EX.17 理を外れし者 その3
前回のあらすじ
ティアが旅立った
ソロモニアの王都であるクリサンセマムから、ミラお母さんやラックおじさん達がいる大陸西部の街―ビオラの街までは、馬車で三日、歩いて行くと一週間ほど掛かる道のりだった。
空を飛べれば半日ほどで着けるらしいけど……残念ながら飛行手段を持ち合わせてはいなかった。
だから仕方なく、歩いてビオラの街に向かうことにした―――。
◇◇◇◇◇
女の子の一人旅って大抵の場合、山賊か何かの悪い人に捕まってエッチな目に遭うと相場(?)が決まってるけど、そんなことはなかった。
やっぱりアレは、物語の中だけのフィクションらしい。
そんなこんなで、わたしは無事ビオラの街にたどり着いた。
大陸西部の主要都市だからか、王都ほどではないにしても大きくて活気に溢れた街だった。
はぐれたらいけないから、スラちゃんを抱き抱えた状態で通りを歩いて行く。
向かう場所は、ラックおじさんのいる屋敷だった―――。
◇◇◇◇◇
ラックおじさんの屋敷の正門には守衛さんがいたけど、わたしの顔を覚えてくれていたようで快く敷地内へと入れてくれた。
彼らにお礼を言ってから門をくぐる。
小さい頃によくコノハ達と遊んだ庭を横切り、玄関へと向かう。
そして玄関をノック――しようとしたその時、内側から勢い良く玄関の扉が開かれた。
「だっ!?」
ゴツン! と扉がわたしのおでこにぶつかり、わたしはその場に蹲る。
スラちゃんが心配そうに体をぷるぷると震わせていた。
スラちゃんの体はひんやりしてて冷たいから、じんじんと痛みを発するおでこを当てると熱と痛みが引いていく。
「あれ? ティアおねえちゃんだ!」
その声に反応して顔を上げると、扉を開けた状態の一人の幼女が蹲るわたしを見下ろしていた。
その幼女は銀色の髪をポニーテールに結っており、真っ赤な瞳はキラキラと輝いていた。
彼女はラムちゃん。
一応は、わたしの従妹に当たる存在だった。
血縁関係で言えば、正確にはエリーの従妹なんだけど……。
そのエリーとわたしは姉妹だから、まあ……従妹でも間違いはない……ハズ。
「ま……待ってよ〜、ラムちゃ〜ん……」
するとラムちゃんの後ろから、気弱そうな声が聞こえてきた。
「遅いわよ、トーカ!」
「ラムちゃんが早いだけだよ〜」
トーカ、と呼ばれた幼女は、ラムちゃんと全く同じ顔をしていた。
ラムちゃんと唯一異なる点は、髪をツインテールにしていることくらいか。
その幼女―トーカちゃんもわたしの従妹で、ラムちゃんの双子の姉だった。
活発な妹と大人しい姉という組み合わせのこの双子は、当たり前だけどラックおじさんとベアトリスおばさんの子供だった。
つまりは、貴族のご令嬢だった。
そんなこと言ったら、わたしは王女なんだけどね……。
「あれ? ティアおねえちゃんだ!」
トーカちゃんは蹲るわたしを見やると、さっきラムちゃんが言ってたことと一言一句同じことを言った。
双子特有の何かなのだろう。
わたしはまだ少し痛むおでこを擦りながら、視線を双子の姉妹に合わせて尋ねる。
「ラムちゃん、トーカちゃん。ミラお母さんかエリーは今、この屋敷にいる?」
「「うん、いるよ」」
すると二人は、示し合わせたわけでもないのに声を揃えてそう答えた。
そして二人に案内される形で、屋敷の中へと入った―――。
◇◇◇◇◇
エリーは街中に買い物に出掛けているらしく、屋敷にいるのはミラお母さんの方らしかった。
ただ……案内されたのが屋敷の中庭だった。
そこにある東屋で、ミラお母さんはベアトリスおばさんとお茶をしていた。
「おばさんおばさん! ティアおねえちゃんが来たよ!」
わたしの右手を引くラムちゃんが、大きな声でそう言う。
ちなみにトーカちゃんは、わたしの左手を引いていた。
スラちゃんはぴょんぴょんと跳び跳ねて、わたし達の後をついてきていた。
ラムちゃんの声に反応して、ミラお母さんがわたし達の方を振り向く。
そしてわたしの顔を見るや否や、柔らかい笑みを浮かべる。
「あら……ティア。久しぶりね」
「うん。久しぶり、ミラお母さん」
「今日はどうしたの? それにその格好は……」
「ミラお母さんに伝えておきたいことがあって、ここにやって来たの」
「そう……とにかく座って?」
ミラお母さんが腰を浮かして、わたしが座れるスペースを作ってくれた。
そしてベアトリスおばさんは、ラムちゃんとトーカちゃんに声を掛ける。
「トーカ、ラム。お母さん達は少しお話するから、二人は何処かで遊んでて?」
「「えぇ〜?」」
「なら、スラちゃんと遊んでればいいよ。……スラちゃん、二人の相手お願い出来る?」
そう言うと、スラちゃんは了承の意を示すように体をぷるぷると震わせた後、高くジャンプした。
そしてラムちゃんとトーカちゃんの二人は、中庭の片隅でスラちゃんと戯れ始めた。
「それで……わたくしに話って何なの?」
「……うん。実は……」
ベアトリスおばさんが淹れてくれたお茶で唇を湿らせた後、わたしはここにやって来た理由を話し始めた―――。
ちなみにトーカとラムは、父親の血を濃く受け継いでいるので吸血族です。
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