第六話 「得意魔術の覚醒」
「――と言う訳で、あなた達にはこれから1ヶ月で最低でも得意魔術の習得及び対人ランク7級の取得をしていただきます。
どちらも大して難しくはありませんので頑張ってくださいね」
そう言うと若い女教師は早足に部屋から出ていった。
俺は今、王城の中にいる。
目的は、先程の女教師が言った得意魔術の習得だ。
俺がいるこの部屋は7番教室と言うらしく、教室にいる人数は俺を含めて4人と非常に少ない。
王城の受付にはもっと沢山人がいたんだがな。
ま、それは置いといて。
教室にいる残りの3人はと言うと、男が1人と女が2人。俺を入れて丁度2人ずつだ。
女子は両方とも本を読んでいる。会話するような気配はない。
皆、今の俺と同い年か少し上かな。
「ねぇ、君。名前、何て言うの?」
話しかけられ顔を上げると、そこには少年がいた。
このクラスで俺を除いた唯一の男子だ。
緩めのタンクトップにハーフパンツ。オレンジのツンツン頭と元気そうな奴だ。
「俺はフールって言うんだ。シュドって町の出身だ。
6才だよ。君は?」
「俺はグレイブ。出身はビグル。5才だから1つ君の1こ下だね。
あとは……刀が少し使えるかな」
一応年上だけど敬語は面倒だからタメ口でいいよね。
「へぇ~。それで剣を持ってるんだ~。
あれ? そしたら魔術無くても平気なんじゃ……?」
「保護者がね、覚えておけば役に立つって言うからさ」
「へぇ~。ところでさ、何でこの教室には4人しかいないんだろうね? 入り口にはあんなにいたのにさ」
敢えて保護者と言ったが特に気にされなかった。
「さぁ? その内分かるんじゃない?」
そこまで言った所で教室のドアが開き、先程の女教師が入ってきた。
「では、ホームルームを初めます。
内容は……まぁ自己紹介くらいしか無いですがね。
では私から。
私はネクと言います。得意魔術は無系統の『加速』です。
これから1ヶ月、よろしくお願いしますね」
と柔らかい笑みを浮かべ、彼女の自己紹介は終わった。
まぁ、そんなに怖くなさそうな先生だな。と言うのが俺の第一印象だ。
つか、加速て……。対人ランクいくつだよ。
「えー、ではそこの……メルさんからお願いします」
はい、と言って立ち上がったのは少し高そうに見えるワンピースを着た小柄な黒髪の女の子だった。
この世界にも黒髪っているんだな。
そのまま前へ歩いて行き、自己紹介を初めた。
「私はメルといいます。そこのフールと同じでシュドって町の出身です。よろしくです」
「そこのって言うな!」
「うるさい」
まぁ、フールの事は置いといて。
声に全く抑揚が無い。感情が無いみたいだ。
でも、フールと普通に話す所を見るとコミュ障という訳では無さそうだ。
「はーい、喧嘩は後でにしてください。
では、次にセーラさんお願いします」
次にネクに指名されたのはもう一人の女の子だった。
俺からかなり離れた後ろの方ででその女の子が立ち上がり前へ歩いて行った。
やや青い銀色の髪を揺らしながら俺の横を通り過ぎていく。
「私はセーラといいます。
ビグルの出身です。
大したことは出来ませんが、よろしくお願いします」
へー。ビグル出身なんだー。
ビグルに居たときは見かけなかったな。
その後、フールの自己紹介は聞き流し俺の番が来た。
面倒だったがしない訳にも行かないので前に立つ。
「んーと、名前はグレイブでセーラさんと同じビグルの出身です。
剣術がそこそこ使えるかな。
まぁ、よろしく」
こんなんで良かったのか分からないが終わりにする。
すると、ネクが。
「はい。では今日の授業は以上となりますので帰ってもらっても結構ですよ」
