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3 寒風身に染む初雪のみぎり

 12月も中旬になり、寒さも本格的になってきた。

 BBの正体が、犯罪集団クラップスの№3であるということが解ってから、2か月近くが過ぎている。

 日本支局としては、クラップスの拠点がA国にあるため、直接的な捜査は行えない。BBに関する調査は、全面的にA国の本部に頼らざるを得ない。

 今のところBBからのリラックスと称する被害は、空の拉致事件以降受けていないが、支局としては次の被害を受けないうちに何とかしたいと切実に思っている。


 そんな折、漸くアンジーから博のスマホに連絡が入った。

「久しぶりね。空は元気?」

「連絡を待っていましたよ、アンジー。空はもう仕事に完全復帰しています」

「それは良かったわ。くれぐれも無理させないでよ、色んな意味で」

「ああ・・・まぁ・・・努力します」

 色んな意味の内容はよく解るが、それに対してはどうしても歯切れの悪い返事になってしまう博である。彼女に対して素直になろうと誓ってから、羽目を外している自覚はあるのだ。

「はぁ?・・・何、その返事。まぁ、取り敢えず精一杯努力して頂戴。それはひとまず置いといて、こっちの現状を報告しておくわ。BBの件ね」


 クラップスの№3、BBは画像解析から40歳くらいだろうと推定された。出生地は中米だが、3歳ごろにA国に来てS市で育ったようだ。


「解ったことはその程度よ。これでも頑張ってるんだけどね」

 それはそうだろう、と博は思う。犯罪集団の幹部が、自己紹介をして歩くわけもない。全てが秘密なのが常識で、それをそこまで調べ上げることが出来たのは流石だ。そうでなくとも、本部が抱える仕事は膨大で、捜査官をそのために割くのさえ大変な苦労があるだろう。

「うん、ありがとう。頑張ってくれてることは良く解ってます。悪いけど、引き続きよろしく頼みます。こっちも何かあったら連絡するので」

 博はそう言って、スマホを切った。

 S市は自分が5歳の時、母と一緒に日本を離れて移り住んだ場所だ。そこにBBとの接点があるのだろうか。彼と同じ年齢ならば、どこかで会っていた可能性は高いような気がする。

 けれどそれだけでは、情報が少なすぎてどうにもならない。

 博は、次の連絡を待つ以外にすることが無かった。


 クリスマスも近くなった頃、また本部から依頼が届く。

 今回はクラップス絡みではなく、B国に拠点を置く犯罪集団「ブルーグレイ」に関する依頼だった。

「ブルーグレイ」は犯罪集団の中でも老舗と言われるほど歴史が古く、大国にも深く浸透しているらしい。お定まりの暴力・麻薬・売春などにも熱心だが、革新的なことにも手を出していて、戦争や紛争関連の武器・兵器の開発や密輸なども行っているらしい。

 そんな「ブルーグレイ」が、超小型原子炉を搭載する船舶を1隻入手して、こっそり日本へ回航している。密入国なのは違いないが、その超小型原子炉と管理に問題があり、早急に船舶を丸ごと或いは原子炉だけでも何とかして欲しいと言うのが、依頼内容だった。


「原子炉ぉ~~!」

 何だかとんでもない話じゃないか、と真が目を剥く。

「ええ、その超小型原子炉と言うのは先年開発されたばかりの物なんですが、構造上安全性に欠陥が見つかったそうで、出来れば回収したいが相手が「ブルーグレイ」なのでそれは難しいんです。ですから僕たちの任務は、現在船舶が係留されているドックに潜入して制圧し、超小型原子炉の防護壁(シールド)を起動することになります。起動してしまえば、本部の専門家でなければ解除できません。その後の事は、本部が手を回して回収するそうです」


 博はミーティングスペースの大型画面に船内見取り図を映す。

「ここが超小型原子炉がある場所です。この部屋の周囲に防護壁がありますが、作動スイッチは部屋の中と操舵室にあるようです。スイッチを入れると直ぐに作動するそうなので、操舵室の方で操作します」

