『DDとエデン』
「南波さんと西城君、編集長室に来てくれ」
私物のノートパソコンにDDをダウンロードしながら攻略特集の記事の為に仕事用パソコンで担当ゲームのモンスターのアイテムドロップ率の調査の為に作業的プレイに没頭していた俺と朝音先輩は作業を中断して編集部長室に移動した。
友人の兄で俺にこの仕事を与えてくれた恩人、中澤孝輔は珍しく険しい表情だった。
「二人ともDDの事は知っているね?」
友人と一回り年の差がある彼の口調は常に落ち着いている。どんな時でも変わらない。
「信二君はダウンロード中で未プレイですけど、私はプライベートでプレイしています」
朝音先輩が簡潔に説明すると編集長は何かを決心した表情を俺達に向けた。
考えに考えを重ねた上での苦渋の決断である、そう俺も朝音先輩も感じ取り黙って編集長の次の言葉を待った。
「君達にDDの謎を探って貰いたい。昨日、リアルのDD調査班の人間が一人を除いて全滅した」
オンラインゲーム界を牽引するリアルとしても制作者不明のゲームはやはり気になるんだな。そういえば兄貴から前にそんな話を酒の席で聞いたかも知れない。しかし、全滅という言葉が引っ掛かる。インフルエンザでも蔓延したんだろうか。
「死因は不明だ」
予想外の言葉に心拍数が一気に上昇する。オンラインゲーム中毒者が限度を越えた超長時間プレイで過労死したってのは知っている。しかし、天下のリアルの調査部がそんな馬鹿をするはずがない。調査だって同じキャラを数人で交代で使っていただろう。では、何故だ。
「話しは変わるが私が元リアルの社員だった事は知っているね」
編集長はリアルを大きく躍進させた言動力と言われる伝説のオンラインゲーム『エデン』のプロジェクトチームの責任者だった。過渡期に起きた事件の責任を取ってリアルを辞めた時に前編集長に拾われたと前に酒の席で聞いた。飲み会とは相手の事を知れる場であるから大事にしている。しかし、改めて考えると凄い人だな。
「調査によりDDにはエデンとの共通点が多く発見された。簡潔に言えば『不正な続編』の可能性が高いらしい。南波さん、両方を知る君の意見を聞かせて欲しい」俺はエデンは未プレイだが兄貴は確かエデンをプレイしてリアル入社を考えたみたいな事を言っていた。
横で朝音先輩はプロとしての視点でDDとエデンを比較しているらしく難しい顔をしていた。
「確かに、それを前提に考えればジョブの種類や性能もほぼ一致しますし、地名や世界観にも何と言うか、エデンの何世紀後のような感じもしなくはありません」
「実際、エデンのエリアの一部が発見された。エデンの世界観で重要とされるエリアがね。グラフィックはエデンよりも何倍も美しいが間違いない」
責任者だった編集長が言うんだから間違いないだろう。悔しそうなのは気のせいではないだろう。話を纏めるとリアルがDDを調査班使って調べていたらエデンの不正な続編みたいな事が判って、そして一人を残して調査班は全滅。死因は不明と。
「編集長」
「どうした、西城君」
判らない事だらけ。危険も山の如し。それでもやるべき事、やらなければいけない事は何と無く判った。何と言うか薫といい兄貴といい身内が係わり過ぎている。こんな事を知った以上はやるしかない。
「詳しい話は後にして、取り敢えずDDの調査をしましょう」