる。人工物に囲まれると心が落ち着く。


 元から汚かった服はここに来るまでの間に更に汚れてしまい、新しい服を調達したいが、懐が心許ない。盗賊から拝借した金はあるが、服の値の相場が分からない。


「もうちょっと動きやすい服がいいな。あと通気性」

(もう少し女性らしい服がいい)

「機能性優先。鎧とまで言わんが、戦いやすい服がいい」

(えー)

「お前が戦うならいいけど」

(……我慢する)


 頭の中でごねる今日華を黙らせつつ、服屋を探して歩く七士。流石にユニクロは無いか。


 そこへ、一人の女性が声を掛けてくる。


「ね! そこのお嬢さん! 新しい服買わない?」

「買いたいけど店が分からなくて。この町に来たのは初めてなもので」

「旅人なんだ! このご時世に! 凄い度胸ね!」

「……このご時世?」

「ありゃ? 意外と世間知らず? ま、うちにおいでよ!」


 女性の言葉にきな臭いものを感じながらも、七士は腕を引かれるまま、一軒の店に引き込まれた。


 そこは清潔な香りに満ちた空間で、綺麗な服が並べられている。小汚い格好でいるのが居心地悪い。


「旅人さんなら動きやすい方がいいかな?」

「あ、はい。でも、お金があまり無くて」

「予算はどれくらい?」

「えーと」


 財布代わりにしていた布袋を開いて、コインをジャラジャラしてみる。


 さて、どれくらいを服に費やそうか。食費にも使わないといけないし。


「……銅貨が二十枚くらい……?」

「んー、そこそこってとこか」


 女性は顎に指を当て、店の奥に引っ込む。在庫を漁っているようだ。


 その間に七士は、店の中を見渡してみる。服の近くには値段が表記されており、「金貨三枚」と書かれている。


 金貨がどれほどの価値か分からないが、他を見ても金貨とか銀貨がほとんどで、銅貨と表記されているものは無い。


(やべぇ。ここって高級店か?)

(金貨って持ってたっけ?)

(持ってねぇ。銅貨がほとんど。銀貨は少しあるけど、表に置いてある服を買えるほどじゃない)

(逃げる?)

(謝って逃げるのも手だな)


 頭の中で今日華と話し合っていると、女性が服を持って戻ってきた。


「この辺りなら銅貨で買えるかな。上下でセットになってるやつだけど。試着してみる?」

「え、いや、汗とかかいて汚いから」

「ん? じゃ、お湯持ってくるから待ってて。拭くだけでも綺麗にはなるでしょ?」

「そこまでしてもらうわけには」

「いーからいーから。暇だしさ」


 そう言って、今度はお湯とタオルを持ってきてくれた。


 奥の一室を貸してくれたから、厚意に甘えて、頭の上から爪先までを徹底して拭く。拭いただけなのに、桶の中のお湯は見事なまでに汚れた。底が見えないくらい。タオルも相応に汚れた。


 この結果には、流石の七士でも血の気が引いた。ここまで汚れていたとは思っていなかった。


(いーーーーーやーーーーーー!!)

「うるさい! 叫ぶな!」


 唐突な今日華の絶叫。女性の感性を持っている今日華にとって、この汚れ具合は耐えきれなかったのだろう。


 七士も叫び返す。頭の中で思うだけで話はできるのに、つい、反射的に叫んだ。


 それが聞こえたのか、女性が駆け付ける。


「どうした? 何かあった?」

「あ、いえ! だ、大丈夫です」

「そっか。あ、下着もあるから、拭き終わったら教えてね」

「体は拭いたんですけど」

「入るね」

「早っ!」


 入ってきた女性の手には白い下着も含まれていた。


「下着も込みだと、一式で予算ギリギリだね」


 女性が用意してくれた下着や服を身に着けると、かなりサッパリした気持ちになる。軽くて、通気性もいい。動きやすく、可動範囲も文句ない。


 すっかり気に入った七士は、上機嫌になって銅貨を取り出す。


「こんな良い服いいんですか?」

「いいのいいの。在庫だしさ」

「ありがとうございます」


 新しい服で店を後にし、少し上機嫌で町を歩く。


 サッパリした気持ちで歩いてみると、町はどこか殺伐とした雰囲気に気付く。あけすけにそうした雰囲気を人が垂れ流しているわけではないが、表情の奥にそうした雰囲気が秘められている。


 七士には覚えがある雰囲気であり、明日をも知れない生活を送っている人特有のものだ。こういう雰囲気が濃い人ほど、七士が所属していた復讐屋ギルドの門を叩いていた。


(ふむ。さっきのお姉さんも言っていたが、どうもきな臭いな。治安が悪いみたいだ)

(そりゃ悪いでしょ。でなきゃ盗賊なんて野放しになってないでしょ)

(……あー、それもそうか)

(気付いてなかったの!?)

(あんな手合いは日常的に見ていたからな)

(どんな環境よ!?)

(ドームの地下都市なんてそんなもんだ。知らねーのか?)

(知らないわよ)

(はー。やだやだ。表の綺羅びやかな世界しか知らないお嬢様ってのは世間知らずでさ)

(はっ倒すわよ!)

(自傷行為はお止めくださーい)

(くっ……このクソガキ……!)

(お前が年下だろ?)

(私は、前世では三十だったわよ)

(マジか。年上じゃん。俺は二十三だった)

(はっ。年下風情が)

(へっ。婚期を逃した三十路が)

(ブチのめすぞクソガキ!!)

(はーいはい。自傷行為は止めましょうねー?)

(この……! 減らず口……!)


 頭の中でワイワイと会話していると、何やらザワザワとした騒ぎが聞こえてきた。


 七士は興味を惹かれ、その騒ぎに首を突っ込む。


 塊になっている人混みを掻き分け、その中心にまで進み出る。そこには、掲示板があり、何やら一枚の紙が貼り付けられている。


 文字が読めることを喜びつつ、その紙に目を通す。


『魔軍との紛争激化。全面衝突は時間の問題。求む! 腕に覚えのある者は王都まで来られたし!』


 大々的な見出しと、細かい情報がツラツラと。


(魔軍……?)

(紛争? 全面衝突?)

(これって……)

(もしかしなくても……)


「戦争じゃん?」

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