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絡人繰形店ーー半獣と人里

今回はちょっとシリアス入ります。


今後も四、五話に一話程度のペースでちょっとシリアスが入る事がありますが、あくまでも笑中心で行くので、温かい目で読んで下さると幸いです。

絡人繰形店に人間の客が来た。


これはかなり珍しいことだ、魔理沙や霊夢も種族的には人間ではあるが、あの二人は色々な意味で規格外なのでカウントしない。


「いらっしゃいませ、物品修理の依頼ですか?」


いつになく丁寧な口調の岬影、まぁ誰だって。


「あのぉ~岬影様と言うのは貴方の事なのでありましょうか?」


70は過ぎているであろう老婦人が来客すれば、似た様な対応をする筈だ。


「確かに岬影ってのは俺の名前だが、俺に何か用でも?」


客ではないと直感的に判断した岬影は営業口調をどこかへ捨てる。

見た所、絡人繰形店にではなく岬影に用があるらしい。


「あぁやはり貴方が、申し遅れましたな、私は千夜(ちよ)人里の花屋です、と言っても現在は孫夫婦が店をやっていますが、覚えていらっしゃるかは分かりませぬが・・・・・」


「あぁ、あの時のチビスケだろ?一応俺が仕事で関わった奴の名前は全部覚えているんでな」


「覚えていて下さったのですか?」


なにやら感激した笑みを浮かべこちらに顔を向ける千夜、眩し過ぎて直視出来ないとばかりに目線を反らした岬影の顔にあるのは、形容し難い感情の渦。


彼の頭の中で再生されているのはある一夜の出来事。

今より、70年も過去の話しであった。



▲▼▲▼



幻想郷には人里と呼ばれている一種の街がある。

もっとも、街というより村に近い気がするが、そんなことは些細な問題だ。

現代においても紅魔館のメイド長や、魔法の森の普通の魔法使い、それと博麗神社の巫女などごく一部の人間以外は皆この人里にて生活を営んでいる。


そんな場所に、しかも真夜中に岬影の姿があるのにはとある理由があった。


「本当に、本当にありがとうございます、何と御礼をすれば良いのか、私、私、もう二度とこの子を抱いてあげれないと思ってたのに、う、ひぐっ、」


「あー泣くな泣くな、近所の人間に見られると面倒だ、それにこいつは現世においちゃ禁忌中の禁忌、そいつにお前さんを巻き込んじまった以上非難されても、感謝される筋合いはねぇよ」


必死に頭を下げる17、8歳程度の少女とむっつりとした表情の岬影、彼女の腕には生後一週間と言ったあたりの赤ん坊が抱かれている。

少女の目からはこれでもかと言うほどの涙が零れ落ち、地面に黒い斑点を作って行く。


「じゃ俺はもう行くぜ、精々幸せに生きろよ、それとこの事は誰にも言わねぇと約束してくれ、じゃねぇと俺はここでそのチビスケを殺さなくちゃならねぇんだ」


「誓います、誰に話したりなどしません、それにこの御恩は末代まで忘れません」


「助かる、それじゃな」


「あ、あの」


立ち去ろうとした岬影を少女が呼び止める。


「なんだ?」


「最後に一つだけ、お名前を教えては下さりませんか?いつか必ず礼を言いに参りますから」


「別にそんぐらいは教えてやるよ、岬影だ、どうせ」


忘れちまうんだがな、とまでは決して口に出さない。

そのまま、ふりかえる事なく岬影は人里の外れまで速足で歩く。

適当な壁に背を預けた岬影は珍しく重々しい口調で口にした。


「悪いな、慧音、お前にまで迷惑をかけちまって」


「構いはしないさ、元はと言えば私から頼んだ事なのだし、岬影にそこまで言われると不自然な気分になってしまう」


物陰から現れたのは一人の女性、頭には特徴的な立体型の帽子をかぶり、白と水色の二色の髪の毛は二の腕の辺りまで伸びている。


上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)


知識と歴史の獣、白沢(ハクタク)の半獣である少女だ。

岬影が行った禁忌の片棒を担ぐ人物でもある。


「では、始めようか」


「ああ、頼む」


慧音の有する能力は[歴史を食べる程度の能力]だ。

今回慧音が食べる(隠す)のは一つの歴史。


[赤ん坊が死んてしまった歴史]


