修正 ミゲル夢 探偵 編集中
・プロローグ。
……初めはドーム状の限られた生活区域の確保、資源の搬入、現地資源の活用。徐々にコロニーの機能を保ち、そのコロニーはドーム状の壁を再現なく広げていくのだった。そのさなか火星開拓の先人、先駆者たちは、我々の先輩はその原書のくらがり、開発途上の惑星に原初の幻想を見出したという。あまたもの不思議な異形の生命が芽吹く幻覚。神や怪物、化け物。
―火星には、幻覚や幻聴はつきものだ。
それはとある未来の、舞台は第二の人類の故郷。火星で繰り広げられる物語。
『母なる地球を離れ、第二の母星をつくる宇宙の航路へ。訓練された科学者や宇宙飛行士の先遣隊と入植者に頼るべきものはない。変わりに我々には理念がある。火星人市民は互いに疑いと恐怖を隠し、そして克服するべく暗がりに手を伸ばす。暗がりから希望の手が差しのべられたとして、手を差し伸べるものが友好の意思を示すのであれば、それが何者であっても、同じ星の仲間として信頼すべきなのだろう』
火星入植者、開拓期における祖先の標語のひとつ。
静寂と暗闇の間にまばゆい星の光の漂う銀河の太陽系。音のない深い闇の向こうに人類の第二の故郷がある。火星の大地、地球人類は新しくそこに住み着き第二の故郷とした。人々は“文明が始まったすぐあとの、黎明の闇を見る”目を閉じると暗闇に、見てはいけないものを見る、この世に光と生をうけた純粋な生物にあらざる者の姿を見る。影より生まれいでしもの。けれどそれは一定の形を持たず、人によって姿を変える。星にはある超能力者集団。その名もエルゲ。伝承によると、そのエルゲとの接触において、『マガ人』は生まれる。マガ人は、幻覚を霧の中に生じさせ、人々に夢をみせ、人々の日常を惑わせる。
月闇祭、月影祭。光と影の均衡を保つもの、イヨカイ、その元となる星の魂の殻『マガモノ』
エルゲはそれでも、デウスと我々火星人にとって有用であり、重要な存在だろう。
彼らがいなければ、地球人は火星人を恐れることはなかった。……彼らと接触するもの以外は、その正体をしらない。ただしそれらのことはしっている。コンピューターウイルスとも噂される“デウスの手足(妖精)たちの異常と隠される事件”イヨカイ事件と、マガモノといわれる不気味なしゃべる植物のこと。
そして昨今はびこるある噂、伝説がさらにそれらの奇妙さを物語る。
『火星には、死神がいる』
未来には、科学技術が発展し、人類は火星に“技術的特異点”に制約を受け、独自の発達した文明をっていた。シンギュラリティは、人類の英知を超えて人類の能力を超え、機械が人間を支配する可能性さえ噂される。そのため火星の技術的特異点は“賢人とデウスの合意”によって常に拘束をうけて、人工知能の能力は制限がかかっている。
さらにその火星には、二つの種族が人類と共存していた。謎多き超能力の技術を持つ人々“エルゲ”そして火星と地球の間でおきた異変に起因して誕生した“亜人”。亜人は、人々のある特徴を極端に増幅させたような個性的な外形的特徴と能力をもち、エルゲは人々の思念を悟る能力と、テレパシー能力。ものを触れずに動かすことのできるテレキネシスの双方を持ち合わせた能力“サイコカルチャー”を持っていた。彼らは各々の特徴と異質さに関して古来から種々の共生と不可侵の協定関係を結んでいた。
火星の人々はうわさする『きっと彼らは銀河の人ならざるものたちの意思を聞くもの』
そんなエルゲと亜人といった人々と、火星の住民が接触をすることは、日常的ではあるものの彼らの特殊性は彼ら自身の規範と規律、火星における種々の法律によって管理されていた。そんな彼らには、いついかなるときも暗闇から種々のて手が伸びるのだが、それを判別する手段は、その他の火星人類にはない。これはそんな彼らと、火星人との接触の一部をたどる記録である。
“以下、若手新米探偵、緑スカーフがトレードマーク、女探偵ピリィ―の日記より抜粋”
例の事件は、私をどうかえたのだろう?私はなぜ、あんなにも不必要な気配りをしていたのだろう。それに……彼女は私にとってはとてもつっけんどんで、なんというか、初めからその……彼女は不愛想だった。私は初めから彼らに、彼女らに興味があったのに。
でも今になってわかる。それはきっと、理解が得られなくても、自分たちの美学を貫き通すしかないからだ。きっと彼女の能力は、人に理解されることはないとわかっていたから。だから私を探偵としての真実を見抜く力があるのか、テストしたのだろう。
彼女は何といっただろう?あの奇妙なアイテムを取り出し
『責任のない干渉は、時に人を苦しめるだけ』
依頼と捜査の対象の少女がもった“鋭利な記憶”
なぜ、彼女は依頼について見抜いていたのだろう、それが彼女たちの『サトリ』の能力だろうか。
触手をみた。恐ろしいもの。おどろおどろしいもの。それが暗闇にお互いの手を絡めあい、情報を交換する。複雑で奇妙で衝撃的な光景だった。まるで子供のころ、同世代のまだみぬ友達に初めて話しかけるときのように、妙な緊張と沈黙がながれた。
『何を、しているの?』
『通過儀礼』
気持ちをしるには、わからないことをわかったふりをして、わかったことをわからないふりをする必要もある。
でもそうすると完全に人になりきるのだから、
『自分』
を忘れる。
必ず誰かが自分を覚えていて呼び覚ましてくれるだろうか?
そんな不安から、エルゲはいつも、どこかでは孤独だ。
彼らが殻を破るとき、誰かが必ずそれ以前の彼らを覚えておかないといけない。言葉にせず、記憶にとどめる。人の内心は、軽々しく口にするものではない。たとえそれが予測可能なものであれ。
近郊の上にたつ自分を想像できるかどうか。
光か闇か、ただ極端ではない違い。
『保留』
@少女は誕生のとき母親を危険にさらした。
父は不愛想で嫌われているとおもっていたので、
そのことを喧嘩のさいにいったときにいかりをかた。
私は、もの後心ついたときからこの職業に憧れがあった。探偵好きの祖父から彼の知見(多くは現実ばなれしたもの)で多くの理想、探偵とはこういうものだと聞かされていたが、それらのとんどは間違っていた。正しかったのは、捜査対象に対する真摯さと公平さを失ってはいけないということ。それこそが“探偵が火星の人々に差し伸べるべき手”だということだと私は独自の解釈を加えたのだった。しかし、私はコロニーの外、真空の音さえ響かない何もない暗闇にふと思うことある。真正面から向き合うことだけが正しさだろうか?。
彼女は誘拐犯だろうか?それとも……。
私は私の職業に関して才能など一つもなかった。だからその事件の前、とある少しの時期悩みを抱えていた。それはしかし、私にとって常日頃からある悩みだった。“私はだれかと誰かの橋渡しをすることしかできないのかもしれない”私の特技は、せいぜいその天然なドジさでその場をなごませることくらいだろうか。だからこそ、彼らに畏敬の念を抱くのかも。
つまり、彼らのようにたとえつっけんどんであろうとも、自己主張をうまくすることができないのである。その弱さの表れらがそれらの私の態度だとさえ思うのだ。
前置きが長くなったのでここまでにして、件の事件の冒頭に入る。
その日、私はいつもと同じ探偵の業務をおえた。今日はいつもと同じ、私の生活する小さな町のトラブルやその事前調査に終始した。現実は小説より奇なりというが、ドラマやフィクションのような一大事に勝ることは、この職業にはそうそうにはおこらない。小さな事件ばかり。ありきたりな一日が、平然と過ぎていくだけだ。一室の隅から隅を見渡す。駆け出しも駆け出しだった当時は段ボールがしきつめられ、整理整頓もできておらず物が散らばり、テーブルや設備は簡素なものだったが、一年半もたち、今は少しばかり部屋が広くなり、家具や常識的に必要な生活必需品がきちんと(人一人がやっと活動できる程には)配備されていた。
変わらない風景もある。窓は鉄格子がつき、カーテンは花柄模様の緑、小さ目の先輩探偵おさがりの東コロニー風の東洋チックなきらびやかな絨毯。今は先輩の腕と背中を見て、職業の腕も半人前ほどには成長し、自分の仕事用に割り当てられたこの部屋もそれ相応に飾られている。その後、部屋を一巡してあるノート類をいくつか鞄にまとめると、帰宅の途へとつく準備を始める。
【お先に】
【はい、お疲れ様】
先輩探偵は、60代老齢のダイルさん。片方の足を交通事故にあい、片足麻痺。先輩探偵はほとんど、私より3倍ほどは年上で、薄い紺色のシャツと、バリエーション豊かななハンカチがトレードマーク。くしゃりとへの字に曲がった顔のパーツと、おっとりしているので変わりものだらけのこの探偵事務所の静かなムードメーカーだ。
電車とバスに乗り、自宅の門をくぐる前ため息を一つ。やがてただいまと声をかけるやいなや、左奥の一室シャワールームへ直行。シャワーをあびたあと、髪の毛をドライヤーでかわしつつ、玄関からみて突き当りのリビングの椅子に腰かけた。探偵だった祖父は3年前に亡くなり、この広い一軒家には、私一人が火星の暗い人口衛星、そして人口太陽でもあるデウスエクスマキナの月明りと、静寂とともに取り残されていた。
祖父は常に私にやさしく接してくれ、何事にも寛容深く接することの意味と利点を本や話から私に話してくれた。それは小さなころからのことだった。教育熱心なママとの対比で、バランスがよくそれなりに過ごしやすい家だった。
『お互いの寛容さがなければ、エウゲと火星人は、お互いを生かすことができなかった
寛容さが機械的なものであれ、人間の間のものであれ、宇宙の闇の空虚な虚構を照らすのは、
常に光だ、どんな薄闇にも手を差し伸べる寛容さという光だ』
それは、火星の英雄たちの言葉でもあった。彼らは光になりたがった。火星の文明が発展する以前、無理やりにがむしゃらに、人々が自らのよりしろとふるさとをつくらなければならないともがいていたころ、同じようにもがき、苦しむ姿を見せた英雄たちがいた。
直接聞いたことはないが、祖父もきっと彼らにあこがれを抱いていた。いまでも耳に残る。彼の口癖と、指のリズムが。
彼の残したのは、彼のあこがれだった探偵もの小説と、彼の趣味で執筆された自作の探偵小説の原稿。そして彼の願いをなぞるように、本物の探偵になってしまった、私。むしろ彼の想像が、私にとって現実の体験として感じられ、運よく出来事がかみ合い合致し、私の中ではフィクションや実体験に基づき、それを整理するためだったものが私にとっては、現実に起こりえる体験のようにとらえられ、その内奥の文脈を熟読させ彼の秀でた能力とは別の、その能力を、偶然目覚めさせた。といってもいいかもしれない。
私は彼の望みとは程遠い、けれどだからこそ、私なのだ。実際探偵になるつもりなどなかった。
テレビのワイドショーであるような激しい調査はほとんどなく、もの探しや、よくある住民同士のもめごとの解決、もしくはそのフリ。恋人が互いに依頼する、事細かな生活の調査と尾行。
私は一通りのネットサーフをおえ、部屋の中央の小さな透明テーブルに腰かけたPFに、(PFは火星の人工知能搭載の携帯端末、いわば地球の旧時代における、スマートフォンだ)間接照明の指示をだす。そしてふと一息をついて背筋をのばしリラックスをすると、終えた仕事を頭の中で整理し、いい部分だけを無意識にきりとって記憶の中で繰り返した。その後、座高の高い椅子にコートをかけ、背の低いテーブルから、あるノートをひろいあげた。そして一枚のページに手を伸ばす。あれから自分の根城のコロニーでも、あれと似たような偶然の導きによって、思いがけずもエウゲと遭遇する事になった。そこまで直接、特殊な火星の暮らしや生活の糧となっている重要な人々について、知識はあっても、直接触れ合う機会はなかった。機会や縁を得るそのたびに誤解や偏見は溶けて行くが、あれは、私の過去にも遠巻きには関係する出来事で、何より私の探偵生活に鮮烈に記憶に刻まれた記憶である。
「安息はいさかいの中になく、母性はただ記憶だけ、人工の衛星に引き継がれた、共に生きよ、共に自然な太陽が照らす世界と輝きを見よ」
かの戦争の終期、エウゲと火星人類に、デウスエクスマキナ=火星の機械統治者が投げかけた言葉である。思えば、戦争の終わりから、火星人とエウゲは歩みを共にし、歩み寄りの過程を徐々に、ごく自然に進めて来たのかもしれない。
だが、人々は好んでエウゲとかかわろうとしただろうか、彼に日の目を当てただろうか。探偵という一風変わった、あるいは人々より人々の日常に目を凝らす仕事をする私にとって、彼らとの接触は、思いがけず、我々の我々の生活への無自覚さと、無関心さを語るにふさわしい衝撃を残した。
火星の風習や習慣と暮らしに密接していない人々はこの書留を不自然に感じるかもしれない。(例えば移民地球人とか)超能力的な能力者を持つものたちと隣接して生活し、共にこの火星を生きる見ながら、常人たる人々にとってその非日常は現実と呼べるものとは言い難く、彼等とともに火星の発展を願う我々火星人とエウゲの間には、いまだに言葉にしがたいへだたりが存在することも既知の事実である。
これは、探偵のまだ、駆け出しであり、まだ人として火星の一市民として、また探偵という職業人としても未熟者と感じる事の多い駆け出し探偵の私が、少しのきっかけから火星の友である彼等の存在にかかわり、彼らの人間味にふれ、少しだけ理解することができたかもしれないと、そう私自身が感じた出来事の記録である。
私がエウゲという存在とサイコカルチャーと呼ばれるいわゆる≪超能力≫のようなものと遭遇した初めての事件についての記憶と記録。
火星歴912年12月2日記録。
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悪夢1.ツカミ
【私は夢によってうなされて目を覚ました。私はその時、何者かにすでに導かれ運命の触手にそのてを伸ばされていたのかもしれなかったが、私はそのことを半分拒絶していた。
大きな力は欲するときには憧れ、手にするときにはその強大さに恐れおののくほかはない。
『ぐしゃぐしゃ』
気味の悪い音がする、内臓をえぐるようなぬれた触感をかんじさせる何かがうごめいている。人の姿形が影から現れる。
『口、くち、口』
事実それは、『臓器のようなものだった』しかしそれは、どの臓器とも似ても似つかぬ触手のようなものだった。それらが天井につるされた地下で、エルゲの装束『オーグ』を着ている。
4,5人の人、人。それらは各々に触手をつかみ、それぞれに体と奇妙にそれらを接触させていた。私はそのとき恐れるべき錯覚を感じた。
『サイコカルチャー!?』
彼らはもっとも原始的で、アナログな方法で、身に危険が及ぶような状況をつくり、彼ら同士の機関をひとつのつるされた触手と、自らの開放した“機械的な器官を接続していた”
私はその触手に危険物を知らせる横たわる黄色い砂時計のマークをみたのだった。
それはまさに悪夢。悪夢だった。】
カタハネ。
巷では芸術と文化による抗争がおきていて、
それはときにおぞましい。
なんの見返りもなく、友好の証をみせたとき、
人はやっときづくでしょう。
根源たる信頼こそ、唯一【人類が最初に生み出したもの】だと。
(過去からの開放)
(過去からの開放)
ー金の卵ー
芸術と、ボランティア
(実験体としての私)
(私としての病)
過去からの開放。
箇条書きのような思念。
@ー夢、第二幕連結。疑い、モグラーカタハネエルゲ
エルゲの夢をベースに、その誕生とともに『悪夢』が生まれる。
機械の神によってひらかれる。
機械が意思をもち、災いを開く。
その目的は、人々がひとつの目的を導き出し、気づきをえるのを助ける人の、意思をつぐため。
あのおとこは、 人の天性の能力、
人の優れたものを発見する天才。
彼が未来に関して指揮をするのだ。
魂への烙印、コンピューターネットワークが人間の五感へアクセスするようになって、すべては変わった。感覚のやりとりが、場所を超えるようになったのだ。・
ビックデータからある程度の可能性を見ている
【一日】という単位が、デウスの権限の上限だ。
『幸福が約束されている』世界で、
『不運を押し付ける』ことができるのは
同じように、未来を見る力のあるエルゲ
エルゲの中に、エルゲとデウスを裏切るものがいる。
【死神】自らの目的や欲望のために、未来を捻じ曲げるもの。
心配はいらない。
【泥の怪物は泥をくう、自らのものではない苦しみは、何者かが手助けの手をのばすこともある、そのとき、その手を拒まないだけで、きっと道はあるはずだ】
【魂の泥だ、『ツツキモノ』、時空のひずみが、あそこからあらわれる、
ふたつの巨神の間から】
『死神の狩人』
自律したカゲビトに注意しろ。やつらは別の存在。魂の泥ではなく、別の意思をもつ【生命】だ。
君たちの文明の定義とは少しずれるかもしれないが。
生きることとにせかされている。そして責められているのだ。人間は必ず失敗をするというのに
その失敗を量産することを強いられている。
私たちはこの世界の影、死にながら生きているもの。存在しながら、存在していないもの。
【望まれずこの世に存在するものは、同様に生あるものを死に近き境遇に巻き込むか、あるいは生あるものを助けるほかない】
【影のものは人を呪う、我々継ぎはぎの協会は、生あるものを助ける】
楽しさと真実がかみ合う、封印6つの石板。
地球とのリモート、同時封印。
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このノートは、いつかの私に、そして私にとって信頼できる人が現れたときに、ともに何かのきっかけで、記憶を共有する機会があればと見返すことの出来るようにある出来事の振り返りの走り書きの記録である。※もし書き直す機会があれば、何度か文章に目を直し、添削するように、お願い将来の私!!。(笑顔の顔文字つき)
今はともかく、学校や、社会でももしくは社会における事実として存在する超能力者エウゲと、エウゲに関する誤解、私の今後の人生を左右するような出来事や予感を、その事を、いまこのノートに一刻も早く、この思いを記さなければいけないと思うのです。だからま、つたなく稚拙なものごとのまとめの記述であることを、私の信頼できる人とえっと、私自身に先に謝っておくね!
