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2-A 鹿野めぐみ

下品な表現がわりと含まれておりますのでお食事中の方は、特殊な趣味をお持ちでない限りは閲覧を控えていただいた方が御身の為で御座います。

ぼく、鹿野かやめぐみは嘔吐した。

空腹に耐え切れず口にした、消費期限が切れて久しいマヨネーズのせいだ。


一、なぜ死に急いだの?

それは冷蔵庫の中にあったのが、腐ったマヨネーズと粉山椒だけだったからだ。一択だ。


一、なぜ人間の食う物を仕入れようと思わなかったの?

それはぼくがコミュ障引きこもりのネトゲ廃人であり、出不精で、かつ奨学金のみで生活しているわけだが、その奨学金を先日ネトゲ課金に充ててしまったからだ。あの時のぼく死ねよ…。


一、親や友達に借りたら?困った時は助け合いだよ?

両親はいないし、兄弟や友達もいない。パソコンの向こうにならたくさんいるけどね。


生死の境に一人問答なんてどうかしてるなあ…


「2012年秋、鹿野めぐみ(17)、厠にて著す…っと」


便座のフチにこびりついた吐瀉物を、爪でカリカリしながら遺書を壁に書いてそのまま便器に突っ伏す。

結構自慢だった栗色サラサラヘアが、涙色ゲロゲロヘアになってしまったけどそんなのどうでもいい。


「今死んだら死因はゲロ死かな…マヨ死の方がかわいいな…ほろり」


と来世に淡い期待を寄せつつ意識を手放そうとしていた刹那。


ビィーン ビビビビ…ドゥルッ ガチャ…ザッザッ


このチャッチィ原付の音と軽快なステップ、そしてこの香りは…間違いない。


「『ピザ紳士的』のデリバリースタッフだ!」


ぼくは飢えた獣。たぶん生活保護が支給されるレベル。多少のアレは許される。たぶん。


光明。神が与えたもうた最後のチャンス。跳べ…


ガチャリ


「アーッ!なんかスゲェテンションあがるし玄関から飛び出しちゃおーっ!ホアーッ!ホアーッ!」


「うわゲロまみれの女がカエルみたいに飛びついてきてボクはおもわず手に持ったピザを落っことしおしっこチビリそうになってしまったんだ!ってかクサッ!ゲロクサッ!」


バイトの高校生だろうか?ぼくより背が低い…160cmくらいの小柄で童顔な男の子。

女装とか似合いそうなカワイイ系だったがそんなのどうでもいい。ぼく今からちょっとワルイコトします。


「ぐ…グふ…。お、おレ、ごブリん。コノおンナのカラダはおレの意ノまマ…。ムシャムシャ」


「アーッ!この女、ボクが配達予定のピザを無許可で開封し、その長い髪についたゲロとよだれをぺっぺしつつ商品をダメにしているよ!時折こちらを見て微笑みながら!あが、あが(狼狽)」


無銭飲食おいしいです。ここ数週間は水と塩だけだったからまともな食事は実にひと月ぶりだろうか?口の中に広がるマルゲリータの酸味と旨味が涙を誘う。おかしいな、ピザってこんなうまかったっけ?

しかしどうでもいいがこの少年、なぜイチイチ説明口調で驚くのだろう。


「ミナギル…いニシえノぱウあー…こ、コのむ、ムスメ…はラ、へっテイル…ワレに供物ヲさサゲよ…」


まだいけると思ったのでピザをもう一枚いただこうと一芝居を打ってみた。

が、少年はその少し前から携帯電話を取り出して冷静に誰かと話していたようだった。意外と普通な子だった。


「お、オデ…もりへカえる…フたたビ、ねむり…ツく…さよなら…」


「店まで来て下さい」


ですよねー!


男の子に引っ張られてぼくは久方振りに外出をした。

道行く人は、デリバリーの少年がゲロまみれで異臭を放つ美人を連行するというその異常な光景に視線が釘付けになっていたが、まあそれも仕方がない。これが罪人への洗礼というやつかな。


ピザ紳士的の店舗はぼくの家から徒歩15分程だった。

店内に入るなり事務室に通され、店長をはじめ、メイキングスタッフやデリバリースタッフらしき人がザッと見た感じ8名程、仁王立ちしてお出迎えしてくださった。


自分のやった事を考えると当然っちゃー当然なのだが、こんな美人取り囲んで何をしようというのか。ヤ○クザかよ…


ぼくをここまで連れてきた男の子が敬礼をする。それを受け、店内の男達も敬礼をする。

宗教的なものを脳で感じ、ぼくはおもわずおしっこチビっちゃいそうになる。


「店長!この女が先程報告しましたキチg…もとい無銭飲食犯です!どうしてくれよう!」


店長らしき男は目を瞑って何やら考えている様子。

身長180cm以上はありそうな細身の長身、黒い社員服の隙間から見える白い肌に少し野暮ったい印象の長い黒髪。氷のように冷たい視線で熱くぼくを見つめる。


「女、おかげでこっちはロス出るわお客様からクレームいただくわで仕事増えてありがとうございますだ…金さえ出してくれりゃおとなしく返してやる。てめえが食った分の代金2倍分払え。それで示談にしてやる。」


見た目と声は恐ろしいが、この男意外とやさしいのかもしれない。

しかしぼくはこの男をさらに怒らせなくてはならない。


「す、すみません…ぼく、おかねなくって…」


店長の頭の何かが切れた音が聞こえた…気がする。


「お前ら、このゲロくせえ女、キレーにしてやんな。」


やっぱりヤ○クザじゃねーですか!何が紳士的ですか!ピザ893的に改名しなさい!


背後の男達の目は血走り、熱気で店内がまるでサウナのようになる。

「いい女だぁー!俺が先にフキフキしてあげるんだぜ!」とか「おめめクリクリしててカワEでちゅねー!吐瀉物ごとぺろぺろしたいでちゅー!」とか「キミのゲロは最高のトッピングになりそうだ…私に調理させてくれないか?」とか気持ちの悪いセリフが聞こえてくる。


気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい!


めんどくさいから言わなかったけどもう我慢の限界!


「ぼく、男なんでそういうのはちょっと…」


店長が振り返る。


「見え透いた嘘を…!?」


スッと店長に近付き、その手に股間を押し当てた。


「ウフッ(はあと)」


店長、椅子に座って煙草に火を付け、暫く何か考えていたかと思ったら


「身体で払ってもらう」


「!?」


まさかそっちの気があるとは…絶体絶命である。いっそ舌でも噛んで死のうか。


「勘違いするな。ウチで働いてもらうだけだ。時給は当然最低賃金以下。1円/hだ。住み込みで働け。」


何が当然か、やっぱりヤ○クザじゃないか!


「あ、あんた最高にクレイジーだゼ…!」


「安心しろ、死なない程度の最低限の食事は出してやる。」


「ぼくはあなたと出会う為に今日まで生きてきたのかもしれません。ご主人様。」


こうしてぼくの閉ざされた未来は開かれた。

背後から「男でもかわいけりゃよくねえ?」とか「男の娘…むしろイイでちゅううう!ホアーッ!ホアーッ!ウッ…!」とか「ふ、フフ…私は最初から男だと見抜いていたさ…さあ作ろうキミと私の(ry」とか聞こえたけど今のぼく有頂天だから許しちゃう。


のちに働き出して気付いたのだがこの店、店員も常連も、男女構わずイケる口の両刀使いが集う社交場ハッテンバだったのだ。


生きていくためには仕方がないとはいえ、ぼく、無事退社するまで己の貞操を守れるのでしょうか…

更新は気まぐれに、地味に書いていきます。

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