カフカ日和
ひだまり童話館の『にょろにょろな話』に参加しています。
気がついたらヘビになっていた。
「うっそぉ!」と叫んでみたが、ちらちらと赤い先の割れた舌が口から出てくるだけだ。
手も足もない。にょろにょろ動くヘビになっていた。
「どうせなら猫になりたかった」と愚痴りたくなる。
私はヘビは好きじゃない。それに人にも好かれるとは思わない。そんなのに変身するだなんて、何かの罰なのだろうか?
それとも私は知らない間に死んでしまい輪廻転生してヘビになったのか?
色々な疑問が次々と湧いてくるが、緊急事態が発生した。
「カーカー」(美味しそうなヘビだ!)
近所のゴミを漁って散らかす嫌われ者のカラスにロックオンされた。
「めっちゃまずい!」
ヘビは嫌いだけど、カラスの餌になるのはもっと嫌だ。私はにょろにょろと身体をのたくらせて草の影に隠れた。
「カーカー」(どこに行ったのか?)
カラスは上を舞っていた。私は必死でにょろにょろと逃げ、穴を見つけて潜り込んだ。
「しつこい奴!」
それどころか、カラスは下に降りてきた。
「まずい! 見つかる」
穴はそんなに深くない。トグロをまいているけど、全身がやっと入っているだけだ。
「ヘビの一生は短かったなぁ」と観念した。
「ワンワン!」(あそぼ!)突然、犬がカラスに吠えた。
「カーカー」(嫌だよぉ)
カラスが飛んでいくと、犬は私に向かって吠えた。
「ワンワン!」(あそぼ!)
「無理! 無理! 近づかないでよ」
ゴールデンリトリバーは好きだけど、巨大過ぎるよ。今の私、ヘビだから。
「ほら、ジョン、行くぞ」
カラスも居なくなり、犬も飼い主に連れて行かれた。
私は、穴からにょろにょろと這い出した。どうやら家の近所の河原のようだ。
ここは犬の散歩コースになっている。カラスを追い払ってくれたのはありがたいが、中にはリードをつけずに自由に走らす飼い主もいる。
「犬におもちゃにされて死ぬのかな……」
とても悲しくなった。そこまで悪いことをした覚えはない。
「どうせなら、家まで行こう!」
お母さんもヘビは大嫌いだ。玄関先にヘビが死んでいたらきっと「ギャー」と叫ぶだろう。
でも、きっとお父さんは庭に埋めてくれる。前に猫が鳥を捕まえてきた時も、庭に埋めていた。
「ああ、娘はヘビになっちゃったんだよ」
私は自分が死んじゃうことより、親が自分がいなくなったのを悲しむのが辛かった。
「わぁん、わぁん!」まるで子供のように泣いた。
「えっ! 泣いてる??」
私はヘビじゃなかった。河原でわんわん泣いている変な中学生だった。
「そうだ! 私は家出中だったんだ」
友だちと夜に遊びに行く許可が貰えなくて、プチ家出して河原で不貞腐れていたのだ。
「知らない間に寝て、夢をみたのかな?」
夢にしては凄くリアルだった。にょろにょろと逃げた感覚が残っている。服もなんだか泥まみれだ。
ぶるぶると身震いした。
「家に帰ろう!」
夜遊びは大人になればできる。それにヘビになるのはごめんだ!
私は何年もたっても、あのヘビになった日のことは忘れなかった。
あっ、そうだ。近所のジョンにはジャーキーをやっておいた。まぁ、一応、命の恩人だしね!
おしまい