私がこのような記述をする事はまれで、メモ魔でもある私が、こうしてそれと別のノートを取り、そしてこのような前書きを記す事自体、いつか誰かに見せる時がきたら、“信頼できる方”においても、それがその人と私にとって特別な意味のある事がおきたか、それによって助けを求める場合だけかもしれない。この話含めてそういう出来事だと信じてほしい。
“ピリィのノートより”
私にとって特別で、火星の常識を覆すであろう重要な依頼と事件に立ち会ったのは、探偵業を始めてからあまり日がたたないうちの事でした。私は、例のごとくいつものように仕事をしようとし、私生活面では変わらない日々を送りましたが、社会にりっぱに大人として出て、人とかかわり、探偵という職業について業界に慣れてから、ずっと私はどこかでモヤモヤを抱えていて、そのモヤモヤがいい意味でも悪い意味でも働いてしまい、あの時の私はまるで子供じみた、いつもと違う私らしくないふるまいをしたし、そして私の仕事や日常や、私の大事なもの、メモをとる事とは別に関する矜持をもう一度思い出そうとしました。そう、それは先輩たちのいう“探偵の心得”とある意味では一致し、ある意味では、違う思いでした。それがなければ、私は事件にかかわることはしません。私はどこか、探偵の心得、探偵道のような精神を勝手にもっていて、日頃大事にしています。
それは依頼が、その依頼の条件を満たす事によっても、“依頼者を守り、同時に自分の目的を達成できるか”私の守るべきものを守りそれにかかわるもの事への疑いや疑問に対する美学を守り、同時に依頼者を守る事ができる程のもの“自分の力量が及ぶ範囲の依頼か”という日頃からの問い。それが達成できるのであれば、出来得る範囲の依頼は受ける。そうして依頼を見る事が、自分自身への問のような、ポリシーであり、矜持でした。
ともかくそれは、その依頼は私に私自身の、探偵としての可能性と、情緒的な部分とを偶然にも一致させられる瞬間に出会う感動、感動のような体験をした依頼は、初めてです。そのときは、それまでの人生ではそれまで、わずかにしか感じた事のない新しい達成感を得る経験をしたのでした。
これまで、エウゲに関する事件や依頼は、主とする所属する中央コロニーのポロロ探偵事務所でも受け付けてきましたし、細かなルールやエウゲに対する偏見のようなものも比較的同業者より健全であると思いますが、彼等が、自信の存在を証明する手帳を見せるときにも、やはり今でもその存在が確かであるかどうかを、エウゲでない我々に確かめる方法はありません。ですが、あそこであの時行われたことは、ある事情によって、あの超能力は、客観的な事実となったのです。
件の事件はこのノートの書き手である私、地味で些細な調査はお手の物、浮気調査、害獣駆除、なんでもござれの“ポロロ探偵事務所”の次期エースであり名探偵、どじとお掃除好きで有名、本気になると朱色のスカーフを頭にまく、トラブルメーカー、わが探偵事務所お騒がせ役の探偵として知られているピリィーが、あの火星西部コロニーの郊外で思いがけずに遭遇した、私とエウゲとの思わぬ接点を開くきっかけとなった一連の日々の出来事です。
私は今でもその特殊な性質を持つ人々の特殊な能力、火星に住まう特殊な技能と能力を持つ人々、世にいう“エウゲ”とその能力(テレパシーとテレキネシスの混合)サイコカルチャーが火星の世界にとってどんな役にたち、効果を発揮し、意味を持つものだったのかわからずにいるのです。それでも私はあの時の奇妙な出来ごとを“確かに起きた事”として記述せずにはいられません!。あれは奇跡か、魔術か、心理学的な知識になせる技なのか?ともかく私の目の前で奇跡はおきたのでした。振り返れば、あの時、私が出会ったものは特殊な能力と才能を持つといわれるあの火星の特殊な種族、詐欺などではなく、まぎれもない、本物のエウゲだったのでした。西コロニーでのあの少女との小さな冒険。それはかつて私が忘れておいたはずの出来事を想いださせました。それは私たちとエウゲ、さらにいえば私たちと私たちそれぞれの能力の能力や文化の隔たりをつくり、それを幾度となくお互いの差を区別し、弊害をつくり、我々火星人とエウゲの両者の生活の違いを知らしめるものだと教えてくれました。あれは人ならざるものから与えられたような才能、能力、それも超現実的能力でした。
その前に、数カ月前の私の、生い立ちや探偵業の事を軽く話しましょう。
私は、火星の中央コロニーのとある土地で、ある小さな事業、貧乏な俗にいう探偵業を営んでいる、新人も新人、先輩方にくらべれば、火星や中央の風土やならわしに疎い、若輩者のひよっこ少女です。探偵を始めたのは約3年前、まだ10代の頃、あの頃も今も変らず、私は私が思う探偵の装束を、あえてこのようにコーディネートしたのです。つまり、“風変りで、探偵帽にグレーのグラサンと身長低く、オシャレに疎い天然パーマでよくどこにでもいるような初心な表情と顔立ちを隠すような長い前髪”。最近は紫の口紅が好みです。毎日小さな探し物や、探し人、人の監視の依頼など、日々住人の人々と些細な事件や謎を解決する日々。それが毎日続くという幸福をかみしめ、時折飛び込む難事件や困難な壁にぶつかるときにはこうして一人一冊の重大な“イベント・ノート”に書き記す事に決めているのです。
そんな中で起きた事件と触れ合った人々。火星歴2020年、それは今からちょうど1年前の事です。私はそのとき、西コロニーに人探しに出かけていたのです。
始まりはこうです。いつものように小さな依頼をこなしていたのですが、私は、先輩と事務所の方々、果ては同僚までがいつも、まるで甘ったるいほどに自分の事を気にかけてくれ、地域でさえ、私の時に“何の役に立てるのだろうか?”と疑問を抱くような、“何でも屋体質”“請け負えば断れない姿勢”を優しく温かく見守ってくれていました。そんな中の、成れと慢心が、自分をまずい形で、まずい方向に向かわせていくのではないかという、着々と迫る時計の針に追われるようなプレッシャーを日々いだいていたのです。
そんな中、探偵事務所の事務が、中央コロニーに拠点を構え依頼をうけとったでのした。
『すみません!すみません!!ここ、探偵事務所ですよね!!町で評判の、なんでも探してくれる、何でも屋のようなことさえもしてくれると!!聞いて……来たんですが』
汗を流した男性が事務所の扉をあけ、受付にかけこんできて、いつもは自慢の三日月形の髭をなでて書類をながめて暇を持て余している社長でさえ、その様子にいささか驚嘆したような様子でした。
『お急ぎですか?』
『見てわかるでしょう!警察だけじゃ、どうにもならないんです!これは』
依頼は、16歳の少女の家出。警察は大したことではないと、よくあることだと大がかりな捜査をする人手もなく人員をさけないと捜査をことわり。半ばご家族たちもやけぱちになり、その果てに変わりに私たちの探偵事務所に勢いよく飛び込んだのだそうです。私たちの小さな職場には、探偵としての従業員が3人事務作業員が4人います。他2人の探偵は、その時で書けていて、私がちょうど手が空いたので、そのお二方の話しをききました。親族の心情は、張り詰めた様子でした。
私はいつも、情に動かされるなと先輩であるレイに叱られていました。だから抑えよう、抑えようとしたのですが、ですが私はそのとき、内から湧き上がる情熱に気付いていました。それはもしくは平穏な日常を何かかえるような大きな変化を期待したのかもしれません。それを探偵業の人によっては、(魔が差した)というように表現する人もあるいはいるかもしれません。けれど私は、その時、日毎の依頼をこなすようなルーティンのことではなく、何か突き動かされる理由によって、私の探偵人生を今一度考え直す、リセットする機会なのかもしれないと、その依頼と家族のはりつめた、それだけで何かを訴えてくるような目線から何かをかんじとったのです。
私は、それまで、人と変った性質や趣味や、人と変ったものを暗記する事に人一倍のこだわりもありましたが、この反面、だからこそ、正常な生活への人一倍のあこがれもありました。このような変わった能力や、変わった趣味を必要とするような、ある意味自由で不自由な職業や職種、人生とは違った経験が、あるいは、そう思ったのです。
なにより、曲りなりにも情があったのです。探偵事務所では3人の中で一番器量がわるく、おてんばで人の言葉にながされやすく、人の言葉を余計に真に受けすぎる。情に流されやすい。この傾向ははじめからあり、怪しい人や悪い人に騙されないようにといつも社長からも同僚からも先輩からもいわれてましたが、私にはこうした家族と家族の複雑な事情が絡む事案は、お手の物でした。
……とまあそれはともかく、ここいらで私自身の些細な事情の話はわきにおき、件の(依頼の詳細の)話に戻ります。
その少女の家族、相談者は見るからに身なりも、育ちもよい小ぎれいな夫婦。眼鏡の高身長の夫とかわいらしくかよわく、旦那に支えてもらわなければ、歩く事もままならないのではなと思うほどか細く、繊細そうな、垂れて切れ長の瞳と、髪の白い丸顔の奥様でした。依頼者ご夫婦は、私がなだめつつ、お茶菓子をすすめたり、無関係な話を挟み閑話休題とその都度都度に依頼の外堀の情報を詮索するうちにも、とも慌てた様子でけれど要点をまず、お二人の間でアイコンタクトをとりつつ、ひとつづづ確認しながら説明してくれました。どうやら家族の内で彼女は評判がよく好かれ家族の雰囲気もよく、些細なことでも何でも子供と親の間で家族で話、相談する信頼関係があるそうでした。その中で末の少女が彼女、行方不明者サニィ(仮名)(16)だったそうです。
夫「彼女サニィは家族に嫌気がさし、家出をしたのです、家族の中で一番器量がよく、美しく、できた子でした、私たちにはもったいないくらい、どの子もすばらしいですが、満足いくくらしや休息を与えられていたか、不安です、私たち家族は毎度の休みにはきちっとピクニックにでかけたり、公園におでかけをしたり、それでも彼女くらいの年のころには将来への不安や、希望もあるでしょう、家族の中はきっとその中でもきっと退屈で、鬱屈とした日常に嫌気がさしたのでしょう、私たちはあの子にあまりに期待をかけすぎた」
妻「あの子は家では、静かでいうことをきき、常にいいこで、わたしたちもまた、表面上はそれを強要するそぶりもみせず、上の2人があまりにもずぼらなもので、様々な彼女の将来について、余計な信頼と期待を抱えさせていたのかもしれません」
夫「彼女サニィはそこから逃げ出すために、今までにない冒険をし、私たちの目を離れ、きっと経験したことのないことを経験し、しかしそれに裏切られたのです」
今ここでは、小さな事情は省きます。ともかく彼女は中央コロニーの、有数の優秀な高校で優秀な生徒として生活をおくっていました。小さな事情を省くのは、個人の情報を守るためでもありますが、それと反対にこのことがらは少し違います。探偵という職業柄、些細な事情をはぶき物語として構成し、いずれ人に伝える必要があることもあります。そのいつかのために、私はひそかに、誰にも見せる事のないこのノートを記しているのです。物語は、彼女サニィが高校生の初めての冒険をした後から、彼女がは少し遅い純情な初恋をしたことから始まります。その相手が、とある中央コロニーの小劇団の(多少、名の知れた)役者に恋をして、その恋が実り、裏切られたことからはじまったのです。
家族はかわるがわるにお互いの言葉を遮り、ときに助けあいながら私にその仔細を教えてくれました。私はつぶさにその表情をよみとり、言葉を聞き取り、探偵手帳にメモを取りました。そして依頼の聞き取りがおわり、最後に両親はこういいました。
「彼女につてはなく、あるとすれば、西コロニーに彼女のかつての大親友がいる」
今でも手紙のやりとりをしていて、年に2回は必ず会うとのことでした。その依頼をうけて、私は西コロニーに、コロニー間トンネル列車の旅に立ちました。列車はコロニー間のたった一つの通行手段で、その線路上には空気が満たされています。誰もが知る
道中私はまず、いくつかのプランとそれに見合う予想をたてました。まず一つ目健康に人並の生活を送っていることを想像しました。友人のつて、もしくはその周辺のつて。私はつぎに、火星の影の部分に疑いを立てました。つまりアンダーグラウンド“地下資源再生地域”のことです。なぜその場所を目指したか?、私は本来から、私の心の中にいびつな、畏怖への恍惚としたあこがれが彼女が幸い存在するのをしっていたからです。そこにこそ、芸術の根底にあるものが根差しているのではないかと疑っていたからです。そして西コロニーの中央から情報を収集するべく、そこにまちで行方不明の彼女、“サニィ”の行方を捜すことました。この二つに疑いをたてたわけは、結局、人間の旅、自由への旅の道筋など、地上に縛られている限り限られているものだと火星人の勘が働いたからです。
彼女の両親は、ある中規模なコロニー用、自動建設機械製造会社の役員。まあ一般にいう中流の家庭というところです。中流というくらしと字面は、かつて栄華と繁栄をほこった地球の大国のいう意味とは、今では少しかわっています。むしろその人口の割合は、とてもわずかで、大成とはいわないものの、事業や人生を成功したものをしめす言葉になりました。火星では、かつての地球がたどった道のように格差が広がっています。それは、地球のような価値感ではなく、なにより芸術と文化こそが、人間を人間たらしめるといった技術的特異点の観念を超えた上に、この火星が統治されているからです。その上で、コロニーのインフラ設備事業はまだ需要のある職業の一つでした。デウス・エクスマキナがなければ、火星も地球と同じく必要以上に発達した人間より知能の高い大勢の機械相手に、仕事を奪いあう必要があったのかもしれません。けれど、火星にあるもっとも崇高で、知的な存在はデウスエクスマキナ只一人でした。
私は西コロニーの中央駅におりたち、宿泊先のKホテルをきめ、そこを拠点に活動を開始しました。いくら自由な仕事とはいえ、成果がでなければ、それ相応の報酬しかでない契約です。両親いわく、最低限無事だという事が確認できればそれ相応の報酬を支払う。そういう契約でしたので、私は事を急ぎました。なにせ、宿泊費もばかになりません。
中央コロニーを旅立ち、西コロニー駅周辺にまず拠点をおいた、9月10日。その次の日から、人に写真をさしだし、みなりや、しぐさ、クセや好物など、目撃証言を老若男女とわず聞き込みをし、集めて走り回りました。郷に入れば郷に従え、そのことわざ通り、この街の感覚を肌で感じ、人々の中に影のように入り込む。これらはいつもの探偵としての私の技術、常套手段です。でも、けれど少しちがっていて、その時の私の勢いと活力はまるで、コロニーの端から端まで何週でもしてもみせようかというような力があったのでした。わかさにまかせて、死にものぐらいでした。というのも、この依頼が単に私の心情を刺激したという事もありますが、依頼料が相応の金額だったからもあります。しばらく日金を稼ぐために、まるで同じような不倫調査だの、猫の捜索だなどといったことをしているのはあまりに退屈だったのです。それに私は危険を恐れないのです。そして、体を動かすことを恐れないのです。私の探偵事務所、私の住まいも今は中央コロニーにあります。わざわざこの旅をするために西コロニーへと、コロニー間のバルブトンネルを超えてやってきたかといえば、ひとつは、日頃の依頼が退屈で、まだ私の知らない町にいき、自由を求めたのもあります。そして、心を打つこととは、少女の悲しき、そして虚しき、夢を追うしぐさにいつかの自分を重ねてみたからかもしれません。
「天使を探しにいくの」
そういって、サニィは家を出たといいます。コロニー間の生活や、火星全体の風土、そして生活はどんな人であれ、何不自由なく一定の幸福が約束されたデウス支援型社会主義をもとに営まれています。私はある理由から、希望をもって、この職業を選び、そこに芸術的な感性を働かせ、この火星のためにつくす方法を日々探していました。その理由と今回のことに惹かれる心があったのでした。その時点で彼女は、まるであの時の私のように、きっと西コロニーに、自由をもとめて旅立ったのだと思いました。それは、両親によると失恋の反動だとのことでした。その年まで恋も、友人もあまり多くありはせず、恋人ができたのも初めてといううぶな少女でした。私はその様にも自分との共通点を見つけたのでした。
やがで数週間がすぎ、情報収集もひとくぎりがつきます。西コロニーについてしばらく巷の雰囲気と暮らしにうまくなじみ、おおざっぱの地理と街の雰囲気を把握し、人々と一定の顔見知りともなったころ、私は滞在するホテルと、街を行き来する生活をおくりました。西コロニーは、食事もおいしく、流通も整っており、にぎやかな商店もあり、ただふらふらと歩きまわるのも楽しみになり、時間を忘れそうになることもありましたが、私は仕事の時間を、朝と夜の四時間ごとに区切り、その最中は必ず懸命に情報収集をし、足を動かすことを意識していました。
ふといつのまにか、そこでの生活がひと段落する、ひと月ふた月と過ぎた頃の事。私はその家で事件を追ううちに、一つのうわさを耳にしました。少女の失踪と天使のうわさ、そのすぐに二つのことがらがひかれあうように思え、脳内である理由からそのふたつの出来事を直感的に結びつけるにいたったのです。これはあとで話をします。その噂というのは、ホテルもよりのカフェ、新しい私の仮の生活のそんなすぐ傍、私はそこで天使のうわさを耳にしたのです。確かに天使というだけで、情報を集める価値はありました。
