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7 ある魔女の視点

 終電が終わった日雀駅で携帯電話を操作しながら、彼女を待っていた。とは言え待ち合わせとかもしていない。しかし何となく来ると確信していた。

「来たみたいね。」

 一切隠そうとしない、身の毛がよだつくらいの魔力。もしかしたら自分より強い生き物に会った事がないのかもしれない。それくらい彼女は堂々としていた。

携帯をしまいつつ「こんばんは。」と挨拶して彼女に向き合った。

 彼女と目が合う。はるかに私より大きく、全身の毛が逆立ち、幽かに唸り声を上げる。無数にある目は怒りに満ち溢れ、私を見下ろしている。

「いい夜ね。新参者さん。」

「なぜ、邪魔した?」

「邪魔?」

「私が魔法をかけようとした時だ。」

「ああ、誰だって新参者が縄張りを荒らしたら、古参の者は嫌がるわ。」

「お前は古参の人間か?」

 「そうよ」と答える前に、彼女は疾風のごとく私に襲い掛かった。


 目の前に大口を開け、牙が迫る。

 だが彼女は蹴られた子犬のような悲鳴をあげて地面に叩きつけられた。

「言ったでしょう、私は古参の者だって。この土地を知り尽くしている私に危害を加えようとすればこうなるんだよ。」

 ひれ伏しているおぞましい化け物の撫でてあげた。

「君は好戦的で醜く、そこそこ強い悪魔ね。」

「お前は何者だ?」

「葛野撫子。魔女をしながら、副業でアクセサリーショップをやっているわ。」

 「君の名前は?」と聞こうとしたら、彼女は撫でていた私の手を噛んだ。噛んだ瞬間、勝ち誇った顔になったがすぐに無数にある目が大きく見開いた。

 噛まれてしまった私はすぐに化け物の魔力をつたってこの化け物の記憶を手繰り寄せる。

「君はゼンか。」

「!」

「あらあら地球の裏側から魔法でやってきたの。しかも一年かけてシューニャの魔導書を求めて……。すごいわね。」

 噛んだ私の腕を離し、再び爪で襲い掛かる。ゼンの行動には焦りがあり、幽かに怯えもあった。だがそれをいなし、携帯電話を出す。手元を見ずとも打ち慣れた片手でボタンを押し、魔法を発動する。まるでアニメのような魔法だが、単に録音した呪文を流しただけに過ぎない。だが効果はある。


 だが呪文を終わりに近づくと、化け物は徐々に動きが鈍くなった。やがて呪文がすべて言い終わると、再び地面に突っ伏す形になった。

「君はシューニャの魔導書を得て、失いつつある悪魔の地位を上げようと考えているのか。壮大ね。でもこの魔法にモロで食らって動けなくなるようじゃ、まだまだよ。ゼン。」

 携帯電話をしまって、地面に突っ伏すゼンを見下ろす。ゼンもまた、私を睨み返す。

「私と協力しない?ゼン?」

「……。」

「無謀で壮大な夢を持っているけど、君が憑りついているイツと言う少女も君も強い魔力を持っている。」

「……。」

「痛い思いさせちゃったけど、私と協力すればシューニャの魔導書をすぐに得られるわ。」

「……。」

「情報だってあげるわ。シューニャの魔導書を持つフルール・ド・リスは四十代男性。妻子持ち。息子が一人いる。現在、フルールはこの地を離れているから、その息子が魔導書を守っているの。そして息子はフルールの能力を受け継がなかった。」

「……。」

「どう?今、絶好のチャンスよ。私と協力して……。」

「嫌。」

 すっぱりと言いきり化け物はすっと二本足で立ち上がった。化け物の毛は枯葉のように散っていき、闇夜のような黒髪と瞳を持った少女に変わっていく。

「あなたが何者なのか、私達はよくわからない。それに我々だけでも、シューニャの魔導書は得る事はできる。あなたの協力はいらない。」

「本当に?あなた、悪魔なのにわざわざ契約者に召喚させないで自ら悪魔を呼び寄せて、シューニャの魔導書の在り処を探っていた。それはこの街は普通ではないってわかっているでしょう?イツと一緒にやらないのは、あの子には分が重いと思ったんじゃないの?」

 そう言うとゼンは軽く馬鹿にした笑いを浮かべ、「私はババアと組む気なんてないわ。」と言った。

「……そう。わかったわ。でももし私と協力したくなったら呼んでね。ああ、それから私の畑を壊さないでね。」

 私は手を振り、ゼンから背を向け歩き出した。

 何かするかと思ったが、ゼンの魔力が蝋燭の火を消したようにふっとなくなってしまった。

「若いっていいなあ。」

 振りかえり、消えたゼンがいた場所を見た。

「どうせ、私はおばさんよ。魔女になっても年は魔法で止められないもの。」

 私は大きなため息をつき、軽く笑って携帯を取り出した。

「本当にいいなあ、若いって。」




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