絡人繰形店ーー破壊と再生
[ありとあらゆるものを再生する程度の能力]
岬影が有するこの能力は、数多くの能力が存在する幻想郷でもトップクラスの凡庸性を誇る能力である。
物理的、精神的、はては概念的な物まで再生することが可能であり、世界一の修理屋を名乗る岬影に相応しい能力と言えよう。
再生という言葉は文字通り(再び生きる)という意味だ。
壊れた(死んだ)道具を再び活かす(生かす)という意味合いでもニュアンスは合っている。
唯一弱点と言えそうな弱点といえば、0からの再生は不可能であるという事ぐらいであろうか。
が逆を言えば、1さえあればそこから100だろうが10000だろうが再生する事が出来るという事。
タイタニックの金属板があればそこから再生させ本物と何ら変わりない複製品を生み出す事も出来る。
質量保存の法則?何それおいしいの?
もとより岬影の持つ霊力モドキ(純粋な霊力ではないので)を消費しているのだ、さらに岬影はその霊力モドキすら再生させてしまうので実質ノーコスト、まさに無限ループ。
そしてその反則的な便利さ(チート)を持つ絡人繰形店、店長の岬影 連は今現在。
こんな能力を持ってしまった事を心から後悔していた。
割りと本気で。
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「禁忌[クランベリートラップ]!!!!!」
「やッべぇ!!ーーーーこれ絶対死んだんじゃね?!」
大声で叫びながら、どっかのボルトさんも真っ青になるであろう速度で全力疾走する岬影。
その周りに赤と青に彩られた弾幕が殺到する。
四方から絡めとるように接近する絶大な魔力の塊、幻想郷でもっともポピュラーな決闘[弾幕ごっこ]では弾幕は非殺傷にする必要性があるのだが、これは違う。
直撃すればこの廊下ごと破壊してしまうだけの威力を内包していた。
「無限[不可視の城壁]」
ドッガガガガガッッッ!!!
岬影にせまる弾幕が一つ残らずその軌道を反らされる。
自身の霊力モドキを再生出来る岬影の十八番は防護壁、簡易的な結界も尽きる事なく力を注がれればかなりの防御力を保つことになる。
(っと言っても気休めにしかならねぇんだけどな、普通にやってりゃ1分も持たねぇし)
なので真正面から迎え撃つような愚行はしない、角度をつける事であらぬ方向へ誘導していく。
やがてスペルカードが終わりを迎え、嵐のような弾幕が収まった。
「あれ?まだ生きてるの?早く壊れて素敵な悲鳴を聞かせてよ」
「残念ながら俺は不老不死の十倍は死ににくいぜ、フランドールの嬢ちゃん」
岬影に対峙しているのは金髪紅眼の少女。
捻じ曲がった時計の針の様な鑓を持ち、その目は狂気に犯されているらしく酷く不安定な光を湛えている。
フランドール・スカーレット
495年の年月を生きる吸血鬼はその紅い目で岬影に狙いを定めた。
「どっちにしろ不老不死なんだから変わりないでしょ?」
「比喩表現だよ」
何故こうなったのか?
それ知る為には一時間ほど時を遡る必要が「禁忌[レーヴァテイン]!!」
莫大な魔力が魔鑓に込められ、その先端からアホみたいにぶっといレーザーが噴き出す。
「ちょ、おまっ、ちったぁ空気読め!!輪廻[サクリファイスエスケープ]!!」
刹那、岬影の体が爆ぜた。
体の破片が散らばるとかそんな次元の話ではなく、粉状になって霧散したのだ。
そして、数秒前まで岬影がいた地点を紅いビーム状の弾幕が通過した。
「あっぶねぇ、あんなのガードしたら盾ごと消されちまうトコロだ」
「まだ生きてる、私のスペルを二つも食らったのに、オジサン本当は強いんじゃないの?」
「オジサン言うな、一応見た目は25歳に設定してあんだからよ」
いつのまにか、移動していた岬影。
そもそも、見た目基準で歳を判断するような奴は幻想郷では三日も持たない。
ここの住人達は皆、そう言う事には非常に敏感なのだ。
こうなった理由を知るには一時間ほど時を遡る必要がある。、、、、、、どうやら遡れそうだ。
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「人形の修理?」
「ええ、そうです。
腕の良い修理屋がこの店にいる、と古道具屋の店主さんが仰っていましたから」
その古道具屋の店主というのは、十中八九香霖堂のことだろうな、と思いつつ岬影は目の前の少女、幻想郷のパワーバランスの一角を担う勢力である、紅魔館のメイド長、十六夜 咲夜を目視する。
白のエプロンに濃紺のエプロンドレス、それにレースのホワイトプリズムを頭に装着した完璧な侍女服、その身に秘めている濃厚な霊力といい、伊達や粋狂で完全で瀟洒な従者を名乗っている訳ではないらしい。
「そいつは光栄だ、紅魔館直々のご指名とはな、まぁとりあえず現物を見せてくれないか?そうじゃねーとなんとも言いようが無いんでね」
クスリ、と可笑しそうに微笑む咲夜。
