第31話:事件発生
前回のあらすじ
アルスの旅の真の目的は、漆黒の竜を探し出すこと
※一部修正しました(2020/11/29)
シグさんは勝手知ったるといった様子で、ある部屋の前まで進んでいき、そして立ち止まる。
ドアをノックし、返事がかえってくる前に部屋に立ち入る。
僕達も後に続く。
室内には、報告をしている秘書らしき人と、その報告を受けているひげをたくわえた初老の男性がいた。
恐らくこの男性が長老だろう。
その長老らしき男性に、シグさんが話しかける。
「長老殿」
その声に、長老と呼ばれた男性がシグさんの姿を確認して返答をする。
「おお、『竜王』殿。よくぞ参った。こちらから召集をかけようとしていたところじゃ」
……今、なんと??
聞き慣れない単語を耳にして、隣に立つステファニーに小声で尋ねる。
「……ステファニー。『竜王』って何?」
「……『竜王』っていうのは、竜人族で最強の者に与えられる称号ッス。イメージ的には、ジョブの王と同じッスね」
「……なるほど」
僕達が話しているそばで、シグさんと長老さんは話し合う。
「して、長老殿。北地区で何が起こったのです?」
「うむ。北地区に魔物が侵入し、甚大な被害をもたらしたようじゃ」
「その魔物の種類は?」
「アイスワイバーンらしい」
「数は?」
「十匹じゃ。半分は討伐したが、もう半分は里の北東にある雪原まで逃げたようじゃ」
「自分が討伐して来ましょうか?」
「いや、そなたには北地区の防衛にあたってもらいたい。またいつ侵入して来るかわからんでな。それに今、討伐隊を編成しているが、人手が足らなくてな……」
「では、逃亡したワイバーンの内の一匹は、自分の娘と……彼らに任せましょう」
シグさんがそう言うと、長老さんは僕達を見る。
そしてシグさんに尋ねる。
「竜王殿、そなたの娘はわかるが……その者達は何者じゃ?」
「この青年は『魔王の弟子』で、彼の後ろに控えるのが彼の従魔達です。彼らの実力は自分が保証します」
「ほう……そなたがそこまで言うのか。よかろう、彼らに任せてみよう。……して、『魔王の弟子』殿。そなたの名前を教えてくれんか?」
長老さんにそう問われたので、僕は答える。
「アルスと言います」
「アルス殿か。よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いいたします」
僕はそう言って頭を下げる。
その後、作戦の詳細と、討伐隊は明朝出発することを告げられ、長老宅を後にした―――。
◇◇◇◇◇
その後ステファニーの家に戻り、シグさんがヒルデさんに事情を説明し、被害地域の復興と防衛のために北地区に向かって行った。
僕達は、シグさんとヒルデさんの厚意で、この家に滞在することになった。
その日の夜。
ステファニーが、僕にあてがわれた部屋を訪れていた。
「それで、明日のことで相談したいことがあるって言ってたけど……」
僕は彼女に尋ねると、彼女は黙って頷く。
彼女は暗い表情をしていて中々話し始めないが、しばらくしてから、意を決したかのように話し出す。
「アルスくん。もし明日、万が一にもアタシが魔獣化して、暴走とかで味方に被害が被るようだったら……その時は、アタシを――殺してください」
「…………物騒な相談だな。何かの冗談?」
僕はそう返すが、彼女の目は真剣そのものだった。
「本気ッス。昼間は、月に一度は魔獣化してるって言ったッスけど……あれは嘘ッス」
「嘘?」
「そうッス。本当はもう六年……いや、もうすぐ七年ッスね。ある出来事があって、それから一度も魔獣化してないッス」
「ある出来事っていうのは……?」
「それは、……っ、…………」
僕がそう尋ねると、彼女は答えようとするがためらう。
そして、僕に告げる。
「……この戦いが終わったら、ちゃんと伝えるッス」
「……そうか」
「はい、相談したいことはそれだけッス。明日は早いんで、もう寝ますね。おやすみッス、アルスくん」
ステファニーはそう言って、僕の部屋を後にした―――。
◇◇◇◇◇
翌朝。
僕達はヒルデさんに見送られ、東地区にある竜人の里の入口から、里の北東にある雪原に向けて出発した。
ステファニーの顔を確認するが、昨日の夜僕に言ったことは引きずってないようだった。
僕の視線に気付いたのか、先頭を歩く彼女が振り返る。
「アルスくん、アタシの顔に何か付いてるッスか?」
「……いや、なんでもないよ」
「? なら、いいッスけど……」
怪訝そうな顔を浮かべながらも、彼女は再び前を向く。
里を出発して一時間半後、僕達に任された場所にたどり着いた。
そしてそこに、討伐対象であるアイスワイバーンが佇んでいた。
僕は長剣を抜き、ヨーコはリボンをほどき刀に戻す。
ミラはバレッタに変化させていた鎌を出現させ、ステファニーは二振りの長剣を構える。
そして僕達四人は、アイスワイバーンと対峙した―――。
死亡フラグが立ったッス
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