EX.02 『勇者』のその後 その2
前回のあらすじ
アーサーに客が来た
応接室のドアを開けると、応接セットのソファーに身形の良い三人の壮年の男性が腰掛けていた。
その見た目から、何処かの貴族か何かかな? と予想する。
三人は私に気付くと、慌てた様子で立ち上がる。
「お待たせして申し訳ありません。さあ、座っていただいてもよろしいですよ」
そう言い、私は彼らの対面のソファーに腰掛ける。
それに追随する形で、彼らもソファーに座り直す。
それを見計らい、モルドちゃんが私にお茶を運んできてくれた。
ちなみに彼らには、すでに私と同じモノが振る舞われていた。
モルドちゃんが運んできてくれたお茶を一口飲んでから、用件を伺う。
「さて……本日は私にどういったご用件で?」
「単刀直入に申し上げます。我々に『勇者』様のお力添えをお願いしたく。フェルトナ王国を奪還するために」
そう言って真ん中の男性が頭を下げると、左右の二人も頭を下げてくる。
この申し出は、今回が初めて――ではない。
「何度も言っていますが、私は各国の争いに介入するつもりは毛頭ありません。いくらお金を積まれようとも、です」
懐から金塊を出そうとする仕草が見えたので、先に牽制する。
私は『魔王』を討った後、各国が独自に行う『魔王軍』との戦闘行為に一つの例外もなく介入しないことを大々的に宣言していた。
その理由は、『勇者』が討つべき相手は『魔王』だけで、国同士の争いに介入することじゃないからだ。
そんなことをしたら、『魔王』が……アルスお兄ちゃんが望んだ『勇者』ではなくなってしまう。
だから、私は十年前のあの戦いを最後に、前戦に立ったことは一度としてなかった。
過去にも、今回みたいに私に泣きついてきた貴族がいたけど、断固として首を縦には振らなかった。
自分達から仕掛けておいて、不利になったら『勇者』にすがるとか、都合が良すぎたからだ。
結果として、その貴族が率いていた一派は『魔王軍』に返り討ちに遭ったけど……この件が原因で私の言ったことは本気だったことが瞬く間に広まっていった。
これに危機感を抱いたのが、シルファ帝国の新皇帝となられたシャーロット陛下だった。
陛下は、新たな脅威が人類に差し迫った時に、場合によっては『勇者』が動かない可能性を危惧したらしい。
私はそんなことはしないけど、次代の『勇者』がそうしないとは限らなかった。
だから、『勇者』の一族、細かく言えばグレイル家はシルファ帝国に籍を置く代わりに、人類に対して危機が迫った時は率先して前戦に立つという盟約を交わした。
この盟約は、グレイル家の血が途絶えるまで有効となる。
そんなこともあって、私は各国で繰り広げられている『魔王軍』との争いに介入することはなかった。
だって、人類の危機でもなんでもないし。
ただ単に、『魔王軍』に奪われた土地を取り返そうとしているだけだしね。
「……そんなことを申してもよろしいのですか?」
すると、真ん中の男性は顔を上げると、不敵な笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる。
男性の意図が掴めず、彼に聞き返す。
「それは……どういう意味ですか?」
「『勇者』様には娘様がおられるご様子。我々がその気になれば、娘様を拐うことだって可能性なのですよ……?」
「……それは、脅迫ですか?」
「脅迫だなんてとんでもない! わたくしめはただ単に、『勇者』様にお力添えをお願いしたいだけですよ! それで……返答は如何に?」
男性はとてつもなくイヤらしく気持ち悪い笑みを浮かべながら、そう言ってくる。
完全に自分達が優位に立ってると思っているようだけど……勘違いも甚だしい。
「……よく分からないんですよね」
「は……? いったい何を……」
「なんでそういう脅迫をする人って、自分達が無事に帰れること前提で話をするのかなって? はっきり言いますけど……頭お花畑なんですか?」
「聞き捨てなりませ……っ!?」
立ち上がり、何かを言いかけた男性に向かって、私は右手を閃かせる。
その手には、前髪を留めていたヘアピンから姿を変えた聖剣が握られていて、その剣先を男性の喉元に突き付けていた。
「もう一度聞きます。本日は私にどういったご用件で? 内容次第では……この場で斬り捨てます」
自分でも引くほどの底冷えした声音で、男性達にそう告げる。
私の気迫に気圧されたのか、男性達は顔面を蒼白にしていた。
「あ……いや……用件といった内容でもなく……」
「ではすぐにお帰りを。私の機嫌が変わらない内に」
そう告げると、男性達はそそくさと応接室の出口へと向かう。
そんな彼らに対して、楔を打っておく。
「ああ、そうそう。もし私の「家族」に手出しをしたら、それはシルファ帝国に対する宣戦布告と受け取りますからね。この国の皇帝陛下が。そうならないために、道中余計なことは考えずに国にお帰りを。私の良心からの忠告です。もしこの忠告を無視したら……お分かりですよね?」
満面の笑みでそう脅すと、男性達は逃げるようにこの屋敷から立ち去って行った―――。
勇者は強し。
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