『ギルドマスター』
「やっぱり信二君って凝り性よね」
DDで初めて聞いた言葉は攻略記事書いてるゲームで初めて聞いたのと同じ言葉だった。
赤い軽装の鎧に金髪ショートの人狼族の女大鎌使いは俺を見ながら愉快そうに笑っている。そう、この人が朝音先輩のPCで『アプル』というリンゴ大好きな先輩らしい名前だ。人狼族の中でも最も人間に近い姿をしながらも一目で人狼と区別出来る狼のパーツを所々に残す顔立ちは不思議と愛嬌があり、可愛いと思った。中身は三十路手前のバツイチだが。
「信二くん?」
「ごめんなさい。許してください。申し訳ありません。」
取り敢えず、俺はDDの世界で最初にやった事が土下座という快挙を成し遂げた。というか土下座が出来るって何の目的使うと思って設定したんだ何故の制作者さんよ。あれか、降伏や買い物の値切りの時か?
「信二君のPCって何て名前なの? あ、『契約』した方が早いかな。やり方判るよね?」
当然。オンラインゲームやる時は徹底的に説明書やマニュアルに目を通して基本動作や各種操作方は叩き込んでいる(一応、プロです)。もっとも、正規の物でなく不正に出回っているゲームだ。公式サイトなんてなく、掲示板等を探す必要もあった。人気故の乱立で使えそうな掲示板を見つけるまで時間は掛かったがプレイヤー達が独自に制作したマニュアルスレやDDの世界観のまとめスレ等と得る物はあった。
「契約すると相手のPCの名前やレベルを始めログイン状況や居場所が判るようになるんですよね」
「それとこのゲームは契約してないと蘇生を除く回復や補助全般の魔法やアイテムが相手に使えないし受けれないから注意してね」
契約を終えると先輩の案内で当面の拠点となる『城塞国家アグニス』に向けて歩きだす。
俺のPCは黒髪に緑の戦闘服の人族の男大刀使いだ。髪型と戦闘服の形状にはこだわったのは先輩に言われずとも自覚している。いかに中世に近い世界観を損なわず侍らしさを醸し出せるかをコンセプトに努力した。結構満足な出来であると自画自賛してみる。
「グレン君って呼ぶからよろしくね。あと、DDは気合い入れてロールしてる人多いから注意してね」
「郷に入ればなんとやら。大丈夫、俺もロール嫌いじゃないですから」
ロールってのは自分でキャラを作ってなりきる事。日本人は結構嫌う人間多い傾向にあるらしいが俺は嫌いでは無い。リアル身内が気合い入れまくりのロールを目の前でしたら流石に超嫌だが。アプル先輩は心配ないだろう。
歩いていると整備された道に出た。そこには馬をゴツくしてドラゴンの頭をくっけた感じの生き物に乗る初老の大男が俺達に手を振っていた。誰かは判らなかったが横で手を振っているアプル先輩を見る限りPKではなさそうだ。背中に背負った巨大な大剣から察するにジョブは大剣使いだろう。白銀の全身甲冑は重厚でダンディな顔とマッチしてて渋カッコ良さが溢れ出ていた。
「私の所属ギルド『シルバーライアン』の二代目ギルドマスターのバードンよ」