「古びたエウゲが、死期が近いのに、芸術に目覚めることができずにいる人を、デウス・エクスマキナから救うといって、郊外で不思議な力を与えているらしい」
「なんでも、彼女は“ニィボ”という宗派のエウゲらしいが、彼女は難病で、何度となく延命をしてきたのに、今度はもう科学技術によって天寿を全うするといっているらしい」
老夫婦にむかって、噂好きの彼等の友人らしき老齢の男女が話しをしているのをお恥ずかしながら盗み聞きしました。西の郊外にその場所があるのだと、私は聞いた通りその場所のメモをとりました。
各コロニーの郊外には、100年前忘れ去られた場所があります。太陽黄金祭の名残、火星の人々に光があたったころの置き去りにされた栄光。
「ギグネスタイコロニー」
そこは、小さな円形の劇場。わずか100年前、7人の英雄が毎日のように講演を行い、日々、物語を作った場所。そのふるまい、キャラクター性、人柄、思想、それから物語は人々を活気づけ、火星の象徴ともいえるほどの盛り上がりになりました。これは火星特有の現象でした。火星はコロニー事に人口の上限を分け、それによって平坦な統治を可能とするだろうという“統治限界構想”を利用しています。統治限界構想に基づき、コロニーは1~2万人の人々がおさまっており、コロニーごとに区画が設けられ、区画ごとに統治をおこなっているコロニーもありますが、人口は明確に制限されています。その中でその地域を活性化させる、演芸、芸術、文化の新興をになったのは、こうした演劇場やそのまわりの演劇街でした。
私はそこに根城をうつし、しばらくそこを中心に仕事と足を動かす事に決めました。しかしそれから、ぱったりと情報が厚みを失っていきます。
老婆『私は天使をみたことがある』
若い男女『天使は病弱で、大病にかかるそのため体の一部を改造していった、やがてその病状がおさまるときがきたが、そのときには人体の幅を超える程の生命を安定するための装置が必要になった』
女性『その決死で手に入れた寿命を、今度は手放そうとしている』
老人『天使はまだ26歳だそうだ』
郊外にはかつて英雄に従事して仕事をしたという人々がその残滓を自分の生活の糧に営みをつづけていました。
それから1週間、2週間とたち、最初はわずかだった噂ばかりの小さな破片が、話しとしてまとまり、一つの筋をもち、けれどそれからはいくらその周辺を走り回って、いくら情報をまとめても、私に与えられたのはその情報だけでした。ただ、筋を持った物語は、そういう人物が実際に存在するという事を人に納得させるほどのうわさでしかなく、いくらその先の具体的な彼女の居場所や、彼女の輪郭を探そうとしても、そこにもそれを発見することができずにいました。
それは西コロニーにつき、3カ月ほどが経過した地下の階段への階段と、郊外と街との境目をさまよい、街の情報屋にエウゲの情報をあたっていたころでした。私はまず背後に小さなさまよえる気配とコツコツと迫る足音をきいたのです。
(何?……)
それは英雄のコロニーを、事件とは別に訪れた夕暮れのこと、さっきまでそこにはコロニーに関する展示や、国営の美術館などがまだ明るく賑わいを見せていたのに、いまではもう火星の太陽であるデウスエクスマキナはその灯を小さくしていました。
“モグラ”
暗闇に現れたもの。それはエウゲとの関係をうわさされる、地下からの来客。ガスマスクをした素顔に、コートや目立つ白のスカーフ。着る必要がないように思われる宇宙服を身にまとった姿。一説には、かれらは落ちぶれた科学者の末路だといわれていますが、真相は定かではありません。ともかくエウゲのうわさにつきまとい、エウゲの庇護者であると言われています。いつのまにか、私が通りかけた通りの裏路地に気配があり、ふりむくと、彼等はその異形におののく私の態度にひるみもせず、つづけて、今度は声を発して私にはなしかけてきました。
『おい、おい』
私は、まず暗闇に響く声に驚きました。そして物取りか、やましい目的をもったものではないかと即座に反射的に体が跳ね上がることを感じとりました。
『おまえ、天使に合ウカイ?』
『あなた、何ものなの?噂は本当なの?』
『試験するか?』
『変な事かんがえてないでしょうね?』
私は片手に護衛のためのスタンガンを掲げると、そんなものは役に立たないとでもいうように、彼はそれをみくだし、あざけるようにななめに顎で指図をします。唐突に話しかけられ、そしてカタコトでこんなことを話しかけられ、私は動揺しました。場所が場所であり、時期が時期でしたのでしばらくまよいましたが、私はこうこたえたのです。
『なるほど、少し話せるかしら?あなた』
『ああ、いくらでも、ココデ天使を探すものは、必ずわれら“大地のモグラに出会う”』
『天使に逢うためには、あなたから情報をひきだすしかない?』
コクリコクリ、もぐらのような形状のガスマスクをした相手は、私にむけて、光るゴーグルのはざまから目線をさけないままに首を縦に振りました。
貴方は何を求めるの?
『おまえの返答』
しばらく私は顎に手を当てて考えましたが、やがて私も、郷に入れば郷に従え、彼等の礼儀に従うことにして、首を立てにふったのです。
「おまえは、天使に何をもとめる?」
私は、敢えて本心らしく思えるものをえらびました。
『偏執と探探求』
英雄は、人々から憧れと羨望の目で見られていたころ、偏執と探求の標語を自らかかげていた。火星の7英雄が持ち合わせていた精神性。私が今でも、彼等へのあこがれを抱き突き動かされ仕事をしているそのきっかけとまでなったものです。モグラの返答はいいものでした。
「フッ、イイダロウ、ならば、アトは天使に任せるまで」
片言にもかかわらずモグラはそのとき、まるで見えるはずのない含みある笑みをあえて人に見せつけるように、鼻で笑いました。その時わたしは、小さなころにエウゲの役者に、いつか劇をみにいった終わりに見透かされた過去を思い出しました。私は、英雄や、エウゲのことを、日々の自分の日常の中と対比するように同時に常に考えていたのです。偏執、探求。私は探偵小説が好きな人間でした、子供の頃から今にいたるまで、その色眼鏡で世界をみて、心ひかれるものにやさしく、その反面、引かれないものにはとことんに冷酷でした。私は常に思っていました。人生で好きな物に触れるたびに、こんなものが好きでいいのか?愛情の表現がこれでいいのかということを葛藤しながらそれを探求してきたのでした。それは100年前、丁度英雄たちが探求したものです。
【夢1】
※内容。モグラ、『影のエウゲ』接触。なにものか『呪術契約』そして、
その代わりとして、別のエルゲとの契約をしているようだった。
モグラ、
モグラに伝えてはいけない(彼らはサボテンを探している)
ある連中に絡まれる。モグラに恨みを持つ……泥棒、腕がなかったのをモグラのせいにしている。
【ここにいると知らされた、夢で】
精霊、あんたの弱さは、受け入れているつもりでどこかで、人に対する反発をもっていることや、
どうして?
あんたは、生まれついての家庭にたりないものを知っていた。
父は逃げた。
助言だけは覚えておけ、
導の石。
エウゲの完成と時間軸は人とずれている。だが正面から向き合うとき、きっとその感情の人間らしさを知ることになるだおる。
彼女の心は錘を持っている。いくつものとまどいだ。いくつもの迷いだ・
抜けたところは。強すぎる力の調整弁
【夢2】
願いの星が現れる、
エウゲの白い青天により、
代償なく願いをかなえる。
唐突に告げられる植物についての話に、それとなく、やんわりと応答せよ。
【彼らの奇妙さに順応しろ】
【なぜ?彼らは秘密主義だわ信用が守られるのは、それが人の目に触れているから】
【夢3】
恐れを遠ざけるために、仲間と認めたもの、
純粋な厚意から、彼女に何かをするのだ。
残酷に見える決断の中に、振り返るべき過去が見つかる。
どうか、サボテンを俺だとおもってくれ、
俺と距離をとっておいてくれ、
お前の前ですべてを隠すことはできないのだ。
もし耐えられないときは、家を出たっていい、縁をきってもかまわない。
【夢4】
この夢のアクセスコードを教える
【触手は人類を友と認める】
彼女らは言葉を言い換えることがない。
なぜなら、彼女らは、自己表現が苦手なかわりに
言葉と行動に責任をもち、自分が納得できるかたちに
対して人々は思いがけず自分の時がでたりする。
【触手は人類を友と認める】
彼女の名前を話そう。
モグラには日を改めて後日、また待ち合わせあわせをすることにしました。私は、接触する間隠れて忍ばようとしていたものの(私はまだ、天使がエウゲだということを信用していないので)もしものときに防犯の装備、“小さなスタンガン”そして、事務所への報告をすませ、その最後の日にそなえて、その日は付近にある借りているホテルの一室に戻り就寝しました。(そこから件のコロニーは近場にありました)
当日、モグラは三日間の期間をへて、最後の日に天使は願いを聞くという事を教えられました。待ち合わせは、私のそのときのホテル近場にあるお気に入りのカフェから15分、郊外のある雑貨店の駐車場。天使は限られた命の天寿を全うするという事でしたが、噂通り“人の芸術的、あるいは文化的な願いをかなえる”そのために“天使”と呼ばれていることは確からしいことがわかていした。そこまでは探偵としての情報収集の過程で知っていたものの、そのときにはまだそれが事実かどうか、そして彼女は本当にエウゲなのかどうかうたがっていました。待ち合わせの場所に午後4時に集合。私はモグラと再びあいました。モグラは、路地裏からぬっとあらわれました。何度見てもぎょっとする容貌をしています。2、3言葉を交わした後に、私はモグラについてくるようにつげられ、確かに彼の後を追います。どこへいざなわれるのか、やはり人通りの少ない場所を通り、10分、15分とすぎたころです。見覚えのある光景がめにとまりました。郊外の巨大な円形です。
『あっ』
郊外と街の境目にあるのは地下への<境の円蓋>、そしてそのいくつもの円蓋が巨大な円形をつくりだす“郊外の円陣”その付近にきました。それは地下アンダーグラウンドへの入口です。誰でも知っていますが、地下へ続く入口と階段、階層は三つにわかれています。その階層を超えるとまごうことなき真実の地下が現れます。許可なく地下へ入れば、当然罰せられることは、火星人の人ならば誰もが理解しています。しかしモグラは難なくその扉(地球でいうマンホールのような円形の扉)に向けて、首元にある資格証か何かをかかげました。すると円形の中央にある透明なガラス越しにカメラが動きをはじめ、機械音が響きます。
『ピー・ガッ ;@:,※』
それは聞きなれた機械音がです。デウスエクスマキナとその配下のレムレースが話す機械語でした。我々は内部に務めているだろう彼等からおそらく何らかの許可をえて、モグラのおかげか?難なく私たちは地面から生えた梯子と開かれていく扉をみたのでした。とおされ、私も特段、レムレースにとがめられることもなく、中に入る事ができました。ハッチが内側から開き、まず梯子があります。まず最初の間に通されました。
白く、上下する階段と受付のカウンター、人型の小ぎれいなメイドタイプのレムレースが一人。そこで再び、人型レムレース(アンドロイド)の精査をうけ、中にとおされます。レムレースがデスクに腰かけ、書類やコンピューターと向き合い事務作業をしている、そういう一室のように見受けられました。やがてレムレースはにらめっこをやめ、こちらに会釈をします。人間以上の知能はありませんが、適切なプログラムと、デウスの研修をうけた人々です。
『天使へ新しい訪問者ですか、彼女の“儀式”は地下でも地上でも、デウス・エクスマキナに管理され、承認されています、いいでしょう、お二人とも奥へお通りください』
通されたろうかをいくと、奥に部屋の扉が見えます。小さな一室の扉に札がかかっていました。かすれた文字で“天使、リィルの祭壇と祈りの場、礼拝堂”とかかれていました。ノックをすると、中からどうぞ、と声がかかります。扉をあけ、その奥に入ると、小さな白いソファー以外何もない一室についたてがたっていて大きな部屋がしきりになって区切られ、そこから用途の違う左右の部屋に分かれているのがわかりました。右側は本当に何もなくただ観葉植物がおかれ、ソファーや椅子がおかれています、左側は事務室のようになっていて、机に書類やらがおかれ、パイプ椅子がならんで向かい合っているのが2、3にはいりました。右側の部屋から、祭壇と壁の上に表札のかかった扉の奥から誰かが出てくるのが見えました。みるからに占い師といったような、顔を覆うベールと、そしてそれにマッチする古風な民族衣装らしきものを身に着けている女性が目の前にあらわれました。
『すみません、ちょうど信徒が私たちのものにいて、奥で相談をうけているところです、探偵さん』
『え?』
挨拶をかわし名刺を渡すまえ、挨拶をするまえに、こちらの素性を相手方は把握しているようでした。それから手取り足取り、自分たちの宗教やエウゲのことを、まるで段取りを、(普通いつも自分が人に尋ねるときにするような)段取りをふんでくれました。そのおかげで私は、先方に任せきりのようになり、たちつくし、しばらくぼうっとしていました。その先にいつのまにかモグラは姿を消していたようでした。
『やはり、エウゲの方なんですね』
エウゲとは火星における、人類と別の形で発展した種族。超能力的なもの(テレパシーとテレキネシス)能力をもつ集団、種族のことです、彼等はデウスエクスマキナを中心とする、精霊信仰とは別の宗教的なものをもっており、概念と哲学をもっています。それは時折人々の生活の手助けとなり、彼等が生活をするための能力の一部ともなります。
『こんなに遠出をしたのはひさしぶりです』
『おかけください、どうぞそちらへ』
いよいよこちらが話しの主導権をにぎると、私はぼんやりと少女の家出のことや、少女の特徴をポツリポツリと話はじめていました。私は普段から宗教や占いといったものは信じておらず、そのため彼女との間に空間的にも精神的にも猛烈な距離をとっているつもりでいました。それをみすかしたように、そして早口になる私をたしなめるように、あるいは話しの筋をそらすように、彼女は時折抽象的な話をしました。それはこんな具合でした。
『探偵さん、あなたは人間にいくつもの顔があることをご存知でしょう』
『顔、ですか?……』
『エウゲといえども、先ほどのような接触、生活の中ですべてのひとの内面を理解する事はむつかしい、だから時折エウゲの一部は、文化や宗教に自分の存在を見出す、私たちは“ニィボ”というサイコカルチャー上の宗派です。そんな、エウゲの中の一つの宗派に属し、自分たちの能力の性質と、その限界を見極めようとしています』
『なるほど?』
私は、その彼女の誠実な様子に、この人が天使、っそて看板の通りであればリィルだということを確信しました。たしかに、古風な衣服に袖を通し、その体の輪郭の全容を見ることはできずにいましたが、背中が少し羽のように輪郭をなぞっているような様子が見て取れました。
『あなたの目的は近頃この奥の堂へ通う彼女“家出の少女”、だと思いますが、それはさておき、彼女は私たちのそばにいても、人並の仕事をして、人々をよろこばせていますよ』
ギクリとしたのを覚えています。聞き込みをしているうちに、彼女の病気は心臓にかかわるものであることが明かされ、天使とよばれる彼女はどうやら、幼少期に才能を見込まれ、それからは、地上で画家として過ごしているそうです。地下でも最低限の暮らしは遅れますし、医療や各種福祉をうけられますが、意図的に華奢で豪華な生活や日の当たる生活を送ることができません。私は尋ねました。いずれ、彼女が天寿を全うするということさえも、可能ならばその日のうちに聞くつもりでもありました。
「エウゲは、心を読めるといいますが、なぜ、そんなに人の事に夢中になるのですか?」
“ニヤニヤ”
気色が悪いとさえおもっていました。次の言葉としぐさをみるまでは。
『あなたは、人が語らずに、人が議論もせず、人が思考さえせずに、あるがまま運命にみずからその身を投じているのだと考えることはありますか?』
『それはどういう?』
『私も、あなたも、きっとどこかに似たものを抱えていて、それを生かすべき表現があるはずなのです』
『はあ……』
少し呼吸をして、天使は窓をあけました。窓といっても空調から入る風と、デジタルスクリーンに映る太陽や空の映像が映るだけの、火星特有の疑似的なものです。彼女はまどのサンにてをかけ、そしてまた話しをつづけました。やはり宗教は難解で、彼女の話す言葉は私には苦手でした。
『私はここで人に助言をします、うまくいかないこと、人の悩み、人の能力の悩み、それをたしかに言葉に変える術すべを持っているとはいえません、ですが理解していることはあるのです、腑に落ちることというか』
『はい』
『人は、人の言葉や人の物語に、心のそこから確かに納得することは難しい、ですが、エウゲにはそれを編纂し、確かに形づくる能力や資質がそなわっている、そのことは、エウゲの数多くの宗派、全体を通して共有されていることです、それがサイコカルチャーなのかはさておいて、ですがそれでもエウゲは、嘘をついたり人をだますことがあります、なぜなら人は意図的に自分に罪を着せるときには、必ずいくつかある顔のうち、ひとつの使い方と能力の使い方を敢えて失敗をする事があるからです、そのとき私はデウスにも嘘をつきますし、神にも自分にも嘘をつくのです、私にできるのは、というより罪をしった人間にできるのは、罪とそうでない行い、そのはざまにある違いを見極め、正しいものと良いもの突き止めることくらいです、人間にとってよりよい表情、ものの考え方を必要なときにとりだし、表現すること、それが人間にとって最良の答えであることを信じて、例えば、私の能力が私の能力として形になるのは、人のためになるからだということを信じてのことです、それに悪意をもって嘘をつくと、かならず私も同朋も失敗するでしょう、それがエウゲというものです』
