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絡人繰形店ーー本気と激突

と、言う訳で後編です。



博麗・霊夢は今まであの修理屋の店主に対し「ぶっきら棒なお人好し」という評価を抱いていた。


いや、別にそれが変わった訳でもないのだが、新たに考え直す必要があるのは確かだ。


「でも、イマイチ信じられないわね。

あの岬影が鬼のアンタを相手に一人で戦って自分を認めさせたとか」


剥き終えた蜜柑を口に放り込み霊夢は先の話の感想を漏らしていた。


それを聞いた萃香は珍しく真面目な顔で。


「鬼は嘘をつかない、あの時の岬影は本当に強かった。それこそ私が認めたくなる程にね」


まぁ試合に勝って勝負で引分けたってとこかな、とにべもなく言う萃香だが実際問題同じ事をやれと言われれば霊夢は慎んで辞退する次第である。


スペルカードルールの下でならまだしも本気で本当の勝負(殺し合い)で鬼の四天王を相手にする気にはなれない。


けれど岬影は、あの始終不機嫌面な人形店主はそれをやってのけた。


真っ正面から喧嘩を売って、結果ボコボコにされたものの自身の存在を、力を、鬼に示した。


普段の姿からは想像もつかない話だ。


「そもそも、なんでアンタと岬影が本気で殺り合う事になったわけ?」


暗に、どうして岬影が本気をだす事態になったのか?と尋ねる霊夢。


その答えは至極単純なモノで。


「岬影の身内に手を出したんだよ

うちのバカ()がね」


つまり其れが意味するのは。


「って事はあの付喪神(連華)に手を出したら……」


「余程の大物じゃなけりゃ半殺しだろうさ」


合の手を入れるかの如く答える萃香。最もそんな馬鹿、霊夢の頭に浮かぶ面子の中ではあの生意気な天人ぐらいのものだ。


……あいつが岬影の店に行く事はなさそうだけど


思考がそんな結果に落ち着くと、霊夢は再び蜜柑の皮を剥き始めた。



ーーが。


ッカ!! と刹那の閃光が広がり二人は莫大な霊力の様なモノをほんの一瞬、感じた。


場所は件の店『絡人繰形店』の建つ地点。


「……これって」


「噂をすれば何とやら、だね。

どれどれ?」


そう言うと、萃香の身体から黒い靄が現れ空中へ散って行った。


彼女は【密と疎を操る程度の能力】によって疎となった自身の身体を目的地まで飛ばし、一瞬にしてその場の現状を把握する。


「んーこれはマズイかもね」


「どうしたのよ」


訪ねる霊夢に萃香は笑みを浮かべると。


「霊夢の……いや博麗の巫女の出番が来たってこと」


「つまり面倒ごとが起きたって訳ね」


「そゆこと」


めんどうねぇ、と呟きながらも霊夢の黒色の瞳はすでに絡人繰形店の方角を捉えていた。


「それじゃ、ちょっと行って来るから留守番よろしく」


「一緒に行ってあげてもいいんだよ?」


「アンタが来ると余計にややこしくなるでしょーが」


まとわりついてくる萃香を振り払うと霊夢は光源へと飛び去っていく。


「あの不良天人……今度は一体何をしでかしたんだか、紫に続いて岬影の逆鱗にまで触れるなんてさ」


そんな霊夢の姿を眺め、ハァとため息を吐き呟く萃香であった。



▲▼▲▼



絡人繰形店の周囲は阿鼻叫喚の巷と化していた。


大地が隆起し山が築かれ、生まれた傍から破壊されていく。


非想非非想天の娘、比那名居・天子と永遠の人形、岬影・連が繰り広げている激闘の痕跡であった。


己の能力を全力で使用している岬影に傷は無く、天子ばかりが少しずつではあるが消耗していく。


「潰れなさい!! 要石【天地開闢プレス】!!」


天子のスペルカード宣言と共に巨大な要石が岬影の頭上に現れ、そのまま落下する。


「輪廻【サクリファイスエスケープ】」


対する岬影は要石が自分を押し潰す、そのタイミングでスペカを使用し体をバラした。


あたかも今の一撃で潰されたと見せかける為に。


