【初期版短編】修学旅行で学校イチ可愛い子がスカウトされたら、告白されて遠恋が始まり10年経ちました。コロナで2年逢えなかったので久しぶりにのんびりドライブデートします。
いまとまるで違うふたりです。
元日にみた夢を書いただけでした。
ほんとうに初期版で、非公開してました。
雨降りなんで、三連休だけ公開します。
なんもないふたりです。
春馬がふつう。
ある日、東京から飛行機に乗って会いにきた彼女が、空港からそのまま海まで、ドライブしたいと言い出した。
彼女とは中1からの付き合いでもうすぐ10年経つ。
彼女が中2で九州の南の県から北の1番賑わっている県に修学旅行に行ったら繁華街でスカウトされた。
で、スカウトの人に向かって何故か俺を指差して、
「彼氏がいてもいいならいいですよ」
ってその瞬間に公開告白、強制彼氏、んでもって、遠恋決定した俺、村上春馬と神城明日菜。
でもさあ?
確かに明日菜は可愛いけど、いきなり遠恋だし、中2なんて厨二病なんて言われるほど思春期まっさかりで、未来なんてまったくわかってない年齢だぞ?
なんか俺の班と明日菜の班にカップルがいて、強引にふたつの班で同じ計画立てて、修学旅行をまわってただけだし。
その当時から、明日菜は学校イチの美少女って言われてだけど、中2の頃の俺は、初恋さえまだのガキで仲間とそのころはまだあった河川敷に捨てられてた汚ねーエロ本ではしゃぎまくるのが精一杯のガキだった。
リアルの恋愛なんて想像したことさえなかったから、違うクラスの明日菜のことはよくわからなかった。
なんなら女子の外見も性格も異星人みたいだと感じていたし。
ちなみに俺には年子の兄がいる。
地方公務員の父とパートの母と従兄弟たちもみんな男ばかりという男世帯で育った。
年子の兄弟を育てる母が逞しすぎて、女子全員をキラキラの異星人にみせていたのかもしれない。
明日菜に告白されて戸惑ってたら、修学旅行で明日菜と同じ班だった女子たちから、脅されてOKさせられた。
ー女ってこわい。
はじめて母以外の異性に恐怖を覚えたのをいまでもよく覚えている。
そんな様子をみていたスカウトマンだって、すぐ別れるだろうって軽いノリでOKしてたし。
まさか、遠恋のまま、まる10年続くなんてなあ。
まあ、明日菜が東京に行って、地元を離れて寂しくてたまに電話で泣きながら、頑張って仕事してる姿をいろんな媒体でみてたから、
俺なりに、これでも頑張って、一応そこそこの大学卒業して、東京を拠点に全国展開してる、これまた、そこそこの大きさを誇る企業に入社できたんだ。
東京の国立大学は、経済的にも学力的にも諦めたけど、年に数回しか逢えない彼女のためにさあ、俺なりに必死で就活を頑張ったんだよ?
東京に本社ある企業ばっかり、リモートで就活頑張ったんだ。
なのに、いまだ遠恋継続中。
本社勤務じゃなく九州支店に配属されたのは、単に俺の母校の大学が福岡にあったからだと思いたい。
リモート面接で、アイドル女優の神城明日菜が恋人だから、東京本社勤務になりたいんです!って発言が、ただのキモオタだと思われたから、とかないよな?
だって、いまや明日菜は主演映画もやれるくらい大人気女優になってるんだ。
まあ、中学でも演劇部のエースだったしな。
ちなみに俺は野球部の万年補欠で、ほぼマネージャー化してたっけ?
なんで野郎相手に球拾いじゃなく掃除や洗濯してたんだろ?
よく考えたら三年がやる仕事じゃないよな?
あれ?
マネージャー化したのって、明日菜に告白されてすぐだったような?
あれ?
もしかして俺ってイジメられてないか?
そういや、よく上履きや教科書無くなったり破けてたよなあ。
「げっ、マジか?」
いまさら気づいて口に出したら、となりで変装のために伊達メガネと、いまや当たり前になったコロナ対策マスク姿の明日菜が、不思議そうに助手席から、ハンドルを握る俺を見てきた。
ちなみにこの日は、ようやくの緊急事態宣言解除で二年ぶりのデートだった。
言わずとしれたコロナは、遠恋の俺たちを容赦なく切り裂くー、なんてこともなく、
俺たちは特に変わらない遠恋生活を過ごしていた。
明日菜は大学には進学しなかった上に、舞台は中止で、単発のドラマや今年に入って映画一本主演とかで、わりとのんびりした2年だったようだが、
いきなりリモート授業になって就活も何もかもが狂いまくった俺の大学生活。
仕送りもコロナの影響で減らされて、かわりに道路警備員の夜間バイトやトラックの集荷場で力仕事に精を出しまくった。
九州イチの繁華街をもつ福岡とはいえ、同じ市内にある大学のキャンパスは海と山に囲まれた田舎だ。
地方は就活に運転免許は必要不可欠で、俺はトラックの運ちゃんのMTさばきに魅せられたこともあり、普通免許を取得した。
リモートでろくにわかんない授業うけて、調べて、卒論書いてバイトしてたら、あっという間に寝落ちして明日菜のメッセージを既読スルーするのも当たり前で、
ーあれ?けっこうすれ違いだったか?