私はいつしか彼女の話やそのしぐさ、ふるまいの一つ一つに、唖然としていました。あしかし同時に違和感を覚えたのです。それは、自分が経験したことのない、彼女にやどる雰囲気の不思議さと不気味さに、私は心のそこから畏敬の念を抱いたのではないかということでした。
一日目の最後に、私と天使、天使の従者と我々は一連の仕事を終わると、また明日の約束をすると地上へと上がりました。その後、地上で我々はすぐそばの、私がひいきの(ホテルの向いを15分ほど、住宅地の間と間、大きな通りの傍らにカフェがあった)カフェへと向かい、様々な話をしたあとで、(日常や仕事の話を交わしました、ニィボの彼等からはとても知性的で常識的、一般的にもごく普通のまともな大人の女性という印象をうけました)それから、デウスが光をせばめ日もくれたという事で別れる段になって、もちろん私は従者や天使の手を離れて(彼女たちから少女が自由になったときに)サニィに接触しました。私が探偵であること、両親が心配していることを伝えて、今回の依頼の詳細を記した書類を彼女に見せます。私はその時、その呼びかけが効果的であるかはあまり考えになく、ひとまず彼女との接触と関係性の糸口を探りたいと思ったんのです。(その時もその後も考えることはなかったのですが、これがまずい宗教や新手の詐欺ならまずい事です)彼女は、元気そうでした。ここへはよく通い、時にボランティアで事務作業や祭司の準備を手伝うことがあるそうです。その時確かに、初めてといえるほど彼女の体やみなりをみましたが、今風の服装で、全体的に白く、からだもそうなので、まるでこちらこそ天使なのではないかと感じたほどです。聡明そうで、小ぎれいな今風のメイドやファミレスの制服じみた、(学校の正装じみた)衣裳をきて、聡明そうで、小ぎれいな今風の衣裳をきて、しかしみるからにうぶで純情そうなよわよわいしいめじりと、濃く短いまゆげ、ながいまつげをもっている少女でした。ボタンのようにあるがままを見通すような澄んだ藤色の虹彩。左片方が眺めのボブヘアーに、か細い体。優等生を思わせるしなやかな手つきとピンとした背筋や肩、腰のライン。
私は親切そうに、特にそうした次善事業を専門とする探偵でも、非営利団体でもないながらも、両親の温かい思いを受け取り、小さな熱意を燃やすものとしてはっきりと彼女を正面からみて、目を合わせ、いつも家でをする少年少女にするように彼女のてをにぎりました。
『一緒にかえらない?』
彼女の答えはNOでした。
『もう少し時間がほしいの』
こういう時のこういった選択は、二つに一つです。完全に家出をする事をきめたか、もしくは、本当にまよっていて、心が動く瞬間を期待してまっているか。 帰り際に、野暮かとは思いましたがふたりが話しているのを傍目に見ていました。
『サボテンの様子はどう?』
『いいえ、私はまだ、それについて何も思い出せません、貴方の事もどれほど頼っていいか、確かに、ここでの生活は刺激を受けるものでしたが』
ぶしつけで失礼かとは思いましたが、その二人の間にはいって、言葉をはさみました。
『何のことです?』
聞くとどうやら、サニィは天使にすすめられて、サボテンを育てているそうです。
『何のために?』
私はしっていました。ですがその思考を見通し、こちらの意図を汲んだように意地悪な笑いをうかべて天使がいいました。
『知っているでしょう?私が必ず人の能力を目覚めさせる能力があるといううわさ、あなたが調査した(天使の相談)というものですよ、あなたはそれをお確かめになりたいはず、それくらいは“読めます”わ、まがりりなりにも、エウゲですから』
なぜだかその時私は自分にも似たものを、そのエウゲから感じ取ったのです。
二日目
午前10時、またあの場所を尋ねました。同じ郊外の巨大な円陣“郊外の円陣”です。モグラはいつものコートにツナギにもにた作業服に、動物的な装飾がなされたマズル型のガスマスク。その異形の雰囲気におびえることさえも彼等の手の中の思惑のままのふるまい用で気に入らないのでまじまじと彼をみつめます。そのうちあることにきづいたのです。彼も片手に携帯端末“PF”をもっていました。同じ火星の住人なのだなと風にたなびく彼の髪とゆれる服装をみてしみじみと感じたものです。その日はくもりでまるで二度寝でもしたかのような太陽が雲の間から光を放射していました。一瞬現れた幻想的風景には、そのときにはモグラの彼があの、噂にある火星の都市伝説、“死への渇望”をつかさどるとうわさの火星の“死神”ではないかと疑ったほどでした。
『こんにちは』
『ドウモこんにちハ』
同じ手順を踏んで、この日は別のモグラに案内されました。身なりは同じですが、中身は違う人物です。ですが火星の人々は、そうしたものになれているはずです。もはや一人一台の人工知能搭載端末をもち、電脳世界は現実となっている時代なのですから。
『なぜ、彼女はここに長居するのでしょう?彼女の目的は何なのでしょう、天使の目的も、天使は昨夜こういいました、助けなんてうけおってませんよ、あぶなければみをひきます、天使は、彼女に対して無関心なようにみえました』
訪問してから、また昨日と同じ応接室に通されました。向かい合い10分、挨拶後からその言葉が切れてから言葉をうしない、彼女はしばらく窓際を見て、うつむいてしまいました。口火を切ったのはこんな言葉でした。
『お互い大変な境遇にありますね』
『え?』
この人は突然何をいいだすのかとおもいました。
『しかし、あの子もきっとあの子なりの悩みがあるのです、それぞれが悩みを抱えて、だから芸術や文化、エウゲはそれにこたえる事に意味をみいだします』
『はあ』
それからその日は終始彼女に会話の主導権を握られているかのような時間がすぎます。私たちは、昨日よりは少し親密になった空間にいて、ただ、わたしはまだ奥へはとおされず、右の応接室にとおされ、延々と彼女に関する取材や、相手方の出方をうかがう事ばかりをしていました。二三日出入を許されているとはいえ、私の身分は、というより心持はしがない貧乏探偵で、願いがあることをいつわりここへ来た人間でしかなかったのです。そんな私の気持ちをしってかしらずか、天使とよばれる女性はのんきにお茶にてをのばし、私にまたすすめました。
『私たちは、それぞれに変わった技能と変った能力をもちます、それはあなたは人と違うということでもあるかもしれない、でもあなたが、私が感じた物語を言葉にのこし、あなたが感じた色をあなたが表現し、人に語り、私もまた人にかたらなければ、きっと、おなじ出来事を体験する人々はよっぽど苦労をするのです、だから私は、いえ、一度つまづきあの恐ろしい悪夢をみたからこそ、私は私の能力を開花させることができたのかもしれません、何もかもエウゲの超能力のせいにするのは、私自身不満ではありますが』
『私は、私の能力に自信はあまりありません、そのほうがうまくいく気がして』
そのとき自分の心の中に迷いと、いつかの苦い思い出がよぎりました。次の瞬間です、私は今朝、というより昨夜みた怪奇な夢の一部を思い出しました。その時私の体に起きた異変を、私はことこまかに記すことは出来かねますが(何よりそれを私自身が体験しながら、私自身はその一部始終をみてはいなかったため)しかしあとからすれば、私はまるでねむったようになり、頭を抱え、ただ痛い痛いとだけうめいて、そのまま10分ほど現実世界から“少なくとも意識は”離脱していたようでした。
『人が、人の生活のもろさに気付き、人の能力や生活のもろさにきづき、必要な社会サービス、福祉サービスと、国のサービスと、それに心のケアをデウスエクスマキナと科学者からうけらるようになったのは、わずか100年前のことですよ。それまでの火星は、今よりもっと、火星の実情は酷いものだったと聞いています、ともかく、人から求められるものを自分で理解しているということは、それ自体、幸せなことですよ』
なぜだか、相槌をうつきにもなれず、彼女の巧みな話法に、その時の私自身、はっきりと関心しながらどこかで盗めるようなところはないかとやましい気持ちをいだいていました。
『人はもともと、行動をともなわず、人から聞く話を自分の中でうまくその通りに咀嚼できるとは限らないのです、何を決意しているかもね、私どもにもすべてわかるわけでもありません』
これまでは扉の向うを覗くことは制限されていました。サニィの訪問は午後からということで、その時に限り、立ち合いをすることを許されました。
そして、二日目の午後にみせられたのは、天使の従者と思われるエウゲのものが、古風な服装に身を包み、おごそかな多宗派の礼拝堂や、礼拝の祭壇の前で、椅子に座り向き合う少女に、彼女に物語を聞かせる様子でした。少女もまた、椅子の前にいましたが、立って話しをきいていました。それはとても奇妙な光景でしたが、特段少女が不憫に思えず、ただ私もその様子をまじまじと一部始終記録と記憶に収めておくことにしたのです。
(なんだ、エウゲの宗派の宗教的儀式かと思えば、子供に本のよみきかせなど)
最中、ずっとおとなしく、まるで彼女の親族の代理のような態度で、サニィのうしろにたたずみながら物語を聞きました。さっきの会話、そしてその状況に少しの違和感と疑問を感じ、それをぐるぐると考えていたころ、彼女、天使リィルに感じた違和感の正体に気付きました。かつて火星にいた英雄のことです。地球の歴史や、地球の文化を再生するという“アフターフレア構想”地球のあらゆる文化や、生活、仕事を(火星型に置き換える)ことで、火星独自の理念や理想の発展、そして文化の発展をめざしました。その時の盛り上がりが後世につがれたため、人々は活気に満ち、希望に満ちた瞳を輝かせる。デウスの支配が徐々に頭角をあらわし、湧きあがり経済の成長の盛り上がりとともに、それは生まれました。英雄による、地域の活性化、理念、思想、価値感の勃興。人々はそれに沸き立ち、たしかにそこでいくつもの文化や、芸術が起こり、音楽、小説、演劇に波及しました。英雄と、彼女との共通点を疑い、つまり私は彼女のエウゲ的な部分というべき精神性か理念のようなものが英雄や“アフターフレア構想”の流れやつながりを持っているのではないかと考えたのでした。
「物語は人々の記憶の中で反復されます、なぜ人はそれを“モノ”に変えることを選んだのでしょう?」
「私の心を読んだのですか?」
「あなたが読んでほしいと考えている分だけ、読みました」
私は少し癪にさわり、まるで横柄な人がそうするように肩を払うようなしぐさをみせ、卑屈な笑みを浮かべ、彼女の心を動揺させようとしました。
「もし、悟りの能力があなたにあるのなら、宝くじをかったらどうですか?」
「それは不運でしょう、そのためにデウスエクスマキナは、私たちの魔法に天上をつけたのです、デウスエクスマキナより賢い人間はいません」
言い返せもせず、それから、夕方にかかるまで、私は黙り込んでしまった事を今でも、まるで恥ずかしい失敗談のように思い出します、
私はありがちな質問をしたのです、それはぶしつけで、あまりにも失礼だと思いましたが、すでに私の目論見が理解されているのなら、彼女を願わくば、両親のもとに連れ帰したいという考えさえ彼女にさとられているのではないかと思ったのです。ですが彼女は違う言葉を話しました。
まだ20代というわりに、めじりや、体の所作に重さを感じます。彼女は私に手を伸ばし、頬を触りいいました。私は少し彼女を疑っていましたし、その言葉をいわれても疑いを説きませんでした、ですが彼女は魅力的な言葉をはいたのです。
『あなたは、あなたの中にある偏執や、探求心に不安があるのでしょう?デウスのゆりかごの中でそだった人々はみな同じ悩みを抱えるのです、ですが、私もエウゲも、いいえ、ときにそうでないものも感じ取ることができるものがあります、ひとは、ひとつの顔を抱えて、生きることもできない、苦しみや葛藤はだれしも存在する、それが解消する瞬間も知る事ができる事もあれば、それが鬱々とした形をとる事もある』
『その葛藤や自分たちの思い込みをこえて、人は人と対話をする、やがて、それが実現したときにおいてのみ、人ははじめて自分の理想や自分の中の芸術を勝ち取ることができるのです』
彼女と色々の話をするうちに、日が暮れ、サニィはもう帰るという段になりました。
「どうですか?サボテンの様子は?」
「私、彼女と仲良くなったきっかけを思い出したんです」
「それが何か?」
「花をもらったんです、両親は花が好きで、私は両親に、家族の誰よりも大切にされているのに、不安で、不安と緊張から一時的に逃げようとして、そして私は、自分のひたかくしにしていた恋心が、きっとその解放への糸口になると思えていたのです、友人ができたのも、両親がきさくにせっしてくれたから、はじめは同じクラスの友人の一人でしかなかった彼女は、私の大親友になりました」
でも、と彼女はつづけます。私はまるで、演劇じみた彼女と彼女たちの様子をみながら、天をあおぐように両手をあわせてうつむく少女の本心をみようとしていました、見る事ができるはずもない本心を、それが何らかの形をしめすまで。
『でも、今は変えれません、この不安が形を変えるまで』
「それもいいでしょう、今は帰らないという選択をしたなら」
・三日目の記録。
朝方シャワーを浴びひいきのカフェ、その後私は、その時にはもうモグラやニィボの彼等にも周知の場所となっていたカフェ“リーリア”にてホットミルクを飲み、店内にサービスで置かれたされた週刊誌と新聞を読んで彼等をまっていました。その日も一日目のように用心して身を守れるアイテムと術を心得て脳に叩き込み、事務所に連絡してから、身なりを整えました。
昼前まで、以前の仕事の情報(今後に役立ちそうな事をこのノートのように)探偵手帳を整理をしていました。それからも、きまりきったように打ち合わせの10時にモグラが訪ねてきて、その後もばたばたとした一日がすぎました。また連日のように私はあの地下へ招待され、今日こそは何か成果を残すか、いよいよ中央コロニーへ帰宅するべきかを決断する日です。同じように件の郊外の魔法陣のような円形の陣がかかれた地下へと続く例の階段と梯子をくだり、あの部屋をたずねると、今日は左側の事務室が騒がしくせこせこと従業員や従者が働いています。
『おはようございます』
『あ、おはようございます』
何やら天使や従者に尋ねると本日は、その天使の住まいに件、その奥の礼拝堂や祭壇には本日は朝3人、夕方には5人もの訪問者が現れるようでした。ここ連日で見聞きしたところによると、このニィボの役割は人の才能を開花させることが一つ、ただ単に人々に相談をうけ、話しをきくのもその一つ。大まかに分けるとただそれだけを行う火星の宗教だそう。ここに訪れるものは、信者信徒のほかには、相談者、地球の有力な宗教の懺悔のようなものでしょうか。相談を聞くだけでも大変な労力と力をさいていることを、私はその2、3日で十分に理解していたと思います。なぜなら、天使は懺悔をする人々に対し親密に、しかし彼等の内情を自分の知る事ができる範囲で理解しようと努めていたようだったのです。私は、事務所ではニィボの従者や事務作業をしている従業員が各々せわしない働きをみて、やがて夕方にサニィがあらわれるまで、その出来事のはざま本当に手が空いたすきまに、接近した彼女の宗派の教え子、従者らしき人にインタビューを行うことができました。この時まではほとんど話しかけていいような雰囲気も、そんな落ち着きもほとんどなかったのですが、今日はせわしいながらもこの“ニィボ”の方々が心をひらき、慣れていらっしゃったようなので、話しかけると、彼等のほとんどはひとなつこく、気さくではつらつとしてそして人柄のいい人々でした。
『彼女はインスピレーションや想像が何をもたらすか、人にあらかじめ教える事ができるんだよ』
でも、と私は口をはさみました、なんどもなんども嫌味混じりな質問をして、さらに私は聞き込みをします。
『けれど、と思うでしょう?でもね、実際、彼女の言葉はその通りになる、けれど彼女を他の人がまねて彼女がその内容を人に告げ口しても、人々は心を簡単に開かず、彼女の予言的言葉どおりの出来事は起こらないんだ、不思議だよね、彼女はインスピレーションを与えることのできる天才なんだ』
私はメモをとります、では彼女は予言者というべき存在なのか?では、彼女が家出少女サニィに託したすべてに意味があるとか?たとえば“サボテン”だとか、私は頭の中でその不思議を解き明かそうとします。
『人は素直に、彼女のいうことをきいて、尊敬することができる。なぜなら彼女は人が潜在的に求めているビジョンが、見えてしまうから』
インタビューのあと、私は手持無沙汰でしたが、サニィがニィボ派、エウゲ教団の手伝いをするというので同じように手伝いをしました。本日はサニィは祭壇と相談のための奥の間にはいかず、事務作業を手伝いしていました。そこで私は彼女と長く話しをする事ができましたが、そこで、天使という話しと、地球の昔話が語られました。これは、おなじ話しがあとで“天使”から語られることになるのでここでは省きます。