「あははっ!! 私の勝ちのようね修理屋!!」


勝利を確信し高笑いをする天子、だが。


「そいつはどうだかな!! 絡繰【儀右衛門の底力】!!」


彼女の背後から黒色の大玉が打ち出され。


「っく!! いつの間に?!」


天子は咄嗟の回避を試みるも。


「操弾の幕」


岬影の意のままに動く黒玉は無慈悲に天子を撃墜した。


本来ならば戦いはそこで終わるはずだ。

これが通常のスペルカード戦であるのならば。

しかしこれは店と連華に危害を加えようとした(ように岬影からは見えた)天子に対する岬影の個人的な戦争なのだ。

故に止まることはない。


「絡人繰形【操られし者達の……」


岬影の持つ最大火力の一撃が発動されそうになり。


そして。


「ーー霊符」


静か過ぎる声がその場に響いた。

気配に気がついた岬影が慌てて防御結界を張ろうとするがーー遅い。


楽園の巫女、博麗・霊夢は札を構え、宣言する。

博麗の巫女たる印の一撃を。


「【夢想封印】!!」


霊夢の周囲に現れた七色の光弾が二人へと殺到し。

撃墜され落ちていく天子も、やべぇ、と顔に出ている岬影も、差別せずに吹き飛ばした。



▲▼▲▼



「ーーで、結局のところ、誤解した岬影が天子のことをボッコボコにしてたって訳だ」


「知ってたんなら私が行く前に教えてよ」


「説明する前に出てったのは霊夢でしょ」


パパッと蹴りをつけて帰還した霊夢と酒を飲みながら待っていた萃香。


「それであの不良天人はどうしたのさ?」


「んー?何か連華が傷の手当てをするとか言ってたわね、岬影のことは結界で閉じ込めてきちゃったし」


本当ならスペルカードでお仕置きなのだが、痛みを感じない岬影には幾ら撃ち込んでも暖簾に腕押しである。

なので、暫く結界の中に放り込んで頭を冷やさせることにしたらしい。


「なるほどねぇ、それはそうと霊夢」


「何よ?」


身体を動かして眠くなったのか気怠そうに尋ねる霊夢。


「もう日も落ちた事だし、付き合ってくれるよね?」


ニヤリと笑みを浮かべる萃香の手に握られているのは酒の入った一升瓶。


「ーーはぁ、分かったわよ。適当なお摘み持って来るからちょっと待ってなさい」


「あいよー」


博麗の巫女は何だかんだで、鬼の酒呑みに付き合わされるのであった。



▲▼▲▼



あの一件以来天子は定期的に絡人繰形店を訪れている。


どうにも、傷の手当てをしてくれた連華がひどく気に入ったらしい。

店で暴れない限りは自由にしていい。と言う店主である岬影の許可も降り、人付き合いの苦手な天子にも新しい友人が増えた。

不思議なことに連華も満更でもないようで、彼女の方から天界へ出向くこともある。


「それで? 連華はいつ帰って来るのよ」


「さぁな、幽香のとこに出かけたから今日は泊まり込みかもしれねぇぞ?」


「と、泊まり込み?!」


「なぜそこに食いつくんだ」


と言うか、どうして連華はこいつにここまで好かれたのかと思いあぐねる岬影。


その辺りは本人達しか知らない事情があるのだろう。

自分が結界に閉じ込められていた間にどんな会話をていたのかは分からないが。


「その幽香って奴はどこにいるの?」


聞いてどうする、と思いつつも一応岬影は答える。


「ここから真南に進んだとこにあるドでかい向日葵畑だ。

その辺りを飛んでりゃ家が見える、多分そこにいるはずだぞ」


「分かったわ!! ありがとね店主!!」


言うなり店から飛び出してく天子。

そんな彼女の様子を見て岬影は一言。


「ありがと……か」


そう、呟いた。



▲▼▲▼



因みにその後、何かを勘違いした天子と幽香が激突し太陽の畑の一部が消し飛びかけたのはまた別の話である。


五月中にあと二話ほど更新するつもりです。

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