事情
「え・・・・?『連絡するな』って・・・どゆこと?」
ナツキが眉を潜める。
「どういうって・・・そのままの意味だよ。連絡されると・・・つまりボクが生きてる事がバレるのは困るんだ」
ヒロキが、人指し指を口の前に立てる。
「いや・・・意味、分かんないし。だって『奇跡の生還者』だよ?テレビとかに出たらスターになれるじゃんか」
「だから!『それ』が困るんだよ」
なおも、ヒロキはナツキを押しとどめる。
「いいかい?そもそもリクエスト・ペーパーで運用されている現代の航空機が『墜落』なんて事は、本来『有り得ない』んだ。それが『落ちた』という事は、これはもう通常の事故じゃなくって、完全に『テロ』だと見て良いと思う」
確かに。『有り得ない』事が起きたという事は、かなり人為的な『何か』があったと見ていいだろう。
「でね、いいかい?その場合、犯人もしくは犯人達は『生存者』が出て証言をされると『困る』ハズなんだ。自分たちの正体がバレる恐れがあるからね・・・だから、迂闊にボクが『生きてました』なんて出て来た日には、今度こそ『生命が危ない』んだ」
「いや・・・でも・・・」
ナツキは納得の行かない表情だ。
「何か・・・考え過ぎなんじゃないの?」
ナツキの問いに、ヒロキの顔が引きつる。
「いや・・・そうとも言えないんだ。アメリカに居た時に『ヘンな噂』を耳にしてさ・・・もしも『そう』なら、相手はトンでもない集団なんだよ」
ヒロキの指が何処となく震えているのが分かる。
「分かんないけど・・・だったら、警察に事情を話して保護をお願いとかすれば、安心じゃん?」
「・・・信用ならないよ、そんなの。だって警察の中に同調者が居たら終わりだしさ。ボクは『万が一』にも殺されたくは無いんだよ。だから身の安全が確保されるまでは、じっとしてたいんだ。頼む、協力してくれよ!」
再び、ヒロキが拝むような格好をする。
「えぇ・・・そんなぁ・・・。あ、だったらお母さんにだけは『内緒』で・・・」
「ダメだって!『そこ』がイチバン危ないんだから!『あの人』のアダ名って知ってるだろ?『拡声器一体型高感度マイク』だよ?聞いた事はどんな秘密であろうとも、あっと言う間に広めちゃうんだから!」
うーむ、とナツキが腕を組んだ。
それは・・・否定出来ないと思う。ナツキ自身も色々とビックリするような目に遭って、ヒロキから謝罪された経験があるのだから。
「本来なら・・・と言いたいところだけど、アンタの生命が掛かってるからねぇ・・・」
「だろ?だから『此処』がイチバン安全だと思って来たんだ、頼むよ」
ナツキはどっかりと椅子にもたれ掛かった。
「ちっ・・・一緒にカッコよくテレビに出られると思ったのに・・・まぁいいか、どりあえず生きててくれたんだし」
その頃、緊急に招集された事故調査チームでは慌ただしく状況の整理が続いていた。
「・・・それで、442便の墜落と海中沈没は間違いないと?」
「ええ、今、自衛隊のソナーによって650m海底下で『それらしい機体』を発見したと、連絡がありました」
ふっー・・・と出席者から溜息が漏れる。
「やはり、か・・・。とりあえず犠牲者の冥福を祈る他ないな・・・。何しろ運が悪過ぎる。これが深度100m以内なら、数時間は持つだけの耐水圧性能があるのだが・・・650mでは、どうする事も出来ん」
「ところで」
ひとりの男が手を挙げる。
「原因の方は如何でしょうか?何か進展はありましたか?」
「ええ、さきほど緊急に442便の『リクエスト・ペーパー』をスペックに再確認させました。結果としては『テロを含め、墜落の可能性を事前通知出来なかった可能性は100万年に1度以下』だそうです」
資料を片手に、担当者が返答する。
「100万年か・・・まず『有り得ない』な。だとすると、可能性はふたつにひとつ、という話だ。1つは我々が全く予見出来ない画期的なハイジャック方法をテロリストが『発明』した・・・と。2つめはもっと深刻で、リクエスト・システムそのものの『バグ』か『セキュリティ・ホール』を突かれた・・・かだ」
出席メンバーの間に緊張が走る。
「システム自体の問題、となると厄介ですな・・・」
現時点において、この世界はそのほとんどをリクエスト・システムに依存していると言って過言ではない。それこそ、航空機から自動車、家電製品から社会インフラに至る全てが、リクエスト・シテスムによって運営されている。
仮に『これ』に何かしらの問題・・・それも致命的な欠陥があるとなれば、世界は大混乱に陥るだろう事は容易に想像できる。
「仕方ない、世間は騒いどるが『報道規制』だな。中途半端な思惑と思い込みで動かれるとパニックになるだけだ。確固たる事実が出るまでは『何も公式見解を出さない』。それでよろしいですかな?」
座長がメンバーを見渡した。
その時、
『こちら、スイスのIRO国際総本部です。発言の許可を求めます』
テレビ電話で参加していたIRO本部から声があがった。
『報道規制が敷けるのでしたら、極秘事項をお知らせしたい思います』
「何・・・本部は何か知っているのか!」
メンバーが色めきだつ。
『絶対の秘密厳守でお願いします。実は、リクエスト・システムに対して異議を唱える集団が存在します』
本部の担当は、淡々と説明を始めた。
『彼らは自分たちをリクエスト・システム運営チームに参画させる事と、その報酬を要求しています』
座長の顔が曇る。
「運営チームへの参画だと・・・?何処の馬の骨とも知れん輩をか?そんな事をしたら、そいつらに世界中のシステムを牛耳られかねんぞ・・・」
『我々も同様の見解です。認める事は出来ません』
「その、不届き者達の素性は割れているのか?」
興味深そうに座長が尋ねる。
『残念ながら。それを知るには『個人情報開示レベルMAX』の指定が必要になるので、それには根拠が不足でした。ですが今回ばかりは話が別だと思います。出来れば、今回の案件を根拠に申請を出したいと思います。そのため、事故調査委員会の同意が頂きたい』
「・・・なるほど。だから『情報を開示した』という話か。いいだろう。双方の利害が一致する話だ。同意して、歓迎するよ」