 超小型原子炉がある部屋の作動スイッチは、最悪の場合のものらしい。閉じ込められて原子炉と運命を共にする訳なのだから。

「3日後には出航する予定なので、ドックにも水が入っているそうです。警視庁にも内密で応援を頼みますが、内部潜入は支局だけで行います。準備が出来次第出ますので、全員フル装備でお願いします。詳しい場所は・・・」

 行き先は、T港の外れにある古いドックだという。

 捜査官全員が、準備を始めた。


「・・・・ん?・・・」

 席を立ちあがった空が、微かに眉を顰める。その様子を察して、博は心配そうに問いかけた。

「どうしました?また、違和感?」

 先週あたりから、空はごくたまにだが胸部に違和感を覚えていた。例のクーデター事件の後遺症かもしれないので、医務室で色々と検査をして貰ったが異常は見つからなかった。ふみ先生は眉を顰めながらも、様子見という診断を下している。

「いえ、大丈夫です」

 穏やかな笑顔で答える空に、博は仕方が無さそうに言った。

「無理はしないでくださいね。異変を感じたら、すぐに離脱すること、これは命令ですよ」

 そして博は、支度をする捜査官たちに告げる。

「春以外は、全員予備の弾倉も装備してください。制圧する予定人数は50人くらいです」

 大掛かりな任務になることは間違いなかった。


 空はいつもの黒の上下に着替えると、ヒップホルダーにチェックした銃を収めて装着する。そして、特注のマガジンポーチに予備の弾倉を入れると両腕を通してカチリとベルトの留め具を閉めた。

 弾倉を入れるポケットが胸の外側にあり、背中と乳房の真下にあるベルトで固定する形だ。胸の膨らみが強調されてしまうが、軽量化を優先するとこうせざるを得ない。

 つい先日、補聴器のバージョンアップが出来てインカム機能が追加されていた。今まで出来なかった、相互通信が出来るようになっている。

 最後にウィップを右手に装着し、髪を纏めて空の支度は完了した。


 捜査官たちは目的の場所に到着すると、連絡中枢となる春を残して5人は車から降りた。

 12月の空気は冷たく、空はどんよりと曇っている。

 雪が降りそうな空模様だった。


 通常、船舶のドックは屋外にある物だが、「ブルーグレイ」の施設なので隠しておきたい事も多いのだろう。凹字型の建物があって、そのへこんだ部分にドックがあり港に面している。しかも屋根と大型シャッターが付いていて、外部からは全く見えない構造になっていた。

 5人の捜査官は建物の正面から入ると、二手に分かれて制圧を始める。向かって左側を博と空が、右側を真と豪が担当し、小夜子が中央で待機した。


「ブルーグレイ」配下の船員たちやドックの職員たちは、異変に気付いて次々と飛び出してくるが、捜査官たちは着実に制圧をしていった。相手が銃を持っている場合は、こちらも銃で応戦するが、行動力を奪って拘束することに徹底する。彼らは後で、建物の敷地外で待機する応援の警官隊が連行してくれるだろう。彼らが所持していた銃や小型爆弾などは一応取り上げておいて、別室にまとめておけばこちらも処理して貰えるはずだ。

 けれど、まだ制圧は半分程度と思われた時、真から全員に連絡が入る。

「船長他数名がドックの方に逃げた」

 船を出港させられては拙い。

 待機していた小夜子も加わり、5人は制圧は後回しで先にドックに向かった。


 ドックに入る引き戸を開けて中に入ると、300ftはある大型クルーザーが1隻、満水のドックに浮かんでいた。暖房もない大きな空間は、冷蔵庫並みの寒さで吐く息が白い。

 ボーディングブリッジやタラップは既に外され、捜査員たちがいる場所からでは船内に入ることが出来なかった。空は周囲を見回すと、荷物の積み込み作業用のクレーンアームを見つける。

「上から行きます」

 彼女は博に告げ、パイプや建物を支える鉄枠などを利用してウィップで上方へ移動する。ドックの岸壁では、残ったブルーグレイの男たちが次々と入って来ていたが、そちらは博たちに任せた。

 クレーンアームの上からでは、船内の様子まで解らない。アームの先端から跳び移るとしても、僅かながら届かないと思われる。空はクレーンアームの付け根辺りに戻ると、先ほど制圧した相手が所持していた小型爆弾をセットした。