とか言ってるので帰ろうと思い、刀を持ち教室から出ようとすると、フールに引き止められた。
「ちょっとこれから遊ぼうぜ!」
とのことだ。
断る理由も無いし了承。着いていく。
フールに着いて歩くことしばし。
着いたのは宿だった。
俺が泊まっている宿よりも良さそうな宿だ。
が、中には入っていかず、中庭に連れて行かれた。
「なぁ、お前剣術できんだろ? 俺も格闘術やらできんだけどさ……」
「どっちが強いか試そうってか?」
「そ。やろーぜ!」
「構わないけど木剣あるか? 真剣で斬ったら痛いじゃ済まねぇぞ?」
俺がそう言うと建物に走って行き、暫くして木刀を持って出てきた。
フールは木刀を俺に渡すと、ポケットから指貫の手袋のような物を取りだし手に嵌めた。
そしてお互いに距離を取り、いつでも動けるように構えていた。
直後、フールが視界からフッと消え、気付けばフールは目の前にいた。
咄嗟に体を捻りフールのパンチを避ける。
刀を抜き、首筋に木刀を叩き込もうとするが避けられる。
また見えなかった。
その後を何度か攻撃して行くも、その全てが避けられてしまった。
こっちはギリギリで、それも勘だけで避けているのにフールは余裕で避けているように見える。
だが、次第にフールの動きは鈍くなり、最後は俺の刀を喉元に突き付けられてフールは降参した。
勝った。
確かに勝った。でもそれは結果だけだ。内容では完敗していた。
俺が勝てたのは体力の差だ。
フールの方が体力があれば、俺は負けていた。
てか、動体視力を越える速度で動く6才て……。
フールと別れたあと宿に帰ってハイスにその話をした所、『そんなもんだ』とのこと。
まぁ、確かに5才の筋力で刀を右手だけで振り回すなんて普通出来ない。
翌日。
教室に入るとフールが寄ってきた。
「よ! 昨日はありがとな。またそのうちやろうぜ」
「そうだな。その時はよろしく頼むよ」
2人で話していると横合いから『何々? フール達昨日何かしたの?』とメルが入ってきた。
「昨日さ、こいつと模擬戦みたいのをやったんだよ。
そしたらさ、俺なんか手も足も出せずに負けちまってさー」
「いや、手は沢山出してきただろ」
「あら、フールが手出しできない程なんて……あなた強いのね。
フールってこう見えても……」
と、そこで教室の戸が開きネクが入ってきた。
最後まで聞けなかった。
「はーい、席に着いてくださいねー」
皆(と言っても4人なのだが)席に戻る。
「今日からは早速ですが得意魔術の覚醒のために色々やって貰います。
10分後に出発するのでそれまでは教室で待っていてください」
いきなり覚醒させるのではないのか
なんでも、最初の1週間で覚醒と基礎学習。残りは制御や訓練に回すらしい。
そして10分後。
俺は魔方陣の中央に立っていた。
身に纏っている物はこちらに来てからずっと着ているダッフルコートやスボンなんかではなく、教師曰く『儀式用の衣装』。
真っ白な和服、と言うのが俺の第一印象だ。
「ではグレイブさん、魔方陣に手をついてください」
言われるがままに片手を魔方陣につける。
「お主がグレイブか?」
突然声を掛けられ驚いて顔を上げると、俺と同じ衣装を着た女の人がたっていた。
薄紫の髪を腰まで伸ばしており、髪と同じ薄紫色の瞳でこちらを見下ろしている。
「妾はルレア=アグリア。ルレアでよいぞ」
「えと……グレイブです」
「まぁ、早速だが始めさせてもらう。手をついたまま動くなよ」
返事をするよりも早く、ルレアは詠唱を開始していた。
「我、汝の力を求む。
我が魔力を持って汝の力を目覚めさせよ!
この世界の創造主である神よ!