先ほど少女の腕に抱かれていた赤ん坊のことである。



死者蘇生。


これこそが現世における最大の禁忌。

岬影の[ありとあらゆるものを再生させる程度の能力]は魂のカケラさえ残っていれば死者の蘇生すらも可能にする。

死後半日という限定された期間、死者は蘇り再び生をうける。


その際に生じる矛盾を消すために慧音がいるのだ。

そもそも、岬影に赤ん坊の蘇生を依頼したのは他でもない慧音なのだが。


慧音の能力では実際に起こった事を隠すことは出来ても、無かった事にはならない。

岬影の能力では実際に起こったことを無かった事には出来ても、隠すことは出来ない。


だが、この二人が協力すれば、話は違う。

岬影が赤ん坊を蘇生し、慧音が赤ん坊が死んだという歴史を隠す。

そうする事で、赤ん坊が生きる事によって生まれる誤差を無くせるのだ。


「よし、これで大丈夫だろう」


「んじゃ俺は店に戻るぜ」


「まぁ待て、久しぶりに会ったんだ、今夜は家で食べていくだろう?」


疑問形ではあるが、慧音の手は既に岬影の腕を掴んでいる、どうやらこのまま帰す気は無いらしい。

仕方がない、と諦め大人しく従うことにした岬影。

たまには友人の誘いに乗ってもバチは当たるまい。



▲▼▲▼



「岬影は良かったのか?」


食事が終わり、唐突に慧音は岬影に質問した。

何がだよ?とは聞かえさない、そんなものは尋ねなくとも分かっている。


「良かったも何もあんな顔したお前が店に来て、ほっとく訳にもいかねぇだろ」


とても暗い顔をした慧音が絡人繰形店を訪れたのは、つい四時間前の話だ。

その訳を聞いた岬影はこう提案した。

ーーその歴史を無くしちまえばいい、と。

岬影からして見れば赤の他人かもしれないが、慧音にとっては生まれた時から見てきた少女の子供なのだ。

その少女の気持ちが痛いほど分かってしまったのだろう。


「すまないな、そんなつもりで来た訳では無かったんだ、ただ千夜の亡骸を抱く千鶴の顔を見るのが辛くて、気が付くと店の中にいた」


千夜と言うのはあの赤ん坊の名前のようだ。

申し訳なさそうな表情の慧音に対し。

そう言う意味じゃねぇよ、と岬影はぶっきらぼうに語りかける。


「俺がここで上手く店をやってけてるのもお前のおかげだ、恩人を蔑ろにする程俺は愚図じゃねぇし、お前が困ってるのを無視するようなバカでもねぇ、俺が言いたいのはだ、お前は大丈夫なのか?人里を守る事が悪いとは言わないがな、そんなに苦しいんなら別の生き方もあるんじゃねぇのか?」


要約すると、岬影は慧音の心配をしている、と言う事だ。

岬影の言葉にほんのりと笑みを浮かべた慧音は、首を横に振りながら答える。


「千鶴は幼い頃から惚れていた奴がいてな、私は事あるごとに相談されたよ、恋愛経験など微塵も無かったがそれでも千鶴の力になってやろうと努力した、そしてやっとの思いで想いを伝え籍をいれ子供が出来た矢先に夫は事故死、だというのに最後の希望であった子供まで無くしてしまった千鶴を見て、私は運命というものを心底恨んださ、お前の言う通り、寿命に差がありすぎる彼等と共に生きる以上、辛い別れも、悲しい出来事も多々ある」


けどな、と慧音の言葉は続く。


「それでも私は人里で、人間と暮らす今の生活を愛しているんだよ、確かに不幸な事は起こる、だがそれと同じように幸福な事もある、お前が心配してくれるのは嬉しいがこれだけは譲れないんだ、だからお前に頼るのはこれが最初で最後、もう大丈夫だ」


話を聞き終わった岬影は一言だけ、ハッキリと宣言した。


「バーカ」


「バ、バカ?!」


面食らった様子の慧音を無視して岬影は畳み掛ける。


「まず最初に俺はお前の心配なんかしちゃいねぇし、人里の生活がどうだとかは俺の知ったことじゃねぇんだよ、それに、、、、、、俺を頼らないなんて言うな」


「あ、岬影!!」


慧音の抑止を目にもくれず岬影は慧音宅を飛び出し、そのまま飛んでいってしまった。

その方向を見たまま慧音の口から思わず、と言った感じで言葉が漏れた。


「まったく、バカはどっちなんだ」


その言葉は暗闇に溶け誰にも届く事無く消える。



▲▼▲▼



店を尋ねて来た老婦人、千夜の感謝の言葉などを一通り聞いた岬影。


「それで?誰からその事を聞いたんだ?お前の母親には口止めした筈なんだが」


岬影の質問に、千夜はすらすらと答える。


「慧音様ですよ、ここまで送ってくれたのもあの方です」


確かに、慧音にまで口止めをした憶えは無かったな、と岬影は納得する、、、、訳がなかった。

これでは口止めをした意味がまるで無い。


後で、何か奢らせるか、と考える。


「仕方がねぇついて来な、ついでだ人里まで送ってやるよ」


「ええ、慧音様もきっと貴方様が送ってくれるだろう、とおっしゃっていましたよ」


訂正、店の余り在庫を全部買い取らせよう。


そう覚悟を決めながら岬影は千夜を人里へと送るため、連華に店番を頼むのであった。



▲▼▲▼



上白沢 慧音に説教する、というかなりレアな体験をした岬影は少し考え事をしていた。


死者を蘇生させると言う事は、本来閻魔様の下で裁かれる魂を現世に留める行為であり、そんな愚行をあの閻魔様が見過ごす筈が無い。


と言う事は、、、


(わざと気づかないフリを?)


自分で仮設を立てて起きながらナイナイ、と首を横に振る。

あの堅物閻魔に限ってそんなことは、、、、


だが、それ意外に可能生がない。

信じられないがきっと正解なのだろう。


(今度、、、何か差し入れでもするかな)

そこには珍しく、本当に珍しく笑みを浮かべた岬影の姿があった。





数日後、是非曲省庁、四季 映姫・ヤマザナドゥ宛に届いた高級品の数々見て、割と本気で岬影の心配をした映姫がやってくるのだが、それはまた別の話だ。

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