彼女はこの三日のうちに少しずつ私に心を開くようになりました。私がなるべく面白おかしく私の職業の失敗談や、相談者の個人情報にあたらない小話をして、彼女を楽しませると彼女は本当にさわやかな、天使のような笑顔をうかべてこういいました。
(探偵さん、面白いですね)
その流れの中で、私はその日初めて彼女のほうから、天使の話をききました。そういう場合、いつもより多くの話が引き出せるのは、数ある私の仕事の中での経験と知恵のひとつでした。
『こういう言葉を使うのはあれですが、彼女には人を寄せ付けるオーラがあります』
ぽつりぽつりと家出をした当時のことをはなしていました。
『最初は、こんなことで落ち込んでいるのはしょうがない、友人の家にお世話になり続けるのも申し訳ない、そうおもっていたのですが、なんとかもどろう、もどろうとしても、なんだか、人々のあたりまえの日常の速度においつけなくなったのです、これまでいえではずっと、いいこのままでいてその、葛藤と迷いの中で、いずれこれに答えを出してくれる人が現れるのではないかとおもっていた、けれど、それは、彼ではなかった』
どんな風にかわっていったのかと彼女に尋ねると。
『はじめは、友達との会話、次に好きな動画の話題、次に家族との会話、きっとそのときは周囲にはぼうっとして危なっかしく映っていたのだと思います、ともかくいつも気を使っていた家族や周囲への目線がどうやってどのような手順をもって行っていたのかがわからなくなったのです、必要以上に、彼に夢中になっているときに甘えていた自分に気が付いて嫌気がさしたのかもしれません』
それから、私は別の依頼の件や、彼女の両親への報告の詳細をこれからどうとでも転がったところで収束がつくように自分用にまとめました。同僚のためにも、書類と今後の予定をメモし、ホテルに荷物を預けにもどり、もし私が何か異変にみまわれていいようにと電話もいれておきました。用心に用心をかさね、まだどこかでニィボやエウゲや、天使リィルが信じ切れていなかった私はスタンガンを片手にいれたまま、用心に用心をかさねて私ではなく彼女“リィル”、家出少女が探していた天使の願いを訪ねるような心持で、彼等の地下の祭儀場へとむかったのでした。
『おかえりなさい』
モグラは行儀よく打ち合わせ通りの時間に私をホテルのフロントで待ち、準備をするのを業業しく迎え、また地下への長く暗い道中を私を懇切丁寧に案内してくれました。人あたりはわるいものの、彼等は彼等也の礼儀をもつようです。(彼等は一説には情報を売ることを生業としているようですが)
この三日目の夜、私はあの祭壇の奥側にあるというある秘密の場所に案内される約束になっていました。天使との直接の約束ではないのですが、この間のモグラとのやりとりで間接的にそう取り決めてあったのです。私はまた地下へと通されます。またこの数週間の間によく見知ったあの表札のみて、奥の事務室を通りやがて天使に出迎えられる事を想像してドアをノックします。
『はぁい』
どうぞ、今準備を終えたところです。と声がかかります。しかし何か、いつもと違う雰囲気に異質な感触をうけたのを覚えています。
『失礼します』
ニコッ
その時、天使が浮かべた表情に一瞬、たじろぎました。なぜなら一日目にみたような、人の心を土足で踏みにじるようなあの狂気じみた一種気味が悪いような悪い笑みがその悪さが笑みから消えて、一瞬彼女の民族衣装の背筋のふくらみが、地下のライトにてらされて白く反射し、まるでせから生える“ソレ”が天使の羽のように私の瞳にうつったからでした。彼女らは私を祭壇の部屋に入るよううながします。私は促されるままに、その室内にはいります。
二日目に見た通り、聖堂というべき場所には、祭壇と簡素な白い家具だけです。その奥にある扉に、私はその上から絵画がかかっているためにそれときがつかなかったのだとそのときにはっときがついたのでした。
『ハイ、どうぞ』
心なしか彼女も、その背後の従者の声もうわずって聞えました。そのまま祭壇へ、祭壇の裏手に鉄製の大きな扉を見て、非常口とそこに書かれているのをみました。その扉にてをあけ、彼女は私を奥へと案内します。
『こちらへ、私が秘密をひらけばきっと』
そういって彼女も従者も私をやんわりと奥へと進めようとします、暗くとじられた部屋を重々しく開け、そこに、まるでこの三日間で一番の秘密が口では証言できないようなニィボや宗教に関する秘密があるのだという事がわかりました。体をやさしく、背中をおされ、私はどこかでどんな好悪の感情や感覚ともとれない、ぞくっとした何かを感じ、その地下の空間が瞬時に寒くなったように思えました。その間にも、彼女らは扉をあけようとします。従者がカギをさし、天使がきいきぃとゆっくりと扉をこちら側にひいていきます。
さびているのか、ていれがされていないのか、見ているだけで重苦しい扉に見えます。私は開いてはいけない扉を開けてしまうような気持ちもしました、胸元にいれた痴漢撃退スプレーやスタンガンの位置を確認します。見慣れぬ宗教と、見慣れぬ祭壇、その奥にあるもの、そこまでは大した不安もなくいられましたが、これ以上の閉所、暗所へ行き無事である確証もありません。
ズゥン
錆びたように熱く、重苦しい扉が開きます。扉の向うには、まだ廊下が続いていました。地下への路は、空調設備とライト、地下はあまりにも狭く、そして荒れ果てて、汚れ、機械やらガラクタやらが散乱していました。
『どうぞ、こちらへ、あなたが“願い”を求めていない事を私どももわかっています、私の予想では彼女も、ですからこの奥へ』
天井の証明は薄暗く、センサーで人の動きを感知して灯をともすようでした。ですから動作するものを検知しなければそれは光ません。それがずっと薄明りをつくり、細い廊下の道中をてらす。なぜこのような場所が必要だったのか、よこしまな、秘密の儀式をしていたのか、心臓がばくばくと音をたて、生唾を呑み込む。私はそれを人に覚られないようにしました。私の前には天使リィル背後に使いのモノが2人ほどいました。皆女性ですがスキをつくには前に向うしかありません。私も女性ですから。私は前へ前へ、虚をつくように、隙を作るようにまるで押すようにして天使の後につづきました。
『そう、焦らなくても大丈夫です、不安もありません、よからぬ事を考えているのならば、私たちは全員女性である意味はないのですから』
ふとその時に気が付きました。そういえばこのニィボは女性だらけ、そこには男子禁制の思わぬ道理などがあるのでしょうか?そこまではこのときの接触ですべて理解することはできませんでした。(質問を失念していたともいえます)ともかくその奥にあるものとの邂逅がとても衝撃的なもので、直前のすべてがどうやら頭の中ではじけました。ともかく、そこで心をさとられ、彼女がエウゲだとわかりました。おとぎ話や、民話のなかで語り継がれる、さとりという存在です。天使にはすべてさとられていたようです。
「ここは、まだ地下の一階層です、火星にはこうした地下がたくさんあるのです、それが路をつくり、最後には巨大なコロニー大の空間に繋がります、光の当たらない歴史がここには積み重ねられているのです、その一部を明け渡すことを、私はデウスエクスマキナに直談判いたしました」
彼女は、いあっまで三日間隠していたような心のすべての重荷を解いたような深く決意のような溜息をつきました。そして、物語を語る用意をはじめたのです。やがて、その一室に入ると先に誰かがその暗闇の奥にたたずんでいることがわかりました。ぼんやりと奥からの光があたり、うすあかりの中になにやら人影があるようでした、それがこちらにきづきゆらりとゆれて、正直言って、そのときは一瞬亡霊を連想しました。
そしてその灯をみて、どうやらその一室は開けた場所にあり、等間隔にならぶ円柱や、配管や配線以外にはほとんど管理さえされていないような崩れかけたコンクリートに囲まれた、地下のふるい施設や通路らしいことはわかりました。薄明りの中で、白く、ただ普通の一室と祭壇しかなかったニィボの聖堂と比べて、こちらのほうがいくらか神々しいとおもったほどでした。その背後に隠れた、薄い白いシートがはられた内側にあるものをみるまでは。
『サ……サニィ?いたの?』
サニィに気を取られて一瞬みのがしましたが、奥にはスイッチ式の証明があるらしくほんのりと代々の電灯にてらされていました。その奥に、祭壇というよりも、まるで何かを祀り、供養でもするような渦高く既視感のある物の群れがつみあがっていました。それが何かわからなかったものの、彼女の、天使の背後の従者がうずだかい山の両端にそれぞれの両手をかけると、バサリ、私の目の前、少女サニィ―の後ろでそれがヴェールをぬいだのでした。
それは、まるでスクラップ工場か、ゴミ山か、不法投棄された人間の怨念か、ともかくそう形容するいかないような、段々に積み上げられた、まるで供養を必要とするような、人間の生活の道具や、愛用品や、装飾品といったような品物の数々でした。しかしそれは、ひな壇上のテーブルの上に陳列され、私が例えばお寺で何かの悪い念があるものを供養する様子をテレビで見かけたときのようなものです。部屋内は他に、その山の前方にろうそく型のライトが地面におきっぱなしになっているくらいでした。それらが下から薄く乱雑におかれたモノを照らすので、例えば絵画なんかは、私には、さらに薄明りの中で不気味に、別の意味では神秘的にうつったのでした。
『おどろきました?』 『い、いえ』
そうはいっても私は内心、異様な光景にやはり宗教の宗教性というべきものに、恐れをもち、おどろいているのでした。
「ここは、私が今までであい、相談をうけた人々の願いや記憶をもったもの、道具や、夢、愛用品や、宝物、宝石や絵画など、人々と記憶と物語の一部を私が受け継ぎ、それを許されただけ、敷き詰めた場所なんです」
彼女はおもむろにその山のはしにあるある本にてをかけました。そしてその山の横にひとつだけあるイスに腰をかけ、私たちにも楽な姿勢をといって、たてかけてあったパイプ椅子を組み立て、こちらに渡してくれました。従者はたっていました。私たちや本に視線をうつし、アイコンタクトで自分の動作を続けます。
「あなたがたの矛盾する願いを訪ねる前に……」
そして彼女の口から語られたのは、その日、サニィからも告げられたある地球の物語の話でした。それは、火星の誰もがよく知る、古の聖地という物語でした。そしてこの場の微妙な空気をたしなめるように、そして自分の話の導入にするように彼女は、ゆったりとした口調で語りをはじめたのです。
――「昔々とある地球のあるところに生命が宿るといわれる岩がありました、それは遠方からも熱心な探求者、宗教によっては信者が訪ねてくるという神聖な場所でした」
私もよく知っている話しでした。要約するとこの言葉に続く筋書きはこうです。その岩は、未開の土地の先住民にあがめられる山の中にあって、そのふもとは厳重に管理され、国からもその先住民の長たちからも、物理的にもその麓の木々に縄がまかれたり岩で封鎖されたりして、立ち入りを禁止されていた。その山に正当な手段で入るには、先住民の許可を得るしかない、先住民の許可を得ることは難しく、信頼を得るには、ほとんど完全に先住民となりきるしかない。それには、5年10年、もっとかかる可能性があった。だから人々は正当な方法をあきらめ、岩をめざした。もちろん、それをしないで自分勝手に入る人もいたが、先住民はそれに起こり、無理やり追い返したり小さな争いもおこったりした。なぜ人々はそれほどまでにその岩に執着したのか?それは宗教的な意味をこえ、人々の中ですがる思いに答えたという“奇跡”の実績をもつ岩だったからなのです。
その岩は、一部の人を癒し、寿命を長くしたといううわさもあった。ただその一方で、多くの人々がその岩を神聖視すればするほど、彼等先住民はその山への信仰を次第に薄くしていった。それでも山や岩の不思議な力は人々の一部を救いはしたし、やはり、その岩によって病気が治っただの、おもいが成就したなどといううわさは耐えなかった。そんな中で、異変がおきていく。山はいつのまにか自分勝手な旅人によって汚され蹂躙され、人間の知識と知恵の結晶であるゴミであふれた。
先住民の人々は元々血気盛んで、古来戦闘民族として知られた。地球政府はその人々や先住民のくらしを都市のくらしと同じように神聖視、または権利を同一視していたが、地球の大きな経済の流れに歯止めをかける装置などはなかったのだった。
そのうち、先住民はその岩や山から、距離をおくようになっていく。いわく“力の流れがかわった”という話しでした。やがて……。
「やがて、その地域の信仰が薄れ、山の景観がひどくなり、先住民の統治がおわるとやがて人々は気づいたのです、もはやその岩に生命を永らえる力は残されておらず、そこに生命はなく、そこにはただ言葉と概念だけがあった、先住民も場所を変え別の山を信仰するようになった
——変わりに誰だか、正体や真相はわからないが、ただ岩には宗教の信者や、そこに今だ信仰や不思議な力を持つと願う人々のために、岩に文字が刻まれるようになった。それはこんな言葉だった。
“人の願いはは様々な経験、罪や徳ををへて、正しく美しい願いになる事を求めているいる。信仰もまた、失敗をもたらすこともある。ここにはただ岩だけがある、羊たち、別の場所をまよい、別の神を信仰スベシ”
人々はその言葉を見て、その山の物語がかつてどんな形であったのかを思い出したのだという。かつてその山の神は、人を生かすこともあったが、殺すこともあった。神とも妖怪ともとれぬものが、人が山を荒らすことをきらって、人に害をなすこともあった。しかしその中でも、正しく取り扱い、正しく願いをかなえることで答える彼等先住民のための神は、その他大勢の人々の神ではなかった。
その他大勢の人々は苦痛だけを持ち帰ることになったのだった。すでに先住民はおらず、管理もずさんに、人々は、ただ“そのパワースポットに、なぜだか人々が信仰をする場所に、見返りをもとめていただけ”。しかし、それからの参拝者が辛い山道、毛気高くそびえたつビルの街を長く長く通り、かきわけてたどり着いた先にあったのは、その文字だけ。それはあまりに苦痛だったのだろう。人々は、その空虚な現実をながめるために遠路はるばるそこへくることもなくなっていく。それは遠方からやってくる旅人や巡礼者にただ、その岩がかつて人々の信仰の対象としての力があった過去とその名残の形を自分の目でみろとだけ呼び掛けた。
しかし、いつしかそれは“旅をする宗教”として地球の人々の中に語り継がれる物語となったのだった。そこでその物語と、エウゲのリィルの本の話はおわった。
「火星も同じく、“機械統治によるフェアな世界”という正義と名目をもとに、文化や宗教や哲学や理念よって、人々はそれが美しく正しいと思うものに生かされ、つき動かされ生きている、それが疑問だと思う人々は必ず迷う、人々は生活の中で、競争の中でいくつものできごとに足をすくわれ、いくつもの夢や希望が置き去りにされる、サイコカルチャーやエウゲは、相談はできるが必ず答えをだせるとも限らない、だからここは、“ニィボ”の、宗教のもう一つの面、文化的な面であり、夢や願いのの廃棄物処理場なんです、人は、必ず一人では弱く、人は、かならず思い通りの振舞う事ができるわけじゃない。慣習や、宗教や、個人的な動機や、そのすべては、絶対にデウスの予想通り、機械的に折り合いをつけて決着をつける事はできない、私はそのことをこの物語からさとりました、そして、大勢の人々にとってこれが意味のないモノの山であることも理解しています、ときに恐怖し、ときに気味悪く思うでしょう、でも私は、私の信仰が息づくかぎり、彼等物語の語りての残滓とともにいきなければなりません」
彼女は息をひそめました。
「人間はそもそもサイコカルチャーが現れる以前から、何度も、人の気持ちや自分の気持ちを往復して、人の言葉や自分の言葉を往復して、そもそも、集合知をつくって文化をかたどってきた、サイコカルチャーと呼ばれる思考の共有空間、それらは概念や感覚としては本来存在していた、なぜなら、それは、確かに概念として人と人の中に存在しているから、サイコカルチャーは、もし言葉に変え、数字に変えることができるとすれば、それは、人が人を理解しようとする行為や、言葉や行為そのものを省略する概念だと思います」
彼女は何の脈絡もなく、準備も静かに、たちあがりその持っていた物語が書かれた本を宙にうかせて、あるべき場所にもどします。
「す、すごい、本当に?」
超能力というべきそれをみたのは、私の人生の中で初めての経験です。私はそれでも、その場所の異様さに声を失ったままでした。パイプ椅子にこしかけ、彼女と、渦高いモノの山をみて、私は大勢の人々が皆一様に覚えるであろう、確かに似た奇異の目で彼女とそれらを交互にみわたしていたのでしょう、なぜならつみあがったモノはそれぞれ単体ごとが一定の法則もなく本来の用法から離れてただちぐはぐにそこに集うという意味以外には何の法則もなく、山のように暗くつみあがっていたのです。
「私は人にいくらいい事をいう事ができても、自分自身を励ますことをせずそれを実行するに至らなかった人間です、願い、夢、欲望、はじめにこの場所が、天使の聖地として扱われず、奇異なる目でみられることもしょうがない、もしこれが宗教でなければ私はただの狂人です」
「でも、あなたはまだ若い、普通の女性、まっとうな人間じゃないですか?」
