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リクエスト  作者: 潜水艦7号
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外出


「なあ・・・ナツキ、贅沢言って悪ィんだけど」

ヒロキがオズオズとナツキの顔色を伺う。

「何よ?『贅沢だ』って分かってんなら、黙ってりゃイイじゃん」

「・・・いや、そうなんだけどさ。でもさホラ、『じっとして』ばかりいると息が詰まるんだよ。だから、夜中でいいから『外の空気』を吸いに行きたいんだ」

ナツキは素っ気なく玄関のドアを指差した。

「玄関を開けて、少し顔を出して、深呼吸して、それでドアを閉める。以上終わり。何か不満でも?」

「いや、だからさ・・・」

『奥歯にモノが挟まった言い方』という表現がピッタリな感じで、ヒロキがナツキが食い下がる。

「デートだよ、デート。久しぶりにホラ・・・ドライブデートとか楽しみたいんだよ。分かるだろ?」

「ふー・・・ん?アンタ、それでイイわけ?知らないよ?『見つかって』も」

ナツキは呆れたようにヒロキに言い返した。

「うん・・・まぁアレだよ、流石に昼間は人目もあるからコワいけど、真夜中ならどうにかイケると思うんだ。えー・・・と。ホラ、昔、港の近くで夜中に星を見て楽しんだ事があるじゃん?今日は天気も良いし、星も良く見えるんじゃないかなっ・・・て」

「呆れたヤツ・・・。ホントにアンタ、『隠れてる』って自覚あンの?大丈夫?」

「だ、大丈夫だって!・・・・えー・・・少しくらい?なら。ははは・・・」

ふっー・・・とナツキが大きく息を吐く。

「しっ・・・かた無いわねぇ。『少しだけ』よ?ホントに少しだけだからね?」

時間は夜の10時を回っていた。

「まあ・・・此処からなら片道1時間もあれば、行ってこれるか・・・」

ナツキはジュリエットの電源ボタンを押した。

「ジュリエット、準備して。港まで行くから」

『OKデス。ナビゲーション・システムヲ起動シマス』

そして、ナツキはヒロキの方を振り返った。

「・・・『行く』ってんなら、今から行くわよ?早く帰って早く寝たいから」

ツッケンドンに言いながら、ナツキはコートを羽織る。

「え?今から?!わ、分かったよ!直ぐに用意するよ!」

ヒロキも慌ててコートを着込んだ。


自動運転というのは便利な技術ではあるが『運転する楽しみが無い』という意見は今でもある。だが、それと引き換えに多くの自動車事故が無くなった事を考えれば、その代償は致し方ないのかも知れない、とナツキは思う。死んでしまえば楽しみも何も無いだろうし。

「嬉しいなぁ・・・最近は忙しくって、こうして中々ドライブにも行けてなかったしさ」

ヒロキは助手席でソワソワしている。

「・・・何よ。『忙しい』ってのは、アンタの一方的な都合じゃん。自分が忙しいからって、ずっとアタシを放ったらかしにしてるクセに。こういう時だけ『恋人ヅラ』しようっての?」

不機嫌そうなナツキの横顔に、ヒロキは少々居心地が悪そうだった。

「まぁ、そう言うなよ。忙しくって構ってられなかったのは謝るからさ。これでもボクはナツキにずっと惚れてるんだよ?」

「まぁ!シラフでそんな事を言うなんて、そんなウソが通じるとでも思ってるの?」

ナツキの機嫌を取ろうとして、ヒロキは更に深みへ嵌っていくようだった。

「ウソだなんて・・・、そんな事は無いよ。ホントに惚れているんだ。信じてよ」

ナツキは、チラッとヒロキの横顔を見て、すぐに前に向き直った。

「まったく・・・・お婆ちゃんが言ってた通りだわ」

「え?お婆ちゃん?お婆ちゃんが何を言ってたの?」

ヒロキが聞き返す。

「・・・お婆ちゃんは言ってたわ。『男は"イイ女"に惚れるものだ。だが、男が言う"イイ女"って言うのは、自分にとって都合が"イイ女"の事だ』って。まったく、アンタを予言してたような言葉よね」

「いや・・・手厳しいな・・・はは・・・」

ヒロキが苦笑いを浮かべる。

「けど、こうして匿って貰ってるのはホントに感謝してるんだよ?それに御飯も食べさせて貰ってるしさ。いつかチャンと恩返しはさせて貰うよ」

「ふん・・・どうだかね。武士の情けで利子は勘弁してあげるから、期待しないで待っとくわ」

『目的地ニ到着シマシタ。停車シマス』

港への到着を知らせるジュリエットの電子音声が流れる。

キュイー・・・・ン

ハッチが開く音がして、二人が外へ出た。

「あー・・・・やっぱり・・・外の空気はいい・・・生き返る気分だよ・・・」

ヒロキが大きく伸びをする。

岸壁は真っ暗で、遥か向こうに大型客船の明かりだけが見えている。

「・・・寒いわね。まったく、こんな時間に何て物好きな話かしら」

ナツキはまだブツブツ言っている。

「そう言えばさ、さっきナツキは『男は都合のイイ女に惚れる』って言ってたよね?だったら、女はどうなの?『都合のイイ男に惚れる』んじゃないの?『友達に自慢できるイケメン』とか『大金持ち』とかさ」

ヒロキは、外の空気を吸って少し気分がリフレッシュしたようだ。

「違うわ」

ナツキがそれを否定する。

「『自慢出来るイケメン』とか『大金持ち』って言うのは理性的な『条件』なのよ。より確実に自分の子孫を残すため生物的な『条件』ね。そういうのは『理性』の話だから好き・嫌いの『感情』とは違うの」

「へえ・・・?」

よく分からない、という顔をヒロキが見せる。

「・・・女はね、『自分を破滅させてくれる男』に惚れるのよ。きっと」

ナツキの眼はじっと海の方を向いている。

「え・・・?『破滅させてくれる男』?何だよ、そりゃ」

怪訝な顔をするヒロキだが、ナツキの声は冷静だった。

「だからこそ、アタシはアンタに惚れたのかもね。ここ数日、ずっとそんな事を考えてたわ」

「ナツキ・・・」

ナツキから近寄りがたい雰囲気が出ていると、ヒロキは悟った。

「・・・何が言いたいんだ、ナツキ。ハッキリ言ってくれ」

ナツキがヒロキの方に向き直った。

「言ってイイの?じゃぁ言うわ。アンタ・・・此処でアタシを『殺すつもり』なんでしょ?」

「・・・。」

ナツキの衝撃的な問いかけに、ヒロキは無言だった。


その頃、事故調査委員会の方ではIROから事件の進展が伝えられていた。

『皆様のご理解とご協力を感謝します。お陰様で、犯人グループと思われるNJOのメンバー洗い出しが完了しました』

「早いな・・・流石ですね」

おお・・・と委員会から歓声が上がる。

『それで、メンバーの一味と思われる人物の一人が、442便に搭乗していた事が判明しました』

「なんと!」

座長が立ち上がる。

「誰ですかな、ソイツは?」

『日本名と思われますが・・・"ヒロキ・ニッタ"とあります』


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