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とりあえず冒険でもしてみるか

 ひとまず、分かったことを列挙してみる。


・頭の中には「野根夢のねむ 七士ななし」なる人物(人格?)がいる。


・〝表〟に出ている人格は「雪野ゆきの 今日華きょうか」である。


・この体はその双方どちらのものではない。尚、10〜15歳くらいの女子である。


・〝この体〟の名前は不明。


・家族の存在も不明。住所も不明。


・荷物からして旅をしている? 目的地は不明。


・通貨のようなものは所持していない。その存在も不明。


「あとは、ここが〝異世界〟ってことくらい?」

(そうだな。あの空もドームの天井の映像には見えないからな。外を歩いているとすれば、〝異世界〟だろうな)


 ドームの中には、このような広大な平野は無い。限られた空間に、ただ広いだけの場所を作る余裕など無い。田畑でさえ、専用の巨大ビルの中に作られる。階層ごとに作物が育成される。


 流石に、それだけでここを〝異世界〟と断定したわけではなく、「それも一つの可能性」くらいのものだが。


 目的地も分からず、帰る家があるかも分からない。


 この体の少女そのものの記憶も無い。今日華には今日華の記憶があり、七士には七士の記憶がある。幸いにして、その二つの記憶が混線することは無い。


「流石に、どこの誰かも分からない男に記憶を見られたくはないからね」

(俺も同感だ。他人の記憶なんて面白いものではないだろうしな)

「気が合うところがあるのは良いことね。気が合わなければ最悪よ」

(それはそうだ。話は合うほうが面白い。それで? どこに向かっているんだ?)

「さあ? 行く宛も分からないから、適当に歩いているとこね」

(適当かよ)

「アンタには行く宛あるの?」

(無い。あと、サバイバル技術も知識も無い)

「うーん。食料無くなったらどうしよう?」


 二人(?)が会話をしていると、地鳴りのような音が後ろから追いかけてくる。


 この世界に来てから初めてのイベントに、今日華が若干の期待を込めて振り向いてみる。何かしらの変化があれば、当面の行動指針ができる。


「げ」

(なんとまあ)


 明らかに「盗賊です」みたいな連中が、馬に乗って接近してくる。典型的なポーズなのか、舌を出して、馬の上から今日華を見下すように睨め付けてくる。


「げっへっへ、ちぃっと痩せっぽちだが、女だぜ」

「ガキじゃねーか」

「ガキのほうが仕込み甲斐があるぜ。上手く仕込めりゃ、それなりの値で売れる」

「テメーがロリコンなだけだろ!」

「泣いて嫌がるガキの方が楽しめるんだよ!」


 ゲラゲラと下賤に笑いながら、今日華を取り囲む。


(おい)

「何よ」

(代われ)

「どうやって」

(なんか、こう、上手くやれよ)

「できるか!」


 七士からの申し出に、今日華は困惑する。人格の交代なんてどうやればいいのだろう。


 その光景は、盗賊にしてみれば独り言を呟いているようにしか見えない。


「あー? どうしたんだコイツ?」

「ビビってイカれたか?」

「可哀想に。優しくしないと」

「じゃあ、そのおっ勃ってるモンを鎮めろよ」

「可愛らしい大きさだな」


 下ネタを交えて、やはり、ゲラゲラと笑う男ども。


(人数は五人か。大した数じゃないな)

「どうすんのよ」

(どうにかしないと、やらしい展開になりそうだろ)

「男ってのは……」

(代われって)

「だから、どうやって!?」


 その会話に、唐突に盗賊の一人が割り込む。


 固い拳が、今日華の頬を打ちつける。


 華奢な体はそれだけで吹っ飛び、数メートルほど地面の上を転がる。


「おいおい、手荒なことするなよ。キズモノになったら売れなくなるだろ」

「どーせ、テメーがキズモノにするだろうが!」

「ソコはいいんだよ! 金持ってる変態は見た目が良ければ買うんだから!」

「けっ! 変態の考えは分かんねーな」


 盗賊が笑い合っていると、のそりと今日華の体は起き上がる。パンパンと服を叩いて、土埃を落とす。


 その様子を見て、盗賊は少しばかり驚いた様子を見せる。


「へー。意外と頑丈じゃねーか」

「らしいな。スペックも悪くはないらしい。〝俺〟の思い通りに動けそうだ」

「……あ? なんだ急に」


 今日華は振り向き様に地面を蹴り、盗賊の一人に肉薄。虚を突かれた盗賊は反応が遅れ、今日華の拳への防御が間に合わなかった。拳は盗賊の顎を打ち抜き、男の顔は三回ほど左右に振れ、馬から落ちた。


「なっ!?」

「テメェ!」

「何しやがる!」


 今日華は乗り手が落ちた馬に乗り、それを足場にして跳躍する。近くにいた太った盗賊の首元に蹴りをブチ込む。ミシリと音がして、太った盗賊は白目を剥いて落馬する。


 今日華は体を反転させながら馬鞍に着地する。


 残りの三人の盗賊は殺気を漲らせて向かってくる。


 今日華はニヤリと笑い、余裕を持って迎撃する。


 五分後。


「あー、これ、銅貨ってやつ? やっぱ金はあんのか。物価が分からんねーけど、ま、金はあって困らねーな」


 盗賊をボコボコにした今日華は、馬に乗せられていたロープを使って盗賊をグルグル巻きにする。簡単には縄抜けできないように、肘や膝をロープを挟むように曲げて、ロープを巻き付ける。


(う、うーん?)

「おう、起きたか」

(あれ!? 私の体が動かない!?)

「落ち着け。入れ替わっただけだ」

(入れ替わった!? どうやって!?)

「お前が気絶したからだな。情けねーな、あんなんで気絶するなんて」

(気絶!? 盗賊は!?)

「使えそうなモンは粗方頂いたぜ。金っぽいモンもな。銅のやつがジャラジャラと、銀のやつかちょこっと。このノリなら金もありそうだけどな」

(ちょ、そんなことしたら警察に!)

「警察ぅ〜? あんなのコーポの使いっ走りだろ。金でも握らせてりゃ黙るさ」

(悪い人!)

「仮にも裏社会にいたもんでね。善悪は知ってるが、知ってるだけだ」


 盗賊から奪い取った大きめのバックパックに荷物を詰め直し、今日華(七士)は歩き出す。馬は置いていく。餌代が掛かりそうだし。


(どこに行くのよ)

「行く宛無いなら、のんびりと冒険も悪くない」

(それはいいけど、代わりなさいよ)

「どうやって?」

(気絶すれば?)

「やだね」

(かーわーれー!)

「いーやーだー!」


 まったりと二人(?)の旅は始まった。

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