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異世界で廃人生活。  作者: ベアスト
7/17

冒険者。

一方、時を同じくしてその頃。

迷宮の外では、冒険者の遺体が教会へと搬送され阿鼻叫喚の騒ぎとなっていた。


この世界に降り立った冒険者達は、勘違いをしていた。

ここは、VRMMOのゲームの世界であると思っていたのだ。


どれほどリアルであっても、死んでも新しく始められる。だからリスクを冒してスタートダッシュをかけても、失敗したら失敗したでそれまでであると思っていた。


この日、この街の近くの初期地点に降り立った冒険者の数は500名前後だ。

無論、本当にVRMMOの世界であればその数はとても少ないと言えただろう。


冒険者たちはその数の少なさは、最初は単にサーバーが違うからだと解釈していた。

ひとつのダンジョンに何千何万人もが押しかけてしまえば、攻略も糞もない。

どんなボスでも数で押しきれてしまえるだろう。

だから、こうしたダンジョン系VRMMOでは人数を分ける必要があるのだ。

元々、このゲームのパーティプレイはかなり難しい。

ひとつのサーバーには500名前後というのは、納得できる人数だったのだ。


オープニングが妙にリアルで女神が助けを求める反応が真に迫っていたとしても。

キャラクター設定ができず、リアルの顔を晒すことになったとしても。

ネームさえつけられず、ステータス画面が開けなくても。


彼らは、まだ信じていた。

ここはゲームの世界なのだろうと。

仕様が変わっただけなのだろう、と。


だって、街を歩けば獣人がいるのだ。

どう見てもその人らは特殊メイクでは有り得ない再現度で耳を動かし、大きな目で見て、話をしている。これが現実だなんて言われても、誰が信じられるものか。

リアルなゲームとしか思えなかった。


逸る気持ちを抑えて、街中を疾走する者がいた。

物珍しそうに露天を見る者、ダンジョンの前にいる兵からチュートリアルを受けた者、そしてダンジョンに潜っていった者。

沢山の冒険者が、新たな世界に心を躍らせた。

ここはゲームだと、信じていたから。


チュートリアルの兵士は、大挙して押し寄せてくる冒険者に眉をひそめた。

彼らは、どうも危なっかしい。


説明はいいからLv1ポーションを寄越せと詰め寄ってくる賊まがいの者までいる。

それら1人1人に丁寧に説教をしながらも、迷宮の危険性をきちんと説いた。

聞いていたものがいたかは怪しいが。


もっと装備を整えてからの方が良い、モンスターハウスには気をつけろと。

どうも迷宮をナメているように見えた。

先ほどなど、上半身裸で迷宮に入った者までいた。

あの時は呆然と見送ってしまったが、お前は何を考えているんだと言いたい。

そうため息をついては、兵士は冒険者に注意を促した。


冒険者は全員が全員、ベータテストを受けていたわけではない。

殆どは始めて見たVRMMOの世界で、それが仕様と違うなどとは思わなかった。

みんな、興奮していた。夢に満ち溢れていた。


中にはログアウトの仕方が分からず、怪訝そうに調べ始める者もいたけれど。

仕様変更されたにしても、方法が説明されないことを不思議に考えて立ち止まるものもいた。


そしてベータテストを受けていた者も、まさかそこが異世界だとは思わなかった。

だって、そんなのあまりに非現実的すぎる。

魔法も、モンスターも、獣人達も何もかも。

いくら死んだ時の反応がリアルだと言っても、本当に死んでいるとは思わない。


冒険者がその誤りを理解したのは、目の前にいた者が死んだ時だった。


ダンジョン1階。

先頭を走る彼は、ベータテスターだった。

どこの店にも入口の兵士には目もくれず、真っ先にダンジョンへと入っていった。

たぶん一番乗りだ。とにかく、時間が惜しい。


まず、目指すは1階の固定宝箱だ。

この世界の宝箱は早い者勝ちなのだ。

1階の宝箱はたいしたアイテムではなかったが、あの宝箱は人気狩場が近いのも美味しい。

芋洗いのような状態になる前にスキル上げをするのだ。


しかし、所詮はLv1の冒険者だ。

彼は見誤っていた。モンスターハウスは、そう甘くはなかった。


スキルも何も上がっておらず、短剣の扱いにリアルで長けたものなどそうはいない。

冒険者は、最初はみんな魔法も打てず、得意な武器もなければ防具さえロクにないただの人間なのだ。

モンスターハウスもとい、モグラ叩き場となった後しか知らなかった。

彼には、それに対処が出来なかった。

回避が重要なことは分かってはいたのだが、ノーミスではクリア出来なかった。


街中でもスキル上げは出来るし、むしろ街中でしか上げられないスキルだってある。

本当に迷宮に足を踏み入れるのが初めてならば、少しくらいは準備を整えてから入るべきだっただろう。やられたらその時はその時、そんな冒険心で挑んでしまうのは愚かとしか言い様がない。