(持ってきて良かったです)

 何かに使えそうな気がして、1つだけ持ってきていたのだ。そして重量を減らすために、マガジンポーチをベルトごと外すと、爆弾のタイマーを5秒後にセットし、空はアームの先端に向かって走る。口元から漏れる息が白くたなびいた。

 タイミングはバッチリで、アームの先端から跳んだ空の身体は背後からの爆風をもろに受ける。強い風に煽られるように、その身体は宙を飛んだ。

 飛距離の不足を爆風で補い、彼女の身体は落下しながら充分に船体に近づく。船の後部上方から突き出ていたアンテナ状の長い棒にウィップを飛ばし、両手で手元部分を掴んで落下の衝撃を堪えると、空の身体は船のデッキに降りた。風圧で髪ゴムが切れ、長い黒髪が舞った。


 空は船内見取り図を頭に描きながら、操舵室を目指す。しかしそのドアを開けた時、そこには既に拳銃自殺を遂げた船長の死体があるだけだった。

 室内を見回すと、異様にランプが明滅するコントロールパネルがある。空は急いで近づき、幾つかのボタンやスイッチを操作すると、捜査官たちに報告を入れた。

「船長の遺体発見。操舵室のコントロールパネル使用不能。原子炉が暴走。爆発予測時間20分後。原子炉ルームから防護壁を作動させます」

 もうここまでと観念した船長が、どうせなら道連れにと超小型原子炉を操作したのだろう。空は来たルートを戻り、原子炉ルームへと急いだ。


 空からの連絡を受けた捜査官たちは、顔色を変えた。

 シールドがない状態で、超小型とはいえあの原子炉が爆発を起こしたら、被害は少なくとも半径50㎞に及ぶだろう。

 その後の災害を考えると、首都圏は大惨事になる。

「おい!原子炉が爆発するぞ、逃げろ!」

 真は出入口を挟んで銃撃戦を行っていたブルーグレイ達に怒鳴るが、爆発するならどこに居たって同じだと知っているのか、彼らは怯みさえしない。残りは2人の筈だが、出入り口付近の木箱類を盾にして博たちを狙って来る。当然、捜査官たちも船体工事用の道具や木箱を盾にして応戦しているが膠着状態になっていた。


 博は一瞬、空を呼び戻そうかと考えた。どうせ全員が助からないのなら、せめて最後の時は一緒にいたいと思ったのだ。けれど、その考えは直ぐに打ち消される。

 彼女は、戻れと言われても命令を聞かないだろう。けれど、原子炉ルームでシールドを作動させれば、彼女はそこに閉じ込められる。それでもきっと、空はその方法を選ぶのだろう。大惨事を避けるためと言うよりも、船の近くにいる博を守るために。

 もう、どうすることも出来ない。

 彼女を信じるしかない。シールドを作動し、閉じ込められる前に脱出してくれることを。

(空・・・必ず戻ってください)

 博は唇を噛み締めた。


 空が原子炉ルームの前に来た時、どこかで爆発が起こったらしく、振動が伝わり船体が傾いた。船長以外に船内に入った男たちがしたことなのだろう。けれど、そんなことに構っている時間は無い。

 空は傾いた床の上を走り、原子炉内のコントロールパネルに近づく。シールドを下ろす寸前まで操作を進めると、再びドアの近くに戻った。

 船体の傾きは益々酷くなっている。

 空はドアの内側から外に向かってウィップを飛ばし、そこにあった手すりに先端を巻き付けると、ホルダーから銃を取り出した。

(あのレバーを押し下げれば、シールドは作動する・・・)

 船体の振動は激しいが、部屋全体が斜めになっているので、弾を当てる位置さえ正確なら出来るだろう。空は振動のタイミングを計って、銃を撃った。けれど、威力の低い小型拳銃ではレバーが降りるほどの衝撃が与えられない。予備の弾倉はもうない。今残っている弾は、あと3つ。

