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06-33 一口

斜陽街一番街、バー。

今日は妄想屋の夜羽と、バーのマスターがいる。

バーでたまに水を飲んでいるシキは、

本を持ってどこかに行っている。

有線の流れる、静かな店内だ。


カランカラン。

店の扉のベルがなる。

「おう」

入ってきたのは酒屋の店主だ。

インヤンマークのTシャツにジーンズ、

黒の釣鐘マントを羽織っている。

肩にはいつも大きなディバッグ。

その中に酒が入っているらしい。

「酒、おろしにきたで」

酒屋の店主がマスターに声をかける。

マスターがうなずいて、

カウンターの下からメモを取り出す。

おろしてもらう酒のリストだ。

「ふんふん…」

うなずきながら、酒屋の店主は、

ディバッグからひょいひょいと酒を取り出す。

何本入っているのかは不明だが、

重そうなそぶりはしていなかった。


「…っと、これで全部やな」

カウンター席に酒が並ぶ。

どれも新品のぴかぴかだ。

マスターは礼をすると、一本一本丁寧にしまい始めた。

「酒も本望やな」

酒屋はその様子をうれしそうに眺める。

「酒を愛するところにおろされて、酒も本望や」

酒屋の店主は、うんうんと一人でうなずいた。


「夜羽」

酒屋の店主が、夜羽に目線をうつす。

「何か?」

「少し飲めるか?」

「ええ、構いませんよ」

酒屋の店主は夜羽のボックス席にやってくる。

席に着くとディバッグから酒を取り出す。

「弟子に作ってもらったものや」

「お弟子さんが」

「味見てもらおうと思ってな」

「どれ、いただきます」

夜羽は自分のグラスに酒を注いで一口飲む。

ふわふわ広がる楽しいけれど悲しい感覚。

そして残る寂しさ。

ここの酒屋は建物から酒を作るらしいことを思い出す。

「どこかの廃墟ですね」

夜羽は感じたことを口にする。

「廃墟になってかなり経っている感じですね」

「やっぱりそうなるかぁ」

酒屋の店主も酒を飲む。

「楽しさの影がもう少し濃くなればええかな思うたけど」

「悪くない味ですよ」

「雑味が少しまじっとる。誰かおったな、これは」

「誰でしょうね」

夜羽は楽しそうに、もう一口を飲んだ。

雑味だろうか。

少し鋭い日本酒のような風味がした。


「これはどこのお酒ですか?」

「遊園地や…っていってたけどなぁ」

「遊園地ですか」

遊園地で鋭さを出せるとしたら誰だろう。

夜羽は勝手に考える。

「ま、のめのめ」

酒屋の店主が酒を注ぐ。

夜羽はありがたくいただいた。

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