第15話:魔物騒動終結
ヨーコ編完結話です
※一部修正しました(2020/11/29)
「……はい、あ〜ん」
「…………、あ〜ん」
ベッドから身を起こしている僕はそう言いながら、差し出されたリンゴにかじりついた。
顔が赤くなっているのを自覚しながら咀嚼しつつ相手を見ると、相手は耳を真っ赤にして俯いていた―――。
◇◇◇◇◇
ケルベロス討伐から三日、僕は病院のベッドの上にいた。
アインさん達捜索隊に発見された時、僕の両腕はケルベロスの体内で超級魔法を使った反動で、大きなケガを指先から肘のあたりまで負っていた。
その後、ケルベロス討伐の報告はアインさんがやってくれて、僕は直接病院に運び込まれ、強制的に入院させられていた。
そして絶対安静(腕限定)が言い渡された―――。
◇◇◇◇◇
僕は改めて、俯いたままの相手ーパウリナに声をかける。
「パウリナ。恥ずかしいのなら、無理してやらなくてもいいんだよ?」
「は、はははは恥ずかしくないから!? ええ、全く!?」
先ほどより更に顔を赤くしながら、パウリナは必死に否定する。
そんな彼女の様子を見て、カワイイなぁ……と心の中で思いながら視線を反らす。
そして、自分がいる病室を見渡す。
この病室はベッドが一つしかない個室で、窓からは柔らかな日差しが射し込んでいる。
この部屋には今、僕とパウリナの二人しかいない。
若い男女が、部屋で、二人きり。何も起きないハズもなく……。
僕はパウリナに―――。
リンゴを食べさせてもらっていた。
「ホントに無理しなくていいんだよ?」
差し出されたリンゴを再度かじりつつ、僕はパウリナにそう言う。
するとパウリナは顔を赤らめつつも、首を横に振る。
「無理してないもん。それに、看病は必要でしょ?」
「まあ、そうだけど……」
「ならいいじゃない」
照れ隠しのように新しいリンゴを差し出すパウリナ。それにかじりつく僕。
確かに僕は今、腕を動かせなくて、食事も流動食しか口にしていない。
固形物が食べたいと思っていた時にパウリナがお見舞いにやって来て、差し入れのリンゴを剥いてくれた。
それで、いざ食べようとした時に、自分の腕が動かせないことに気付いた。なんたる失態。
そのことをパウリナに話すと、彼女は顔を赤くしながら、切り分けたリンゴをフォークで刺し、僕に食べさせ始めた―――。
パウリナが差し出すリンゴに僕がかじりついていると、ドアをノックして入ってくる人がいた。
その人は僕達の様子を見て、目を丸くした。
「……お邪魔だったか?」
「「いいえ、邪魔じゃないです」」
僕とパウリナが声を揃えてそう答えると、その人ーアインさんは苦笑した。
僕は彼に尋ねた。
「今日はどうしたんですか?」
「いや、見舞いに来ただけだが……。ボウズ、お前も隅に置けないな」
「からかわないでください」
「バカヤロウ、からかってるんだよ」
彼はそう答えると、本当に顔を見に来ただけのようで、嵐のように去っていった。
その後も、色々な人がお見舞いに来ては、僕とパウリナをからかっていった―――。
◇◇◇◇◇
そしてその四日後、日常生活に支障をきたさないまでに腕が快復した僕は退院して、その足で冒険者ギルドまで来ていた。
受付でナナリーさんと話し、ケルベロス討伐の報酬を受け取る。
そして今回の騒動の功績によって、僕の冒険者ランクがBに昇格したことを告げられた。
今後のことを聞かれたので答える。
これは、Bランクに昇格したらしようと前から考えていたことだ。
するとナナリーさんは、少し寂しそうな顔をして応援してくれた。
ギルドを後にした僕は、居候先に一週間ぶりに帰宅した。
家に入ると、ヨーコが僕に話があると言って、僕の部屋に連れて行かれる。
部屋に入ると同時に、彼女は言った。
「……アルス。あたしを、アンタの従魔にしてくれない?」
「……いいけど、どうして?」
僕が理由を尋ねると、彼女は答えた。
「アンタと一緒に行動するのが楽しかった。ただそれだけ」
「……それだけ?」
「これ以外に理由は必要?」
「……いや、いらないかな」
そう言って僕は、魔物使いになって初めての本契約を、ヨーコと交わした―――。
◇◇◇◇◇
その日の夕食時に、僕はこの町を出ていくことを告げた。
デルさん達には居候させてもらう際に予め伝えてあったので、彼らに激励され、祝福された。
そして夕食を食べた後、パウリナに伝えたいことがあるから後で僕の部屋に来るよう、そっと告げた―――。
ドアをノックする音が聞こえたので、部屋に入るよう促す。
ドアが開き、パウリナが入ってきた。
ドアを閉めて部屋の中央まで来た彼女に向かい合うと、これから言うことのせいか、心臓が早鐘を打つ。
「それで、伝えたいことって……なに?」
パウリナの問いかけに、僕は一度深呼吸してから答える。
「ああ、僕の気持ちを伝えようと思って」
「アルスの? ……うん、続けて」
そう言って彼女は、何かを期待するような眼差しで僕を見つめる。
僕はあの時ヨーコにからかわれてやっと自覚し、入院中のあの一時に明確になった自分の気持ちを、告げる。
「パウリナ。僕は……君のことが好きだ」
「……わたしもよ、アルス」
そう言いながら彼女が抱きついてきたので、僕はそれを受け止める。
彼女の目には、涙が溢れていた。
こうして僕達は両思いになり、交際するのは僕がこの町に戻ってきた後にすることを約束した―――。
◇◇◇◇◇
三日が立ち、僕がこの町を旅立つ日がやってきた。
僕とヨーコは、デルさんとアルマさんに向かい合い、今までのお礼を述べた。
パウリナとヨーコは互いに抱き締め合い、別れを惜しんでいた。
パウリナが僕の前に立つ。
「頑張ってね」
「うん、頑張るよ」
僕がそう言うとパウリナは距離を詰め、僕と唇を重ねた。
僕は驚き、彼女の両親は呆気にとられ、ヨーコは冷やかす。
そんな中、パウリナは頬を赤らめながら言う。
「待ってるからね……」
「……っ、ああ。早めに戻れるようにする」
そうパウリナに告げ、僕は初めての従魔となるヨーコを連れて東大陸に向けて旅立った―――。
これでヨーコ編完結です。
次回から新章開幕です。
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