 時間も限られている。

 空はヒュッと唇をすぼめて息を吐き、集中して狙いを定めると、立て続けに銃を撃った。


 ゴトッと軽い音を立ててレバーが下がると同時に、空は床を蹴ってウィップを思い切り引く。

 鈍い音を立ててシールドが降りるのと同時に、空の身体はギリギリで通路に飛び出した。


 これで原子炉の直接的な爆発被害は外に漏れない。けれどシールド全体が激しく振動すれば、船体に大きなダメージが出る。そうでなくても、先ほど起った爆発で火災が起きている気配もするのだ。

 空は、全力で船外に逃れるべく行動を起こした。

 傾いた狭い階段を何とか駆け上がるが、既に突入開始からずっと激しく行動してきたせいで、体力が限界に近い。激しい呼吸を抑えることができないまま、それでも何とかデッキまで身体を運び、滑り台のように傾く床を滑って移動し手すりに掴まった。

 船体はそこで最後に大きく傾き、ドックの岸壁に寄りかかる形になる。その衝撃で、空の身体がデッキから滑り落ちるが、何とか手すりにウィップを巻き付けぶら下がる形になった。

 その姿を見た博は、安堵に腰が抜けそうになるが、今はそれどころではない。

 まだ緊急事態は継続中なのだ。もう直ぐ、シールド内の原子炉が爆発を起こす。


 ブルーグレイの1人が、宙ぶらりんの空に銃口を向ける。

 咄嗟に飛び出した豪の拳銃が、男の肩を撃ち抜いた。けれど、最後に残った1人が、手榴弾のピンを抜いて振りかぶる。捜査官たちの方に向かって投げようとしたその時、アイカメラで狙いを定めていた博の銃が火を噴いた。

 男は肩を撃ち抜かれ、後ろ様に倒れ込むが、男の手を離れた手榴弾は方向を変えて宙に放り出される。

 次の瞬間、空中で爆発が起こった。

 ぶら下がっていた空の身体が、爆風で船体に音を立てて打ち付けられる。

 それを見た真は、上着と靴を脱いで煙が立ち込める中を走り、満水のドックに飛び込んだ。

 身体を切られるような水温に、けれど真は果敢に彼女の落下地点を目指す。


 全身を船体に叩きつけられた空は、衝撃で外れたウィップグローブを残して船体に添うようにズルズルと水に落ちる。意識を失っているらしいその姿を見て取り、小夜子が近くにあった船体工事用のサーチライトを使って、彼女の落下地点を照らした。水中から上がってきた泡が、その光の中で弾けて消える。

