二人の大巨漢
「君は今日から王国専属魔道士だ、よろしく。」
肘を持ちずるずると引きずった後到着した部屋で男はキリシマに白いローブを渡しながら言う。
「私は帰らないといけなのだが。」
「王国籍もない人間がなにを言ってるんだ、大出世だぞ。」
「いや、だが日本国籍は…。」
「そこに帰るためにこのチャンスを不意にするなんてバカのすることさ。とにかくそれを着なさい。」
「ううむ…。」
キリシマは歯切れの悪い唸り声と共に渡された白いローブを身に纏う。
その体躯に見合わぬサイズ感のローブはキリシマの体を覆うので精一杯、パッツンパッツンといった感じだ。
「おかしいなあ、フリーサイズのはずなんだけど。」
しかしそのローブはキリシマの筋肉に対応しきれずピチピチである。ピッチピチである。
「まあ良い、そこまで押すということは困っているのだろう。その問題が解決したら帰るからな。このローブはそれまでの我慢と思えば造作もないことだ。」
動きの確認のために身体を捻るたびにミチミチという音、そしていくらかの布の破れる音が聞こえる。
明らかにサイズが合ってない。しかし人の上に立つ器を持っているキリシマは寛容だ。穏やかな笑みと共に魔導士として参加することもサイズの話も快諾した。
ぱっと見ピチピチタイツのようなローブに包まれるのではなく、キリシマがその大きな心で、ローブを包みこんだのだ。
「話がはやくて助かるよ。じゃあ明日から早速任務だ。詳しいことはこいつから聞いてくれ。」
彼の言葉に合わせてキリシマと負けず劣らずの大男が入口の枠を砕きながら入ってくる。
体を斜めにすることをしない性格も、引き締まっていない体もキリシマと正反対だった。キリシマは筋肉ダルマ。そいつは脂肪のダルマ。
横に凸凹コンビに完成だ。
「じゃあ、あとはよろしくなマーズ。施設とか色々教えておいてくれ。」
「わかったでごわす。」
彼はその場から立ち去りマーズという名の大男とキリシマがその部屋に残った。
「よろしくマーズさん。俺はキリシマだ。」
愛想よく握手を求めるキリシマ。
「よろしくでごわす。まずはこっちにくるでごわす」
軽く握手を交わした後、マーズは部屋を出た。キリシマもそれに続く。
それからたっぷり二時間程度部屋の説明があったが、その半分の時間は食堂につてであり、そのメタボリックシンドロームの原因が食堂のご飯おかわり無制限制度によるものだとわかった。
他にはゆるっとした説明があるばかりで、それでも全施設の説明に一時間掛かったことを考えれば随分と沢山の施設が取り揃えてあることが伺い知れる。
施設内の地図の前で施設の説明全てを済ませられたという事実も含めれば余程の量の施設だ。
王国直属はすごい。
「それで、毎週金曜のビックカレーがおいどんでも一杯で満腹になる超コスパメニューなんでごわすよ。」
さっきまでいた部屋に戻る道中、マーズが気さくに話しかけてくる。
これもキリシマのコミュニケーション能力の賜物だろう。
部屋に着いても、風呂から上がっても、パジャマに着替えても、歯を磨いていても話しかけてくる。
コミュニケーション能力の高さとかそういう問題ではない、彼がマーズと出会ったその場所、つまり彼に寝床としてあてがわれたその場所から一向に出て行く気配がないのだ。
「よう、すっかりルームメイトと打ち解けてんな。」
なぜかパジャマ姿のキリシマを引きずることに長けた昼間の男が入口に身を預け語りかけてくる。
「ルームメイト…?」
「もう、キリシマ氏とおいどんは心の友でごわすよ!!」
マーズはノリノリだ。
「おいおい、もう一人のルームメイトをハブにしないでくれよ。」
彼がこちらに向かって走ってくる。その手には枕。計4つ。片手に二個ずつ持っている。
刹那投げられる枕。枕で応戦するマーズ。素早く適応し両手に1つずつ枕を持つキリシマ。
その晩は、枕合戦に明け暮れた。