第14話:魔物騒動 その7
複数投稿の最後です
※一部修正しました(2020/11/29)
ケルベロスと交戦を開始して、一時間が経過した。
ヨーコの魔法を喰らい続け、ケルベロスにもダメージが蓄積されているようだった。
だが、ヨーコも魔法を連発して魔力消費が激しいようで、肩で息をしている。
僕はヨーコがダメージを受けないように庇いつつ隙を伺うが、攻めあぐねていた。
「はぁ……はぁ……。アルス、まだ……?」
彼女の問い掛けに、僕は汗を拭いながら答える。
「次で決める。だから……もう少し頑張ってくれ」
「はぁ……はぁ……了解。それじゃあ、出し惜しみはしないわ」
僕の提案に、彼女は了承する。
すると彼女は魔獣化し、九つの尾を持つキツネの姿へと変化してケルベロスを睨み付ける。
彼女の九つの尾にはそれぞれ赤、緑、茶、青、紫、橙、白、黒、灰色のラインが一筋走っていた。
僕は彼女の頑張りに報いるためにも、次で決める覚悟をする。
ケルベロスが突進してきて、僕達はそれを避ける。
そしてケルベロスの右側に避けたヨーコが、灰色のラインが走っている尾以外の尾を淡く輝かせ、魔法を発動させる。
「《マルチショット》!」
全属性の初級魔法を発動させ、魔法のつぶてをケルベロスに浴びせる。
ヨーコの魔法をモロにくらったケルベロスは、動きを止める。
……今ッ!
僕はこの好機を見逃さず、左側から接近する。
そして手にしていた長剣を逆手に持ち、ケルベロスの左前足を地面に縫い止めるように刺す。
ケルベロスは叫び声を上げるが、僕は攻撃の手を緩めずに両手を胴体に突き刺す。
ズブリ、と生暖かい感触に生理的嫌悪感をおぼえながらも、最後の攻撃をする。
……本当はこんなことをしなくても出来たが、確実に仕留めるためにはこうするしかなかった。
僕は両手を突き刺したまま、この世界で僕を含め三人しか使い手がいない雷属性超級魔法を、全魔力を込めて放つ。
「――《ボルテクスバースト》!!」
とてつもない威力の雷撃を体内に直接喰らい、ケルベロスは身を踊らせる。
その拍子に剣が引き抜けるが、僕は構わずに続ける。
魔法の発動が終わると、ケルベロスは三つの口から黒煙を吐き、そのままピクリとも動かなくなった。
僕は両手を引き抜き数歩後退りすると、ケルベロスはゆっくりと地面に倒れた。
その様子を見て緊張の糸がほどけたのか、急激に魔力を消費した僕は、地面に倒れ込みつつ意識を手放した―――。
◇◇◇◇◇
後頭部に、柔らかくて温かいものが当てられている。
その感触に心地よさを感じながらも、僕はゆっくりと瞼を持ち上げる。
すると、魔獣化を解除し人型の姿に戻っていたヨーコが、僕の顔を覗きこんでいた。
……どうやら、彼女に膝枕をされていたらしい。
僕が体を起こそうとすると、彼女は僕の体を押さえつけた。
渋々彼女の太腿に頭を戻しながら、辺りを見渡した。
太陽は沈みかけ、辺りは暗くなり始めていた。
……どうやら、半日近く気を失っていたらしい。
ボーッとする頭でそんな事を考える僕に、ヨーコが話しかける。
「やっと起きた?」
「うん……。どうなった?」
要領を得ない僕の質問に、ヨーコは答える。
「ケルベロスは倒したわよ。アンタの超級魔法で」
「そうか……。それで、何でこんな状態に?」
僕が疑問に思っていると、彼女は当たり前だというような顔で答えた。
「怪我人を放っておけないでしょ? それに、あんな大きい荷物、運びたくないもの」
彼女はケルベロスの死体に目を向け、僕もつられて目を向ける。
それに、と彼女は続ける。
「日没まで戻らなければ、アインさんって人が捜索隊を組んでここに来るでしょう? だから彼らにアレを運んでもらおうと思って、日没まで待ってたって訳」
「そう……」
彼女の言い分に、僕は苦笑いする。
彼女が言った通り、僕はギルドを出る前にアインさんにそうお願いをしていた。
「それじゃあ、アインさん達が来るまで休んでいようか」
「そうね、そうしましょう」
僕の提案に、ヨーコが頷き肯定する。
僕はヨーコに膝枕されたまま、体を休めていた―――。
◇◇◇◇◇
しばらくそうしていると、町の方向から松明の明かりが近付いてきているのが見えた。
僕はそろそろ体を起こそうとすると、またもやヨーコに体を押さえつけられた。
僕は彼女に疑問をぶつける。
「……何で?」
「まだ本調子じゃないでしょ? 彼らが来るまでこうしていなさい」
「誤解されるんだけど?」
「誤解されて困るような人でもいるの?」
「ああ、いや、その……」
「フフッ」
僕がしどろもどろに答えていると、ヨーコは微笑んだ。
その後、捜索隊を引き連れたアインさんに発見され、案の定彼にからかわれた。
そして僕とヨーコは満身創痍になりながらも、町に戻っていった―――。
次で一応一区切りになります。
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