EX.06 メラスレ王家のその後 その1
今回から魔族側、それもアルス周りの関係者の話となります!
『魔王』ノヴァが『勇者』に討たれたという報を受けてから、ソロモニア国内は一時的に不安定になっていた。
『魔王』の仇を討とうと『円卓軍』に報復しようとする者。
『魔王』ですら『勇者』に敵わなかったのだから、魔族が滅ぼされるのも時間の問題だと悲観する者。
そして――あたし達みたいに、『円卓軍』との戦争の早期終結に向けて動き出す者など、様々だった―――。
◇◇◇◇◇
中央大陸にいたフェーンとリルが、魔物の姿に戻っているシルフィードさんに乗ってソロモニアの王都クリサンセマムへと戻ってきた。
彼女の背中には、左腕を喪った状態のアルスが無言で帰って来た。
覚悟はしていたけど、やっぱり……最愛の人が亡くなるのはとっても哀しい。
だからあたしは年甲斐もなく、大声を上げて泣いた―――。
◇◇◇◇◇
アルスの遺体を、彼が生前に造った北大陸にあるテウルギア大霊廟と名付けた場所に埋葬した。
ちなみにパウリナのお墓も、その霊廟へと移していた。
生前、アルスからあたしにだけ送られた手紙に、自分の死後にしてほしいことがびっしりと書かれていた。
この霊廟への埋葬もその内の一つたった。
まあ……その内容はミラとステファニーにも知らせていたけど……。
国王はいない。
第一王妃も、すでにこの世にはいない。
大変なのは、これからだった―――。
◇◇◇◇◇
『魔王』が討たれてからおよそ三ヶ月後。
クリサンセマムに聳え立つ王城、その王の間に、いてはならない人物達が訪れた。
「……それで。今日はどういった用件なの――『勇者』?」
玉座の横に立つあたしの視線の先には、『魔王』を討った『勇者』アーサーと、『円卓軍』の中でも飛び抜けた武人だと噂されているランスロットの姿があった。
ソロモニア側からはあたしの他に、ミラとステファニー、それとアルスの従魔だったフェーンとリルがあたし達のボディーガード役として傍らに控えていた。
ちなみに今のあたしの立場は、第二王妃で且つ国王代理という立場だった。
正式に王位継承権を持っているのはあたし達の娘達、つまりアルスの血を引く四人の子供だけだった。
だけど子供達はまだ幼いから、少なくともティアが成人するまでの間はあたしが国王の代理をすることになっていた。
これもアルスの遺言だった。
そんな娘達は、ラックの屋敷からこっちの王城に戻ってきていた。
それと、国が落ち着くまではいろいろと大変だろうと、シグさんとヒルデさんが王城にしばらくの間滞在してくれることになった。
閑話休題。
アーサーは片方しかない目であたしの目を真っ直ぐに見据え、あたしの質問に答える。
右目はどこかの戦場で負傷したのか、包帯で覆われていた。
「今日は一つ、提案しに参りました」
「提案? ……いったい何を?」
「はい。……『魔王軍』と『円卓軍』のあらゆる戦闘行動の即時停止を、です」
その提案は、あたしの予想だにしないモノだった。
「あらゆる戦闘行動の、即時停止……? 本気で言ってるの?」
「冗談でこんなこと言いませんよ。『魔王』を討った今、私達『円卓軍』には戦う理由がないからです」
「……それはそちら側の言い分でしょう? こちらにはこちらの戦う理由があるのよ」
「なら最後まで戦いますか? 人類と魔族、そのどちらかが滅びるまで」
「……」
「……」
あたしとアーサーは無言で互いの顔を睨み付け合い、剣呑なその空気が伝染したのか、王の間を重苦しい空気が支配する。
そして――あたしの方から、アーサーから視線を外す。
「……はぁ。あたしとしても、魔族が滅ぶのだけは回避したいわ。……いいでしょう。『勇者』の提案を受け入れます」
「……っ!? あ……ありがとうございます!」
「勘違いしないで。あたしはこれ以上の戦闘が無意味だと思うから、貴女の提案を受け入れただけに過ぎないの。建前や口実さえあれば、戦闘行動は続行したわよ」
「はい、肝に銘じておきます。……それと、これは個人的な質問なのですが……」
そう前置きしてから、アーサーは続ける。
「……ヨーコお姉ちゃんは、アルスお兄ちゃんを殺した私が憎くないの?」
「…………憎くない、と言えば嘘になるけど……。でもアーサーを殺したところでアルスが生き返るわけじゃないし、それにアルスもそれは望んでないと思うから。ミラとステファニーもそうでしょう?」
背後にいる二人にそう尋ねると、二人共揃って無言で頷く。
「だからあたし達は、アーサーに危害を加えることはないわ。そこだけは安心してちょうだい」
「……ありがとう、お姉ちゃん達……」
そう言うと、アーサーは顔を俯ける。
その目から、一筋の透明な線が流れていた―――。
ちなみにクリサンセマムは菊の英語名です。
ソロモンの好きな花だという裏設定。
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