300m先の王国
300m先を曲がる、300m先を曲がる。繰り返さずとも覚えることが出来る道筋。少し上を向けば明らかに城っぽい物の先端が視認できる。がっつり見える。木と木の隙間から城壁まで見えるし耳を澄ませば賑わいも聞こえるし城下町っぽい町並みもなかなか見える。
「あの村に寄らずとも絶対に発見できたな」
思わず声が漏れた。溜息もついでに漏れる。肩がうなだれるのを感じるがこんなことでうなだれるにはまだ早いと背筋を伸ばした。
300mの短距離をいつもの歩調で歩く。
やはりというか当たり前というかすぐに道はひらけ城下町の入口へとたどりついた。
”オーコク王国”書かれたゲートの足元に男が立っていた。凄く話したそうな顔をしている。
話したすぎて口元もごもごしている。仕方なくキリシマは話しかけた。
「話したそうにしていたがどうしたんだ。」
「よう、ここはオーコク王国だ。」
「いや、そうじゃなくて。」
「ここは穏やかでいいところだぜ。」
「そ、そうか。言いたかったのはそれか?」
「よう、ここはオーコク王国だぜ。」
「いや、知ってるが。」
「ここは穏やかでいいところだぜ。」
「それが言いたいのか?」
「よう、ここはオーコク王国だぜ。」
「それは見れば分かるが。」
「ここは穏やかでいいところだぜ。」
「いい加減にしないと痛い目に遭うぞ。」
進まぬ会話に愚弄されていると感じたキリシマは掌に火を宿らせる。
煌々と燃えるそれは徐々に大きくなり、キリシマと男を照らす。
「よう、ここはオーコク王国だぜ。」
男はセリフは変わらぬがいささかおろおろしている。
「おい!こんなところで魔法を使うな馬鹿者。」
後ろから肘を掴まれる。
声の主にキリシマは首を向け口を開く。
「これはパイロキネ…。」
「いいから行くぞ、王様が今回の報告を待っている。」
白いローブを羽織った男性に肘を引かれキリシマは重心が安定せず上手く抵抗出来ない。
「ここは穏やかでいいところだぜ。」
男はなんだか心配そうにキリシマを見送った。
ー数十分後、城内魔法研究室
「どうするんですか!一般人をここにつれてくるなんて!!」
蒼い目の女性が声を荒らげている。
「いや、パンピーじゃない。」
蒼い目の女性と話しているのはキリシマを引き摺ってきた男性だ。
「王国公認通行書も魔道書もないどころか王国籍すらないんですよ!?」
「だから、パンピーじゃない。」
「トンチやってる場合じゃないんですよ!魔物だったらどうするんですか!」
「ここまでの人型は観測されてないだろう。」
「新型という考えには至らないのですか!!」
「……いいか?」
二人の言葉を遮ったのはキリシマ本人だ。
「俺は魔物じゃない。」
キリシマは尾も角も異常骨格も無いことを示す為に立ち上がる。
「それはこっちが決める事です!」
蒼い目の女性が小型の杖をこちらにむけて振った。
しかしキリシマは動じない。
「俺に超能力は効かない。」
「な……クリスティーナはうちの中でも指折りのアンチタームビンの使い手だぞ!」
興奮を示したのはキリシマを連れてきた男性だ。
「言ったろう、俺に超能力は効かない。」
「これは……。」
クリスティーナというらしい蒼い目の女性の瞳には畏怖といよりも期待の色が強く写っている。
「使えるかもしれません。たとえ魔物でも、言葉が通じるなら大丈夫ですよ。」
「言ったろう、俺は魔物では……。」
キリシマは再びあの男性に肘を掴まれ研究所から出されてしまった。