表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第7話 逃走

 うどん仮面は私の方に歩み寄る。「何をしているんだ、それは。光ったぞ、見せろ」そう言いながら私のポケットに手を伸ばしてくる。

「いや、これは、なんでもないのです」そう言いながら手をかわそうとするが容赦しない。抵抗するならばと、うどん仮面は私の手にうどんをくくりつけて拘束しようとする。そしてポケットへと手を入れようとする。

 私は観念した。ああ、私もつかまって収容所に送られるのか。そう思った時であった。

 周囲に突然白い霧が立ち込めた。いや、霧ではない。白い粉が宙を舞っているのだ。私はくしゃみをしてしまった。

 その次の瞬間である。突如どこからか麺切包丁が飛来すると、私を拘束していたうどんを切った。直後、女の声が響き渡る。いま小麦粉をまいたわ。この人たちに手を出さないで。でないとここでマッチを擦るわよ、と。

 白く霞む視界の中、うどん仮面が後ずさりするのが分かった。こんなところでマッチを擦ればどうなるのか馬鹿でもわかる。粉塵爆発で木っ端みじんだ。

 誰かが私の手首をつかんだ。「もたもたしないで、行くわよ!」そう叫ぶと同時に、強い力で引っ張られる。気が付くと私は粉まみれの状態で店の勝手口から脱出して、ミニバンの中にいた。竹内氏も一緒であった。

 車はすぐに走り出した。後ろから誰かが追いかけてくるようであったが、人間の足と車では人間に分が悪い。しばらくすれば追いかけてくる者もいなかったので、車は路肩に一時停車した。

「どなたかしりませんが助かりました。本当にありがとうございま……」そのように私が礼を言おうとした時だった。運転席に座っていた先ほどの女――長い黒髪であるのが分かった――は振り向いた。思わず私は声を上げそうになった。般若の面をつけていたからだ。

 ああ、驚かせてしまいましたね、そう女は言うと面を取った。おそらく年齢は20代後半と思える、きれいに整った顔の女性であった。前髪は切りそろえられている。女は言った、しかしあなた方は無謀です、私がたまたまあそこにいなければうどん仮面に連行されて臓器を抜かれ残りは小麦畑の肥料とされていたところです。いったいあなた方は、お遍路の格好をして何をしているのですか。

 私は竹内氏と顔を見合わせた。そしてこれは言うしかないと思い、彼女に話した。我々は埼玉県から来たのです。他の46都道府県とは隔絶され、圧政が敷かれているというこの香川県の実態を世に知らしめるため、潜入取材を行っているのです。

 なるほど、と彼女は言った。それでビザの取りやすい遍路の格好にしたのですか。しかしカメラをあんなところで出すとは不用意すぎます。気を付けるべきです。

 私はなんとも申し開きようがなかった。しかし、落ち着いてくると、疑問がわいてくる。なぜこの女性は私たちを助けてくれたのであろうか。うどん仮面に歯向かうなどという、ともすれば自分もうどんと香川県に対する大逆となりかねないことをしたのだろうか。

 私はおそるおそるその疑問を彼女にぶつけてみた。

 彼女は少し思案してから答えた。素顔を見られた以上、このままあなた方を県境まで送って開放するしかありません。再びとらえられた時私のことがバレては困るからです。それでも香川県を続けて取材したいというのなら、私たちとしばらく行動を共にしてもらうこととなります。そうすればさきほど以上の危険が伴うかもしれません。それでもいいのなら、我々が誰であるか、そしてなぜ助けたのかをお教えしましょう。

 ここであきらめるのはジャーナリストではない。私は、危険なら覚悟の上だと言った。

 彼女は言った。ではお教えしましょう、私は「香川解放戦線」のメンバーなのです。

 香川解放戦線? と私が問えば、そうです、と彼女は返す。そして続ける。香川解放戦線とは、香川を香川県議会と県知事の圧政から解放するための組織なのです。そのために各地で闘争を繰り広げているのです。そして私の名前は小川麗、香川解放戦線の幹部です。

 香川解放戦線、本当に実在したとは! そう私の隣で叫んでいるのは竹内氏であった。うどん仮面にせよ香川解放戦線にせよなぜ竹内氏はこういった香川の内情に詳しいのか謎である。

 なるほど、そういうわけですから不当に連行されそうになっていた私たちを助けてくださったんですね。私は言って、そして疑問を続けた。でも、なぜあの連行されていた人たちは助けなかったのですか?

 ああ、それはさぬきうどんを侮辱したからです。そう小川女史はこともなげに言った。この県でさぬきうどんを侮辱することは極刑をもって対処されます。それは仕方ないことです。

 それを聞いて、私と竹内氏は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 さて、ほかに疑問はあるかもしれませんが、小川女史は言った、続きはアジトに戻ってからにしましょう。さあ、我々香川解放戦線のアジトに、ご案内します。そう言うと車は再び道を走り始めたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