2
「ディアナ嬢との婚約を破棄するなど何を考えている! 今すぐ撤回せよ!」
「父上、何故ですか。悪辣なディアナよりも、希少な魔法が使え優しいリリアナの方が王妃に相応しいでしょう!」
「し、しかし⋯⋯」
声の主は国王である陛下だった。殿下に言い返された陛下は私の方に視線をやり言い淀む。私は陛下に向け首を横に振る。陛下が言わんとすることは分かるが、不特定多数の人がいるこの場で口にするのは些か危険だと思う。
「陛下、発言よろしいでしょうか」
少し考えた後、私はそう口にした。
「⋯⋯許す」
「私、リリアナ様に危害を加えた覚えは無いのですが、殿下がそこまで仰るのであれば婚約を破棄いたしましょう。ところで陛下、第一王子ではなく第二王子に王位を継承する気はございますか?」
「何を」
「其方は黙っておれ!」
陛下が、私に掴みかかろうとする殿下を制する。そして躊躇いつつも私に告げる。
「⋯⋯それで許していただけるのであれば、セドリックではなくフリッツに王位を継がせましょう」
「分かりました」
陛下の言葉を聞いた私は小さな声で呟く。
「皆、セドリックとリリアナには今後一切力を貸してはダメよ」
『りょーかい!』
空中をふわふわと漂う可愛らしい彼らが言う。彼らは私以外には見えないらしい。こんなに沢山いるのにどうしてと幼い頃は疑問に思っていた。今では理由が分かっているのだけれども。
「皆様、お騒がせいたしました。私は失礼致します。ごきげんよう」
これ以上この場にいてもろくな事にならない。私はカーテシーをし、会場を後にしようとした。
「待て!」
ところが、それは殿下によって阻まれた。肩を乱暴に掴まれ引き止められる。
「貴様に言われて、先程父上が私ではなく弟に王位を継がせると仰ったがどういう意味だ!」
「どういう意味も、そのままの意味ですわ。魔法も使えない王子に王位を継がせるわけにはいかないでしょう?」
私はにっこりと笑って殿下に告げる。すると殿下はわなわなと震える。
「魔法が使えない、だと? そのようなことあるはずがない!」
殿下は私に向かい手を差し出し、呪文を唱える。しかし、何も起こらない。
「何故だ! 何故魔法が発動しない!」
「王家の一員ながら、リリアナ様に目がくらみ、正しい判断を行うことが出来なかったからでは?」
私はそう言うとフッと笑い、殿下に背を向けた。