 真は、小夜子の照らす灯りをめがけて水中に潜った。


 ドックの底に向かってゆっくりと沈んでゆく彼女の身体と、水面に向かってゆらゆらと揺れる長い髪が薄明るい光の中にはっきりと見えた。

 真は底につく寸前のその身体を抱え、水面に急ぐ。浮かび上がると、岸壁には豪と博が待っていた。

 救出された空の身体は冷たく、呼吸が止まっていた。けれど微かにだが、心臓は動いている。

 博は鼓動を確認し、横たえられた彼女の首の下に手を入れ気道を確保すると、人工呼吸を行う。

 意識を失って水中に落ちたため水を殆ど飲んでいなかったことと、落下から処置までの時間が短かったことが功を奏したのか、空の呼吸は直ぐに回復した。

「・・・ケホッ・・・ゴホ・・・ッ」

 弱々しく咳き込んで身じろぐが、まだ眼は開かない。

 けれど、そんな彼らの背後では、船体が炎上し始め不気味な音と振動が始まっていた。

「小夜子、真!先に脱出してください。豪、彼女を頼みます」

 小夜子と真は出口を目指して走り出す。豪は空の身体を抱きかかえると、同じように走り出した。博は最後にドックを出た。

 彼女を抱いて逃げたくはあったが、豪に任せた方が速度は速い。自分も、1人だけならそれなりに走ることが出来る。全員生存に向けた最善策を、博は選んだ。


 博が出口から飛び出した直後、背後から轟音と振動が襲って来る。

「伏せてっ!」

 博の声に、全員が飛び込むように地に伏せた。彼らの背中の上を爆風が駆け抜けてゆく。背後の建物は、音を立てて崩れ落ちる。ドッグの辺りから、火柱が上がっていた。

 外はいつの間にか雪が降っていて、地面は薄っすらと白くなっていた。


 背後から響く崩落音を聞きながら、博は素早く起き上がって豪の元へ這うように近づいた。

 豪は腕の中の空を守るために、背中を丸めて彼女に覆いかぶさっている。

「ありがとう、豪」

 博はそう言って、ぐったりした彼女の身体を抱きとる。呼吸は再開していたはずだが、その息は断続的で細い。冷たい身体と青褪めた顔色に、不安が沸き上がる。

 その時、空の喉からくぐもった音が聞こえた。腕の中の細い身体が、微かに痙攣する。

 ゴポ・・・と音を立てて、彼女の口に血液が溢れ出す。

(・・・肺か!)

 折れた肋骨が刺さったのかもしれない。顔を横にして血を吐き出させようとするが、呼吸が再開したばかりで力を失っている身体は咳き込むことさえ出来ずにいる。口の中の血液が、薄く積もった白い雪の上にポタポタと落ちるだけだ。

 博は彼女の顔を戻すと、鼻を塞いで口を合わせた。

 気道を塞いでいる血液を吸い上げ、そのまま飲み込む。吐き出している時間も惜しかった。

 何度か吸い上げて飲み込むと、ふいに抵抗感がなくなる。彼はそのまま、息を吹き込んだ。


「連絡しました。直ぐ警官隊と救急車が来ます!」

 春が車から飛び出して駆け寄ってくる。


 再度呼吸を回復した空が救急車に運び込まれると、びしょ濡れの真が近づいてきて博の背中を押す。

「一緒に乗ってけよ。後は、やっとくからサ」

 その言葉を受けてありがたく救急車に乗った博を見送ると、真は盛大にくしゃみをした。

「ばぇっくしょ~いっ!・・・コンチクショー」

「親父臭いっ!」

 そんな真に、言葉は辛らつだが、優しくバスタオルを掛ける小夜子だった。


 FOI病棟に緊急搬送された空は、手術を受け翌日には意識を取り戻した。

 肺からの出血は折れた肋骨が刺さったせいではなく、クーデター事件の時に腹の中で爆発した小型爆弾の破片のせいだった。レントゲンなどの検査でも見つからない素材と大きさの破片が、肺の下部に食い込んでいた。

 彼女が時折感じていた違和感の正体でもあった。

 そんな破片が、長時間の激しい運動になってしまった任務内容と、最後に船体に身体を強く打ちつけたことで大きく移動し、出血をもたらしたのだ。

 破片は手術で摘出され、その後の治療で出血も止まり、3日後には酸素マスクも外れた空だった。

 酷い風邪をひいて1週間寝込んだ真より、ずっと回復が早かったと言える。


 病院に運び込まれてからずっと付き添っていた博は、何度経験しても慣れることなど出来ない時間を過ごしたが、枕の上から笑顔を見せる空を見れば、そんな辛さは吹き飛んでしまう。


「蘇生してくださって、ありがとうございました。お陰で死なずに済みました」

 話せるようになると、空は律儀にそんなお礼の言葉を述べる。

「それは僕だけじゃなくて、皆のお陰ですよ」

 博は優しく微笑んで、空に言った。


 あの時、チーム全員が見事な連係プレイを行った。超小型原子炉の防護壁を起動させた空。そんな空を銃で狙う男を即座に撃った豪。水に落ちた空を助けに飛び込んだ真。彼女が落ちた場所をサーチライトで照らした小夜子。インカムから入ってくる音を分析して状況を把握し、直ぐに救急車を呼んだ春。そして空の止まっていた呼吸を再開させた自分。

 誰1人欠けても、全員生存で任務を達成することは出来なかったと思う。

 空の命が救えたのも、全員のお陰だ。


「僕たちは、世界最高のチームだと思います。君が傍にいてくれて、そんな仲間に囲まれている僕は、世界で1番幸せな人間です」

 博はそう言い切って、最愛の人の額にキスをする。

 これから、しばしの休息をとるチームメンバーと、そして大切な想い人と一緒に、どんな時間を過ごそうかと考えながら。


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