そういえば、明日菜はあの時の既読スルーをどう思ってるんだろう?
既読スルーどころか、既読すらかなり待たせてたような?
大学のすぐそばにある海を目指して、信号やカーブなんかでクラッチ踏んではガコンと愛車のデミオのギアをあげたり下げたりする。
ちなみに4年落ちで買ったデミオはディーゼルで2、3速時の加速感が半端ない。
たまにアクセルワークを間違えるといきなりぐんっとGを感じるくらい加速する。
なんかエンストしないための補助?っぽいけど、ってかなんでマニュアル車にアイドリングストップ機能ついているんだろ?
信号で止まってさあ行こう!って瞬間にアイドリングストップかかると、最初はエンストかと思って本気でびびったね。
いや、マジ勘弁。
地球には優しくないけど、アイドリング機能はエンジンかける度にOFFにしている。
だって心臓にわるいんだもん。
ガソリンの教習車やオートマの社用車とも違う楽しさがあって俺はすっかりこの車の虜だ。
軽油はお財布にも優しいし。
本当は福岡空港からなら、都市高使った方が早いけれど、明日菜が福岡の町並みをゆっくり楽しみたいと言ったから、のんびりとデミオは渋滞の中をすすんでいた。
福岡の都市高速を西九州道路にむかって行くとけっこうな高さになっていく。
その割にフェンスやガードレールも低い上、合流も車も多いし海の上通るような感覚あるし、右手に見える博多湾ねタンカーとか珍しいけど、スリリングすぎる。
マニュアルの中古って本当に探すのが大変でようやくであえたこの車は、前の持ち主の趣味かボディは白いけどサイドミラーだけ赤くカラーリングされている。
しかもディーゼルで排気音がガソリンに比べると大きく無意識にスタート時にエンジンをふかしてしまうこともある。
マニュアルあるあるなんだけど、それ以外にもなぜかよく絡まれてしまう。
俺は真面目にゴールド免許狙っている安全運転第一主義なのに。
そういう意味でも都市高速は正直言って苦手だから助かったけど。
俺、高所恐怖症だし。
まあ、さっきからギアをガコガコさせてるのは、渋滞はまってたからだけど。
渋滞の時だけはオートマが羨ましいってのは、たまにあるけど、両脚、両手が動くから眠くならないし、運動になる。
そんなふうに視界にはいるいろいろな車をみてたら、やっぱり緊急事態宣言あけたから他県ナンバー一気に増えたような気がする。
「東京からきた私がいうセリフじゃないけどさ、やっぱり他県ナンバー多いね?」
前を走る野田ナンバーをみながら明日菜が言った。
「そうだよなあ。野田ってどこだよ?はじめてみたぞ?」
「千葉県だよ?撮影で一回通ったことがある」
「へー、千葉か〜、って千葉県⁈」
何時間かけて来てんの?すげーな。
「いや、リスペクトだわマジ。あっ、けどバイト先の長距離やチャーターの運ちゃん達は普通に運転してるんだよなあ。しかもたまに下道でさあ」
「下道?」
「一般道だよ。九州なら国道三号線だったり10号線だったり、関門トンネル抜けて山口県入ったら国道2号線」
「へー。時間があったらいつか行ってみたいなあ。のんびりマイカーで旅行とか」
「まあ、コロナ騒ぎが落ち着いたらだよな。俺なんかいまだに帰省させてもらえない」
「私もだよ。特に東京だもん」
「九州での福岡も似たようなあつかいだな」
「春馬くんが福岡でよかった。じゃないともっと逢えなかったかも」
明日菜が嬉しそうに笑ってギアにかかる左手に手を重ねてきたけど、
「明日菜、ごめん。運転の邪魔」
「あっ、ごめんなさい」
「いや、オートマなら大歓迎だったんだけどな」
「でも楽しそうだよ、春馬くん」
「それは明日菜といるから」
「もう!甘えられない時に限って甘いセリフいうの禁止です」
ペシって左手を叩かれた。
まあ、確かに明日菜といるのが1番だけど、渋滞を抜けてストレスなく運転できるから楽しいのも確かだ。
「わあっ!きれいな海!」
最近では全国的にもぼちぼち有名になってきた糸島半島。
緊急事態宣言あけの週末ということもあって、海側にある魚料理が中心の店は軒並み行列ができていた。
けどそれ以上に道沿いに広がる青い海が俺たちの心をうきたたせる。
本当にきれいな海だ。
「あれは?」
道路から海の上を桟橋がとおりTの字になった中央の部分に塔がある場所を明日菜が指差す。