彼の者に貴方のご加護を!」
彼女の詠唱に合わせて魔方陣の淡い輝きが増していく。
「『覚醒』!』
魔方陣が一瞬目も眩む程の光を発し、すぐに魔方陣ごと消えてしまった。
「おい。もう立って良いぞ」
ルレアに声を掛けられ、はっとする。
魔術は終わったようだが別段変化は見られない。
失敗か。
そう思ったときルレアが俺の肩に手を乗せ。
「ちと痛いかも知れんが我慢するのだぞ」
「え?」
何故かを聞く暇もなく全身に激痛が走った。
あまりの事に立っていられず、壁の方までヨロヨロと行き、倒れるように座り込む。
「な…………に……を……!?」
痛みで上手く喋れない。
「安心せい。これも覚醒させるための術じゃ。
まぁ、少なくとも1日は寝といて貰うがの」
なんつう方法だ。
つか、やるならやるって言ってくれよな。心の準備ができない。
「ほれ、次はお主じゃぞ」
次に指名されたのはメルだった。
彼女は青ざめた顔で別の魔方陣まで歩いていき、数分後には悲鳴が聞こえ、その声で俺は気を失った。
数時間後。
目を開けると知らない天井が見えた。
場所を把握するために体を起こし周囲を確認。
ベッドがたくさん並んでいて保健室のような場所だと分かる。
隣のベッドではフールが、その隣にはメルが、さらにその隣ではセーラが寝ている。
と、その時ガラガラという音がしてネクとルレアが入ってきた。
何か話しているようだ。
「――それでどうすれば良いのでしょうか」
「まぁ、起きるまで放っておいて大丈夫じゃろ」
「そうですか」
徐々にこちらへ近づいてくる。
俺が起きている事に気づいている様子は無い。
「……おい」
「あ、それと……えっ!?」
「な……何故もう目覚めておるのじゃ!?」
「知りませんよ……」
「いや、いくらなんでも早すぎる。
まだあれから6時間も経ってないぞ」
どうやら俺は異常らしい。
「グレイブさん、体に何か異常はありませんか?」
「いや特には」
「ふむ。取り敢えずグレイブ、お主一旦家に帰れ。
何か異常があったら学校まで連絡してくれ」
と言うことなので家に帰った。
翌日。
一人で登校した。
普段なら他のクラスの生徒も歩いているのだが、全員気絶しているらしい。
王城に着き、7番と書かれた扉を開ける。
「おっすグレイブ! 昨日は大変だったなぁ!」
「おぉ、フール。起きたのか」
「いやぁ、ありゃぁ痛かったなー。死ぬかと思ったぜ」
「あぁ、そうだな」
「そういやお前どこいってたんだ? 起きたらどこにもいなかったんだが……?」
「あぁ、それなら……」
その時ガラガラという音と共にネクが入ってきた。
「はーい、席に着いてくださいねー」
なんかいつも話の途中で来るな。
「今日はですねー、得意魔術の確認を行いますので、15分後に第7実習室に来てください。
以上になります」
それだけ言うと教室から出ていった。
ちなみに、実習室は教室の真下だ。
ここは7番教室なので、各教室の真下にある実習室は7番になっているのだ。
「ねぇ、グレイブ……さん」
メルが話しかけて来た。ちなみに、初対面のとき感情が無く感じたのはメルが恥ずかしがりやだったからだそうだ。
その時、俺はメルの後ろに隠れるように着いてくる人を見つけた。
この部屋には今、俺を含めて4人しかいないのでその人はセーラでまちがいあるまい。
「今日からこの子も話に混ぜてあげてね」
「ん? まぁいいけど」
「よかったわね!」
と言いながらセーラの背中をバシバシと叩くメル。
痛そうだ。
「痛いです……」
「あら、ごめんなさい」
と、まぁこんな感じでセーラも俺たちのグループ(=クラス)の輪に加わる事ができた。
そして15分後。
俺たちは教室の真下。第7実習室にいた。
この部屋は2つに別れている。
片方は何もない薄緑の部屋。もう片方は長椅子がいくつかあり、薄緑の部屋を見ることが出来る。
もう気付いただろうが、薄緑の部屋は得意魔術を用いた戦闘訓練用。長椅子がある方は見学用だ。
そして俺たちは今、長椅子がある方にいる。
「はい、ではこれから得意魔術の種類識別をします。
グレイブさん、こちらに来てください」
また俺からかよ。
「これを持ってください」
そう言って渡されたのは、濃い緑色の球体だった。紐のようなものがくっついている。
「これは?」
「それは『魔石』と言う鉱物に加工を施した物です。
その紐は向こうの部屋にある人形に埋め込まれている別の魔石に繋がっていて、向こうにある魔石は魔力が流れると受けた魔力の波長に最も近い魔術を発動させます。
そして、発動した魔術があなたたちの得意魔術のなります」
成る程。
この魔石に魔力を流したら俺の得意魔術が分かるのか。
「ではグレイブさん。始めてください」
俺は魔石を軽く握った。
クラス分けの時もだったが、魔石に魔力を流すには触るか握るかすればいい。
手のひらから魔力が吸いとられるのが分かる。
俺は目線を手の中にある魔石から正面に上げた。
ガラスの向こうには人形――と言っても人の形を簡単にした感じなのだが――が立っており、その胸元には魔石が埋め込まれている。
次の瞬間、人形に埋め込まれている魔石が輝き、そして人形もろとも爆散した。
俺はその爆発によって発生した衝撃波で吹き飛び壁に頭をぶつけて気絶した。
大変遅れて申し訳ないです。
受験生のため今後もこのようなペースになるかと思いますがよろしくお願いします
20150407
加筆しました