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02-00 録音機

夜羽(ヨハネ)はレコーダーを眺めている。

夜羽は妄想屋。

斜陽街一番街の、バーの片隅のテーブル席で、

このレコーダーで妄想を再生したり録音したりするのが仕事だ。


斜陽街の番外地から、

黒い風が去っていってから、どの位経っただろう。

夜羽は帽子の縁で見えない目で、遠くを見るような仕草をした。

思い出そうとしているのかもしれない。

それでも、思い出せなかったのか、また、レコーダーを眺めた。


夜羽は何か思い付いたらしく、

レコーダーに触れながら話しかける。

録音は入っていない。

「あるいは、僕の方がレコーダーのオプションなのかな?」

夜羽はレコーダーをつつく。

「レコーダーが妄想を呼吸するのを手伝っているだけなのかな?」

夜羽は笑う。

ただし、目は見えない。

頬の筋肉の動きや、唇の動き、

そして、「ふふっ」という、笑い声が頼りだ。


バーのドアに付いたベルが鳴り、

来客を知らせる。


夜羽は、客か…新しい妄想か…と、思ったが、

どうやらバーの客だったらしい。

カクテルを注文している。


(妄想屋も閑古鳥が鳴いてるな…)

そう思った夜羽に、さっきの客が寄ってくる。

「なぁ、あんた妄想屋だろ」

「はい」

「俺の妄想聞いてくれよ…川が流れているんだ。川がいくつもあるんだ…川が、町を出るとたくさん流れているんだ…」

「川、ですか?」

「そう、ひとまたぎできるくらいから、橋を使わないと到底渡りきれないものまで…」

「それがいくつも…町の外に…」

「そうなんだ!そして、川をいくつもいくつも越えていった向こうには、あの時伝え聞いた…伝え聞いた…」


夜羽はレコーダーを回す。

新しい妄想を録音するために。

レコーダーの呼吸を助けるために。


レコーダーのオプション。

それも悪くないと夜羽は思った。


録音機の意志はわからないが、

これも相変わらずの妄想屋の仕事、

そして、バーの風景である。

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