私はおおむろにたちあがり、天使の背中に敢えてふれるほどの距離まで手を伸ばします。彼女はそのそぶりをみせて、初めて人間的に、おびえた様子でした。怖いのか、私の後ろにサニィはよりそってたちあがり、私たちは、ふと従者以外すべて手の触れるほどの距離にいて、まるで互いの過去の傷を埋め合わせするようにゆっくりと空気をすい、はき、そして呼吸と時を同じくしたのでした。その中で、時期をうかがい、私が尋ねます。
「ここは、先ほどのふるい物語にある“古の聖地”なのですか?」
「そうともいえるし、そうでないのかもしれません、私はこれを人に魅せ、ひとに評価される、“詩的センス”や、テレキネシス・テレパシー能力をもち、そしてそれを私の出来る範囲で有効に活用してきたのです」
そのとき、天使はまた高いモノの山をかけわけて、そのひな壇型の山をみあげて振り返り、そして右側にあるはしごにてをかけ、つて、つてとひとつずつその梯子を上り始めました。ゆっくりと、確実に、私は彼女がポケットにそっと新しい物語を持っている事にきづかずにいました。その上にひとつ、ものをおきました。それをおきおえ、梯子をおえると彼女はまたそれらすべてに礼をします。私が何度もこのニィボでみてきた、敬礼をうんとたかく、腰まで落としたような姿勢でした。そしてかをいいよどんでいる様子をみせました。
「結局私は、実際に、生かされているということの苦痛に耐えかねていた人間でした、確かに火星では安全や普通の生活が約束されているとはいえ、地下の人間や地上の人間だといった区別は行われていて、その中でたまたま能力を持つ自分が、何をすべきなのか全く見当もつかなかったのです、病室を抜け出し独り立ちをし、自由に宗派をつくり、信仰する人、相談に来る人の相談にのりここで救われたのです、今まで私が、あの狭い病室や、地下での生活に耐えていたわけ、自由に羽をのばすことができているこの場所にあったのです」
サニィに軽くてをのばし、肩をたたいてそして彼女天使は、シャツを開き自分の背中を軽くあらわにさせました。彼女の左肩、そこにはこのゴミ山とも似た、精密機械の内部のように乱雑に絡むコードをむりやり縛り付けた集合物のようないびつの形の羽がありました。
(痛々しい)
私は思わず目を背けるほどその光景を拒絶しました。けれど彼女いわくそれは“最低限生体を維持するために必要だった装置”だったそうでした。
なんだか空気が重いと、そのときサニィが背後で少女がはなしていて、従者がその肩をだいていました。私は夢中で、ニィボの主宰者である彼女のいうことすべてをメモしていて背後の動静をはっきりと理解しているわけではなかったのです。彼女は、あとから従者にきくとこんなことを延々と話していたようです。
サニィ 「何か、本当に、地上の重力を感じるの」
従者 「どうして?これまで普通だったでしょう?」
サニィ 「これまでは普通だったけど、異様に体が重い、この場所のせいかしら、わからない、こんなに敏感に感覚が反応することなんてなかったのに、私はあらゆる、苦痛や痛みに、誰よりも強いはずなのに」
私はそのとき、家出少女のその話しをきいておけばと、そのあとのことを考えるとただ、少しの後悔が残ります。
天使は後ろ姿、民族衣装の中の今風の薄く白いシャツをはだけさせたまま、そのあるがままのいびつな羽、いびつな生態を私たちにみせました。信頼以上の何かが、その三者、私と、家出少女との間にうまれました。その緊張感は、まるで見えない透明の円柱が突如としてその空間に出現したかのようでした。私はただその時の光景と情景に威圧されて、体に重力が、必要以上の負荷がかかっているように思えました。
「人々やエウゲが得意な事は、その他の人々とは違う、そうやって私たち人間はお互いを信頼していられます、私が不得意な事は、人が不得意な事とは違う、私はそれを生かすことで、曲がりなりにもエウゲとしての自分の才能に挑戦をしようとしたのです、それでもうまくいかないときに、この超能力はエウゲに託されたのではないかと、私の宗派では考えているのです、だから今は私は、人の相談をききながら、私の相談を彼等にもちかけることもあります、エウゲは確かに、エウゲとして生きる強味もあり、反対に悪い立場にあるし、私は人が人の思いを察するのは、基本的に不利益ばかりしかないとも思う、想像されたように、不正を働くことはもうできない、なぜなら、それよりも機械のほうが、デウスエクスマキナのほうが人の心や未来を計算し予測するから、それでもエウゲは実際に成果を残すしみちしか今は残されていないから、私は、だから私のような占い師的な宗派は、見返りのない仕事をしていることを自覚しています、それでもそれが大切だと信じるのです、私は私の美意識のために、この宗派を開いたのです」
そして続けて彼女はいいました。とても天使とは程遠いような声色で、こういいました。かつて地下の病室にいた事とそれにかかわる話しでした。サニィは、少し壁にもたれかかり、片方の手をだらんともたれかけ、片方のツメを手入れするしぐさをして、長くなりそうな話をそれでも、といかけられれば話すように私たちすべての人にアイコンタクトをして聞く準備をしているようでした。
天使は軽快に、まるでステップでもふむようにして、うずたかくつまれたものの山の前を右往左往してこちらに、続く物語を語りはじめたのでした。
「あの病室でも同じことをしていたの、そう……」
「相談にのり、アドバイスをして、人の能力をほめたたえるような、地下の暗い病室で、それでももう少し自分の周りの人間のすばらしさと、自分にふりかかる不公平な現実に疑問をいだいてその価値を、本当の意味で見つめたいとおもった、だから少しでも人々の生活の苦しみや喜びを病室の中で親身になり“想像”することで、人々の暮らしに光を指す事はできないかと考えた」
そこで彼女は立ったまま腕をくみ、口に手をあてて、私たちそこにいる人々のと間の空間を見やり」、苦悶の顔をみせました。私の心を読む時にも、きっとサニィの心を、家出少女の心を読むのにも苦労はしなかった人が、人々の感覚の細部や経験の細部にふれるときに浮かべた苦悶はきっと、それが簡単な事ではないことを察しての事だったのだと思います。
「人の相談にのり、知人や友人をふやすことで、それが生きている事の代わりになるのだと信じて、生きている実感を得る、病室で闘病を続けていた少女時代はずっとそんな毎日だった、不満を言う人もいるし、感謝をしてくれる人もいた、それが毎日の楽しみだった、そうやっているうちにも私の体は生かされてながら、サイボーグ化していった、私ははじめ、機械化されていく体に倫理の断片を見て、違和感を覚えていたが、小さかった私を生かし、希望をみせるために私の改造されるからだが、外部に出る部分が、天使の羽のような形になることを、医者からきき嬉しく思っていた、けれどデウス・エクスマキナや周囲の環境から与えられている自由と幸福に、まるで贅沢でわがままだと思うけど、檻のような、徐々に違和感を感じ始めたの」
彼女は地下の暗い部屋で、両親と家族のやさしさ、この火星とデウスの愛をしっていた。そしてそのために貢献しようと、人々の話を、苦しみや悲しみや喜びをすべて、話しの中だけで知ろうとしたのだという。それが違和感だった。天使の羽が徐々に大きくなり、それが美しくなり、そして自分の本来の姿がまるで最初から、生まれたときから人よりも優れたものであるかのように目立つようにことの意味を悩みはじめていた。
地下の人々の中には、その羽を美しくして、人生を芸術として地上の人々にみせれば、いくらか今よりきらびやかな生活が送れるのだと主張するものもいた。なまじっか、言葉もうまく詩的な感性をもつので、彼女はそれを考えもした。でも何か引っかかるものを覚えるのだった。
「羽を美しくするという話は、そのサイボーグの体が完成する大手術の1年前、私が13歳の頃。地上の芸術家や、医者や国の科学者、デウスエクスマキナや賢者の対話の中で、それに関わる技術者や国がが決めた。人々はそれが彼女に与えられるべき《当然の権利》だと主張した。一度完全に羽がはえ、「天使」とよばれはじめたのは今から3年前、7英雄の物語が語り継がれた100年も後の話。綺麗な形になったが、けれど彼女はエウゲとして、そしてその羽をまるでそのせいで人々の中において神格化されて扱われることを嫌った。そして、幾度も手術がつづき、彼女の難病がその羽によって病状が安定しほとんど克服されたころ。彼女の背中の異変が本当に天使の羽の形になったころ、葛藤が現実になったそうです。この羽は自分にふさわしいものかどうかくる日も来る日も考えていた。悩むようになった。それと同時に自分の中にあった詩的、美的なセンスが不調をきたしているのを理解するようになった。それは彼女いわく“機械が故障する”感覚だったという。景観としては美的な機械が、内部ではごとごとと違和感をもって動いている、それが故障していて人々がそれに気づかない、そんな恐怖に一人、孤独の中で苦しめられることになった。それが半年ほど続いた」
それは、あの時の彼女の言葉を直接表現すると“檻のようなもの”だったそうだ。拘束されている筈のない不自由のない生活の中で、具体的な閉そく感を感じた。それはいくら彼女が人の気持ちや人の辛さを物語にしてかきとめても補いきれないようなものだった。それは決定的な違いだった。人々は彼女を、彼女は人々を、まるで別の存在だと感じて、その別の存在の違和感や畏怖の面を生活のための糧にしようとする。けれど彼女の本心は違った。
彼女はそれぞれの微妙な形や苦しみや喜びの違い、物語性の違いを“形にできない”ことをきらった。エウゲという種族、集団は、もともと定住なき移動民族だった。そして彼等は独自の文化と職能技術をそれぞれにもち、人々の文化や宗教に多大な影響を与えて来たのだった。それは、彼女がいわずとも、火星ではよく知られた事実だった。だからこそエウゲは差別され、批判される。能力を嫉妬するものたちに。
「しばらく調子がもどらなかった、ただでさえ調子が悪いのを、我慢して、唯単に無気力な時期でしかないと、周囲に相談や、会話をする気のない振りをしていた。けれど多くの本をあさり、火星の歴史をたどることは欠かさなかったのです。
その病室の中では世界をしる事はできなかった。文字や本や、人の言葉の端々から世界を理解しようとするけれど、理解していてもうまくいかないから悩みがある、そして私は、コストなき人間だった、人々が私に相談しに来るわけは、実は私を見くだしているのではないかと、そう考えるようになっていたのだった、その時にはすべてを知ったふりをしていた、何もしらないのに、生活の苦痛も、何も、けれどこう考えていた、エウゲに対する差別も嫉妬も、元をたどれば、同根の問題ではないか、条件付けの檻と儀式を超えること自体が問題になると、実は機能不全になるのではないか」
メモ・機能不全の社会、かつてそれは、英雄以前に賢者がデウスエクスマキナの肩棒を担ぐ前、彼等がその助役となる前に、打ち上げた説。
「火星は地球の文化と文明のたどった道をこのままでは繰り返すことになる」
その後、提案とデウスエクスマキナの計算により、人々の住み家は大きくコロニー単位にわけられ、人口が管理されるようになった。彼等はよき麻酔として電脳カルチャーを提案し、電脳ドラッグを提案した。それらは今の時代の中でカオスネットと感情ドラッグとして扱われている。有機的実体と無機質な機械の仮想現実をつなぐ二大要素になる。
それから、デウスエクスマキナや、英雄やエウゲはもっぱら人のプライベート性とキャラクター性を守るための存在している、しかし、時代が進むと、英雄は消え去り、人々は心の支えを失っていく、それに合わせて、何かの経験や物語が枯渇していることで自分を自分で攻める人々が現れた、これは時代の変化らしいことがわかった、その時、疑われ、批判されながらもエウゲは人々の想いをくみ取った、それが行き過ぎて、戦争を支えた歴史もわかった」
―本の中で、私は私の特質を理解しはじめた。私はそのとき私の人生にこれまでにないほどに執着して、日の当たる方法を探した。私はその流れの中で、その人々の苦悩を体現する事によって、その先の何らかの導になる目的を持つのではないか。それが人の心を読む能力のその先へ挑むことではないか。それがたとえ天使のような羽を手にする事ではないとしても。
人々が、あるいは私自身が、突然に絶望に包まれることがないように、人のために心を使ったはずだった。それがいつしか、暴走してしまう気持ちは、きっと汲み取る必要のない心を無理にくみとっていた。
そうすると私は、見返り無いどころか不調になる。自分だけがしんどいと思うと害をなすし、自分の見ているものだけが世界だと思うと、人の超えて来た経験や、葛藤を無視する事になる。人はそんなに、大勢の人間にとって開かれた存在ではないので、デウスや賢人は人々の間に絶対的な距離があるものとしてコロニーをつくった、簡単に、いとも簡単にその距離を他者が埋めてはいけない。ましてやそれが“存在しない”と語る時の粗雑さは、何らかの暴力と友にあった。
その時期、次に病室に現れたのは、奇妙な小鳥たちと、それを滑る野良と化している、かつて人に飼われていたらしいオウムだった。
「アサノタイソウ」
まるでそれは、私の落ち込む仮定をなぞるように、マネをするように、それでも励ます声だった。
「アサノタイソウ」
それは偶然か、必然か、私の病室から見える風景、コの字型の内側の庭に、小鳥たちが私の落ち込んだ気分をすくおうと、ほとんと2週間ほど、毎日手助けにきていた。私の慢性的な病弱な部屋に、動かないからだと思い心のはざまに見えない壁があるように思えていて、けれど私は病室で何も学ばなかったわけではなかった。だって、私は何度もその壁を乗り越えるために、いろいろなものに対する好奇心を、私と対等の人々の関心や労力や努力を、私の角度で理解しようと想像を匠に膨らませて来たのだったから。
小鳥たちが、奇跡のような喧噪を町からもちよった、最後の週の三日目、一度だけこの言葉を連呼した。
“英雄は、君かもしれない”
その言葉はかつて、太陽黄金祭を開いた英雄たちが語り残した言葉だった。
何がおころうと、ただその事が起こっただけ。それでも人は一時的な集中力を使い、それを自分の中で理解しようと、便利に理解しようとする。
いや、それがなんであれ、運命であれ、偶然であれ、目の前の出来事や仕事や、日常は、そもそも人間がこれほど束になってさえ、完全に理解することが不可能な事なのだ。
それでも私は疑いを晴らすことができず、本の中から、100年前の英雄から違ったメッセージを受け取った。人々は彼等を希望の象徴ともいうけれど、私は違った。
次の契機になったのは、約100年前の文献、思想家の本だった。主従契約説と平行契約説。デウスと人々は主従契約を結び、賢者と人々が平行な契約をすることによって火星の政治や制度や社会、文化は成り立っているという説。それは英雄が太陽黄金祭を開いてから、生まれた通説。
平行契約説のために、賢者や英雄は、(寓意の文脈)をつくった。英雄を信仰するものや、英雄に憧れるものは“物語の中から寓意だけを抽出しはじめた”。そして人々は暗闇に、恐怖や不安を感じることをやめ、英雄が生んだ光をみたが、私はその文脈と歴史に負の側面をみた。人々が具体的に何かを語ることなく、ただの文脈の中だけで暗黙の了解で儀式を行いそれで何かを解決したフリをしてしまうこと。
人々は寓話のために、隠喩のために英雄からキャラクター性を盗み、または模倣し、日常の娯楽にまぜる、または装飾品で聞かざることで、動物的なモチーフを体にまとうようになった。
そうだった。私は、そのモチーフ自体を恐れている。天使の羽ではなく、モチーフ自体になる事を、私は恐れている。それから私は秘密の時間をつくるようになった。秘密の空間を作るようになった。それは世界と私との間にある秘密の空間であり、それは壁だった。
またそれから数カ月がすぎた或日、訪問者がきた。その病室での彼女の存在はいまのように形式じみた宗教ではなかったが、彼女の神聖さやカリスマ性を信じるものはいて、リィルはその中で人に要求されると、美しい言葉をつかった。その中でリィルは自分に詩的な感性と才能の素質があるのだと自分で理解して、それをその時の自分の(職業や仕事)のようにとらえていた。詩の才能。それは病弱な彼女が、たった一つ続けて来た事、努力の証だった。事実彼女は、そこからのみ活力を得ていた。数ある相談者はほとんど彼女に対等の優しく温かい言葉をかけ、そして同様に彼女にその言葉をかえした。けれどいびつな存在もいた。それはエウゲだ。エウゲはいつもそれとは絶妙に違う《何か、別の世界》をつれてくる。その謎がある限り彼女は病室で生きることも、現実に生きることも退屈もしなかったし意味を見出し続ける事ができた。その一人が、まるでガマガエルのような顔をしている、そして優しく温かい瞳をした、エウゲの老婆だった。彼女は親密な相談者でもあった。
「その女性の相談はいつも妹の事でした。小さなころから仲が良かった同じ性別の少女、その少女がいつも大事にしていたものを一度だけ裏切ったことがあった。初恋の男性のことだったそうです。それで嫌煙の中になりなんとか今はうまく関係を保っているが一時は縁を切るほどに悪化した関係を気付いていたそうです」
彼女リィルは病室のときのことを、私とサニィにゆっくりとはなしかけてくれました。まるでその優しい輪郭を童話のようにまるく角を取ったように彼女らしく詩的に言葉を選ぶさまをまざまざとみて私とサニィは、エウゲでなくとも彼女のその心情をはかろうとしたのでした。
