街へ
初投稿です。
「旅立ちの日っつーのに雰囲気も空気も暗かったなここ……」
通れるところがないほど木や草が生い茂った森林に、ゲリラ豪雨のように降り注ぐ雨の中、不自然に水滴一つもついていない外套を纏った男が、まるで物質への干渉ができない幽霊のようにすーっと歩き続ける。
男が森に踏み入れてから数時間、本来常人が横断するには数週間はかかる森を既に踏破しようとしていた。
森の出口と雲の切れ目が一致しているのか、森を抜けた途端に雨は止み、湿ったぬるい風とあたりを見渡すには眩しすぎる太陽を緑を育てる草原にでた。
「やっと日が見えた〜この森のせいかなんか風がきもちわりーし相変わらず草はウゼーけど......あの開けたとこの先に街があんのかな」
うるさいくらい生い茂る緑の中で唯一と言ってもいいほど静かな道を少し進むと石造りの十数メートルはある外壁が見えた。外壁沿いを歩いていくと仰々しい門と、その前に立つ二人の男が見えた。
「止まれ。」
門の前で槍を構えた鎧の男にそう言われる。門番というものか、男はそう思った。かなり怪しまれているのが表情と身体の動きでわかった。
「貴様どこから来た。」
「向こうにある森から。この街に入りたいんだけど。」
「......名はなんという。」
「オガサブロー。」
男は堂々とそう言った。鎧の男の価値観ではおかしな名前だとは思ったが、目の前の男の態度に若さを感じ、偽名を使うような企みをする年齢ではないように見えたからだ。偽名にしてももっとマシなものを使うだろうとも思った。
「珍しい名前だな......出身はどこだ。森の奥には人が住める域は無いはずだが。」
「出身じゃないけどここに来る前は十数年森の奥の山に住んでた。洞穴にさ。」
「洞穴......?あの山は活火山だろう。洞穴なんか住めるわけがないし、住む意味もないが。」
「嘘じゃない。魔法の研究の為に住んでた。何を隠そうつい先日、賢者になって修行を終えたから人里に降りてきたんだ!」
あたりが白けるような感じがした。問答していた鎧の男も、その傍らにいる同僚らしき男も、目の前の男の正気を疑ったような顔をしていた。男は呆れて、もうどうでも良くなったのか警戒を解き、同僚に目配せをして、男についてくるように行った。
門の横には鉄の扉があり、そこから街の中に入るとなにか寮のような建物の広場に案内された。
奥にあるカウンターに座ると別のさっきの門番とは別の白シャツ一枚の男がなにかの紙を持ってきて目の前に座って話し始めた。
「......とりあえず何か身分を証明できるものはないか。」
「ない。」
「なら、出身も身分もわからない物に滞在証を出すには金貨一枚を徴収する事になっている。ない場合は三日間の滞在を許し、明後日の昼までに出ていってもらうことになる。」
「お金もない。」
「これを渡す。三日間の滞在許可証だ。明後日の昼にまたこの門の前にこい。金を払えないなら荷物もまとめてもってこい。」
「こんな簡単に知らない人を入れていいの?僕が何か悪いことをするために入ってきたとは?」
「何かするのか?」
「まさか。」
「なら大丈夫だ。そいつが街にとって不利益かどうかを見分けるのは門番がやってくれる。お前は大丈夫だ。」
書類を書き終わったようで、白シャツの男は立ち上がった。
「もう行っていいぞ。明後日の昼、忘れるなよ。後ろの玄関をでたら案内板があるはずだ。金が無いならまずは何か手持ちの物を売るために商店にでもいったらどうだ。」
男が立って行こうとすると白シャツの男に呼び止められた。
「あぁそうだ......ようこそ、ヴァレットへ。」
男は礼を言い、門前兵士寮と書かれたプレートを横目に、玄関を出ると少し先に人が行き交う大通りが見える。白シャツの男に言われた案内板の通りに商店を目指すことにした。大通りを進んだところにあるとわかった。
人通りのある道を通るのが久しぶりなのか、人を避ける事で精一杯で、男の歩みは森を進んでいる時とは比べ物にならないほど遅い。
初めて見るものに目を奪われ、人にぶつかりそうになりながらゆらゆら進む男は周りから見たら相当な田舎者に見えている事を知ることもない。1キロもない道を数十分かけてようやく男は商店についた。店前に掲げられた大きな看板にはブルー商店と書かれてある。男は中に入った。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
中に入ると金髪の美しい案内係の女性に声をかけられる。
「ぁっ......もにょお......ぅっ......売りたぃでず......」
(やばい!!十年ぶりでもおっちゃんと話す分にはある程度まともに受け答えできたけど流石にこんな綺麗な女の人は無理だ!?)
「ええーと、物を、売りたい、でよろしかったですか?」
「そう......です......」
「かしこまりました。どのようなものをお売りになるかお聞きしてもいいですか?ここでは話しにくい場合、武器防具、食品、素材、芸術品等の言い方でも大丈夫です。」
「ぇ......」
「え?」
「え、絵を売りたいです……」
そういうと彼女は笑顔で固まった。