結果、彼は死んだ。

一度ミスってしまった後には、予想以上の痛みに体がすくんでしまった。

有り得ない、死にそうなほどの痛み。


その隙を次々と襲われて、沈んでいった。

殺されて、スライムに吸収されて、レッドスライムの一部となった。


そこへとある冒険者がやってきて、モンスターハウスを全滅させていくついでにレッドスライムも殲滅するのだが・・・彼が、その遺体に気づくことはなかった。

とはいえ、発見してもせいぜいリアルなオブジェとしか認識しなかっただろう。


だって、彼は信じていたのだから。

この世界は、ゲームであると。


人気の狩場には、続々と人が集まってくる。

その彼が立ち去ったあと、すぐに冒険者の6人パーティが乗り込んできた。


そこには、死んだ遺体が消えずに残っていた。

コボルトソルジャーの死体も、白骨化した冒険者もだ。

その光景を見て、冒険者たちは息を飲んだ。悲鳴をあげたものもいた。

なんだこれは、リアルすぎる。グロすぎる。


その中の一人は、舌打ちした。

既に固定宝箱は開かれていたからだ。

誰かが来た後だったのだ。・・・とはいえ、スキル上げが彼らの目的だった。

宝箱は惜しいが、この狩場を抑えることこそ序盤の鍵を握るのだ。


しかし、どうしてか消えない死体は、妙にリアルで。

それらが発する臭いは、とても嫌なものだった。


それに、コボルトソルジャーから受ける傷はとても痛かった。

まさに死にそうなほどに、痛くて・・・設定を間違えているとしか思えなかった。

ステータスバーも見えないので、どれほどダメージを受けているかが分からない。


殺して、殺して、そのうち仲間の1人がふと死んだ。

え?

