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第1章 香川県渡航計画

華氏459度――ネットで香川が炎上し始める温度。

 私が友人の竹内氏から香川県へ行かないかと言う話をされたのは久化28年の春のことであった。その時は酒を飲みながら話をしていたので冗談であるかと思っていたが、夏が近づいたころに、四国に行くための航空券を手配すると言われた時にはたまげてしまった。しかし同時に、自分の中のジャーナリスト魂があの香川県をじかに見ることができる機会を逃してなるものかと奮い立ったのである。

 香川県は四国の東北部に位置する県であり、四国にある本土と瀬戸内海の島々で構成される。面積は1876平方キロメートル、人口は約90万人である。約90万人と言うのはこの件からすでに20年以上国勢調査の情報が上がっていないため正確な人口が分からないのである。ご存じの通り、香川県は日本国内にありながらその情報を遮断し人や物資の往来を制限している地域なのである。

 もう四半世紀以上昔の話となるが、当時の香川県で未成年に対しインターネットなどといった電子メディアとの接触を制限する条例が成立した。しかし努力義務に過ぎず、当然のことながら、かえって当時の県政を担っていた政治家たちは県外のマスメディアから強い非難を受けた。これに激怒した香川県は努力義務を義務とし罰則を加え、政権に翼賛的であった香川県の某新聞社および高松に本社が置かれた2つのテレビ局以外のマスメディアを県から締め出したのである。当然のことながらインターネット回線は切断され、携帯電話の電波塔はことごとく引き抜かれた。

 このとき数万の県民が流民と化し岡山や徳島へと逃れたというが、しかし香川県がそれを許すはずもなかった。県警を出動させると香川県に入ってくる道と言う道に検問所を設け人の往来を制限したのである。

 もちろん国内世論がそんな蛮行を黙っているはずもなく、残り四国3県は早明浦ダムからの香川県への給水をストップした。うどんをゆでる水がなくなってはすぐに香川県は音を上げるだろうという算段である。

 しかし香川県はなぜか持ちこたえた――それどころか、もう20年以上こうやって同じ体制を維持し続けている。これはいったいどうしたことか。水も資源もない県が、どうやって鎖国(鎖県、というべきだろうか)し続けていられるのか。これが長年の疑問であり、だれも解明できずにいた。

その謎に、今迫ることができるかもしれないのだ。

 だが問題は山積みであった。どうやって行くかということだけでも、いくつもの問題がある。高松空港は閉鎖されて久しく、空路で入ることはできない。陸路でも検問所があるし瀬戸大橋も通行止めとなっている。瀬戸内海に浮かぶ香川県に属する島々には定期航路があるが、これは今や岡山からしか運航されていない。調べたところによると、地理的に香川県本土より岡山県に近いため事実上香川県から独立し岡山県の自治体のようにふるまっているのだという。

 そしてなによりも入県審査の問題がある。

 行ったことのある人の話では事前にビザを取得しておかないと入れてもらえないのだという。それもビザは取得がむつかしく、ちょっとやそっとでは取ることができない。それに第一、どこで取得できるのかも皆目見当がつかなかった。

 そんなとき竹内氏がある情報をつかんできた。巡礼ビザなら、比較的容易に取得可能だというのだ。

 四国にはお遍路と言う文化がある。弘法大師ゆかりの88の寺院を巡る。そのうち22か所が香川県にあるのである(なお古い文献では香川県は23か所とあるが、これは雲辺寺を含むかどうかの違いである。雲辺寺自体は徳島県にあるが、そこに至るロープウェイの山麓駅は香川県にあった。今や徳島県側から山道を登るルートが主流となっているのである)。これを巡ることにすれば、香川県に入ることができる。しかもビザは徳島県鳴門市にある一番札所霊山寺で申請可能なのだという。

 すぐさま我々は潜入取材の計画を立てた。竹内氏はメル〇リですでに一度満願している(すなわち1~88番所すべての御朱印が押された)納経帳を2冊入手した。これは我々の行程が逆打ちとなるからで、遍路初心者がこれを行うのはあまりにも不自然であったからだ。なお納経帳は何度も同じものを使用するのが基本であり、回る回数を重ねるごとに朱印も重ねられ終には紙面全体が真っ赤に染まるという。

 もちろん取材であるからカメラも必要である。しかし香川県は電子機器の持ち込みを厳しく制限しており、デジタルカメラなど持ち込めるはずもない。第一香川県内で合法的に取材できるのは新聞1社とテレビ2局だけである。カメラが見つかることは避けたい。結局金属が入っていなければ金属探知機に見つかることもないだろうという魂胆からレンズ付きフィルムを2つだけ持っていくことにした。これはまことに断腸の思いであった。

 そして潜入のための遍路装束である。これも霊山寺で手に入ることが分かった。必要物品は現地調達できるのである。

 決まれば早かった。飛行機の切符はすでに予約していた。あれよあれよという間に、我々はその年の7月10日、徳島空港に降り立っていたのである。

この物語はフィクションであり、登場する自治体、人物、団体、法令などは実在のものとは一切関係がありません。万が一似たものがあっても他人の空似であり偶然の産物に過ぎません。

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