第10話:魔物騒動 その3
本日も複数投稿、出来たらいいな
※一部修正しました(2020/11/29)
まだ開店前だったのか、お客さんは誰もいなかった。僕にとっては好都合だ。
僕達は席に着くと、パウリナの母親であるアルマさんがお茶を運んできてくれた。
僕はお礼を言い、お茶を一口飲んでからパウリナに改めて説明する。
「パウリナ、彼女はヨーコ。最近あった魔物騒動の犯人で、僕はお目付け役としてしばらく行動を共にすることになった」
「ふ〜ん……。またギルドに任されたの?」
「まあ、そういうこと」
パウリナは納得した様子で頷くと、ヨーコの方へ顔を向けた。
「はじめまして、わたしはパウリナ。両親と一緒にこの食堂を営んでいるわ。これからよろしくね、ヨーコちゃん」
そう言って彼女はヨーコに向かって、手を差し出した。
ヨーコはその手を握り返しながら言う。
「はじめまして、あたしはヨーコ。妖族よ。こちらこそよろしく、パウリナ」
「え? ヨーコちゃんって、妖族なの?」
「ええ、そうよ」
「獣人族に見えるけど、違うの?」
「魔獣化したらわかるけど、後で見せてあげるわ」
パウリナの素朴な問いに、ヨーコは答える。
この辺りじゃ見ない種族だから、パウリナの疑問はもっともだ。
それに今の彼女の姿は、獣耳にシッポが一本だから、そう思ってしまっても無理はない。
二人は手を放し、ヨーコはこちらに目を向ける。
「ところで……さっきナナリーさんが言いかけてたことの説明だけど、ちゃんとしてくれるのよね?」
「ああ、話すよ」
するとそこに、パウリナの父親のデルさんが、焼き菓子が盛られた皿を持ってきた。
僕はそれをつまみながら説明する。
「ヨーコ、君は『魔王』を知ってる?」
「? 何よ突然? 当然知ってるわよ。『四天王』の一人にして、魔物使い達の頂点。それに数々の逸話があるから、生ける伝説とまで呼ばれた御方でしょ?」
ヨーコは疑問符を浮かべながらも、そう答えた。
その答えに頷きながら、僕は続ける。
「そう。……で、彼女には弟子がいた。その弟子というのが―――」
「ここにいるアルスなのよ」
「へぇ〜、そうなの。…………え? 本当に??」
パウリナが割り込んでヨーコに告げた。
彼女は驚いた様子でこちらを見る。
そんな彼女を見ながら、パウリナが僕の説明を引き継ぐ。
「本当よ。アルスには、『魔王の弟子』という肩書きがあるの。だからギルドからの信頼度が高いの。解った?」
「……まあ、なんとなくは」
彼女は未だに困惑しながらも、理解したように頷いた。
……人前でその肩書きを言われるのに、まだ慣れないな。
そう思いながら、僕はこの話題を切り上げた―――。
◇◇◇◇◇
その後食堂が開店時間を迎えた後も、僕達は他愛ない話をしていた。
まだ客足がまばらだから、パウリナは休憩しててもいいらしい。
するとアルマさんがやってきて、パウリナに話しかける。
「パウリナ。食材が少し足りなくなってきたから、買い出しに行って来てくれない?」
そう言いながら、パウリナにメモを渡す。
パウリナはそれを受け取ると席から立ち上がる。
「わかったわ。それじゃあ、行って来るわね」
「……待って。あたしも手伝うわ」
「ありがとう、ヨーコちゃん」
ヨーコは立ち上がりそう申し出た。
パウリナはその申し出に感謝し、二人で買い出しに出掛けて行った。
僕はテーブルの上の食器を片付け、食堂の手伝いをすることにした―――。
◇◇◇◇◇
買い出しから戻ってきた二人は、まるで十年来の親友のような雰囲気を醸し出し、仲良くなっていた。
そしてパウリナは両親に提案する。
「お父さん、お母さん。ヨーコちゃんをウチに住まわせてもいいかな?」
「あたしからも、お願いします」
「お願い。お父さん、お母さん」
二人揃って頭を下げる。
……買い出し中に何があった?
困惑する僕を他所に、デルさんとアルマさんは相談する。
「俺はいいけどよ、オマエはどうだ?」
「賑やかになるのはいいことだし、いいんじゃない?」
彼らの肯定の言葉を聞き、二人は顔を上げる。
「よかったね、ヨーコちゃん!」
「ありがとう、パウリナ!」
二人は手を取り合い、満面の笑みを浮かべながらはしゃぐ。
……本当に、何があった?
◇◇◇◇◇
その日の夜。
あたしはパウリナと一緒にお風呂に入っていた。
日中色んな事を話している内に、パウリナと仲良くなり友達になった。
あたしには同年代の友達がいなかったから、新鮮な気持ちだ。
それに、この家に住まわせてもらうことになったのも感謝してる。
お互いの体を洗いあい、一緒に湯船に浸かりながら、あたしは隣のパウリナを見る。
日中は服を着ていたからわからなかったけど、パウリナは着痩せするタイプらしい。
あたしは自分の慎ましやかな胸元を見て、パウリナの平均よりやや大きい胸元を見ながら、アルスの前ではしなかった質問をする。
「ねぇ、パウリナ」
「ん〜?」
「パウリナって、アルスのことが好きなの?」
するとパウリナは、見るからに動揺した。
「な!? なななな、何を言ってるの!? そ、そそそそ、そんな訳ないじゃない!?」
「ホント〜?」
「ほ、本当よ!?」
「それじゃあ……」
そう言ってあたしは、パウリナの双丘を揉みしだく。
パウリナはくすぐったそうに身を捩る。
「ちょっ!? ヨーコちゃん、くすぐったいよ!」
「言え〜、白状しろ〜」
あたし達は、湯船の中ではしゃぐ。
お風呂を出て部屋に戻った後でも、あたしはパウリナをからかい続けた。
そして夜が更けていき、あたしはパウリナと同じベッドで眠りに就いた―――。
《登場人物紹介①》
アルス
本作品の主人公。人間族。16才(第10話現在)。ジョブ:魔物使い。武器:長剣。
故郷を滅ぼされ、瓦礫の下敷きになっていたところをソラに救助される。そして彼女に弟子入りする。
世間一般では、『魔王の弟子』と呼ばれることが多い。
ソラには師弟愛と、親子愛に似た感情を抱いている。
パウリナとは初めて食堂で出会って以降、友人関係となる。無自覚だが、彼女に好意を抱いている。
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