絡人繰形店ーー友人と宴会
宴会のお誘いが来た。
宴会といっても、博麗神社にて度々行われているあの宴会ではない。
どうやら今夜もやるらしいが、もし仮にその宴会のお誘いなら、相手が喋り終わる前に断るところである。
以前一度だけ、連華の強い勧めもあり参加した事があるのだが、あれは酷かった。
岬影からして見れば、酒を湯水のように消費する愚行に参加するぐらいなら、店で道具を弄っている方がよっぽど有意義な時間過ごせるというものだ。
が今回岬影に誘いがかかったのは博麗神社の宴会ではない。
「では、連様。
私は妖夢さんのお手伝いをするので、一足お先に行ってまいりますね」
「おう、ちゃんと幽々子に挨拶をするんだぞ、俺はこのパソコンの修理が終わったら行く」
「分かりました、そのようにお伝えします」
会話が終わると、大きめの荷物を背負った連華は空へと飛び立って行った。
行き先は冥界。
そこの管理者の住居である白玉楼だ。
今宵の宴会の会場でもある。
まぁ宴会と言っても参加するのはたったの三人。それと従者が三人だけなのだが。
博麗神社での騒がしい宴会とは違い、彼女等と風情を楽しみながらの宴会であるならば、岬影としても断る理由がない。
「んじゃ、さっさパソコンの修理を済ませるとするか、あんま待たせると後が怖い」
誰が、、、とは決して言わない。
そんな訳で岬影は、お得意様である永遠亭より依頼されたパソコンの修理にスパートをかけた。
因みにこのパソコン、正式名称はパーソナルコンピュータといい、香霖堂曰く外の世界の式神らしいのだが、、、、、、
(Windowsって、、、何だ?)
残念な事にそれは、幻想郷に住む岬影には一生回答の得られない問題だ。
▲▼▲▼
冥界。
そこは閻魔様の裁判を終え、成仏もしくは転生が決まった霊達がそれを待つ間過ごす世界。
そこには死者しか存在せず、常に静寂に包まれている。
なので。
妖夢~お腹が空いたわ~、とか。
幽々子様!!宴会までもう少しですから、お願いですから我慢して下さい!!ああ連華、幽々子様を止めてぇ!!、とかは幻聴だ。幻聴と言ったら幻聴なのだ。
(相変わらず賑やかそうで何よりだ)
白玉楼へと続く長い階段を登りながら、岬影はそんな事を思っていた。
最近は顕界と冥界の境界が薄くなっており、人間や妖怪もポンポン入って来ているらしい。
岬影としては、古くからの友人を訪れる事が出来るのでありがたいのだが、同時に、それで良いのか幻想郷、と思う節もあったりする。まぁ問題ないのだろうが。
やがて階段の終わりが見えてきて、最後の一歩を踏み終える。
そこで岬影を待っていたのは予想通りの人物?であった。
人の形をしていた訳ではない。
空間に不自然な黒い線が入っており、その両端に結ばれているのは紫色のリボン。
ゾン!!!!
という妙な威圧感と共に黒い線が捩れ、、開いた。
「お久しぶりね岬影、相変わらずの不機嫌面で安心したわ」
「ええ、久しぶりですね紫さん、相変わらずの胡散臭さで安心しました」
「あら、ご挨拶ね、仮にも命の恩人なのに」
「それはソレ、これはコレです」
そこに在るのは"スキマ"
無数の目がギョロギョロと蠢く。
そこから上半身を乗り出しているのは妖艶な雰囲気を持つ女性。
妖怪の賢者、幻想郷最強の妖怪の一人。
八雲 紫
【境界を操る程度の能力】を使いこなす正真正銘の強者である。
数秒間の沈黙。
「それで?いつまでその気味の悪い笑顔を貼りつけてるつもりなのかしら?」
「わりぃわりぃ、そっちが悪ノリしてきたんでつい、な」
「まぁ、最初に振ったのはこっちなのだし、根に持つのは止めとくわね」
(やっぱ敵わねぇな“妖怪の賢者”にはよ)
そんな事を思いつつも、スキマから出てきた紫と共に白玉楼へと歩みを進める。
「それにしても、博麗神社のほうに顔を出さなくても良いのか?今代の巫女には随分と御執心らしいじゃねぇか」
「店に篭っている割には案外情報が速いのね、色々と説明しなくて済むのは助かるわ」
「自称、幻想郷最速の新聞と契約しているからな」
他にも、顕界と冥界の境界が薄くなっているのは紫の仕業だとか、驚きの新事実が発覚したのだが、そこのところは省略しておくとしよう。
今日は宴会に参加する為に来たのだから。
▲▼▲▼
「幽々子~来たわよ~」
スパーン!!
という効果音をつけたくなる勢いで障子を開ける紫。
その勢いにお盆を運んでいた連華と半人半霊の辻斬り・・ではなく庭師の魂魄 妖夢も驚いた様子でこちらに視線を向け、慌てて頭を下げ挨拶をする。
「珍しく紫が直接乗り込んで来ないと思っていたら、連も一緒だったのね」
そんな状況でも瞬き一つせずに悠然と佇む女性。
【死を操る程度の能力】を有し、閻魔様より冥界の管理を一任されている亡霊の姫君。
西行寺 幽々子は空になった皿の山を周りに従え、ってちょっとまて。
「あー幽々子?確か俺は宴会に招待されたはずなんだが」
「ゴメンなさいね、ちょっとお腹が空いてしまって」
ーーいや、ちょっとでこの量はねーよ
とは口に出さない。
「ああ、岬影そのことに関しては心配しなくても大丈夫よ、もうそろそろ着く頃でしょうし」
「あら?そういえばもうこんな時間ね、早く来ないかしら」
まだ食べるんですか?!
という悲鳴が聞こえるが無視する。
それよりもっと大事な事が耳に入ったからだ。
「着くって何がだよ?つーかお前らがそういう笑みを浮かべている時点でやな予感しかしないぞ!!」
「酷い言い様ね、こんな美少女二人を捕まえておいて」
「本当ね、紫はともかく私はそこまで胡散臭くないと思うのだけど」
(よく分からねぇがここは三十六計逃げるに如かずだ!!)
そう判断するないなや、障子の向こうへジャンプした岬影は。
目の前のスキマへと綺麗に突っ込んだ。
「お帰りなさい、随分早かったのね」
(どの口が言うか、どの口が!!)
再度脱走を試みた所でここから出られないと知った岬影は腹を括る。
そして"来た"
始めは夜空に見える一粒の点であった。
それはドンドンと大きくなってきて、、、、ゴゥン!!!!という音と共に白玉楼へと到着した。
「おっしゃ!!私が一番乗りだぜ!!」
そんな事をほざいているのは、金髪に黒いトンガリ帽、いかにも魔女です、と全身で訴えているような少女。
普通の魔法使い、霧雨 魔理沙だ。
「ん?誰かと思ったら連じゃないか、珍しいな宴会に参加するなんて」
「あ、いや俺が招待されたのは白玉楼の宴会なんだが、、」
岬影に気がついた魔理沙の言葉に嫌な予感が脳内で膨れ上がる。
まさか。
「何言っているんだ?」
まさか、まさか。
「ここは今日の宴会の二次会場だぜ?」
「そんな事だと思ってたぞ、畜生!!!!!!!!」
恨めしげな目で主犯であろう紫と幽々子を見つめるが、後の祭り。
かくして、岬影のトラウマに今夜新たな一ページが刻まれる事となった。