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現代版 古文

現代版 筒井筒

作者: different easy night

ある街に都会から移り住み、暮らしを立てていた家族がいた。



その家族の構成は父・母・少年(息子)となっており、少年は隣に住んでいた少女と毎日、庭にあった古い井戸を囲んだ柵の周りを走り回って遊んでいた。幼馴染のような存在だった。



少年と少女が大人になると、お互いに照れくさがってあまり遊ばないようになった。

しかし、男は幼馴染の女とぜひ結婚したいと思っていたし、女もこの男を夫にしたいと思っていた。



しかし、女の親は男と結婚させず、近くのお金持ちの息子のところへ嫁がせようとしていた。俗にいう「玉の輿」である。だが娘はその金持ちの男の顔も性格も嫌いだった。彼女は親の言うことを全然聞かなかった。




そんなとき、女の元に幼馴染の男から歌が贈られてきた。

「筒井筒 井筒にかけし まろが丈 過ぎにけらしな 妹見ざるまに

(私の背丈が井筒の高さを越えてしまったということは大人になったということであり、君と結婚ができるようになったということなのだ。)」




女はそれに返して歌を詠んだ。

「くらべこし 振り分け髪も 肩過ぎぬ 君ならずして たれか上ぐべき

(子供時代の髪型とは違って振り分けた髪も肩を過ぎてきました。あなた以外の誰にこの髪を上げようか、いや私の髪を上げるのは、私と結婚をするのはあなたしかいないのです。)」




このようなことを言い合っているうちに女はついにかねてからの念願である幼馴染との結婚を果たした。










二人は仲睦まじく暮らしていた。しかし、時が経つうちに娘の両親が亡くなり、頼るところがなくなるとともに貧乏になっていった。男は貧乏のままでいるのはいやだったので隣町のお金持ちの新しい女に通っていた。妻には仕事の用事と言っていた。



それでも男の妻は男をなにもないかのように彼を送り出し、憎いと思っている様子もなかったので、男は疑問に思った。


なぜ俺が浮気をしているのに妻は何も言ってこないのだろうか。もしかして女には他の男がいるんじゃないか、と。






ある日、いつものように女は男を送り出した。男は隣町へ行くと見せかけて、ひっそり舞い戻り、さっと庭の植込みの中に入って隠れて座った。開けておいた窓からは女の様子が丸見えだった。




すると、少しもしないうちに女はきちんと化粧をし始めた。

男は、これは他の男の所へ行く準備をしているのだな、と思い、女に目を戻すと、すぐに女がぼんやりと物思いにふけっている姿が目に映った。




ダイニングの席に座り、ぼんやりと外を眺めていた。そして女はふと口を動かした。

「風吹けば 沖つ白波 たつた山 夜半にや君が ひとり越ゆらん

(この夜中にあの人(夫)は大変な思いをしてこの街と隣町をたった一人で行き来しているのだろう)」



男はこの歌に女の心配する気持ちが聞き取れたので限りなく愛しいと思って新しい女の所へはあんまり行かなくなった。



ごくたまに隣町へ行ってみると、男が浮気していた女は初めのうちは上品にふるまっていたが、今は気を許してしまって髪の毛もとかさず、化粧もしなくなっていった。男はそんな女の行動が嫌になり、新しい女の所へは全く行かなくなってしまった。



だが新しい女は男が来なくなった理由が皆目見当もつかないので、隣町の方を家から見て、男に来てほしいと思い、歌を詠んでいた。




「君があたり 見つつををらむ 生駒山 雲な隠しそ 雨は降るとも

(あなたの住んでいるあたりやあなたがやってくる道々を見ながら私はずっとここにいます。お願い、雲よ、雨は降らせてもその道を隠さないで)」



女は毎晩隣町の方を見た。


後日、やっとのことで男から行こうという返事が来た。

女は待ちに待った返事がきて、そして来ると聞いたので喜んで待ったが、男がやってこないことが何回もあったのでもう一度男に向けて歌を詠んだ。



「君来むと 言いし夜ごとに 過ぎぬれば 頼まぬものの 恋ひつつぞ経る

(あなたが行きましょうと言ったのにあなたがやってこずにむなしい時が過ぎたのであなたがくることを期待はしません。ですが、私はあなたのことを恋しく思って過ごしているのですよ)」





しかし、男は二度と新しい女の所へは行かなかった。






その新しい女の前に男は二度と現れなかった。


このシリーズの他の作品も出すつもりです。面白いと思った方は他の作品もよろしくお願いします。 連載作品もあります。

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