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絡人繰形店ーー病気と薬師

「38度6分、夏風邪をこじらせたみたいね」


「うぅ~、すみません連様、ご迷惑をかけてしまって」


「いいから黙って寝てろ、謝る暇があんならさっさと直せ」


ここは迷いの竹林、永遠亭の一室。

様々な道具や薬が置いてあるせいか、独特な匂いが充満している。

そんな中、体温計を片手にメモをとっている女性が1人。

赤と青を上下左右に分割した服を着ており、頭には看護婦の様な帽子。

月の頭脳、幻想郷に住む三人の蓬莱人が一人。


八意(やごころ) 永琳(えいりん)だ。


この部屋は彼女の診療室。

ベットで横になっているのは絡人繰形店の店員である片眼鏡(モノクル)の喪神、連華である。

すぐ側には岬影の不帳面があるが、これは連華が仕事中に倒れ途中で止めざる終えなくなったから、、、、ではない。


「なんで直ぐに具合が悪いと言わなかったんだ、昨日から具合が悪かったんだろ?」


「申し訳ありません、連様が頑張っているのに自分だけ休む訳には・・・」


「それで倒れたら本末転倒だろぉがよ、ちったぁ自分の体を大事にしやがれ」


岬影の言葉に、悔しいのと、嬉しいのと、恥ずかしいのと、で枕に顔を押し付ける連華、モノクルは外しているので顔に食い込むようなことにはならない。

そんな彼女の様子に、どんな心情から知らないが、長い編み込まれた銀髪を揺らす永琳から助け舟が出た。


「ま、彼女も反省はしているみたいだし、その辺にしてあげるのね、それにこの症状なら一晩寝れば熱は下がるわよ、今日はここに泊まってもらうことになるけど」


「ん、まぁ分かったんなら良いんだ、またぶっ倒れたらたまったもんじゃねぇからな、それと永琳悪いが部屋一つ借りるぞ、どうせ明日は姫さんからの依頼でここに来る予定だったからな、ついでなんで泊まってく」


「ええ、構わないわ、うどんげ」


永琳の呼びかけに隣の部屋から、薬の調合をしていたのだろうか、いつものウサミミブレザー姿にエプロンを装着した鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・いなば)が顔を出した。


「師匠ー、呼びましたか?」


「岬影が今日は泊まって行くそうだから、いつもの部屋まで案内してあげて」


「はい、では店長さん私について来て下さい」


「ああ、じゃ悪いが永琳、連華を頼む」


「ふふ、相変わらず家族思いなのね」


永琳の一言に無表情になる岬影。

どう見ても照れ隠しにしか見えないが、岬影だからしょうがない。

そのまま部屋を出ていき、いつもの部屋まで岬影は速足で歩いて行く。

永遠亭に泊まるのはこれが最初ではない、ここの姫からの依頼はどれもこれも時間の掛かる物ばかりなので時々泊まりがけで仕事をするからだ。

置いてきぼりを食らった鈴仙は、ーーえ?私が呼ばれた意味は?!

となっているが、まぁ、これは、、、お約束であろう。



▲▼▲▼



岬影が出ていき、鈴仙も薬の調合に戻ったので、今診療室にいるのは連華と永琳の二人だけだ。

先ほどの永琳の発言で、顔がゆでダコ状態になっていた連華がようやく現世に戻って来た。

危うく、世界初の羞恥死を遂げかけた連華の第一声は、短い。


「私、連様に嫌われてしまったのでしょうか?」


確かに、今回の事については連華に落ち度がある。

具合が悪いのに無理をして仕事をするのは、体にも、仕事の効率にも悪い。

けれど、永琳はそれは無いと連華の言葉を否定した。


「もし、仮に彼が貴女を嫌いになったのなら、今日ここに泊まるなんて言い出さないわよ」


「で、でもそれは仕事があるからで私の為では・・・」


「ここだけの話それは嘘よ、輝夜は岬影に修理の依頼はしていないわ、大方貴女の心配をして泊まる為の口実と言った所かしらね」


再び、連華の顔が真っ赤に染まっていく、連様大好き症候群の症状は、流石の永琳も手の打ちようがないらしい。

そんな連華を見ていた永琳はある事を思い出していた。


これは大夫昔の話、鈴仙が永琳に弟子入りをし、まだ間も無い頃の話だ。

当時の鈴仙は今の連華と同じ状態にあった。

一早く立派な薬師になろうと頑張りすぎたのだろう。


(「うどんげ、今度から体調が優れないなら直ぐに私に言うのよ」


「すみません師匠、私迷惑ばかりかけてしまって」


「それもあるけど、私が言いたいのは医者が倒れた時に誰が患者を診るのか?ってことよ、少しは自分の体も大事にしなさい」


「・・・・・・師匠」


「早く直しなさいな、そしたら休んでた分まで山の様に仕事をあげるわ」


「師匠ぉぉぉーーーー!!」)


