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魔物使いの弟子  作者: 天利ミツキ
第三部
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第342i話 円卓再起Ⅱ その22

前回のあらすじ

詰んでね?

 

 勝つための戦いじゃなくて、負けないための戦いを心掛けよう―――。


 そう開き直った直後、シルフィードさんは翼を羽ばたかせて私から大きく距離を取った。

 優位だったハズの彼女の不可解な行動に、首を傾げる。


 ……いったい何が?


 だけどその理由はすぐに分かった。

 シルフィードさんは大きく弧を描くようにして上空まで飛翔すると、流れ星のように私目掛けて一直線に突撃してきた。


 あの突撃は防いじゃいけない、と直感で悟り、私は六枚の翼を全力で羽ばたかせてその場から離れる。

 その一瞬後に、一条の流星と化したシルフィードさんが地面に突っ込んだ。

 その威力を物語るように、地面は大きく抉られていた。


 シルフィードさんが着弾した余波で巻き上げられた砂煙に視界を奪われる中、私は何が起きてもいいように左手に握った剣を強く握り直す。


 そして砂煙が晴れ、着弾地点にいたのは、緑色に輝く羽毛を持った大きな鳥だった。

 アレは間違いなく、魔物ほんらいの姿に戻ったシルフィードさんだろう。

 彼女は体に付着した土を振り落とすように、体をぶるぶると震わせていた。


「まさか避けられるとは……『四聖獣ワタシたち』だけでなく、世界中の生物の中でも最速だと自負していたのだけど……まだまだ甘かったようね」


 さっきの突撃は、回避して正解だったと思う。

 もし下手に防ごうものなら、自称世界最速で飛んでくるシルフィードさんの突撃を完全に防ぐことが出来ずに、その鋭い嘴に身体を貫かれていたに違いない。


「でも……もう終わりよ」


 シルフィードさんはそう言うと、ゆっくりと翼を大きく開く。

 すると突然風が吹き荒れ、星がまたたいていた空を分厚い雲が覆っていく。

 雲の中からは、ゴロゴロという音も聞こえてきた。


「さあ、『勇者』! 志半ばで、その若い命を散らしなさい!」


 シルフィードさんのその声に呼応するように、風は竜巻となって私に迫ってくる。

 上空からも、何本もの雷が地面へと落ちていた。

 ソレも、徐々に私に近付いてきていた。


 私は翼を羽ばたかせて、唯一の安全圏―シルフィードさんの下へと突撃する。

 私の行動が予想外だったのか、シルフィードさんは大きく目を見開いて驚いていた。


 後ろから竜巻と雷という「死」が迫り来る中、私は更に加速してシルフィードさんに接近する。

 そしてその勢いを乗せて、左手の剣でシルフィードさんの胸を深々と突き刺す。


「《アルティメットバースト》!!」

「ゴフッ! このぉ!!」


 そしてその状態のまま、私は全属性超級魔法を発動させる。

 シルフィードさんは血反吐を吐きつつも、反撃とばかりに上空の雷雲を一つに収束させ、そこから今までの比じゃないほどの大きな雷を落としてきた。


 七色に輝く光が視界を埋め尽くし、私の身体を貫いた雷が全身を駆け巡る。

 そして最後に見たのは、人の姿へと変化したシルフィードさんの、どこか満足したような笑みだった―――。




 ◇◇◇◇◇




「……サー……。……おい、アー…………。……アーサー! 目を覚ませ!」


 力強く身体を揺さぶられて、私の飛んでいた意識が戻ってくる。

 ゆっくりと目を開けると、そこには心配そうな表情で私の顔を覗き込むランスロットお兄ちゃんの顔があった。


「……ランスロット、お兄……痛っ」


 右腕の上腕部に鋭い痛みが走り、私は思わず顔をしかめる。

 見ると、上腕部には短剣が突き刺さったままだった。


 改めて状況を確認すると、私はランスロットお兄ちゃんの手によって上体を起こされ、彼の腕によって身体を支えられていた。

 私の身体は満身創痍という言葉がぴったりなほど、激しく消耗していた。


 辺りを見回すと、シルフィードさんの姿は何処にもなかった。

 撤退……いや、止めを刺さずに見逃したと言う方がしっくりとくる。

 その理由は分からない。


「アーサー、大丈夫か?」

「……うん、大丈夫だよ。ちょっと満身創痍なだけだから……」


 ランスロットお兄ちゃんの問い掛けに笑顔で答えようとするけど、顔がひきつって上手く笑えなかった。

 全身が思い出したかのように痛みを訴えてきてるのと、シルフィードさんが最後に放った雷の直撃を受けたダメージがまだ残っていたからだ。


「そうか……アーサー。自分で歩くことは……」

「出来ない、かな……」

「だろうな。だがその前に……」


 ランスロットお兄ちゃんはそう言うと、魔法袋の中から真新しいタオルを取り出して、それを私の口元に差し出してくる。

 それで彼の意図を察した私は、それを口に加える。誤って舌を噛まないようにするためだ。


 ランスロットお兄ちゃんは私の背後に回り、右上腕部に刺さったままの短剣の柄に触れる。

 その際、鋭い痛みがまた腕から発生して、私はくぐもった悲鳴を上げる。


「アーサー、この短剣を引き抜くぞ。覚悟はいいな?」


 ランスロットお兄ちゃんのその言葉に、私は無言でコクリと頷いて了承する。

 そしてランスロットお兄ちゃんは、一息で短剣を私の腕から引き抜いた。

 その激痛で、私の視界がチカチカと明滅する。


 だけど間髪入れずにランスロットお兄ちゃんが《ヒール》を掛けてくれたから、痛みが徐々に和らいできた。

 短剣が刺さっていた場所は血塗れになっているけど、傷口はもう塞がっていた。


 その後、私はランスロットお兄ちゃんに背負われる形で『円卓軍』の陣地へと戻って行った―――。






なんかアーサーは毎回毎回ボロボロになってる気が……。

きっと気のせい。

(←光の作者:アーサーは女の子やぞ、加減しろ馬鹿!)

(←闇の作者:ぐへへ……頑張る(拡大解釈)女の子って、良いよね)




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