「海釣り公園だよ。毎日スタッフが餌付けしてるから春先から結構豆アジが初心者でも釣れる。俺もよく大学の友達とよく行ったよ。豆アジなんかサビキ釣りで入れ食いだったからたまに最悪」
「最悪?」
「だって料理が大変だろ?うまいけど内臓やらなんやら処理しないとだし。おかげでひと通り魚さばけるようになったけどさ。機会があったら今度いこうな?」
「魚は春馬くんにまかせるね!」
「なんでだよ?朝ドラで漁師の娘役やってたじゃん。ちょい役だけど」
「ひどーい!私のデビュー役なのに,ヒロインの若い頃の役だよ?」
「デビューが大役とかふつうにひいたわ。で、料理はできるようになったのか?」
スカウトされて中2で上京した明日菜は、最近まで事務所の寮でくらしていた。
そろそろ寮をでようとしたタイミングでコロナ騒ぎがあり、事務所がタレントを管理する上でも楽なので寮生活が長くなったらしい。
「料理が得意な後輩が何人かいてね、他の子達とよく教えてもらってたよ。みんな仕事が少なくてヒマだったら」
「さみしいな、おい。で、その手料理を食べたのは女子寮の連中か?」
「あとはマネージャーさんとかかなあ。あっ、大丈夫だよ。マネージャーさんたちも女の人だから」
「そんなことー」
「気にしてない?」
「すっごく、気になります」
「だから甘いセリフはダメだってば!」
「痛っ!危ないから手をたたくな!ーっと、ついたぞ。俺の釣り場」
とある漁港の駐車場の入り口でいったん車を停止する。
するとどこからともなく漁協のお婆さんが現れて俺に釣りかきいてきた。
今日はただの散歩だと言うと良心的なこの場所は無料で利用できる。
ただ、釣りだと5分でも500円支払いになるけど、釣りで五分って仕掛けだけでおわりそうだな。
細い防波堤の上を走って漁船がある場所に車を置く場合が多いが、明日菜は芸能人だ。
人気のない砂利の駐車場に車を停める。
マスクとメガネ、それに釣りようにいつも車につんでるキャップを明日菜に被らせた。
「春馬くんって魚くさい?」
「失礼だな。そのキャップが魚くさいんだよ」
車の鍵をして、俺は真っ先にたて1メートル横幅50センチくらいの堤防に飛び乗ると真下をみた。
堤防の下は岩礁で、海藻も多い。
なにより堤防の幅が狭いから、こっちの駐車場に人がいない。
ただ、俺がよくやる釣りには適していた。
「うわっ、大丈夫、春馬くん。落ちないでね?」
「まあ、慣れてるけど今日は風もあるしな」
ライフジャケットをつけていても下が岩場なら大怪我をしかねない。
素直に堤防から降りると明日菜は嬉しそうに右手を俺の左手に絡めてきた。
「やっと、手を繋げたね」
「ごめん」
「いいよ。春馬くんのそういうところが好きなんだもん」
伊達メガネごしにきれいな瞳が笑う。
「ここでどんな魚を釣るの?」
「浮き釣りでいろいろ狙えるけど、ほらその辺に黒い染みあるだろ?あれはアオリイカの墨でさあ。ルアーじゃなくてエギを投げてつるエギングってやつとか、あとは最近は穴釣りかなあ」
「穴釣り?」
「餌を岩の隙間とかに落として根魚をつるんだよ。カサゴとか、運がいいとアコウとか、高級魚の25センチオーバーが釣れる」
「本当に福岡で釣りにハマってたんだね。既読つかないで待ってたらよく魚の写真送ってきたもんね。春馬くんじゃなく」
「えっ?俺いる?」
「私は魚より春馬くんの写真のほうが嬉しいけど。って言うかふつうそうじゃない?」
「なんで?魚釣りなら魚が主役だろ?」
「ならせめて魚を釣った春馬くんを送ってよ」
「えー、俺、自撮りするの苦手なんだよ」
もともとなんでわざわざ自撮りするのか理解できない俺だ。
明日菜の単独の写メはあるけど、ふたりで撮ることもない。
俺にその気が無くてもロックかけていても、個人情報なんか簡単に光の速さでネット流出する時代だ。
そもそも眼鏡やマスクをしていてもスタイルや存在感は消せない。
人気はあまりないけれど、やっぱり意識してしまう。
「俺、そろそろマスクなしの明日菜が見たいんだけど?」
一人暮らしのマンションまで車であと15分。
明日菜がつないだ手をぎゅっと握り返した。
連載版とは、違う春馬くん。
なにより、このふたりならではの、言葉遊び会話がないです。
春馬くん普通にただのサラリーマン。けど、この春馬なら、事務所の先輩に負けたかな?
です。