今となっては良い思い出(笑)である。

なので、岬影の気持ちも分からなくはない。


(と言っても岬影も素直になれないものね、その点に関してはお互い様なんでしょうけど)


要は似た者同士と言う訳だ。

理由は自分でも分からないが、どうもこの二人を見ていると放っておけないのだ。


「あぁ、そう言えば、渡そうと思ってた物があるのよ、帰りに渡してあげるから後は自分で頑張りなさい」


キョトン、とした表情でこちらを見てきた連華に、もう寝た方が良いわ、とだけ告げ診療室を後にする。

向かうは自分の部屋だ。


(必要なのは、ペンと紙と、後は昔使っていた本と)

たまには、余計な世話をやくのも良いだろう。



▲▼▲▼



翌日、連華の熱は無事に下がり、永琳に礼をした後二人は絡人繰形店に戻っていた。


カウンターで最新号の文々。新聞に目を通す岬影。

人里近くに命蓮寺とかいう新しいお寺ができた、という記事に目を通しつつ、久しぶりに自分で淹れた御茶を啜る。

連華はもう働けます!!、と言っていたが岬影はガンとして譲らなかった。


また倒れたら面倒だ、、、、と言うのは建前で、本音は、、、言う必要も無いだろう。


(さて、昼食に粥でも作ってやるか)

そんな事を考えながら岬影が腰を浮かすと、バンッ!!という音と共に客が来た。


「「連華ちゃん(さん)が重度の感染症になって家から出られなくて今にも死にそうって本当(何ですか)?!」」


「とりあえず、その大ボラ吹きやがったクソ野郎の名前から吐いてもらおうか?」


えぇ!!ウソ?!などと驚く二人を無視して、なんとなく予想は出来ているが一応尋ねておく、万が一別の奴を殺す訳にもいかない。

すると白玉楼の庭師、魂魄 妖夢が直ぐに答えてくれる。


「永遠亭の因幡 てゐ(いなば てい)さんです」


ーーあの糞兎詐欺。

今頃ほくそ笑んでいるであろう、幻想郷最古参の妖怪に向かって呪詛を吐く。


「それじゃ、連華ちゃんは無事なの?」


心配そうな表情でこちらを見つめる赤と青のオッドアイ。

手に持つ茄子のような色の化け傘が印象的な少女、多々(たたら) 小傘(こがさ)連華と同じ付喪神である。

しかし、彼女は連華とは違い、人間に粗末に扱われた怨を晴らすために妖怪化した付喪神だが。

何故か連華とは中が良い、本当に謎である。


「ああ、昨日までは熱があったがもう大丈夫だ、今はまだ寝てるがな、だから静かにしろよ」


「うん!!」

「はい、大声を出したりしてすみませんでした」


とても安心した様子の二人、よほど心配したのだろう。


「まぁなんだ、せっかく見舞いに来てくれたんだ、飯喰ってけ、幽々子には俺から言っとくからよ」


「いいんですか?」


「気にすんな、小傘も喰っていくだろう?」


「モチロン食べてくよ~」


そんな訳で、新たに二人分の昼飯を作るため、岬影は台所へと足を運ぶ。



しかし、30分後。

突如現れた幽々子によって店の食糧が尽きるとは、神ならざる岬影には予測出来ないのであった。



▲▼▲▼



絡人繰形店ーー二階、連華の部屋。


「そう言えば、この紙渡されたまま見るの忘れてたな、何が書いてるんだろう?」


永遠亭を発つ前に永琳より渡された封筒。

その中には一枚の紙が入っていた。


「・・・・これは!!」


そこに書いてあったのは、とある料理のレシピ。

そして。


ーー岬影の好物よ、体調が戻ったら作ってあげると良いわーー永琳。


(ありがとうございます、永琳さん)


連華の顔にはそれはそれは安らかな笑顔が浮かんでいた。





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