そんな顔をして、死んでいった。


彼らは、そこで改めて死の惨状を見た。


死体に被さり、ドロドロに溶かしていくスライムを見て1人が吐いた。

ちょっと待て、ああもリアルな光景にする必要があったのだろうか。

さっきまで一緒に組んでいた仲間が、見るも無残な姿へと変貌していった。

残るは、赤いスライムと白骨だ。


残された彼らは、戦意を喪失しかけて一歩後ろに下がった。


今まで自分たちが戦っていたモンスターが、急に本物の化物に見えてきたから。

ここはモンスターハウスだ。湧きも早い。

壁の穴から次々とコボルトソルジャーが出てきた。


仲間の仇を討とう。

そうして仕掛けた1人が、コボルトソルジャーに反撃をされて、殺された。

その光景は、とても見てはいけないものに思えた。

頭に血が上って、回避するより攻撃しようとしたからだろう。

何てことない相手だったはずが、あっさりとやられてしまった。

リアルだった。人が目の前で死んだ。


おかしい。

このゲームは、R15指定などはなかったはずだ。

冒険者たちに冷や汗が浮かぶ。


この世界は、ゲームの世界ではないのだ。

頭の中ではそう、理解をしかけていた。

臭いが、音が、血が、殺意が。


だって、あまりにもリアルすぎる。

この光景は、リアルすぎる。血が飛沫となって鉄の臭いをあげる。

VRMMOだって?これは、やりすぎだろう。作り込みすぎだ。

確かに僕らは、浮かれていたのかもしれない。

このダンジョンを、ナメていたのかもしれない。

でも、だからと言ってこんなことが許されるものか。


いいや許しはしない、絶対に訴えてやる。

精神的なトラウマを植え付けた運営を、許さない――。

震えながら、冒険者はモンスターへと武器を振るう。

死んだ。

さらにまた1人、死んだ。

腰が引けた状態では、戦いにはならない。

元々、冒険者は格上の相手に挑戦しているのだ。

油断していた。

もっと楽に倒せるものだと、侮っていた。


あるいは彼らが冷静であるならば、倒せたかもしれない。


残った冒険者は逃げようとしたが、コボルトソルジャーが回り込んで来た。

まるで仇を討とうとでもするかのように、モンスターが睨みつけてくる。

ひぃと悲鳴を挙げて、腰を抜かせば――彼らに救いはなかった。


冒険者達は、全滅した。


その惨状は、1度ならず2度、3度と起きた。

辺りでは、あまりの痛みに、リアルに、次々と冒険者たちは壊滅していった。

そうして死体は積み重なっていった。


わずか一時間足らずで、冒険者の間には恐怖が伝播していった。


この世界は、ゲームにしてはおかしいと。

だって、ログアウトが出来ないじゃないか。

ステータス画面さえなくて、リアルすぎるじゃないか。

口々に疑問に感じていたことを言葉にしだした。


獣人たちは普通に会話が出来て、兵士だって本物だ。

聞いたことに機械的に答えるのではなく、こちらを本気で注意し迷宮の恐ろしさを語ってくれる。


誰かが兵士に、獣人たちに詰め寄った。

あんた運営が中の人なのだろう、なんとかしろと。

そう言われても獣人は困ったように、冒険者たちを宥めるしかなかった。

お前は何を言っているのかと呆れるしかない。

だから言っただろう、とため息をつくしかない。


だって、これはゲームなどではないのだから。


この世界は、ゲームにしてはおかしい。

本物の――異世界なのだ。

冒険者たちは、惨憺たる状況となったダンジョンを見てようやく理解した。

中には、まだゲームと信じる者もいたけれど。


そうと分かってしまえば、見てしまえば。

無茶な冒険をする気など起きなかった。

ゲームでないなら、モンスター相手に戦うことなどそう出来ることではないのだ。


オープニングで、たしか女神はこんなことを言っていた。

この世界を、救って下さいと。

そうすればあなたたちを元の世界に返すことが出来る、と。

力を貸して欲しい、勝手なことをしてごめんなさい・・・と本当に申し訳なさそうにしていた。


その言葉通りであるなら、冒険者はダンジョンに潜る必要があるのだ。

奥底に眠る秘宝を集めて、魔王を倒すことが世界を救うらしい。


冒険者たちは、そんな女神を鼻で笑っていたものだ。

この世界が、こうも恐ろしいとは思っていなかったから。

その言葉を、よくある設定乙、としか思っていなかったから。

真面目に受け取ったものは殆どいなかった。


真摯に説明しようとしたら、早くしろと言われて涙目になっても。

女神たん可愛い、結婚してくれと騒がれても。

女神は、必死に説明しようとしていた。


この世界を救える可能性のある者たちを、呼び出してしまったから。

救ってもらう為に、1人1人に加護をつけた。

1人1人、丁寧に説明をした。


そんな女神を、今や冒険者たちは恨み、憎んだ。

良くもこんな世界に呼び出してくれたな、と恨みを吐いた。


魔法によって教会へと次々と遺体が運び込まれる、阿鼻叫喚のさなか。


迷宮へと挑戦するための準備を整えようとする者もいた。

ゲームではないと理解をしつつ、そこには冒険心があるからだ。


街中のクエストをこなして、聖魔法を習得しにかかる者。

ただひたすらに絶望する者。

まず1階を地道に攻略しようとする者。

まだゲームだと信じ込んでいる者。

街の外のことを何も知らずに、街から逃げ出そうとする者。

まずはベータテストで使った武器から入手をしようとする者。

そうしたベータテストの情報を集めようとする者。


そして、その時。

ただ1人ダンジョン5階へと辿り着いた者がいた。


様々な冒険者たちがいた。


彼らは幸いにして、1人ではなかった。

同じ世界から共に来た仲間がいるのだ。


冒険者たちは、結局その日はダンジョン1階の攻略さえ殆どまともに行えなかった。

死んでいった者たちが、復活することはないと知ってしまったから。


白骨化した死体は、もう二度と人として復活することはない。

スケルトンが良いところだ。

死んでから1時間内にゾンビパウダーを処方しなかった死体も無理だ。もう動けない。

死んでから一定時間内に上級蘇生魔法をかけなかった死体も無理だ。もう生き返らない。


死んだ者は、生き返ることはない。

この世界でも、そんな当たり前は当たり前である。

それを知ってしまった冒険者達には、どうすることも出来なかった。

誰だって命は惜しいのだ。


この世界は、あのVRMMOの世界と似すぎている。

祝福の日だって、あるのだ。

そして、その時が来れば強くなれるという話だ。

ダンジョンの中だって、殆ど構造が同じだ。

地図だって、設定だって、ベータテストで経験したものと殆ど同じだった。

だから、最初は彼らが勘違いをしても仕方が無かった。


唯一の違いは、死んだらそこで終わることだけだ。

もう、やり直せない。

やり直せたプレイヤーは、誰もいない。


ある者がこんなことを言い出した。

この世界を参考に、作り出されたゲームこそがあのVRMMOだったのではないかと。


「とにかく、祝福の日を待って地道に攻略するしかない。」

やる気がある冒険者たちの間でも、そう結論が出るまで時間はかからなかった。

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