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「ディアナ、貴様との婚約を破棄させてもらう!」
建国記念パーティの最中、私の婚約者でありこの国の第一王子であるセドリック殿下がそう高らかに告げる。
パーティの参加者たちは私を哀れな、蔑むような目で見る。伯爵家の娘である私と殿下の婚約に、異を唱える者は多くいたのだ。当然の反応だろう。
だが、私にとってそれは大したことでは無かった。そもそも王家から懇願されて婚約したのだ。私はもちろん、父であるエルフォード伯爵も殿下と婚約したいなど露ほども思っていなかったのだ。けれども一伯爵家が王家との婚約を拒否できるはずもなく、渋々婚約して今に至る。そのため、殿下から婚約を破棄してくれるというのは願ったり叶ったりだ。ただ、問題はその後の殿下の言葉だった。
「私の愛するリリアナに対する非道な行いの数々。知らぬとは言わせぬぞ!」
⋯⋯はい? 私がリリアナ様に非道な行いを、ですって? 全く身に覚えがないのですけれども。
首を傾げると、殿下が私を指差し叫ぶ。
「光魔法が使えるリリアナに嫉妬し、彼女に嫌がらせをし、あまつさえ階段から突き落としたであろう!」
「セドリック様!」
私に対し憤慨する彼の元に、ピンクブロンドの髪をゆらし少女が駆け寄る。この可愛らしい少女がリリアナ子爵令嬢だ。光魔法――主に治癒や回復を行う――という、希少な魔法の使い手であるため、私達が通う学園でも何かと優遇されていた。それゆえ、子爵令嬢でありながら殿下と関わりを持つことができ、彼の寵愛を受けることとなった。一応私という婚約者がいるのに、殿下に近付いたことに関してはどうかと思うが、結果として婚約破棄に至らしめてくれたので咎めるつもりは無かった。
「ディアナ様はセドリック様に振り向いて欲しかっただけなのです。ですからセドリック様に愛される私に嫌がらせをされたのです。どうかディアナ様を許して差し上げてください!」
濡れ衣を着せ、私を貶めるような発言をなさらなければ。
溜息をつき、寄り添う二人を見据える。と、慌てたように殿下の名を呼ぶ声が聞こえた。