『彼女は、いつも私にヒントをくれた、人の相談に乗るヒント、自分の身の廻りの親切なだれよりも私に関係のあり、役立つ話をおしえてくれた、私と同じ女性で、それも年配、身なりも綺麗で、相応の美容にも細かな注意をはらていた、妹のほかにも苦しい過去を持つといっていた、罪を犯したとも、それから罪をごまかし生きて来たのだといっていました』
その物語を今この場でことこまかに描写するのを避けますが、人には必ず自分ひとりで決意をして、何事か決意をたて、旗印をつくり人を引き付けて、事をなさなければならない瞬間があるということでした。
けれど老婆は、一時期から同じことばかりをいうようになった。それは年配で、それに高齢であったために小さなことは無理はないのですが、そうではなく老婆は、いつものようんみ藤色のスカーフを身にまとい、彼女が、いえ天使が自分の羽やからだについて悩んでいるとこんなことを口走るのです。
『もうじきそのときがくる』
数ある相談者の中で信頼のおける数人をしぼれといわれれば、老婆は必ず少女の中において信頼のおける人物でした。けれど一時期から、同じ言葉を話すだけで、自分の相談さえすることもなくなったので、リィルは変に思っていたのですが、その数週間後、夕方に訪れたとき、彼女こういう言葉を投げかけたのだそうです。
「近頃……」
いつもの病室で、見舞いのフルーツバスケットを届けに来てくれた老婆は、いつもの手順でその中からひとつフルーツをなぞり手に取り、選んだフルーツを向いて、手に取る器の一つを彼女にさしだしました。この日は、そのしぐさの微妙なテンポの違いと、奇妙な口ごもりの間に違和感をおぼえたそうです、いつもよりいくらか、背を丸めているようにもみえたのだという事です。
『お前が来る日も来る日も何か悩みを抱えているのはしっている、それに答えを欲して私をたよるのもわかる、だがそれは、違うのだ、少し、誰もが心の中では、何かの欲求に対して思う節がある、その欲求をうまく再現できない、あるいは近づくことができないときには、一人分の魂の輝きがうまれる、それが生まれなくても決して自分をとがめるな』
いつも花やフルーツバスケットを病室にとどけにきてくれた。地上の人か地下の人かもわからないエウゲの同胞、そして信頼のおける数人の中の一人であった人生の先輩の老婆は、きっかり、それを最後にこなくなったのでした。
羽はいつしか重荷になりました。私は結局、人を助けることをできても具体的に芸術を形にする事ができない。あの期待と責任を投げ出した意味を、その罪滅ぼしを選んでいるみなのかもしれない、私も一人の不条理なのかもしれないとそう思うのです。
そして、彼女自身が人の才能を伸ばす能力に自分で気が付いたとき、ずっと来る日も来る日も背中の羽のことを考えているとその次には、ある夢をみたのだそうだ。その夢についてはいくつかうわさ話もあり、エウゲに関する情報として人々の間で一般的に認知されているものと同じだった。
幾日かかかる倦怠感、そして【夢】をみる、まず怪物(あるいは神のようなものを見る、人によって違う)、そのそばに痕跡(爪痕や、足跡など)、湖、儀式をする人々を見る、最後に精霊をみて、精霊が自分の形代だと気づく。
形代は、肉体ではない人の別の器。エウゲがその本質や能力を隠しているもの。それを発見し、手に取るとエウゲはその夢を見た次の日に第六感的能力を発見する。
始めてあったエウゲからそれを聞いた。それは“超常的サイコカルチャーの通過儀礼”と呼ばれているもの。その夢を見た人々は、次々にそれぞれの能力を覚醒させる。デジャブ的な感覚を伴うものだ。
「あるとき私は夢の中で、病室で、人々に尋ねてこられることも人への期待へもうまく答えられずに、ただ天使の羽と私の本来もっていた気質(無駄に人に気遣いをする部分だとか)を悩みにおもっていたころ、ある夢をみた。その夢の中で、私の才能は開花した。私は暗闇の中からでてくる声をきいたのよ、それが何の声か、何をもたらすものかはわからないけれど、私はそれを信じるしかなかった、その声は、“あるがままのものから、良いものを探せ”と私に呼びかけた、それは私は本当の天使の声だったとおもう、とても異形の形をしていたけれど(時計があちこちから生えて、その中央に目玉がある形、私はそれを祭壇でもみた、それを彼女は“耳の神”だといった)だから、いずれ訪れるはずだった死を元の形の戻す決意をしてしまったから、もう何の不安もないのよ、私はその流れの中に身を任せていることを感じ、そして、あの声をきいたから本当に何事かの美しさを理解しようとおもったときに、なぜだかいつもサイコカルチャーなどぬきに、人のいおうとすることがわかった」
その時の私のノートのメモには走りがきでこう書かれています。これは後付けで詳細をインタビューしたときにかかれたものなのでしょう。
彼女は、暗闇から聞こえた声をこのように形容していました。
薄くゆらめく暗い部屋に、もうひとつの静かな気配があり、影の中から、形容しがたい影をまとう渦が現れる。その気配はこちらにきづいて、様子をうかがっているようだ。気づけば自分はその中にいたことを思い出すが、声も音もなく、何物も何事もおこらないので、ふと気を失うことさえある。しばらくするとその影から何かがのびてきた。それは触手のようなもので、自分を自分の輪郭をすくいとるように、こちらに接触を試みていた。やがて、うずまく影の異形の中に彼はいた。彼は形を影から表すことをきらったが、ただ彼女リィルのテレパシーをきいたのだった。そして答えたのだった。
――《お前はまだ殻にすぎない自分の姿と形を定められないでいる生物。悲鳴、私から生まれた、私の中の悲鳴であり、私の中の喜びだった、私の中の欺瞞や不満をすべて理解させてくれるヒント、だがお前は時折時と空間を失う、何も求めない魂こそが、あらゆる出来事にふさわしいというのに》
【ここは……】(ここで彼女は息や声がつまるような閉鎖性をその暗闇に感じでもだえていた、その空間にはデウス・エクスマキナの灯も、サイコカルチャーや電脳仮想空間の情景もなかった)
《命あるものの美、美しさに従い、理解し、咀嚼せよ。することで、お前の醜さ、美しさは免除される、永遠の流れを見聞きし、矛盾を消化せよ、流れを遮るな、星を回せ、流れをせき止め、利益を貪るか。あるいはお前のなけなしの美意識を形にするか、それだけでお前の命は定まる》
(あなたは誰?)(ここで彼女はテレパシーを使った)
《我は神の使い、我は悠久の時の形代、汝らは、岩の体現者、永遠の流転のおちてまわる宙の砂礫》ーー
『その夢が真実であったか、そうでなかったかは関係なく、私はどこかで人を支配しようとしていた自分の心に気が付いた、それから支配ではなく、ただ自分の手の届く範囲の程度の正しい行いを探しだすことにしたのです、
私が人々の自由に嫉妬し、人々から、病室という隔離された安全空間にいて、天使とよばれることに、幾人かからあびる嫉妬の目をきにしていたこと、それから、私の理念は、受け継がれてきた火星の良さをうけつぎ、そして今うまれるべき火星の良さを伝え聞かせることだとはっきりと旗印を心の中にたてたのです、私は長らくこのことを理解していなかったが、私の姿勢や、人の姿勢は、その人の行動にあらわれていた、自分の理解が足りないと、必ずまず人をしばろうとするけれど、一流のエウゲ、そう、あの老婆のような人は必ず人の姿勢と自分の姿勢を照らし合わせる事をする』
『けれどエウゲならば、そのことは、初めから予期していたりとか』
私はそのとき、思わぬ形で口をはさんでしまったことを後悔しました。なにより耳障りがよく、そして人が話したい事を話してもらい、そのあとで質疑応答するのが、私のような身分や職業の人間にとって大切なマナーなのです。
『あ、すみません失礼なことを』
『エウゲとて、普通の人と同じところもあるのです、それにエウゲとて、人の心情を支配的に操ることはあまりできません、よく言われるように悪事はすべてのエウゲに筒抜けになります、それに、たとえ人の心をよんでまるで会話をかわしたようにふるまうことができても、実際のコミュニケーションの手続きをふまなければ、たいていの場合は狂人の一方的な戯言ですから、
私にはいくつもの顔があります、それを横断することができることくらいです、旗印を目的とするためには、秘密を作る必要があるときもありますが、それだってもちろん、人々の同意がなければ、何事もなすことはできません』
そのとき確かにエウゲに伝わる、万物の持つ美しさと才能を開花させる能力を彼女自身“継承”したのだそう。そしておまけにその時、彼女はもうひとつの“資質”を手に入れたといいます。人だけではなく、“モノ”の目を見ること。彼女は一つ一つのモノやそのモノの持主が持っていた物語を私にきかせてくれました。古びた時計、その持主が古物商だったこと。羽ペンのふるい持主が実は地球の領主だったといわれているいわくこういう事だとか。
『サイコカルチャーが人の思考をよむという事を、我々エウゲは法により規制されている、その中で、持たざる人々への最低限の倫理と敬意を、どうやって維持するべきかは今でもわからない、私は、もうじき自分で死を選ぶ、なぜなら、私はもう十分に、用意された人生を演じ切ることができたから、それができたとき私は決意をしたの、この奇跡的な死の克服、回復と幸福な人生のために生きようと、でも、私の役目はもう終わりかけているとも思うの、なぜなら、私はすべてに納得してしまったから、私の存在と世界の限界のすべてに、その波がもうじき理解できなくなる気がしている影が“永遠の流転”となづけたものが』
それは、彼女が短い人生に納得して、それを全うするためにはいた言葉であることは、私のようなものにも理解できました。
素質を手に入れ、変わりに美しい羽を放棄し、いびつな形状の羽を手に入れ、西の病室にはこれまで通り来る人々と、これまでのようにはもてはやさなくなった人々があらわれました。そこで確かに美しい羽をもらっておけばよかったとも考えましたが、病が病、苦痛が苦痛であるという事実からはもはやにげられず、それを人に伝えることの使命にもとりつかれていた。だから、結局のところ生きることにも死ぬことにも迷っていたのだそうです。そんなとき、同じようにエウゲの宗派を開き、独立して生活をしているという先輩からアドバイスをもらったのだそうです。
“宗教は救いであるのか?文化は救いであるのか?その形は正しいかどうか、それはやはりその誠実さにかかっている、けれどあなたはいつも誠実だった、他の人には可能であるかどうかわからないことを、あなたはしたのよ”
『私がトランスカルチャーと、私の宗派の限界とできることを悟り、自然な死を求めたとき、私の師匠である“ウィシ”が話してくれたことです』
『その、たびたび口をはさむようで、出過ぎた行為ならすみませ、あの、具体的な話として理解できない部分があるのですが、エウゲの人々がー悟ることによって、その体験によって才能を開花させるー話は聞き覚えもあるし、事実一般的によく知られている話しではあります、ですが、実際貴方の中で何が変化したのか、これは個人的な興味でお願いしたいのですが、“何が”かわったのでしょう?』
『エウゲの能力はは、信じられているから成立しうる、人々は長らく直観の正しさを疑っているが、それは一部には、かつては正しく機能したことがあった、私はその大きさとその“賢さ”について考えた、人々は、エウゲに常に物語をもとめ、そのために私は求められ、あの狭い空虚な教室の中で、自らの内に存在する“意味”を極論記号化して、省略して人々に示すことができた、“何のために、人々が自分の物語をもつか”ということは、もたざる私にとってそれ自体が私の探求心をくすぐった、人々は、物語や過去から、教訓をもとめる、それが教訓の形をとるのは、おなじ失敗や不幸を防ぐためであり、けれどたいていの場合人々は、失敗しなかった場合にその行為ともたらした成果を記憶の深淵にしまってしまう、だからそれを、最適な“小ささ”にとどめ人々の内部からその“宝物”をみつける、私はそのためにいるのだとある意味自分に言い聞かせることにした、それが私のさとりだった』
天使はひとりで、胸に手を当てて、ずっと一人で抱え込んでいただろう“物語”を語る。それは空虚にみえて、一人の小さな無力で謙虚な大演説家の、閉鎖された地下の、独演会だった。
『それから、この地下でデウスエクスマキナに許された旗印を建ててから、私は人から受け取った物語をできるだけ小さく収めるようにした、その時人の話からうける教訓をできるだけわかりやすくする、エウゲの始まりは、放浪者、しがない物語の語り部だったという、私にも師がいたようにエウゲには必ず一人には一人の指導者がいる、多くは語らないが、多くのエウゲでない人々にも、影響をうける人がいる、けれどその影響は、ほんの限られた偶然の中、ほんの少数の中にしか生じないようになっている、なぜなら人々の心は、あまりにも距離がありすぎるのだ、趣味も趣向も多種多様、資本主義の行く先、行き過ぎた先にあるものも、火星は経験をした、コンピューターとネットワークの発達、トランスカルチャーの発達と反対に、人々の目的や欲望の大きさは、そのあまりの巨大さに大きくなればなるほど不安定になった、デウスエクスマキナが、思想家の考えを引用したわけがそこにある、つまり初めから“人々は自分に似通った少数の人々からシグナルを受け取り、そのために生きるのだという”核心にもにた感覚に、私はあの病室の意味を見出したのです』
その時、話しを聞きながら動揺し、天使が抱えているものの大きさにおののいているような様子の彼女、サニィは、口火を切って本心をかたりはじめました。
“私は、大事なことをわすれていたのです、日常の大切さ、それが、私にとっては重要だったこと、家族の信頼や、友人の信頼というなによりも重要なことを、それを大事にすることを、エウゲという苦しい境遇の中で先生は自分にそれをいっときのごまかしであれ、それをくれた、だから今までここにいた”
そこで私は彼女が決意をしたと理解しました。彼女の肩に手を伸ばし、かかえるようにすると、彼女は少しばかり嗚咽混じりになき、やがて中央コロニーの我が家へ戻るという決意を語ってくれました。そこで私は考えてみました。探偵としてこの後、この子と家族にできること、手順を踏まなければいけない。この家でからこの家族が誤解を解くことができ信頼をとりもどし、さらに、意味を見出せるように。この話は、“風変りなエウゲの宗教への勧誘”という事で事を収めることにしました。まるで一方的な被害者であるように、そうすればきっと、彼女がこの宗教やエウゲに対する自分の見解を語るだろう。けれど、そうやって段取りを踏んだ時、思いがけないことがおこったのです。
私は彼女と一緒に戻るとつげ、PFへその事項をメモして、廊下を戻ろうと話しかけた瞬間。天使が彼女、サニィの片方の肩を抱き、ふたりで一緒にたちあがろうとした、その時でした。
「先生、危ない!!」
そのときです。モノの山が崩れ、アンダーグラウンドの瓦礫の一部が彼女たちを襲いました。この部屋は、天使いわく特別に無理を言って設けられた場所らしく、もともとは部屋ではなく、ただ古びた管理の息届いていない通路のひとつだったそうです。瓦礫が彼女たちの上にふりかかります。それは時が停止したように、不条理な運命。生きようとするものと生きることをやめようとする人の上に同時に一瞬でおおいかぶさろうとしました。それは人一人分の幅と大きさがあろうかという、大きな瓦礫でした。
私は走馬燈のように彼女たちに見入り、彼女たちの物語をいままで本当に今まで全力で見なかったことを後悔しました。もし不測の事態がおこったとしても私は探偵として、いや、人としてどこかでこれを人々が納得できる形に記録しなければならないのです。だから猛烈に反省し、後悔しました。もっと書き留めておくべきことがあったと。
『あっ』
その瞬間、私は見たのです。エウゲに特有のテレキネシスを。瓦礫が、中に浮いていたのです。彼女たちの間、私の目の前で、人間一人分はあろうかという大きさの瓦礫が宙にうくのを私は目撃したのです。
「これが、天使の力」
「あなたがやったんですね」
天使は、わなわなとふるえていました。テレキネシスの後遺症だと一瞬、私は感じましたがどうやら、そのテレキネシスを使った犯人は別にいるのではないかと、彼女の動揺をみてさとりました。彼女の目が、そこら中あちこちのもの、それから背後の従者にうつりました。しかし従者は、その古く白い民族衣装にみをまとい、けれど彼女二人のように動揺はせず首を振り、急いでこういいました。
『お二方、私どもではありません、私どもは今、帰りの路を案内しようと振り返ったところで、今何がおきたかさえ確かではありません』
続けて、天使がぽんぽんと少女サニィの肩をたたきいいました。
『私たちが本家と別の宗派をつくるとき、それはただ単に独立した意思をもったときの場合もありますが、もうひとつの場合もあります、それは、本家に直系する力をもっていなかったとき、直系不適格の烙印をおされたとき、そのようなものは、なかまのようにより深く人の想いを察する事はできません、そのような血の風習はやめたほうがいいと常々、私の師匠は……ですが、そのようにして救われたものもいるとききます、つまり“エウゲであることを忘れる”ということによって』
もう一度彼女のかたをたたいたとき、サニィはさらにふるえてないていました。
『こんな、こんなはずじゃ、忘れたはずだったのに』
「私は、ハッキングをしない、私は、テレキネシスを使わない、なぜならそれは人の心を読む以上に人の心に干渉をするから」
(ハッキング?)