「あら?あなたの持つその能力を使えば、どんな物でも直せるのでしょう?」
その言葉に岬影の視線が厳しくなる。
なぜなら、岬影の能力を知っているのは古くからの友人ぐらいで、彼ら彼女らにはバラさない様に頼んである筈だからだ。
物品の修理にも極力能力は使用せず、幻想郷縁起にも(妖怪ではないのに載っている)それを書かないよう当時の稗田に頼んだほどである。
「何が狙いだお前、いやレミリア・スカーレットは何を企んでいる?」
「お嬢様は全てを見透かしています、当然貴方が紅魔館に訪れるという事も、あたしは人形の修理を依頼するようにと命を受けただけですから」
ーーぬけぬけと言ってくれる、どうせ同意しなければ力ずくでも連れて行くくせに。
口には出さず岬影はため息を尽きながら腰を上げる。
ここでやり合うのもバカバカしいし、流石に紅魔館を敵に回す訳にもいかない。
というか、願うことならこれを機にお得意様になって貰う気満々である。
もちろん、口には出さないが。
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そして時は現在に戻る。
「ちくしょう!!あのメイド野郎後であったら覚えとけよ、幾らなんでもこれは無理だァぁ!!」
「「「「アハハ!!オジサンオモシローイ!!」」」」
再び全力疾走の岬影を追う四つの影。
禁忌[フォーオブアカインド]によって四人に増えたフランドールが洒落にならない密度の弾幕を放ちながら追いかけてくる。
目が、目がヤバイ。
既に言葉も片言になり、恐らく岬影を破壊することしか頭にないのだろう。
(このまま逃げちまうのもありだが、誰かが空間に細工しやがったな、これだけ進んで何も見えてこねぇ)
因みにそれも咲夜の[時間を操る程度の能力]の仕業であったりする。
時間を操るということは、そのまま空間を操るという事に直結するからだ。
紅魔館にやって来て言われるがままに入った地下室。
そこで出会ったフランドールに弾幕ごっこをしよう、と言われ今に至る。
あくまでも推測の域を出ないが、紅魔館の主、レミリア・スカーレットは自分をフランドールに対する抑止力として使おうとしたのだろう。
なぜなら、岬影の持つ[ありとあらゆるものを再生する程度の能力]はフランドールの[ありとあらゆるものを破壊する程度の能力]の対極に位置する能力だからだ。
破壊と再生。
相対する二つの力は表裏一体。
両方あって始めて世界は成り立つ。
「ったく面倒くせぇが仕方がねぇな、出たところ勝負でやってみるか!!」
別に無理する必要はない。
いかに空間を弄んだところで、岬影が本気で逃げようと思えば逃げる事も出来る、、、、面倒だからやりたくないが。
けれど。
(あいつの、、フランドールの心境も分からなくはねぇんだよなぁ)
能力故に疎まれる。
強大であればあるほどにだ。
きっとフランドールは淋しいのだろう。
遊び相手が欲しいのだと思う。
けど、遊んでいたらみんな壊れてしまう。
なら
(はぁーこりゃまた四季様にどやされるな)
壊れない遊び相手が居ればなんの問題もない。
「「「「ココマデダヨ、オジサン」」」」
「だからオジサンじゃねーよ」
逃げるのをやめた岬影を四人のフランドールが囲む。
四本のレーヴァテインが向けられ、、、、そして。
「再生[蘇りし魂の使役]」
瞬間、紅が白に塗り潰された。
四方向からの紅い奔流を遮る様に出現した白き輪。
それが凄まじい勢いで膨張し。
白い光がフランドールを優しく包み込んでいった。
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「ーーーーここは」
「よう、起きたかフランドールの嬢ちゃん」
目覚め、自分の様子を見ていたのだろう岬影の姿を確認するフランドール。
立ち上がって確認するが傷らしい傷は無かった。
「えっとオジサンは」
「何度も言うが俺はオジサンじゃねぇ岬影 連だ、遊び相手の名前ぐらいちゃんと覚えろよな」
「遊び、、、、相手?」
岬影の言葉に、意味が分からないといった感じにキョトンとなるフランドール。
対する岬影は苦笑して。
「そう遊び相手だ、遊び仲間でもいい、俺達は正々堂々弾幕ごっこをしたんだ、もう友達だろ?」
「友達、、、、」
「そうさ友達だ、これからよろしくなフラン」
そう言って差し出された腕を戸惑った様子で見つめるフランドール。
静寂が空間を支配した。
すると
「友達か、うん良い響き、こっちこそよろしくね岬影」
そして、互いに握手をしあう。
その後フランドールによって破壊された館及び大量の人形を直し、かくして岬影の紅魔館での初ビジネスは大成功を納めるのであった。
まぁ裏話をするのであれば、レミリア・スカーレットととの商談があったりしたのだが、こんな時にそんな話をするのは野暮以外の何者でもない。
そうこれが仮に姉バカ吸血鬼による、妹に友達を作ってあげたいが為の運命への介入だったとしてもだ。