俗に、法律で禁止された以上の魔力を使うとき、それが犯罪に扱われようとそうでなかろうと、その説明が、エウゲには義務付けられています。もし、不必要な力を横柄に使ったとあれば、すぐさまデウスエクスマキナと、時の印当局の束縛を受けます。その能力を意図して使うものをエウゲの間では“ハッキング”と呼称することは、少しエウゲの情報に通なものならすぐに理解できます。
この後のことはぼんやりとしか覚えておりません。何しろ初めての事で、私は阻害感をかんじていました。医者にかかる人が医者や看護師の知恵と知識と技術とそれに設備を信じるようにぼっと見守るしかなかったのです。
『ど、どのように処遇いたしましょう』
『彼女は……』
従者が彼女の取り扱いに動揺し、彼女に手を指し伸ばそうとして、ひっこめながら、天使の指示をあおぎます。
『彼女は、“忘れたはず”と確かにいいました、いつも相談や懺悔にはくるものの、本当に信徒になる勇気はまだない、まだ子供だった、私にはわかりたくなくてもそれがわかる、私だって同じ、自分の表現が、自分自身が薄いから人を助ける事の中に自分を見出していただけ』
天使がサニィの肩をだき、サニィは顔を片手で覆い、片手で地面をささえ、斜め座りをしながら嗚咽混じりの涙を流します。顔は伏せていて、ショートの髪が後方から彼女の表情を覆い隠していました。
『“白の盟約”の実行により、彼女の記憶を消去します、きっとどこかのエウゲが彼女に同じ術をつかったのです』
三日目の悲劇でした。彼女は、サニィは、彼女の血筋はどうやらエウゲとの関係をもっていたようなのです。天使の従者がせわしなく動き、その彼女の目覚めの記憶を消す準備にとりかかりました。“白の盟約”とは“エウゲとデウスの間にその昔、お互いの緊張関係と相互不可侵を守るべくつくられた決まりのことで、その盟約にしたがいデウスエクスマキナの承認もなしに、エウゲはエウゲ自信や同胞への取り扱いをその内部で決定する権利がある”噂に聞いてはいましたが、私がいくら嘆願しても、私は応接室にとじこめられ、各々は祭壇へ向かい、その日、夜がくれるまで、何らかの儀式がつづいたようでした。
『はあ』
私は溜息をついて、横目に彼等の事を観察してはいましたが、気が気でなく、まるでサニィの本当の親になったような気分でした。人の事情やエウゲの血筋の事情には決して立ちいることはできず、そしてその選択“テレキネシスや、テレパシーの能力の扉をとじること”が彼女にとっていい選択かもわからず。やはり祭壇にかかりきりで、私は祭壇へと続く扉をにらめつけてばかりいました。その後、あの一室でその時何が起こったかはわかりませんがどうやら、サニィはその“エウゲの目覚め”の記憶を無事忘れたようです。
深夜になり、儀式がおわったとつげられたとき、私は放心状態でどうやら目を開けたまま眠っていたようでした。祭壇から出てきたとき、彼女はぼんやりとして、ただ“秘密の部屋”に通された記憶だけをもち、ふらつきながらこう私にいいました。
『わたし、かえらなきゃ、こんな重いもの、私にはまだおもすぎるもの』
どうやらその言葉から、本来サニィはきっとこのエウゲの従者として、このエウゲ、リィルにつきそい彼女が天寿を全うするまでここにいるつもりだったのだということがわかりました。ですが、私は彼女を翌日、その日はそこに泊まる決意をして、彼女を応接室のソファにすわらせて、寝かせました。
一件落着したあとも、その日は私は一睡もできず、天使と二人で事務室の中で言葉をかわしているだけでした。その中で新しい情報を少しでも得る事ができれば今後の探偵としての暮らしに、いえ、それだけではなく人生の糧となるのではないかと、何か有益な情報はないかと考えていました。きっと、死を覚悟した人間が何を考えているかということに興味があったのだと思います。
『これでよかったのでしょうか?』
私は悩んでいました。記憶を消したことと、彼女に私の知らない過去があったこと、そしてなによりこのニィボを離れることがよかったのかどうかを考えてしまったのでした。
「この状況で、彼女が、この先に何かをみたとして、それが希望だとは限らない、人生の中で絶望したときに、新しく絶望が入る事の苦痛を、平凡さの生活をしていてはわからない、私はその苦痛をしっている、もともと、地下から自分の力だけでのしあがった身だもの」
話しを聞くと彼女はどうやら、最初は地下でうまれ、やがて才能を見込まれ、画家に弟子入りし地上で画家として過ごしていたようです。
私はなぜだかそのとき、過去の自分を振り返り、ふと青春の苦い思い出を思い出したのでした。私は、蛇足にはなりますが、天使のうわさと失踪事件を結びつけたのは、そもそも私がかつて、この探偵としての仕事を始めようと決意するにいたった過去が存在します。私がまだ高校生だった、昔のころ、20年も前の事で、記憶も日に日におぼろにはなっていますが。私には初恋の相手、高望みの相手を好いていたころがあったのです。
その高校は、英雄やタレントなどをを輩出した過去をもつ、中央コロニーでも有数の特別な、専門的な学問に特化した高校でした。もともと芸術に優れた人々、とくに成功者たちが、その子孫を同じように、芸術的才能を引き延ばすために、入学させます。私は、同じような経緯をもって入りましたがほとんど、そんな特異な技能などを育てようとはおもっておりませんでした。むしろそれを持たないこと、それでも全う人間としての生活を送れるほどの、教示や、知恵や、高値の花の男性を、すきだという友人がいました。
仮にA男といいます、ハンサムで人の頼みもよく聞き、友人が彼の事をすきだという事もわかっていましたが、私には秘密がありました。校舎と校舎をつなぐ渡り廊下、忘れもしない入学式のあとで転んだ私に手を伸ばして立ち上がらせてくれた思い出。その手をさしのばしてくれた人物こそ、何を隠そう、その人でした。私は彼の事を入学して当初からずっと、好きだったのです、けれど私は私の本心をだまっていました。
彼は上級生でした。2年生にあがるとき、彼の進路はすでに決まっていて、華々しい生活が約束されているといううわさはすぐに全校生徒に広まります。私は最初の奇跡的な出会いから、なんだかわからない彼への情熱を抱えていましたが、親友も親友で、失うわけにいかない信頼と尊敬の想いを抱えていたので、別に影で、彼女と彼がどんな関係にあってもかまいはしないとおもっていたのです。けれど、その思いや決意とは別に日に日に執着と思いが、私と彼の大きささえ、その学校の大きささえも超すほどに大きく膨れ上がりました。
けれど、その方がその年の演劇部、最後の演劇をおえたころ、閉演後、壇上からおり、渡り廊下で丁度待ち合わせた場所に先輩がきたころ、裏から抜けていく通りの付近で、私は待機していたのです。けれどいつまでたっても、A子本人は来ず、変わりに、もう一人のA子ではない友人が私のすぐ傍によってきました。私が矛盾を抱えていることを、もう一人の友人はしっていたのです。
私はその時、信じることにしたのです。自分の中に湧き上がる、“状況を変えなければいけない”という気持ちを。結局、私は、その高根の花のの男性とお付き合いすることは出来ませんでしたが、その代わりに得たものがあるのです。 それは、ただ私が卑屈さを否定する事で、私は私の能力を、思った以上に発揮することができるのではないかという確信でした。
翌日、汽車にのり私たちは中央コロニーへと帰省のたびに向います。わざわざニィボの使いの者が、お別れに駅まで駆けつけてくれました。宗教やエウゲについてはまだまだ謎がたくさんあります。そして私にはまだ、不条理かもしれませんが彼等への疑いもあるのです。しかし、この件は一見落着、まるで昨日の一見を終えて、サニィはまるで本当の親のように私のそばにひっついて、ひとつもわがままをいわなくなっていました。このようなハッピーエンドは珍しくはないのですが、それと同じくらい、このまま行方不明になるような少年少女の不幸も存在します。その事を胸に刻み、いつものつまらない探偵としての仕事との対比に得も言われぬ落差を感じ私自身この旅に疲れ果てて、眠っていたのを思い出します。
眠りながら回想したこと、それは最後に前日の夜、うつらうつらとしながらも緊張で眠れず、天使と長い対話をしていたこと“天使”が私に向っていったことを思い出しました。それは彼女がこれから生きる事を諦めた理由と、これまで生きて来た理由であったように思えます。
『私はかつて、難病でかかりきりの病棟にいて、危険な状態と、回復を繰り返し、それでも病と死の恐怖との闘いを繰り返していました。私はその中で、生きる事よりも、死ぬことよりも、大事な言葉を人から、友人から受け取り、その恩に報いなければと思っているのです、そのことばとは』
狭い病棟はコの字になったくぼみにあたる庭園にある緑だけが彼女が気晴らしをする景色でした。花をもらったり、本をもらったり、折り紙をもらったりしましたが、その中でいつも、彼女が大事にしていて、大切にしている言葉がありました。それは時に彼女に隠れて話される言葉でもありました、彼女に最初に家族が、次に友人が発した言葉がこういう言葉だったそうです。
“その辛さを変わってやりたい”
貴方の代わりになれたなら、変わりに苦しみを受けられたら、そういう意味かと、私は尋ねました。彼女は首をふりかえしました。
『その想像を私は別の意味にとらえました、それはきっと私が追い詰められていたからかもしれません、その意味は、たしかに痛みを変わりにうけとってくれることもそうですが、私は決して自由ではありませんでしたが、私の中に悪いものもたくさん湧き上がっては消えていきましたが、それを抑えるだけの自由に囲まれていました、人からやさしさと温かさと気遣いをずっともらってきた、そんな人生でした、そして趣味もあったし、友達もできた、そんな自分が人によって美しく見える事を想像して、これまでやってきたのです、人は、生きているうちに、自分の生活と自分の能力と仕事を見るうちに、他の人物と本当に、その利害が偶然に一致する瞬間があるのです、あなたもそうなのでしょう?私は、それからの毎日は、毎日をやり残したことがないかを確認する日々でした、それも含めて、いい事も悪い事も、苦痛が人に理解されていると思うこと、それだけで人は考え方を改めることができる、生きる実感を改め続けることができる』
そう言われたとき、私は私の背中に悪寒が走るのを感じました。それは正当な事実だったからです。
前日の別れ際、天使は、困ったらまたここにくるようにと、手紙を少女にわたしました。
『私はもう、疲れてしまったのかもしれません、何事でも集中してとりくめば、すべての感覚やすべての労力やすべての人々と実は同じ事をしているのではないかという感覚に陥る、私はその“ゾーン”につかれてしまったのかもしれません、きっと今でも同朋は人と人の欲望の中の混沌にふりまわされる毎日を送っているはずです、それと同じ気持ちを、決して時を経ても大多数の人類と共有できるわけでもないのに羽はいつしか重荷になりました、私は結局、人を助けることをできても具体的に芸術を形にする事ができない。またはそれを選んでいるみなのかもしれない、私も一人の不条理なのかもしれないとそう思うのです。』
彼女の決意と、私のかつての青春の決意は、おなじような筋道を辿ってはいないかと思うのです。そもそも、私の学生時代の話に戻りますが、さかのぼれば私があの日、思いでの校庭の渡り廊下で彼に本心を伝えようとおもったのは、なんだかんだいって私が彼女に必要以上に感情移入したから出ないかと思えたからです。というのも、あの時廊下で振られたのは私だけではなかったのです。私は私の想いをいったあとついでに、おまけのような感じでぽっとA子、彼女のことも話してしまったのです。それが私の演技の初めての失敗であったようにも思えます。
決意をすること。事実それは、その学生時代の思い出の一部である、部活動に生かすことができました。私はそれから2年連続で、コンクールに入賞することができたのです。それから私自身の人生のモットーは「どんなものにも生かすべき特性がある」私は、あのころのように無責任であれるとはいえず、あの頃のように無駄な責任を抱えているとはいいませんが。